想い
町の皆が避難した方に行くのはクロムとラタン姉が、そして留守番に僕1人を残すとまた何をするかわからないからとスズちゃんが残る形となった。反論したかったが、昨日すでにやってしまっているため何もいえなかった。
「それではキルヴィ、ちょっと待っててくださいね。スズ、言いくるめられないでしっかりと見張っているのですよ」
いざ行こうという段階でも釘を刺してくるラタン姉。スズちゃんは何度もこくこくと頷いている。
「馬は昨日置いてきてしまってるんだから、僕の力で近くまでは送るよ」
そう提案すると早速かと皆がジト目でこちらを見てくる。いや、効率考えたらその方がいいでしょ?ね?
「……いいですかスズ、これで最後にしますが、ちゃんとこの仮拠点まで帰るように何度も言い聞かせるのですよ。キルヴィはすぐにこの調子で思いついては何かやろうとしますから」
「スズも道草しないようにな」
……ちゃっかり提案自体は採用するつもりらしい。合流を目指す2人からのちゃっかりした切言に僕とスズちゃんもぶーたれるのであった。
MAPを見て人の居ない所を選んで縮地を行う。どうやらおじさんは合流したようで、今や町の人達の中にも僕に対して敵意を持っている人がいるみたいだ。少し悲しくなったのが顔に出ていたのかスズちゃんに腕を強く握られる。
「キルヴィ様、深く考えてはいけません。そもそも、キルヴィ様が居なければこの人達はほとんど死んで居たかもしれない、弱い存在なんですから」
「うん、ありがとうスズちゃん」
人々が多くいるところに近づいた為、視界に入らないような林へと縮地し、ここでラタン姉達と別れる。
「ラタン姉もクロムも、気をつけて。もしかしたら僕の仲間ってだけですぐに攻撃してくるかもしれないから」
昨日のクロムの姿がフラッシュバックして、ついこんな言葉が口をでてしまった。2人は僕の顔を見てふっと優しく笑う。
「ボクを甘く見ないでください、いざとなったら透明化でなんとかしますから」
「騎士には遅れをとったけど、私だって化け物みたいなものだ。そこらの兵士には負けはしないから安心して戻ってくれ」
今度こそ行ってくると2人は僕達に背中を向ける。その背中が見えなくなった頃、僕達は仮拠点まで戻ったのであった。4人ではやや手狭に感じたこの場所も、2人だとがらんと広い空間に感じる。
「……こうして何もしない時間を2人でいるのは、なんだか久しぶりじゃないですか?」
特に何を話すでもなく、昨日使ったぶんのスクロールを補充しようと拠点に置いてあった魔力インクを手に取ろうとした時後ろからスズちゃんに話しかけられる。
「うん?……ああ、最近は皆で行動するとか慌しかったりとかでそうだね。最後はいつだっけ」
「記憶だと旅を始めた頃です。大抵キルヴィ様はラタン姉と一緒に行動されてるかお兄ちゃんと話し合ってばっかなのですもの」
そんなに前か。この間の買物はラタン姉と一緒だったし、一昨日は一緒に行動して居たけれど僕がずっと壁などの設営をしてたしな。
「私達は皆、キルヴィ様が好きなんです。そのこと、スズはキルヴィ様にちゃんとわかってほしいな」
わかっているよと返事をして振り向こうとしたが、そのタイミングでスズちゃんに「だから、だからね」と後ろからしがみつかれた。突然のことに魔力インクの入った瓶を落としそうになる。
「町の人みたいに手のひらなんて返さない。何があっても、どんなことがあっても、私達はキルヴィ様の味方だから、もう少し頼って下さい。間違っても1人になろうとはしないで下さい。町の人の近くにいった時からずっと、怖い顔になってますよ」
そう言ってグリグリと顔を背中に押し付けてくる。背中が熱く、湿っていく。
僕が、怖い顔?そうだったのか、自分では全く気がつかなかった。瓶を元の場所に戻し、後ろ手でスズちゃんを抱き返す。
「これで、普通の顔に戻ったかな?スズちゃん、確認してくれないかな」
できるだけ優しい声でそう尋ねると、背中からそっと離れ、僕の体を自分の方に向き直させる。大きくなってから人前で泣かなくなったスズちゃんだったが、その目元が赤くなっていた。ラタン姉に続けてスズちゃんまで泣かせてしまうとは、何やってんだろうか僕はとやや情けなくなる。
今できる精一杯の笑顔で返すと、クスリと笑ってくれた。
「うん、キルヴィ様はそうじゃなきゃダメです」