会敵
久々の主人公登場回
「発破用意!……施工!」
響く爆発音。爆破によって土煙がまき上り風が吹き荒れる。
数度にわたる発破工作によって奥に見えていた壁をも吹き飛ばし、小高い丘の向こうにアムストルの町の姿があることを捉える。思っていたよりも想定外のことばかりで時間を食ってしまったが、あとはこの丘を越えかけいればそれで我らの戦いは終わりだ。もしすでにノーラ側が進入しているようであれば、この機動力と破壊力を持ってうまいこと立ち回って逆転勝ちして見せる。
「目標見えたぞ!今こそ我らの実力を見せる時だ!」
「そうはさせないよ!」
いざむき出しの相手の本拠地へ行かんとする我らの目の前に突如として立ちふさがる1つの影があった。その姿は青い髪の人間の男子。どことなく気品がある身なりの良さから身分の良い家の生まれに見えた。ルベストからどこかの有力者の息子がアムストルにたまたま訪れていたのだろうか?
訝しげな表情をしてその少年を見つめるが、こちらが止まったと見るとその少年はなんとこちらに背を向けてウロウロとしながら話を始める。
「僕がせっかく用意した防壁と作戦を、まさか物量の力押しだけで正面突破をするなんて恐ろしい相手ですね」
まあでも、効果がなかったわけではないようなので良しとしましょうと1人頷くその言葉に兎顔が怒鳴り声をあげる。
「小僧1人があれを用意しただと?嘘を申すな!大の大人でもあれほどのものを用意するのには基礎があったとしてもかなりの人手と人数が必要なはずだぞ!それをお前1人でできるなどと嘯くな!」
兎顔が言う通り、あの見えない刃や二重構造の壁を、このような年端もいかぬ子供が仕掛けたとはにわかには信じがたい話である。その言葉に少年は少し困ったように頭をかく。
「嘘じゃないんだけどなぁ。魔法でこう、ね?わっかんないかなぁ?昨日僕だけでも半日もかけずにできたし、割とどうとでもなる話だと思うんだけどなあ」
どうやらこの少年は兎顔の言葉に対し、どう返したらいいだろうかと考えていたらしかった。魔法で建設?せいぜい出来て厚みの全くない突撃だけで壊せるような壁を少し作れて
「……あ、これは駄目元の相談なんですが、ここらで痛み分けと手を打って引き上げてもらえないですかね?僕達は争う気はなくて、ただ平和に暮らしたいだけなんですよ」
私から見てヘラヘラとした態度でそう答える少年に背筋が凍りつく。こいつは、何かヤバイ。だが頭に血が上っている兎顔はその仕草に余計腹をたてたようであった。
「ふざけているのか小僧!こちとら遊びでやっているんじゃねえんだ!戦争に首を突っ込んだこと、後悔させてやらぁ!」
制止の言葉をかけ落ち着かせようとするも兎顔は止まらない。武器を構え、周りにいた兵を率いてその少年へ我が軍自慢の突撃が始まる。
「はあ。警告はした。武器を構えられた以上命の危険性があるから……実力行使は仕方がないよね」
ため息をついた少年の前に何かがふわりと広がったかと思うと、突如として視界が白く染まり、何かが勢いよく私の横をかすめていった。
「うーん、今ので手持ちのスクロールが切れちゃったよ。やっぱりラタン姉の制止を振り切り無理してでも、昨日の内に予備を作るべきだったなぁ」
恐らくは少年が放った眩しい光によって奪われた視界が戻らない中、そんなことをのんびりとした調子で呟かれる。
……おかしい。怒りに我を忘れ、いくら光に目が眩んだとて兎顔達はプロだ。突撃を仕掛けたなら最後まで完遂さける筈だ。それなのに今、前からは馬のかける音や怒号は聞こえず、少年のものであろう足音1つが悠々と立ち去っていくのが聞き取れる。
「まて!貴様、私の仲間に何をした?これは一体なんなのだ!」
「ええ?……仕方がないなぁ。敵であるあなたにそんなことをいちいち聞かれたくはないし答える義理もないけれど、それで戦意がくじけるかもしれないし」
足音は止まり、心底めんどくさそうな様子で少年が返事をする。好機だ、相手が足を止めている間に早く視界よ戻れと目に力を入れる。
「あなたの左後方のお仲間さんとともに光となって消えたよ、言葉通りね」
部下が一瞬で消しとばされたと聞き、バカなという思いが湧き出たが、先ほど隣を何かがとてつもない勢いで飛んでいった感覚を思い出しゾッとする。先ほどの言葉といい、今の言葉といい、もしこの少年が言ったことが全て本当だとするならば相対している相手は少年の皮を被った化け物なのではないか?
「ともかく、これ以上アムストルに近づいたらこんなものでは済まないので。あ!そうそう、お帰りの際は今僕が作った道から行けば比較的安全に帰れるんじゃないかな?」
こちらの沈黙に満足したのか、それとも興味が失せたのか。その言葉を最後に足音が再び遠ざかっていき、やがて聞こえなくなる。それと同じような時に視界も戻ってきた。
そして現状を自分の目で見て改めて絶句する。視界を奪われる前、兎顔がいた場所から一直線上に伸びた私のはるか左後方まで、地面に焦げ跡を残し綺麗さっぱり物が消し飛んでいたのだ。全身が消しとばされたものだけではなく中には体の半分だけ失っていたり、手だけが残っていたりと散々な有様である。
「こんな、こんなことがあり得てたまるか!うお、うおああああああああ!」
部下たちのどよめきと私の行く宛のない慟哭が戦場に響きわたるのであった。
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