家族
「ふー、美味しかったのです。やはり携帯食料なんかよりも鮮度の良い肉は格別ですね!」
ぽんぽんとお腹を叩きながらラタンさんは満足げに微笑む。食事することが必要でない精霊にとってはおいしさが一番の判断材料なのだろう。精霊ではない僕にとっては死活問題なので食べれるなら味は二の次の話だ。
しばらく食後の休憩の時間なのか、ラタンさんは火を消さないままにしてぐーっと伸びをし、木にもたれかけてくつろいでいる。
せっかくなので今食べ終えた後に残ったランスボアの足の骨を綺麗にしておく。大腿の骨はそれだけでラタンさんの腕ほどの太さと長さを持っていた。まだついている肉をナイフでこそぎ落とす。そして消毒の意味を兼ねて表面を軽く火で炙る。これで、そこそこの間合いを持った軽くて頑丈な棍棒ができた。
「おお、棍棒ですか。確かに接近された時そのナイフだけでは心許ないかもしれないですものね」
「メ族の狩人にとって、1番最初に作る武器は棍棒なんだ。接近戦の基本をこれで覚えれるようにね。……僕にはその先を覚える事はなかったけど」
「その割には跳弾みたいな特殊なスキルを覚えていたじゃないですか。メ族の狩人は全員あんなことができるのですか?」
フルフルと首を振る。
「みんなは集団で囲って戦うやり方だから多分やってないと思う。僕は1人でやるしかなかったから必死になって考えた結果、跳弾にたどり着いたんだ」
「いやいやいや、その理屈は納得し難いです。教わったわけでもなくあの正確さなんて、並大抵の頑張りでは曲芸技は覚えられませんからね!?」
「じゃあね、僕ね、すごーくいっぱいむちゃくちゃがんばったんだよ」
「ふくっ、なぜ唐突に歳相応の話し方になるんですか!?……そうですね、そうでした。キルヴィ君はよく頑張りました」
おざなりな説明に苦笑しながらラタンさんは近くに寄ってきてよしよしと頭を撫でる。
ポタリ。
「ええっ、キルヴィ君どうしてまた泣いてるのですか!?ど、どうしました、ボクなにかしました!?」
「……えっ?」
無意識のうちに僕は泣いていた。いつか憧れた光景。それを今僕は体感しているんだと認識したら涙が勝手に落ちたのだ。ゴシゴシと目をぬぐい、オロオロしはじめたラタンさんに大丈夫だと笑いかける。
「ねえ、ラタンさん。僕変なことお願いしてもいい?」
「な、なんでしょう?キルヴィ君にできることなんてボクでは限られてると思いますが……」
「えっとね……その、ラタンお姉ちゃん、って呼んじゃダメ?」
ラタンさんにそう尋ねると少し驚いたようにし、「いいですよ」っと笑いかけてくれた。
この日、独りだった僕に家族ができた。