アンジュの昔話
「いつまでも外で話していてもあれだね。中に入っておくれ」
アンジュさんにそう言われ屋敷の敷地内に入る。そして改めて屋敷をみる。今でこそ荒れているものの、集落にはなかったくらい大きな建物でありアンジュさん1人で暮らすには大きすぎるように感じた。
「大きいだろう?今年の夏までは若い使用人もいたんだけどねぇ、ある日ふらっと森の中に入っていったっきりさ。おそらくは魔物か何かに襲われたんだろうねぇ……」
アンジュさんは悲しげに語る。
「ということはアンジュ、そこからずっと1人で暮らしているのですか?」
「まあそうだね、といっても二月に一度くらいは馴染みの商人がやってくるから寂しくはないよ?手入れが大変だったから見ての通り荒れ放題なんだけどね。丁度、二月経つ頃だし冬前の最後の御用聞きに来るはずさ」
「それはギリギリだったかもしれませんね。……その、今回のキルヴィ君にかかる食費などはボクが負担しますです」
「バカ、こんなところでそんな話をするもんじゃないよ。それに忘れたのかい?私にはお金だけは残っているんだ、子供の一人や二人くらい養えるさ」
後半の会話は急にトーンダウンしてよく聞き取れなかったが、どうやら僕についてのことを言っているらしかった。改めてアンジュさんに頭を下げる。
「アンジュさん、これからお世話になります。よろしくお願いします」
「ほらラタン、キルヴィが気を使っちゃうじゃないか!……いいんだよ、子供は気にしないでおくれ。それに言ったろ?親代わりになるってね」
「それでも、ありがとう」
頭を下げたままでいると両サイドからわしわしと頭を撫でられる。少し痛かったけど悪い気分じゃなかった。
「ふむ。……まずはあんた達湯浴みをしてきな。よく見たら血の跡とかでベタベタじゃないか。ラタン、火の付け方はわかるだろう?」
「前と変わらないですよね?なら大丈夫です。うう、さすがに今の汚れ具合は女の子には耐えられないのです。早速お言葉に甘えさせていただくのですよー」
「サイズは変わってないだろうから服は前来た時のやつを出しとくよ。キルヴィは……ありゃ、服とは言えないねそれは。昔住んでいたこのお古で悪いが、いくつか見繕っておくよ」
「ありがとうございます」
「ほらほらー行くのですよー」
「もう、ラタン姉待ってよ!引っ張らないでー」
ラタンに引っ張られていくキルヴィをみてアンジュは薄く笑う。まったく、こんなに賑やかになったのはいつぶりだろうか。
「ウル坊、あなたの服を使っても、いいよね?」
その声に返事をするものは誰もいなかった。
<お風呂はカット!>
「ふぃー、サッパリしましたのです」
「あんたって子はそれでも女の子なのかい……はしたない」
タオル一枚でパタパタと湯上がりの体を手で扇ぎながら出て来るラタンへ呆れながらも替えの服を渡す。
「ありがとうですー。そうはいっても今ここにいるのは3人だけですしアンジュだって素っ裸で屋敷の中駆け回っていたじゃないですかー」
「幾つのころの話だい、まったく。おや、キルヴィも綺麗になったね」
「あの、服をありがとうございます」
今までちゃんと着たことがない服に戸惑いながらキルヴィはお礼をする。その服を見てハッとしたラタンがこちらを見て何か言いたそうにしているが、何も言うなと首を振る。
「ところで気になっていたんだけど、ラタン姉は友達って言ってたけどアンジュさんといつ知り合ったの?」
キルヴィが首を傾げながら訪ねて来る。少しばかり昔話をしてあげることにした。
「私とこの子は子供の頃……丁度キルヴィくらいの歳に知り合ったんだ。夜、屋敷の庭で星を眺めていたら目の前に突然年上の人が落ちてきたものだから驚いて泣いちゃってね」
「あの時は大変だったのです。ボクは自然発生したばかりで状況がわからずオロオロしてるし、目の前でワンワン泣いている女の子はいるし、そうこうしているうちに大人の人に囲まれるしでなにがなんだかって感じでした」
「精霊について知っている人間がいなかったらそれこそラタンは不審者として今この世に居ないかも知れないねぇ」
くっくっと笑ってみせるとラタンに膨れられた。
「恐ろしいことを言わないでください。ともかく、生まれたばかりの精霊であると知ってもらえたのでことなきを得ました。そして精霊について知っている人……アンジュの母親だったのですが、その人からよければアンジュの遊び相手になってほしいと言われましてですね」
「母さんはラタンが生まれたのは私が夜中に一人で星を見上げ、無意識にでも灯りを求めた所為だって感じたみたいでね。ほら、この子は夜灯りの精霊だろ?暗い夜道を一人で歩くのは辛かろう寂しかろうって照らしてくれて、姿は見せずとも話し相手に現れてくれる精霊なんだよ本来は」
「そんなこと言われてもさすがに目の前では隠れる余裕もなかったのです。……でもそのおかげでボクはラタンという名前をもらえましたです」
ラタンによると他の精霊はその通称だけで名無しのことが多く、名前が付いている方が珍しいという。後の旅の先々で同族から羨ましがられたと照れていた。なぜかアンジュさんもおもはゆそうにしている。
「あんたが私のつけた名前でそこまで喜んでくれて嬉しいよ。……まあ、そんなこんなで幼馴染さね。私が18歳、婿をとるまでは一緒に暮らしていたよ」
「さすがに新婚さんの邪魔はできないのです。ボクが旅に出るのに良いきっかけだったように思えます。まあ、そこからはちょくちょく帰るだけになりましたかね」
ラタンも、そして多分私も当時を懐かしむ表情をしている。友達とは言うものの、二人はすでに家族、姉妹同然なのだ。
「まあ、そんなところだね。つまらない話だったろう?湯浴みしている間に軽いものを作ってあるから食べようかね」
キルヴィの肩に手を回し食堂へ促した。
◇
「へえ、その歳でランスボアを1人で倒せるのかい!それは頼もしいねぇ」
食事の席で先日のランスボア戦の話をラタン姉がふってきて、それに応えるとアンジュさんは自分のことのように嬉しそうに笑った。
「あんたは6歳だけど大人よりも高いステータスを持っているのかも知れないね。自分のステータスはわかるかい?」
「……ステータス?聞いたことないけど、僕でも持っているものなの?」
「えっ、キルヴィはステータス自体を知らないのですか!?ステータスとは自分の能力を数値化してどのくらいなのかを見ることができるものなのです。鑑定持ちがいないとわからないんですけど、聞いたことがないとなるとメ族にはいないのでしょうか」
「ラタン、いい機会だ。せっかくだから鑑定してあげなさいな」
「ラタン姉、お願い!どんなのか気になるんだ」
「んふ、お姉ちゃんにお任せください!そーれ、鑑定!」
ピロピロと謎の光がラタン姉から飛んでくる。アンジュさんはなぜか少し呆れ顔になっていた。
「出たのです!
名前:キルヴィ・アースクワルド
種族:優れし者眼族・(先祖返り)
年齢:6歳 性別:男 職業:狩人 称号:忌子
体力:50/50 耐久値12/12
魔力:300/360(???)
基本パラメータ
攻撃力:10
守備力:3
素早さ:10
器用さ:24
賢さ:5
運:12
スキル
(???)
棍棒スキル 中級
ナイフスキル 初級
投石スキル 高級
設置スキル 初級
跳弾
なのですってえええ!?」
ラタン姉の驚いた声が響き渡った。
対比用に一般男性(18)のステータス
体力:30 耐久値20
魔力:100
基本パラメータ
攻撃力:10
守備力:10
素早さ:5
器用さ:10
賢さ:10
運:5
スキルは中級が2つあればいい方