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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
159/302

リリーさん

「えっリリーさん!?」


戦乙女の精霊。アンジュ母さんの母親、つまり僕から見たらおばあちゃんであるエンジュさんと契約をしていたのがリリーさんだ。この国の中将であり、5本の指に入る実力の持ち主。先の戦いで僕が辛酸を舐める結果となったあの百聞ですら、一目置いている存在。


「一度会っただけだというのに名前も覚えていてくれたのか。待ってくれ、いま私も君達の名前を思い出すから」


その女傑は真剣な表情で腕を組みながら、僕達の目の前にいた。チラリとラタン姉とスズちゃんの方を見やる。ラタン姉は2度目と言うこともあってかまだ落ち着いていたが、初対面のスズちゃんは真っ青な顔になってカタカタと震えていた。


僕にはわからないのだが、どうもこの人は凄いプレッシャーを常に放っているようなのだ。スズちゃんの震えは、その気に当てられてしまったのだろう。


しかし、僕の技をキャンセルすることができるとは。百聞も僕の動きの予測をたてることができていたし、やはりリリーさんの実力は相当なものなのだろう。


「思い出した思い出した。確か、前はこの町のラドンと間違えたから怒ったのよね?だから……ラテンちゃん!」


「惜しくもボクはラタンなのです」


……うん、なんか少し残念な人に思えてしまうが実力者なのだ。


「で、僕はアンジュちゃんが引きとったあの子だな。キルヴィ君だったかな?……見ればわかるよ、相当強くなったみたいだね。アンジュちゃんも約束通り教え込めてるんだ」


僕の名前は覚えてくれていたようだ。……僕を見る目がやや鋭く感じるのだが。


「血は繋がってないはず、なのよね?なーんかあいつと雰囲気まで似てるように思えるのよねー?で、こちらの子ははじめましてかな?」


小声で何か呟いた後、視線が僕からスズちゃんに移る。スズちゃんはそれだけで怯えて飛び上がりそうになっている。


「は、はひ!キルヴィ様の使用人のスズと申しますです!本日はお日柄もよく」


凄くしどろもどろにそう答えると、リリーさんは一瞬ポカンとした後、「ああ」と表情を緩めた。すると空気が緩んだ気がする。


「こっちの二人は大丈夫そうだから使っているのを忘れていたよ、ごめんね?これで大丈夫かな?」


「は、はい……」


スズちゃんの顔色も多少良くなったようだ。どうやら皆が感じるプレッシャーとやらは僕のMAPみたいに、常時発動型のスキルの効果らしい。


「私はイベリとのいざこざもようやく終わって、こうして休暇を取っているところなんだ。いやぁ懐かしいなぁ。アンジュちゃんはどうだい?元気かな?」


リリーさんが楽しそうに尋ねてくるので少しだけ気分が重くなる。そうか、この人は知らないのか。


それも仕方がないことだろう。リリーさんは今まで戦地にいた上に、人里離れた森の奥の一個人の死亡報告など、届く道理はないのだろう。


「アンジュは4年前……もう5年近くになりますかね?に亡くなりましたのです」


ラタン姉がそう答えると、途端にリリーさんは悲しそうな顔になる。


「そう、か。また知人が1人、この世から去ってしまったか。人の一生とは、儚いものだ。……アンジュちゃんは生まれる前から知っているだけに、辛いな」


彼女からしてみれば、会った数こそ知れているものの娘のような存在であったのだろう。思うこともあったのかしばらく瞑目していた。


「いや、話している最中にすまない。あの子は幸せだったかな?」


「いえ、母のことを思ってくださりありがとうございます。……そうですね、満足していたと、そう思いたいです」


僕はそう返す。


「そっか。あの子はちゃんと慕われていたんだね。なら、満足していたと思うよ」


リリーさんに言われ、少し気持ちが楽になった。そこにラタン姉が質問したいことがあると手をあげる。


「精霊としての先輩であるリリーさんに尋ねたいのですが、人って妖精に転生することってあるんですかね?」


「いや、残念ながら聞いたことはないけど……何か気になることでも?」


アンちゃんの事を説明する。幼い頃の母さんの姿にそっくりな妖精が僕達の住んでいる屋敷に出現したと伝えると、興味深い話だと言われた。各地を転々としているが屋敷憑き妖精自体、リリーさんは見たことがないという。


「また今度、屋敷に寄らせてもらっていいかな?場所は森の奥の所だよね」


「ええ、是非。あっ、でもそのプレッシャー?みたいなのは抑えてくださいね?今妊婦もいますので」


妊婦と聞いてピクリ、とリリーさんの眉がひそめられる。


「……へぇ?可愛い顔して手を出すのが早いんだね、君。年端もいかないのにもう子持ち?だからなんとなくあいつの影がちらつくのかな?」


あれ、凄い勘違いをされている!?いや、僕の子じゃないですよ!だからその短槍を構えるのやめてください、加えて視線に込められた殺気が痛いです。


「キ、キルヴィ様の子ではありません!今は訳あって人を数人匿っているのです。その中に妊婦さんもいるってだけで」


今にも切りかかって来そうなリリーさんだったが、スズちゃんの弁明に耳を貸してくれたようだった。なんだ、そうなのと再び槍を下ろす。ふぅ、命拾いした。


「……まぁ、他にも気になることといえば、可愛い女の子二人連れでこの町に来たこともそうなんだけどね。まだ手は出してないみたいだから一応、セーフだけど」


一応セーフって何!?成長した今だからわかるけどこの人怖いな。


「それで、妊婦さんを抱え込まなきゃいけないような訳って何か教えて貰えるのかな?戦争が関与していたりする?」


そう尋ねられ、先のアムストルでの戦いの事を伝える。リリーさんには情報が来ていなかったらしく、真偽を確かめる為に近く出立することにすると言っていた。


「ふむ、長く引き止めて悪かった。いい情報をありがとう。……若いからって火遊びをするなよ?」


そういうとリリーさんはこちらに手を振り、町の中へと戻っていったのであった。なんだか寿命が縮んだ思いである。デートどころではなかったなとやや気疲れしているとスズちゃんが労ってくれた。


「見て回るにしてもツムジの所に行きましょうか。少し休ませてもらいましょうなのです」


ラタン姉の言葉に頷き、僕達はツムジさんの家に向かうのであった。

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