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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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お守り

スキルの使用不可!?そんなのってありなのか?そういえばいつも脳裏に鮮明に浮かんでいる地図すら今は映っていない。これでは周りの状況を得るにはこの身一つが頼りということだ。


使用できなくなるということは縮地はやっぱりMAPの機能の一つだったんだなぁと意識が現実逃避をしかける。いかんいかん。今の自分が出来ることを把握しなければ、開戦にせよ逃走にせよ、行動ができなくなる。


簡単に試して見たが、MAP以外のスキルは問題なく使えるようだ。ただ、できなくなったことが大きすぎる。土魔法はできるが設置ができないのでスクロールを使ったいつも通りの土壁高速展開は不可能だった。となるとスクロールを使った攻撃は手で事前に貼るしかない。設置魔法を使えないのであれば僕の切り札である光の定規もできないだろう。


この町に設置した罠と壁……だめだ、自警団だった人がいる以上手札を一度明かしてしまっている。地形と罠とをうまく駆使して戦うといったことは望めないだろう。


周囲の情報がわからずに1人戦場に立つとは、こんなにも怖いものなのか。皆こんな中で戦っていたというのか。当たり前になっていたスキルが一つ使えなくなっただけで、怖くて体の震えが止まらない。


「に、逃げないと……」


どこへ?どうやって?わからなかった。わからなかったが、迷っている暇は残されていない。町の地形と太陽の位置から方角を掴み、ひとまず西……ノーラ側へと向かって走り出す。彼らは町から見て東南から攻めてきていたはずだ。


躓いて勢いよく転ける。くっ、こんなことをしている場合ではないというのに!すぐに立ち上がろうとすると足を捻ったのか痛みが走る。


「はっ、ははっ……」


体を仰向けに、大の字になって倒れる。もうだめだ。こんな状態では逃げようがない。諦めたような笑い声が無自覚に口からついて出る。じきに来る侵攻で化物だ仇だと一斉に剣や槍を突き立てられてしまう事だろう。


ああ、こんな事になるのならば本当に。あの夜セラーノさん達の話を断ってさっさとスフェンに帰るべきだった。そうすればいつもの皆で旅を続けるか、アンちゃんが待っているあの屋敷で静かに暮らせただろうに。


死。そうかこのままだと死ぬのか、僕は。

ラタン姉やスズちゃん、クロム。そして他に残してきた仲間の顔が脳裏に浮かんで来る。嫌だ、まだ死にたくない。どんなことをしてでも生きて彼らの元に帰りたい。


最初から武器を手放し無力な子供として命乞いをすれば、生かしてもらえるだろうか?……それをするには顔が割れてしまっているし逆の立場ならこんな不穏分子、残したくはない。まず無理だろう。戦うにしても先ほどの通り手札が頼りない。手詰まりだった。


その時、体にひんやりとしたものが当たる感覚がした。手で探ってみると、それは母さんに貰ったお守りだった。


「母さんなら、こんな状況でも雪が降ってさえいれば勝てるんだろうなぁ」


もはやできることもないのでそのお守りを手の上で転がす。そういえば受け取った時にこれがあればいいことが起きると言っていたっけ?ウル兄さんの話では家督を得るためのイレーナ家の紋章が刻まれた指輪が入ってるとのことだったな。こんな機会だ、僕が死んでしまったらどこの誰とも知らぬ人々に奪われてしまうだろうし開けてしまおう。くちを縛っていた紐を緩め、ひっくり返す。


ころん、と中から青白く輝く指輪が出てきた。屋敷で見た、雪の結晶を象ったようなイレーナ家の紋章と合わさってとても綺麗だ。どうやら男物のようで輪が大きく、どの指でも入りそうだった。サイズ的に合いそうな親指へとはめ込む。するとマジックアイテムだったのか指輪はキュッと僕の指のサイズへと萎んだ。


(親指とは、なかなか奇妙な事をする子だな)


はめた途端に頭の中で声が響き渡る。驚いて周りを見渡すもそれらしいもの影は見えない。


(血筋はイレーナのものではないようだが、かなりの才能を持っているようだ。覗いた限り、前任者から手解きも受けているようだし未完成とはいえ発動した形跡もある。いいだろう、新たな主人と認めよう)


僕が理解できていない間も姿の見えぬ何かによって勝手に話が進められていく。その時指輪がじんわりと光を放ち始めた。もしかして、今のは全部この指輪からの意思なのか?


(全てを委ねよ。さすれば力を与えん)


初めてMAPを使った時のような、膨大な情報が頭の中に流れて来る感覚がする。黒い歪みが現れたと思ったら次の瞬間には、この世界のどこにも僕の姿は残っていなかった。

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