戦闘・ランスボア!
今回いつもより増しましです
(ランスボア。森に住む猪が長く生きることで魔物と化したもの。牙と頭周りの毛が繋がって硬質化し、鼻の位置している所が槍のように鋭くなっているのです。さらには後脚の筋肉が通常の猪よりもふた回りも大きく、その勢いは厚い青銅製の板をもぶちぬけるという突進力に特化した奴ですね。ただの猪でも1人で相手をするのは厄介なのにキルヴィ君のいる状態で凌げるでしょうか……)
ランタンをランスボアに向けながらキルヴィ君を庇えるように身構える。
「キルヴィ君、できるだけボクの後ろに下がってください。あれは危険です」
「ラタンさん、ありがとう。でも大丈夫だよ」
一体どう大丈夫だというのか、キルヴィ君の方を一瞬振り返ると彼は石を拾い集めながらこう言ってのけた。
「だってこいつくらいを1人で狩れないと生きていけなかったからね」
◇
目をランスボアから離さないまま、今僕が手に持っている石の数を数える。全部で5個。それと懐には昨日もらった短剣がある。つまり、持ち玉は6発というわけだ。ランスボアはこちらを見て、素早く森の奥まで引き返していった。
「気をつけて、あれは帰ったんじゃないのです」
「うん、勢いをつけるためとどこからくるかを惑わせるための引き返しだね」
ランスボアは素早いため、追いかけようにも追いつける可能性は低い。そうして見失ったタイミングで去っていった方向とは別の所から突進を仕掛けてくる魔物なのだ。
とはいえ、MAPを手に入れた僕にとってはどこにいるのかが手に取るようにわかる。慌てずに足元にある草をいくつか結んでおく。
「キルヴィ君、追えていますか?だいたいどれくらいで来るかわかりますか?」
離れていったことですぐにくることはないと判断したのかラタンさんが近寄ってくる。
「バッチリです。今引き返し始めているのであと1分もないと思います」
ランスボアの特徴として、突進すると決めたら現在向いている方へ左右にぶれることなく一直線にしか走れないというものがある。対処方法さえ知っていれば狩ることは難しくないというのがメ族の狩人の一般常識となっていた。
ひとつ。真正面から攻撃をしようとしないこと。
ひとつ。罠を足元に仕掛けておくこと。
ひとつ。見失った場合は音をよく聞いておくこと。
「まもなく会敵。方向はこっちから。ラタンさんは僕の反対側へお願いします」
ラタンさんにそう告げながら二つ石を投げる。適当な方向に投げているだけに見えたため、ラタンさんは少し咎めるように言う。
「キルヴィ君、そう闇雲に投げても通らないのですよ!」
「大丈夫です!これであってます」
ゴスッと鈍い音が聞こえる。間も無く勢いよくランスボアが現れた。直線上から体をずらし、やり過ごす。横目で見たところ、背中に新たに傷ができているのを確認する。それはラタンさんにも見えたようだ。
「そういえば先ほども怪我を負わせていました。一体どうやって……」
「これは僕の持っているスキルの一つ、跳弾だよ」
「跳弾?たしかものにぶつかった反動で違う方向に飛んでいく現象ですよね。そんな、動いている対象に正確に当てれるのですか!?」
正面から攻撃をしてはいけない。これはただ危ないからというわけではない。正面では硬質化した毛に弾かれるからだ。ゆえに僕は狩りを始めてから努力してこのスキルを身につけたのだ。今では先に投げた石に向かって後の石を投げることで、後の石の威力はそのままで好きな方向にはね返らせることができるようになったのだ。
再び近づいてくる音。通り過ぎたランスボアが再び突進を開始したようだ。点の移動を見るに僕に狙いを定めたようだ。
再び石を二つ投げる。再び鈍い音の後にランスボアが突進してくるのを確認する。しかし今度は直線上から逃れずあえて正面に向けて石を投げる。当然のように弾かれる石。その光景にラタンさんは緊張した声で危ない!と叫んでいる。
もう直線上から逃れたところで当たるのは必死の距離になった時、突如としてランスボアは頭から地面にのめり込んだ。
「草結び……いつもと違う草だったから強度に不安があったけど、成功してよかったよ」
よく見るとランスボアが通っていた道には先ほどキルヴィが用意した結んだ草がいくつもあった。ランスボアはこれに足をとられ転んだのであった。石を投げたのは少しでも足元から注意をそらすためだったのだ。引っこ抜くことができないでもがいているランスボアに近づいてナイフを取り出す。
「暴れられるのは厄介なのでまずはここから」
そういって後脚の腱の位置を切り裂く。これでランスボアの機動力はなくなり、抜け出すことができる見込みは無くなった。ほとんど動かなくなったランスボアに向かい背中へナイフを振りかぶる。
「これでおしまいです」
こうしてキルヴィはランスボアを仕留めたのであった。