ずれた歯車
いつもありがとうございます。
仕事が忙しくなって来たのもあり、しばらくペースが乱れると思います。
「えっ、おきゃくさんたちここでくらすことになったの?」
掃除から戻ってきたアンちゃんに説明するとパアッと明るい顔になる。人が住んでこその家だ、我慢していたこともあり相当嬉しいのだろう。
「部屋は多くありますし、2、3家族くらいなら住めますよね。物資の問題ですがキルヴィの力があればそこもクリアでしょう。少なくとも春までの物資は集めてきませんとね」
これから本格的に冬が来る。ここの所戦ばかりで皆も疲れてしまったろうし一時的に旅をやめてここで過ごすか。
「ならば私は一度スフェンまで戻ろう。キルヴィ君が一緒であるならばすぐに戻ってこれるのだろう?向こうで集めておくから……そうだな、この人数の量的には5日あれば集めることもできるだろうか?それ以降に迎えにきてくれないだろうか?」
「じゃあツムジさん、お願いします。なんなら後で送ります」
登録地にしておいた方がすぐ行けるしね。
僕が頭を下げると、グミさん達も下げる。
「ああ頼むよ。クロムを治す方法の記された本も向こうにあるからその時に回収してくれないかな」
おっとそうだった。クロムは命の灯火の魔法で寿命がだいぶ削られてしまっていたことを忘れかけていた。事情を知らない人々は首をかしげる。
「クロムさん、あなたどこか具合でも悪いの?」
モーリーさんが不安そうな顔で訪ねたのに対しクロムは気にしなくても大丈夫だと目を細めてその頭を撫でる。
「移動にしても普通に行くよりは早く着くのでしたら、今日の所はゆっくりしましょう?アンちゃん、グミさん達にこのおうちを案内してあげて?」
「わかったの!ついてくるのげしゅくにんさん!」
下宿人さんって。いや、間違いではないが……アンちゃんの知識は一体どこから来るのか悩んでしまう。今度ちゃんと教えてあげる機会を作ろう。
元気よく前を行くアンちゃんにつられて、微笑ましい顔をしながらグミさん達はついていった。アムストルから来た人々の中で妊婦のニニさんだけがここに残った。
「私は後でトトさんに必要最低限の事は教えてもらうよ〜。あのペースであちこち移動するのはちょっとね〜?」
との事だったのでまあ無理はさせまい。
改めていつもの僕達の顔ぶれになるので今後について話し合う。
「とりあえず皆も疲れたでしょ?冬を越えるまではこの屋敷で過ごそうと思うけど、どうかな?」
「それに賛成です。思いがけずまた戦争に首を突っ込む形になりましたし、ほとぼりを冷ます為にも落ち着くべきだと思います」
ラタン姉がそう言い、後の2人も頷く。
「私もモーリーさんとしっかり話し合う時間が欲しいなぁ。お兄ちゃんがお世話になるんだし」
「スズ、余計な事は言わないでくれよ?」
えー、どうしよっかなー?とスズちゃんは悪い顔になり、クロムから隠れるように僕の近くへと移動して来る。クロムは腕を振り上げたが、ため息とともに降ろす。
「それでキルヴィ?その先の予定は大まかにでも決まっているのかい」
話を変えることにしたようだ。
「うん。向こうではぐれてしまったイブキさんの所在が気になるし、春になったら探そうかなと思う」
その言葉にラタン姉達は顔を見合わせて怪訝そうな顔をしていた。ツムジさんが首を傾げながら話しかけてくる。
「なぁキルヴィ君、そのイブキさんとやらは誰なんだい?アムストルでの君の知り合いかい?」
どこかで何かが壊れる音が響く気がした。