方針
スズちゃんが出ていってから少しして「どうして追いかけてきてくれないんですか!」と少し拗ねた様子で戻ってきた。女の子とはなんとも難しいものである。
「むぅ……で、キルヴィ様が目が覚めたということはMAPで何か進展があったのですか?」
ジト目から一転、真剣な顔でこちらに尋ねてくるので頷く。
「ラタン姉達が帰ってきたみたいだ。一応敵対反応に追いかけられたりもしていないみたいだけど、その場にいるのはツムジさんだけじゃないね。もともと映らないイブキさん達はいるのかわからないけどね」
何はともあれ、最悪の事態は避けれたようでホッとする。迎えにいくために縮地を行うよとスズちゃんに言うと、キュッと指を絡めてくる。
「いや、一緒に行くのには普通に手を繋ぐだけでもいいって知ってるでしょ?」
「これでいいんです、じゃないとさっきのこと許しませんよ?ほら、早く行きましょうよ」
たまらず頭をかく。なんのことやらさっぱりだ。ま、まあこれで許されるのなら安いものかと絡め返して縮地を行う。
繰り返し使用することでラタン姉達のすぐ近くまでたどり着く。昨日習得したとはいえ、縮地の扱いにもだいぶ小慣れたものだ。とはいえ、飛んだ先が茂みだったためがさりと音を立ててしまう。バッ、とラタン姉がシールドを身構える。
「誰ですか!……って、キルヴィですか。よかった、ボク達はもうすぐそこまで辿り着けていたんですね」
僕とスズちゃんの姿を見てホッとした顔になったところで一緒にいる人物を改めて見る。クロムがいるのはもちろんのこと、ツムジさんとグミさん、それからなんとあの町娘さんが新たについて来ていた。グミさんはこちらを見ると一瞬だけきっと睨んだように見えたが、すぐに僕に対してかけ寄り深々と頭を下げてくる。
「お力を貸して頂いておきながら、此度のこと誠情けなく感じております」
それは、アムストルの代表としての言葉であった。
「キルヴィ様のおかげで、相手の進行速度が遅くなった上に意識が交戦へとそれていたおかげで民間人はほぼ欠けることなく避難をすることができました。自警団にしても、10名の犠牲は出たものの、それでも圧倒的に被害は少ないです」
ですが、と話を続けられる。
「交戦したもののほとんどが口を揃えてあなた様を、その、やり過ぎだと言うのです。人のやる事ではないと。町の人の安全が確保された今となって我らだけで町を守るべきなのではないかと勝手な行動をとるようになりました」
その事態を把握するのが遅れ、気がついた頃には私の言葉は彼らには届かなくなっていたと悔しそうにグミさんが続ける。
「私に仕えてくれていた山羊頭を代表として立て、引き入れた私達に責任があるのではと私とセラーノ、カシスは囚われの身となりました。私に関しては同情心が働いたのかある程度の自由が与えられましたが、2人は他国のスパイの恐れもあると今も拷問にかけられていると思います。皆様を巻き込んだ私の勝手なお願いですが、どうか2人をお救いいただけませんでしょうか?」
いつか、実の母がしたような格好。ドゲザの姿勢でグミさんは僕へとお願いをしてくる。とりあえず頭を上げてくださいと言い、それから考える。
「娘を追う旅がいつの間にかこんな大事件の当事者へとなってしまうとは思わなかったなぁ、キルヴィ君?」
ツムジさんがそう話しかけてくる。ツムジさんらしくない、やや乱れた格好ということは避難先でも余所者ということで一悶着あったのだろう。僕と一緒にいるところも町の人は見ていただろうし。
「すみませんツムジさん。肩身の狭い思いをさせまして」
そういうと肩をポンポンと軽く叩かれる。
「なんでキルヴィ君が謝るんだ。それよりも安全を手に入れた後に後ろから槍で刺してくるような真似をする連中が本当に理解できんよ、スフェンとアムストルの英雄殿」
おどけたようにそう言ってもらうことで気が少し軽くなった。最後に僕達が迎えに来てからずっと平伏したままになっている町娘さんに向き直る……名前はたしかモーリーというらしい。クロムに促して顔を上げてもらうと既に涙でぐしゃぐしゃとなっている。
「私の父が本当に失礼なことを致しました。聞けば私達アムストルの人に代わってこの戦争を被害少なく勝とうと心身を削って奮闘されているというのに、やや優位に感じたところで掌を返したそうで」
再び平伏しようとするのを僕とクロムが止める。そもそもなんでモーリーさんまでここに居るのかをクロムへと尋ねた。
「グミさんと一緒に紐でゆるく手を繋がれた状態で居たというのを、ツムジさんが教えてくれて」
「何もできていないのに化け物を追い出したと偉そうにしていた父に対して恩人へなんて事をしたのですか!と思わず叩いたところ、グミ様と繋がれほぼ軟禁といった形にされました。そこをクロム君に助けられた次第であります」
その行動に僕は驚いた。
僕の為に怒ってくれる。こういう人もまだアムストルにはいるのだ。であるならば、僕はその人達のためにも、後ろ指を指されようともまだ戦おうではないか。
「とりあえず目下の目標はセラーノさんとグミさんの救出で行こうと思う。皆、付き合ってくれるかな」
僕の言葉にその場にいた人々は頷くのであった。