解体・ランスボア!
戦後処理パートです。
「いやはや、驚いたのですよ……キルヴィ君もいるしどうやって退けようか考えていたのにまさか1人で倒せるなんて。本当に6歳なんですよね?」
ラタンさんが念のためといった様子でランタンをかまえながら近づいてくるので、さっきからずっと疑問であったことを聞いてみる。
「ラタンさんってそのランタンをずっとランスボアに向けて構えていたけどそれってどういう意味があるの?まだ暗くないしそもそも火が付いてないみたいだし……」
「んう?ああこれですか……これは夜灯の精のアイデンティティでもあり、ボクにとって武器でもあるのですよ。これを通すと私の魔力が増幅されて強力になるのです。ほら」
そういうとランタンから火が吹き出し、ランスボアを丸焼けにしていく。
「火の魔法でこのとおりなのです。このランタンは他の魔法使いで言うところの杖のようなものなのですよ」
一通り表面を焼いた後、火を消す。頭の部分以外の毛は全て焼け落ちたようだ。ラタンさんは小首を傾げながら尋ねてくる。
「これでダニみたいな表面についている虫は殺せたはずなのです。あとはどうします?」
とりあえず腹を切り開いた。中までは火が通っていないようで赤い血肉が見える。とりあえず残しておくと肉の鮮度が一気に落ちるため内臓は全部引き抜くことにする。
「僕1人では全部さばくなんてできないから、すぐに食べれるようなところだけ取ることにするよ。そういえば昨日の夜から何も食べてないからね」
「おお、豪勢なのです。久々に水以外のものを口にできるかもしれないです!」
嬉しそうにしたをペロリと出すラタンさんに僕は少し戸惑ってしまう。
「ラタンさんそこまで食べるのに困って……僕でさえ食べ物はあったのに」
その言葉に対しラタンさんはわたわたとした様子となって、
「違うのです!違うのです!ほとんどの精霊にとっては本来飲食なんて必要ないのですよ。するにしてもボクの様に娯楽のために飲食をするのです。だから決してひもじいわけでは」
「わかりました!わかりましたから落ち着いてください!ごめんなさい!」
すごい身振り手振りで自分がひもじいわけではないことを説明してくるラタンさんに、僕はつい謝ってしまった。とりあえず落ち着いてもらうよう促すと息をハアハアと切らせながらなんとか落ち着いてもらえた。
「今の話はおいといて、おいといてですよ。ボクもご相伴してもいいですか?」
やっぱり落ち着いてないかもしれない。ラタンさんがジリジリとにじり寄ってくる。
「さっきも言ったとおり1人では食べれないからどうぞ。調理は……何もないので焼くしかできないですが」
「あ、なら塩と香辛料があるのです。これを使いましょう」
ガサゴソと紙で包んだ調味料を取り出すラタンさん。なぜ調味料を持っているのかはさっきの繰り返しが起きそうだと思い、聞かないことにする。
炭化した表面をこそぎ落としてから、まずはランスボアの肉の中でも1番美味しいとされる尻肉を切り取る。以前の狩りの時には誰かが捨てた刃の欠けたナイフだったが、族長から貰ったこのナイフは新品ゆえかすんなりと刃を通すことができた。次に肩肉を剥ぎ取る。
持ち運びやすい前脚を骨ごと落としたところで手荷物がいっぱいになってしまった。とりあえず切り取れた分は葉の広い草と細長い草を見つけて包んで縛り、汚れないようにする。まだランスボアの体は半分も解体できていなかった。
「これだけ残るのは勿体無いのです……」
「そうだね、いつもだったら仕方がないからと置いていったけど、持って帰る必要はないからこれを食べよう」
そう言って少し時間をかけて後脚をバラす。後脚は美味しいのだが、発達しすぎた筋肉のせいでスジが多くものすごく硬いのだ。そのままでは噛みきれないので筋に沿って切り取っておく。
続いて一度切り込みを入れた背と腹から、食べられそうなところを薄く切り取る。これで自分が行ったことのあるだいたいの解体は終わった。
平らになった石と枝を集めて火を起こそうと考えるとラタンさんがさっきも使った火の魔法で着火してくれる。細かい肉は枝に刺し火にくべ、薄い肉は調味料をつけた後に平らになった石へ並べ、火が通るのを待った。
久々に食べることのできたランスボアの肉はとても美味しかった。