救出作戦
「モーリーさんは僕のこと、怖くないですか?」
仮拠点まで戻り行動を決めている時にふと尋ねてみる。目をパチクリさせた後、モーリーさんはクロムに尋ねた。
「クロム君、英雄様は私にも父みたいに怖がって欲しいのでしょうか?」
「違うよモーリー、あれはキルヴィの悪い癖なんだ。思い立ったが吉日みたいにやりたい事をやるのに、一度躓くとその場を何度も確かめたがるんだよ」
「まぁ。でも安心できましたわ」
うん?どうして安心できるんだろうか。尋ねてみる。
「それってとても理性的な、人間らしい事じゃありませんか」
そう言われて僕とクロムは頭をかくのであった。
◇
「僕単独で行った方がいいと思うんだけど」
密かに解放、それと移動のことを考えるとそれが1番だろうと告げるといつもの面々は腕を組んで唸る。
「直接救助に動くのはそれでいいが、近くに何人かは潜んだ方がいいと思う。少なくとも中位の回復魔法が使えるものは同行すべきだろう」
ツムジさんが手をあげ意見を言う。それならばとラタン姉とスズちゃんが同行の意を示した。
「派手な事はしないよう気をつけましょう、下手に刺激するとセラーノさん達に何をするかわからないのです」
ううむ、光の定規を使わないように気をつけよう。
「それでは、私達は帰ってきた時にすぐに休めるようこの場を整えておきます。食材をお借りしてもいいですか?」
「いやいや、グミ様。料理は使用人である私にお任せください」
留守番組は誰が料理をするかで話し始めたようだ。さて、そろそろ行こう。2人と手を繋ぎ縮地で飛ぶ。
すぐにアムストルの人々の拠点までつく。どこが潜むのに相応しいかと物陰を細かく飛んでいるとニニさんにばったりと出くわしてしまった。ニニさんの目が見開き尻尾の毛がブワリと逆立つ。しまった、敵意がなく緑なのでうっかり見落としてしまっていた。
「あっ……だ、大丈夫。驚いただけだよー」
慌てて縮地で逃げようとすると呼び止められる。大声を出さずにコソコソと話してくれた。
「僕と話していると危ないですよ。ニニさんは1人じゃないんですから特に」
「あはは、トトさんもいるから大丈夫だよー。自警団の人くらいならやっつけちゃうんだから。それにギルド構成員に敵対したら流石に本部も黙ってられないはずだからー」
小声でそんなやりとりをする。
「でも、今の皆はなんか狂ってる。そんな道理は通用しないかもだけどね。外からの旅の人を手当たり次第捕らえてるの。戦争が初めてのことだからねー、仕方がないのかもしれないけど後のことを全く考えていないよー」
確かに、そんな事をしていたのでは旅の人との商売で栄えていたアムストルでは後がないと思う。
「この子を授かった事を祝ってくれたおじさん達も、人が変わったようにあなたや旅の人を探し回ってる。人や土地が残ってもこの間までのアムストルは、もう帰ってこないだろうなー」
僕に始めてみせる寂しそうな顔でニニさんはそう零した。
「僕ならおそらくは安全な所まで移動できますが、着いてこられますか?」
「ん、ありがとう。そうだねー、ちょっとここはこの子にも悪い影響だから。じゃあトトさんにも伝えるからお願いできるかなー?」
「わかりました。ラタン姉、スズちゃん。ニニさんとトトさんが来たらここで待ってて」
頷いたのを確認し、僕は1人セラーノさん達を示す点まで飛ぶのであった。




