町へ
クロムが作ってくれた食事を一人いただきながら皆と話す。相変わらずグミさんの後ろに隠れているカシスさんを気にしていると、困ったような顔でグミさんがこちらを見た。
「ごめんなさいね、キルヴィさんを特別怖がっているわけじゃないの。その、信じていた町の人達に手荒にされて……男の人が怖く感じるようになっちゃったみたいで」
そうなのか。よくわからないが少し触れただけで悲鳴を上げていたのは僕が化物だから、というよりも男だからということか。そんなことを交えつつ、見てきたことを話し終える。
「言いつけを守り、よく我慢しようとしてくれました」
聞き終えたラタン姉は、近くにあった、夜間焚火にくべる為の薪を手に取る。
「でも、今回そう伝えたのは間違いでした。ボクの見立てが甘かった。ボクとて人の世に暮らす女です。今の話はあまりに、あまりにひどいのです」
そして両の手でバキリと勢いよくへし折った。木片が辺りに散らばる。見ると、スズちゃんやグミさん、ニニさんやモーリーさんまでもがラタン姉と同じように怒りの表情を浮かべていた。女性陣共通の怒りなのだろう。
「私についてはまあ、見てもらった通りの有様でした。でも、肉体に受けた傷よりも心の方がよっぽど痛かった。戦いとは人をいとも容易く変えてしまうものなのかと考えさせられましたよ」
セラーノさんがややぎこちなく手をさする。うまく動かせないようだ。普通の回復では回復しきれないほど深刻なダメージを負っていたようだ。
「そうだ、キルヴィ、その目は一体どうしたんだい?帰ってきた時には血が涙のように流れていたし……」
そうだった。僕にも変化があったのだった。スズちゃんに頼んで鏡を見せてもらうと、薄く青みがかった結晶が目の近くを覆っていた。僕はこれに似たものを見たことがある。
「確か、グラウンさんの目はこんな感じだったよね。これがあの時言っていた魔結晶というものなのかな」
思っていたことをスズちゃんに先に言われる。確かこれを介して魔眼を使うのだったか?あの場を去る直前の出来事を思い返す。自警団の人たちは僕が一際強く睨んだ後、突然同士討ちを始めた。あれが魔眼の効果だろうか?
「それが魔眼だとして、いったいどんなものなのかわかりませんか?ほら、スキル発現のアナウンスとかなかったのですか?」
ラタン姉に尋ねられるも、聞いていない。ステータスもそのままだ。縮地にしろこの目にしろ、持っているスキルの中で1番怪しいと感じているMAPは沈黙を続けていた。お手上げのポーズをとるとムムムと唸られてしまった。
MAPといえば現在の人々の動きがどんなものかと見て、そして驚く。どうやらアムストルの人々とドゥーチェからの兵が対面している形であるらしかった。
かくして戦闘が行われるのか、と思ったがアムストルの人々はドゥーチェの軍に加わるように動いた。それと同時に、多くの反応が消える。消えて言った名前と残っている名前で覚えている限りの顔を思い浮かべる。
残ったのは全て、ライカンスの人々だ。消えた反応の中にはモーリーさんの父親の名前もあった。
もはや、彼らはアムストルとしての体を残していなかった。ドゥーチェに降ったのだ、かつての隣人を切り捨ててまでも。
「何が、正義なんだよ……これの、どこが!」
突然の僕の怒りの声によって視線が集まる。見てくれと言わんばかりに中央にMAPで地図を展開し、今起きたことを話す。肉親をいきなり失ったという情報を受け、モーリーさんはフッと気を失い後ろへと倒れこみ、クロムがそれを支える。
彼らの進路を見る。ゆっくりとだが、アムストルの町の方へと向かっているようだった。
目元の結晶が疼く。
差し伸べた手は払いのけ、愛すべき隣人を殺し、敵であった者へと簡単に降る。ここまで救いようがないのであれば、彼らは敵だ。暗い、黒い感情が渦巻いてくる。
気がつけば僕は1人、誰もいなくなったアムストルの町に立っていた。突然すぎて僕も戸惑いを隠せない。
今、僕は縮地を使った覚えはないし、一回で飛べる距離にいたわけでもない。この状況、確実に残してきた皆は心配するだろう。戻ろうと縮地を使おうとした時であった。
<現在MAPは使用不可能です>
散々黙っていたアナウンスがそんなことを告げる。
あれ、これってもしかして相当ピンチかも?
急展開!?




