オスロの帰還
主人公ピンチの最中、その頃のオスロ視点です
「おぅ、すまんな。私としたことが負けて騎士団を見事に壊滅させてしまった」
私ことオスロが支えるべき主人であり、友人でもある首長の私室に窓から躊躇いなく入り込み、開口一番に今回の報告をすると首長は面食らったような顔になった。
「聞こえなかったか。だが、そうも行かなくてな。騎士団を立て直すためにも、そして鍛え直すためにも金が必要なのだ。出しちゃあ貰えんかね」
なおも説明を続けると片手で頭を抑え、もう片方でこちらを抑えるジェスチャーをしてみせた。
「いやいやいや、待て。頼むから待ってくれ。オスロよ、私の聞き間違いなのだろうか?お主が、騎士を率いていながら負けただと?」
「なんだ、ちゃんと聞こえているじゃないか。負けも大負け、ほとんどが死んでしまったわ。あれでいいと思ったが一撃で死ぬとは、鍛え方が足らなんだ」
勝ってたらこんなにコソコソと帰ってくると思うかい、ええ?私なのだ、堂々と凱旋してくるわ。
「たかが町一つ相手取るのにそんな被害が出るなど想定してないぞ。ドゥーチェと正面からかち合ったのか?」
「ドゥーチェ?知らん。出会っとらんからな。そいつら相手なら圧勝してみせたろうな。……イレーナを名乗る後継者に出会った」
イレーナ。その言葉だけで首長の態度はガラリと変わる。あの時代を生きたものにしてみれば、今尚忘れることなど到底できない名前。1人で全ての戦局をことごとく変えてしまう名前。
「そうか、ならば仕方あるまい。お前から見て今代のイレーナはどんなものであった?」
近くの椅子に腰掛けるよう促され、対座する。
「まだ人の世で戦うことに慣れていないような子供であったが……イレーナらしく1人で戦う分にはほぼ完成しかけていた。ありゃ化物と呼ばれる苦悩を乗り越えれば相当化けるぞ」
「オスロ、今戦えばどちらが勝つ?」
「万が一があろうとも経験の差で私だ。だが、あまりに惜しかったもんでな。勧誘したが断られてしまったわ」
今、あの小僧。キルヴィは単独での直線的な攻撃しかできていなかった。移動術は特殊であったものの、生かしきれていない印象を受けたのだ。
次会った時に成長がなければその時はその時だ。そこまでの存在であったと斬ればいい。
「あいわかった。オスロよ、先ほどの件了承したので貴様は病気になったということでしばらく表に出てくるな」
首長の言葉の意味。これは裏で情報収集に徹しろということだ。百聞の異名を持つ以上、期待に添えねばなるまい。
「恩にきる。騎士長の肩書きが邪魔になるとは思いもしなかったがこれで自由に動ける。戻ったら新生騎士団を鍛え上げてみせよう」
「これは、かつてない世界大戦が起こるかもしれんな。騎士だけではなく他の兵科も育てねばなるまいよ」
騎士以外の兵科の成長。それは楽しみだ。早いところ各地の情報を得て来ねばなるまい。
「新たなイレーナにも、異名をつけて区別せねばな。何か特徴はなかったか?」
「特徴か。地形を自在に作り上げ、製図するかのように直線の攻撃を放つ……地図師、なんてどうか?」
「地図師、地図師か。そやつの今後の動向は、気をつけねばならんな」
さて、言いたいことは言った。そろそろお暇しようかと立ち上がる。
「さて、そろそろ出るとするか。首長よ、小さい船を借りるぞ。まずは西から情報を得てくる」
「すぐに手配しよう。静かになったイベリの動きも気になるしな」
そうと決まれば一度家族の元へ戻り、どう振る舞って欲しいかの話をして来なければな。入ってきた窓から飛び降りる。
「うーむ、どうやって登ってきたのやら」
高い尖塔のてっぺんにある首長の部屋からそんな声が聞こえた気がした。こんなもん、いくらでも登りようがあるわな。




