奇襲
1人、走りながらMAPを確認する。僕と奴らの距離はだいぶ離れており、僕がこのまま走ったところで追いつけるかわからなかった。
こんな時、相手の位置を把握できているのだから距離が縮まれば良いのにと舌打ちをする。MAP内で自分を表している点をどうにかして早く動かせないものかと意識を向ける。
すると次の瞬間には自分の走っている景色が変わっていた。足元が直前まで意識していたものと変わり思わず転んでしまう。
「いてて、いったいなにが起きたんだ?」
目視とMAP、両方を使って辺りを見渡す。確認すると自分の位置が先程まで走っていた位置から1キロ程、奴らに向かって進んでいるようだ。もしやと思い、先程まで考えていたことを足元に注意しながら再度意識してみる。またも1キロほど前進をしていた。別の場所を意識しながらやってみるも結果は同じであった。
「は、はは……本当に距離が縮まっちゃったよ」
どうやら有効範囲は1キロ以内らしいが、そこの地点までの遮蔽物を無視して移動できるようだということがわかった。アナウンスされた覚えがないがまさかMAPにこんな隠された力があったとは。魔力の消費は如何程かと体調を気にするが、そこまで疲れた感じはしていない。むしろ自力で全力で走って体力を消費するより、効率が良いように感じた。そこまでの距離が縮む法……これを縮地と呼ぼう。
「おっと、モタモタはしていられないや」
引き続きMAPを確認していると緑の点が少数、僕の来た方からこちらへと走って来ているのがわかる。ラタン姉達だ。心配して追いかけて来ているのだろう。新しい発見にやや冷静になれた今、合流した方が得策であるのは間違いないと考える。
だけど、エゴかも知れないけれど。僕は仲間が傷つけられる所を見たくはないのだ。そして、黙って見ていられるほど大人でもない。淡々と移動を再開する。
縮地で跳ぶこと数回、遠くに敵影を確認。すぐさま物陰に隠れ、小刻みに距離を詰める方針へと変える。同時にスクロールの補充作業だ。流石にクロムがやられているのに丸腰で行く気にはならない。防壁や魔法罠のスクロールを作成は問題なく行えた。光の定規も一発分作成ができ、準備は整ったと言えるだろう。
縮地で彼らの真後ろへ急接近し、光の定規を展開。ほとんどの敵がこちらに気がついてないうちに準備が完了し光の濁流を盛大に放つ。その後、休む間も無く土の防壁を設置し兵力の分割をはかる。よし、こんな感じの作戦でいこう。そうと決まれば縮地だ。
「!?」
彼らの真後ろへと飛び込むと、一斉に僕に向かって剣が向けられた。咄嗟に後ろに再び縮地を行うことで間合いを取る。
「その奇襲は物音から感じていたぞ、まさか音の通り空間を跳ぶように移動して来ているとは思わなかったがな」
驚いた様子の僕に対しにやけた顔の偉そうなエルフが、クロムの剣を片手にしながらこちらへと向き直るのであった。
「くっ!」
順番が狂ったが即座に兵力の分断を図るため、防壁を相手の足元へと築き上げる。大多数を閉じ込めるように壁を展開させ、あちこちへと魔法罠を設置してみせた。何十名かが防壁の出現に伴い上空へと打ち上げられ、地面に赤い花を咲かせ、さらに肉片が飛んだことにより罠が発動することで火柱やカマイタチが発生して被害を増やす。この場は瞬間で地獄絵図と化した。
「ほう?貴様があの若者が言っていた友とやらか。なるほど、即座にこれだけのことをしてみせるとはなかなかの実力者という私の見込みは間違いないようで安心したよ」
突然の防壁出現により少しは慌てふためくかと思ったが自分には関係のないという風に話し続けるエルフとその部下達。動揺を誘おうとした僕が逆に驚いてしまったくらいだ。
「この世はわからんことばかりよ。貴様のようなのが、平和ボケしていると聞くどこにも属さんような中途半端な町を守るのに出張ってくるとはな。どうだ、その実力があるのならば我がノーラでもそれなりの地位には立てると思うがこちらにつかんか?」
「僕の友達を傷つけ、宝物を奪った奴らにつくつもりはない!」
「そうか、それは残念だ」
言葉とは裏腹に微塵も残念そうに見えない顔で相手は片手にフレイル、反対の手に魔晶剣を構える。こちらの返事などもとよりどうでも良いといった雰囲気がにじみ出ていた。
「早く構えよ、少年。この戦、武器なしで我らに叶うなどと思い上がるなよ?」
腰元にある、かつて葬った飛竜の骨でできた棍棒を取り出し構える。相手はピクリと片眉を上げ、そんなみすぼらしい武器でどういうつもりかといった様子でこちらを睨みつけてくる。
「どうもこうも、これが僕の武器なんでね。ナイフも剣みたいなかっこいいものは持ち合わせてないんだ」
「そうか、ならば文句はない。貴様にも戦争の恐ろしさ、身をもって味わってもらおうか!」
そして僕対ノーラの騎士団、正面からの戦いが始まったのであった。




