案内
風邪で寝込んだ次の日、なんとか体調も良くなったので朝食をと食堂まで足を運んだ所で談笑していたトトさんとセラーノさんに出会う。
「やあキルヴィさん、体調はどうだい?」
この屋敷の厨房にすっかり馴染んでしまったトトさんから栄養分の高いスープを手渡される。
「おかげさまで良くなりましたよ。所で何を話していたんですか?」
「ああ、自分達だけでも近くの村や町まで行けるようにしておきたいなって話していたんですよ。いくらすぐ移動ができるからって、いつまでもキルヴィさんに任せっきりともいかないからね」
もう先のことを考えているのか。しばらくはこの屋敷でのんびりするつもりだし、僕的には春になってからでも良いのではないかと思っていたのだが。
前向きであることは悪いことではないので教える事にする。
「近くの村や町ですか。上手くやれば人の足でも2日で村まで、そこから3日でツムジさんのいる町スフェンまでたどり着けますよ」
「結構森の奥だと思ったのだが、馬なしでも5日で町につけるのか……案外人里に近い場所なんだね。それでもここに人はあまり訪れないのだろう?」
「そうですね。というよりもここで暮らしていた時に感じたんですがこの森自体ほとんど人が立ち入らない場所なんですよね」
「うーん?こんなにも資源があって、この間遭遇した魔物もそこまで驚異的に感じなかったんだけどなぁ。開拓しないのは謎だなぁ」
「領主とか国の有力者の発言から手つかずにされてるのかもしれませんな。この森にむやみに近づいてはならないと」
トトさんが首を傾げる。それに対してセラーノさんは自論をぶつけた。有力者か。イレーナの家系はそこそこの影響力があると以前聞いた覚えがあるし、母さんやおじいちゃんがそうおふれを出してそのままにしておいたのかもしれない。
「まあ、静かに暮らしたいのでそれ自体はありがたい話です。ただ収入がないとなると、これから生まれてくる子に何かともうしわけないからねー」
「わかりました、では案内しますよ。まずは地図を渡しますね」
そう言って巻物を引っ張り、適当な大きさのところで断ち切る。余計な情報は一切載せずにこの辺りだけの写し込みを行う。その手際を見ていたトトさんが唸る。
「ほー、以前アムストルの精巧な地図を持っているとニニから聞いていたけどキルヴィさんの力だったんだねー。これで方角さえわかれば迷わずに済みそうだよ」
「方角ですか。それなら多分付加できると思いますが、内緒にしておいてくださいね?」
そう言って印を付け足すと空間に今現在向いている方角が示される文字が浮かび上がった。受け取ったトトさんがあちこち向きを変えるとそれに合わせて文字も変わる。それをセラーノさんが食い入るように見つめる。
「キルヴィさんこれは空間文字じゃないか!まさかこんな物まで使えるなんて、いやはや実力は未だ底知れずですな」
「僕は地図に関係する事しか書けないんですけどね。そのほかの注意点は付箋で貼っておきます」
この森の危険地帯と生物をリストアップし貼り付けていく。
「ん?この空白地帯はなんだい?」
トトさんが指で示す。ああ、ここも写してしまっていたか。今では誰もいなくなったメ族の集落の場所だ。あの後、族長の反応が見えなくなったと思った頃には既に皆散り散りになってしまっていた。
「僕の生まれた集落の跡地ですね。もう誰もいない場所です」
あまり語ることもない、そんな雰囲気を察してもらえたのかそれ以上は追求されなかった。
「いや、ありがとう。この地図は大切に使わせてもらうよ」
そう言ってセラーノさんは懐へと地図をしまい込む。ちょうど僕もスープを食べ終えた。
「よかったらこの後案内しましょうか?どうせやることもありませんし僕も散歩したい気分なので」
「じゃあ、お願いしようかなー?地図と実際との差異を確認しておきたいし」
僕の故郷なのだ、せっかくだから楽しんでもらいたい所である。僕は張り切るのであった。




