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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
127/302

辛勝

「今のが貴様の虎の子か、ぬかったわ。それにこの足音……近くまで仲間が来たと見える。形勢逆転、か。ふはははは!次代の戦士がいつの間にやら育っているとは、私も老いたものだ!」


形勢逆転と言いつつもまだまだ余裕に見えるオスロ。思えばこちらに対して言葉を投げかけてはくるが一度も攻撃を実行していない。体力を温存していたのだ。対して僕は連戦により割と満身創痍である。棍棒を構えてみせるが、力が入らない。スクロールも今のでまた尽きた。


このまま戦えば、間違いなく負けるのは僕だろう。だが、そんな僕の心の声を読んだ上でオスロは両手を挙げなんと戦意がないことを示したのであった。


「騎士ともあろうものが道半ばでほぼ壊滅だ。私にとっての想定外がここまでとはな。これではアムストル攻めなどとてもくたびれ儲けだけで武働きなど満足にできぬわ。……私は帰る!良い物が見れた礼だ、これは返してやろう」


そういってこちらにクロムの剣を勢いよく投げてよこしてくるので即座に投石で剣の腹を叩き、速度を落とす。弾かれた剣は僕の作った防壁をあっさりと切り裂きながら近くの地面へと突き刺さった。この剣は斬れ味がヤバいというのになんという危ないことをするのか。


「疲れていてもそれくらい受け取って見せよ。でなければ私に勝とうなどというのは到底無理な話だぞ」


その言葉と共にオスロを示す脅威度が格段に大きく色濃くなった。こいつ、こんなに強いのを隠していたのか!だ、だめだ。先程まで万全なら互角くらいだと思っていたが、万全でも1割勝てるか勝てないかといった戦力差だ。ましてや今の状態で勝てる見込みは一分もない。


「おっと、悪い坊主。虐めてしまったかな?だが今尚力量を推し量ることができているということは貴様、もしや何かのアードナーだな?」


そういいながらすぐに脅威度を抑えるオスロ。どうやら本当に戦うつもりはなくなったようでオスロを示す点は白く小さくなった。


「一体何に特化しているのか見た目で判別がつかぬ……まあ、楽しみにするのもアリか。そういえば私ばかりが名乗っていたな、お前も名乗れ若き獅子よ」


「……キルヴィ。僕はキルヴィ・イレーナだ!」


「なっ、貴様今イレーナと言ったか!?そうか、道理で規格外な存在だと思ったが……そうか、イレーナの血脈は途絶えていなかったのか」


僕が母さんの家名を名乗ると、オスロはひどく狼狽した感じとなり、しばらくして1人で納得していた。うん?アードナーとしての家名であるアースクワルドならわからなくもないがなぜイレーナの名前でここまでショックを受けるのか、理解ができない。


「うん?アースクワルド、それは聞いたことのない家名だが、家名が二つもあるのかお前は。複雑な家庭なのか……その顔、イレーナ家が何をしたのか全く理解していないようだ」


そう言われてもと考えてしまう。母さんとウル兄さんくらいしか僕の中では浮かんでこない。……いや、そういえば昔リリーさんがなんかいっていたような気もする。エンジュおばあちゃんと、おじいちゃんの話をしたっけ?オスロの年齢が推し量れないが、もしかしてその辺の年代なのかもしれない。


「リリーにエンジュ、か。懐かしい名前だ。エンジュはイレーナに嫁ぎアンジュという娘を授かった後のことは聞いていない。相方のリリーの方は未だ現役であちらこちらの戦いに参戦しているようだがな。この2人も確かに強かった覚えはある。だが規格外なのはエンジュが嫁いだイレーナの方だ」


そういいつつオスロの手が震えていた。僕からしてオスロはかなわない存在だと思っているのにそのオスロが恐れるとは、おじいちゃんは一体どんな存在だったのだろうか。


「奴と戦った軍はことごとく敗戦を喫した。それも今のお前のように単身で敵に突っ込んで、だ。私も参加したことがあるが、この心の声を聞く技を持ってしてもいったい何が起きたのかわからない間に軍は壊滅、気がついたら私は雪積もる地面に横たわっていた」


オスロの雪という言葉にかつてスフェンの町での戦い。母さんが使った脅威的な雪魔法が頭に浮かんだ。そうか、あれはおじいちゃんから受け継いでいった魔法なんだっけ。


「ほう、雪魔法……当時はイレーナの情報を必死になって集めたが、リリーなどの妨害で隠蔽され、タネも仕掛けも全くもって見えてこなかった。奴がこの世を去って久しい今になってわかるとはな。やはり特殊な魔法を使っていたということか」


リリーさんは確かおじいちゃんが嫌いだといっていたが、エンジュおばあちゃんやアンジュ母さんを守るためにも必死に情報を隠蔽してきたらしい。……ここにきてイレーナを名乗ったのがちょっとまずかったかなと思う。


「さて、時間もない。最後に確認したいがキルヴィよ、ノーラに来て……いや、私の元で騎士を志さんか?私なら貴様の力を存分に発揮して見せようではないか」


そういって手を出してくるオスロ。だが、僕はその手をとることはしない。強くはなりたいと思ったし、話してみて必ずしもオスロが悪い存在ではないということはわかったが、簡単に仲間を見捨てるビジネスライクな戦い方は、僕には受け入れられそうになかった。


心の声を聞いたのかオスロはやや残念そうに手を引っ込める。そしてノーラの方向へ向くと、


「残念だ。さらばだ若き獅子よ。この後が大変だろうが、何お前の事だ。乗り切っていつかまたどこかの戦場で会うだろうよ」


と意味深な言葉を言い残して生存者を引き連れノーラへと去っていった。いや、できれば僕はもう会いたくないんだけど。


辛勝というか、見逃してくれたというべきか。フタを開けると素直に勝てたと言えない結果に落ち着いてしまった。


そこに入れ違いになる形でラタン姉達が馬に乗って息を切らせてやって来た。僕の名前を叫んでいる。ここにいるよと返事をするとこちらへと視線が向く。1人戦場で立っている僕の姿を見て安心した顔になった。しかしすぐにキッとした顔になる。走り疲れた馬から降り、こちらにツカツカと寄ってくる。そして握り拳で思いっきり僕の顔を振り抜いた。疲れた体に今のはこたえる。そのまま馬乗りになられた。


「キルヴィ!あなたはまた!ボクがさっき言ったことも忘れて!」


殴る、殴る、殴る。 加減のない力一杯の拳。突然の凶行にスズちゃんとクロムが驚いてラタン姉の手を止めようとするも、振り払われて止まらない。


それでいい、これは止めてはいけない。


拳の力は次第に弱くなり、ラタン姉は僕に覆い被さるように抱きしめられた。すっかり腫れてしまった僕の頬に何かが落ちてくる。


「どれだけ!どれだけボクを心配させれば気がすむのですか!」


それはラタン姉の涙で、さっきまでの拳なんかよりもよっぽど痛かった。

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