お茶の席
生きながらにアンデット?そんなことがあり得るのだろうか?しかし、その言葉は僕の中にストンと事実であるかのようにしっくりとくるものであった。
「2人のことが皆の記憶から消されたのはここ最近、恐らくはキルヴィ君達とあってから。別行動っていつからとっていたかわかる?」
「ごめん、向こうで戦争があったから出会った次の日には既に別行動だったと思う。MAPでも把握できない2人だから何をしていたのかもわからないかな」
防壁作りに罠設置と忙しく動いて回っていたから特に気にもしていなかった。今にして思えば2日目には皆の意識から外されていたように思える。
「戦争!?それは今はじめて聞いたんだけどそんなことが起きていたのね。という事は丁度いざこざがあって雲隠れした感じなのかな?」
たいそう驚いた様子で反応するナギさんを見て、そういえばまだここには情報が来ていないのかと思いながらその言葉に頷く。
「であるならば足取りを掴むのは難しいよ。このまま何もないなら私も2人の幸せを望むけど、ここまでくるとちょっと怪しいなぁ」
2人を受け入れることができると言ったツムジさんの記憶を消すくらいだ、徹底的にアンデットという自分達の存在を隠しているように感じる。僕たち2人が彼らにとってのイレギュラーなのだろう。
……現状だと何かを企んでいるにしても手詰まり感が強いな。
その時、ヒカタさんがこの部屋に入ってくる。
「あら、ナギちゃんと話してたんだ。会話を楽しんでたならごめんなさいね?主人がいいお茶を持って戻ってきたから探していたの」
「お、いいじゃん!私も飲みに行くよ」
とりあえずこの話はまた今度ね、と話を切り上げられる。ヒカタさんに連れられて食堂まで戻ると、ツムジさんが手際よくお茶を入れてくれていた。その傍らには古ぼけたような本がある。
「おお、ナギも一緒に飲むか?いやー、家族揃ってこうして卓を囲めるのもキルヴィ君のおかげだよ」
家族揃って。その言葉に違うと反応しそうになるのをナギさんに小突かれ止められる。耳元まで顔を寄せてきてイブキさんについて今持ち出したり、何気ない言葉にいちいち反応しているようでは疲れるよと言われてしまう。
その様子が仲良く映ったのか、ヒカタさんはあらあら相変わらず困った子ねと笑ってみせた。家族が欠けていることを知らずに幸せそうな夫妻。何もいえないというのはこんなにも辛いなんて。そんな気持ちで飲んだからだろうか?葉は良いもののはずなのにお茶は味がしなかった。
◇
世間話と戦争があったことを紅茶の遣る瀬無い気持ちもそこそこ、外を見るとそろそろ良い時間であった。席を立とうとするとツムジさんに呼び止められる。
「おっと、引き止めてしまって悪かったね?帰る時にこれを忘れてはいけないよ」
そう言って手元にあった本を渡してくる。よく見るとそれは記憶の片隅にある本であった。
「1つ、言っておかないといけないことがある。流し読みした感じになるが、これでクロム君の状態が完治する訳ではない。一度減ってしまった寿命全てを取り戻せる訳ではないことは覚えていてほしい」
それでも少なくとも今の状態よりは良くなるのだ。ありがたく受け取る。
「また時間がある時にでも話したいな。ここにくるのに時間がかからなくなったならいつでも寄っていってよ」
ナギさんとは共通の話題があるからな、次の荷物引取りの時にでもまた話せたら良いけど。
「では、キルヴィ君の事だから心配する必要はないかもしれないが気をつけてな」
こうしてツムジさん達に見送られて僕は自分の屋敷へと戻ったのであった。




