勝敗
鈍い打撃音の後に飛び散る血飛沫。遅れて苦悶の声が周囲に響く。
「どうしたドラゴンスレイヤー、威勢がいいのは最初だけか?」
そう尋ねながら手にしたフレイルを容赦無く叩き下ろす。自らをドラゴンスレイヤーと名乗った青年は勢いよく吹っ飛んでいった。
「こん、な。はずじゃ」
「油断していた恥さらしとはいえ、3人も倒せたのは褒めてやろう。だがな、これは戦争なのだ。路地裏の戦いのような少人数戦ではないのだよ」
遡ること10分、この青年は魔晶石でできた剣を手に私達に攻撃を仕掛けてきた。その動きはようやく大人の仲間入りといった年齢とは思えないほどキレが良く、完全に油断しきっていた馬鹿者の首が飛んだ。続けて近くにいた者の懐に入り横薙ぎ。そいつは手にした盾で防ごうとしたものの、盾ごと一刀両断される。全く、首をはねた時に相手の手に持っている武器の切れ味くらい見極められないものなのか。
完全に後手に回り、相手に勢いつかせてしまったが、それでも我らは騎士団。仲間の死に動揺をせず、今の動きから冷静に冷酷に現状把握をし、相手の力量を見定める。即座に間合いを開け、付かず離れずの位置どりをしながら囲んで見せる。
そこで彼は剣を持っていない方の手で何かを手繰り寄せるような仕草をしてみせる。大半の団員がその動きから何が来るかを想像しすぐに横飛びをして攻撃範囲から離脱をするが、ここでも出遅れる者が複数。いくつもの視界で捉えるのが難しい程の細かい糸が先程塗り替えたはずの地面との間に伸びたかと思うとその空間を切り裂く。手などの身体の一部が切り落とされてしまった。内1名は四肢が切断され、落下した先で更に糸に引っかかりバラバラとなり命を落とした。……まぁ、こいつに関しては着いた位置取りが悪かったという運も絡むどうしようもないところもあるのやもしれんが、それで命を落としてるのでは前2人と大差がない。
我々は早くも3名を失った。
だが、それだけだ。私はまだ存命であるし、団員の大半が五体満足であり問題となるものは存在していない。淡々と魔法を放ち、油断が見えたところで時々斬りかかりとジリジリと間合いを詰め、青年の逃げ場をなくしていった。そして距離が詰まった時、一斉に摑みかかることで武器の剥奪、無力化したのである。多勢に無勢と言ってくれるな、何度も言うがこれは戦争なのだ。のこのこと1人でここにきた時点で間違いなのだ。本当に1人で我々を倒すことができるとでも思っていたのか?舐められたものだ。
「まだ出くわしたことこそ無いが、ドラゴンというのも存外弱いようだな。こんな実力の者に討たれるのではな!」
「いやいや、こいつのホラ話かもしれませんぜ」
団員が最早ボロ雑巾のようになった青年に思い思いの言葉を投げつける。目が虚になりながらも悔しそうな呻き声を上げていた。
「弱いな、貴様は実に弱い。この剣は素晴らしいものではあるが、よもやそれを自分の強さだと勘違いしてしまったのか?無様よな」
そう言って私は青年から取り上げた剣を手に持つ。色こそ薄いが魔晶石であることには違いない。珍しい物を見つけたものだ。これは私がいただくとしよう。
「団長、トドメは刺さないんですか?なら私がさしても?」
女の団員が斧を手にランランとした目でそう尋ねてくる。トドメか、さしてやってもいいが……
「捨ておけ、ほっとけば死ぬ。トドメなど今のこいつにとっては救いにしかならんわ。実力もわからぬものなど、このまま惨めに野垂死にがお似合いよ」
それよりもいらんところで時間を食ってしまった。まだ取り返せる範囲ではあるがあまりモタモタしている暇もない。まずはさっさとこの壁を破壊してしまわねばな。
何度かの攻撃の後、ようやく壁が壊れる。破るのにこれほど時間を取られるとは、相手はなかなかの実力者のようだ。呻き声を上げながら横たわっているボロ雑巾をちらりと見る。確か、こいつの友人という話だったか?
「虎の威を借る狐、か。友人の力を自分の強さだと見誤った部分もありそうだな」
安心しろ、どの道貴様らのいく先はあの世なのだ。すぐに送ってやるからそこで待ってるが良い。
「ちく、しょう……!」
後ろでそんなくぐもった声が聞こえた気がしたが、弱者の言葉だ、耳を貸す必要はないだろう。さらばだ弱き者よ、素質はあったやもしれんが我々と戦ったのが運の尽きだ。
次回より通常視点に戻ります