異次元
気がつくと僕は何もない、真っ白な空間にいた。足元には地面すらなく、かといって落下しているような浮遊感もない。体を捻るも、果たして本当に動けているのか動いた気になっているだけなのかもわからない、影もない空間。
一体ここはどこで、この状況はなんなのか?
「なんだ、つまらぬ。もっと慌てふためくかと思ったが存外冷静なのだな」
先程までは確かにいなかったはずなのに、目の前に突如としてゆらめく影が現れる。現在無効化できない透明化をしていたのか、それとも僕みたいに縮地をしたのか。言動的に前者が濃厚だな。
「残念だが両方ともハズレだ。この空間は自分が今持つ物差しでは測りきれぬ事だと思っておくがいい」
僕の考えをよみとったかのような発言をしたその影は次第に濃くなっていき、人のような形を作る。頭から一対の角。背中には竜種のような大きな羽根が立派なその姿を見せつけており、同じく竜のような力強い尻尾がブンブンと振られている。耳は長く、目には僕みたいに結晶体があり、男のような、女のような、中性的な格好の見た目は青年といった人が佇んでいたのであった。
僕はこのような姿の存在を知っている。
「マ族……?」
「左様。そういえばグラウンにあったのだったな。懐かしい名だ。あやつもまだこの世に縋り付いているとは、驚いたが」
そう言って魔結晶越しに目を細めた。グラウンさんの知り合いとなると、少なくとも500年前からの存在となる。
「同じ里の生まれであるな。もっとも、奴も私も変わり者であった故、私が一方的に知っているに過ぎないかもしれぬが」
やはり思考を読んでくる。まるで先日のオスロとの対話のようだ。いや、それよりも精度がたかそうだった。
「ジ族と名乗ったアードナーみたい、か。苦い記憶があるようだ。この方が楽かと思ったが不快か?」
「いえ、嫌というわけではありません。それはなんという技なのですか?」
「うむ、これは心聞と言う技だ。力量にもよるが相手の心を読む技だ。この力はどうやらジ族に引き継がれていったようだな」
オスロの力でも曖昧になるところがあったと言うのに、目の前の存在はどれほどの力を持っているというのだろうか?
「私は強いぞ?国なぞ、1人で落とせるだろうしな。……だが、だからこそ我々は生存競争に負けたのだ。化け物と恐れられ他の種族が結束してな。まるで今のお前のようだな?」
僕なんかとは規模が違った。
「人の世に生きるのであれば下手に力を見せるな。肝心な所だけ力を見せて戦えばよい、匙加減は難しいがな。その辺り、オスロという奴は経験から理解して戦っていたのだ」
なるほどな、と感じた。はじめから僕を倒そうとするならば、いや、アムストルを潰そうとするならばオスロ単独で出ればかたがついた話だろう。だが、それをしなかった。聞くに立場がある存在であったし、あれは人の世で生きるための処世術なのか。
「納得できたか?ならば次からはうまくやれよう。今を乗り越えねばならんがな」
そうだった。僕は今とてもピンチな状況だった。お守りの力なのかこのよくわからない空間に飛ばされたが、まさに侵攻中の町の中で諦めそうになっていたのだった。目の前の人物は忘れていたのかと呆れたようにため息をついた。
「ここは私が作り出した空間だ。外界とは時間の流れが異なる。アードナーは人とは異なるこのそれぞれの特徴を生かした強力なスキルを持っている。私は先程の心聞と、この空間を作る魔法、それからイレーナに伝わる魔法を使える」
目の前の人がこの空間を作ったというのか?そんなこと、人に可能だというのか?驚くことばかりである。
「マ族は空間を操る事ができる。グラウンもそうではなかったか?」
言われてグラウンさんのダンジョンを思い出す。あれも特殊な空間といえば間違いではないか。
「さて名乗り遅れたがキルヴィよ。私はリゲル・イレーナ。……イレーナもまた、アードナーの一種族の末裔なのだよ」




