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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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戦闘準備

翌朝、クロムが宿へと楽しそうに帰ってきた所に昨晩もたらされた情報を伝える。


「それは聞き捨てならないな。キルヴィ、君の事だからきっと何か案が浮かんでいるのだろう?是非私も手伝わせてくれ」


共に旅をしてきた事でクロムの力は侮れないものだということはよく知っている。頼りにしているよと拳を出すと不敵な笑みで拳を返してくる。


「なんかお兄ちゃん、一皮むけた感じなんだけど昨日は何があったんだろうねー?」


「さぁ?ボクにはわからないのです。ここまで真摯になるって事はそういう事なんじゃないかって思わなくもないですけどわからないのです」


いつもの2人がクロムに対して遠巻きにニヤニヤしている。いつものクロムだったらスズちゃんに対して小突きにいく所だが、今日は堂々とした態度で聞き流したようだった。なんだか昨晩を経てクロムが遠い存在になってしまったように感じてしまう。


「さあ、時間がないんだろう?役割を教えてくれれば私は君の使用人として、そして君の友人としてその期待に応えるよ」


その言葉は頼もしさの反面、少し寂しく僕に響いたのだった。


仲間に指示を出して着々と準備を進める。まずは防壁だ。既に許可はもらっているので好きなようにやらせて貰うとしよう。そう考え、ノーラ側に面している所までいくと自警団の人達が忙しそうにしていた。どうやらグミさんが自警団には既に通達を出したようだった。危ないからと町の中へ戻るように言われるが、僕が名乗る事でここでの作業を認めてくれる。


「危ないので下がってください。作業中のキルヴィ様の近くへいく事はこのスズが許しません」


僕について来たスズちゃんが自警団の人達へそう言っているのを背中越しに聞きつつ、巻物とスクロールを広げる。MAP機能から障害物設置を選択し、目の前にスフェンの町の外壁を再現してみせると後ろからは大きなどよめきが起きた。


そのまま、引き伸ばすようにして合間合間にわざと隙間を作りながら設置を続ける。1時間後、国境の壁のある部分までと海岸までの間になんとか壁の設置が完了した。流石にここまで大きな規模のものはしたことがなく、珠のような汗が吹き出す。


「キルヴィ様、大丈夫ですか!?少し休憩しましょう。これ手持ちの回復薬です、飲んで下さい」


僕の様子を見てスズちゃんが心配になったのか駆けつける。差し出された回復薬を受け取り、一気に飲み干す。そしてその容器をスズちゃんへ返しながら答える。


「ありがとう。でもこれじゃダメなんだ。始めたばかりだし、まだ休憩なんかしていられないよ」


そう言って作業を再開した。後ろからはスズちゃんの大きなため息と、もっとご自愛すべきだという声が聞こえる。そんな様子を遠巻きに見守っていた自警団の人達が、「ちゃんと話を聞いてあげなよ」とか、「心配してくれてる彼女がかわいそうだろ」と野次を飛ばすと、庇われている側であるスズちゃんが何かしたのだろうか?暫くすると皆沈黙する。……大人をビビらせるなんていったい何したんだろ?


今度は内側に壁を作る作業だ。さっきの壁との間を人が通れるだけの間隔をあけて作る。外側の壁で隙間が作られている所の内側には必ず壁があるようにしながらまた隙間をあけて壁を作る。また1時間近くかけてその工程を終わらせ、スズちゃんから回復薬を受け取る。最後に内側を盛り上がらせて勾配を作る事で、ここでの作業は終了となる。


「おいおい、こんなすきっ歯な壁で町を守れるのか不安なんだが」


隙間を指差しながら自警団の1人がそう言う。周りの人々も同意見なのか揃って頷いてみせた。


「町を守る?キルヴィ様の考えはそれだけじゃありませんよ。こちらの被害を最小限にしながらいかに敵に被害が出せるか計算してるのです」


スズちゃんが僕の代わりに答える。クロムが運転する馬車が来る手筈になっているが、まだこちらに来そうもないのでちょうどいい機会だとその場の自警団の方々に作戦の一部を伝えた。


「僕はこのように考えておりますが、皆さん出来ますでしょうか?僕も極力戦闘に参加する気ではありますが、その時刻反対側にいないとも限らないので皆さんが鍵なのですが……」


作戦内容を聞いた馬のライカンスの自警団員(どうやら自警団の副団長らしい)がその作戦に目を白黒させていた。


「驚いた、こんなことが可能なのか?いや、できる。できるぞ!これなら相手に一泡吹かせることができるだろう!」


自警団員がやる気になったところでクロムが到着する。馬車に入るとセラーノさんが頼んでおいた荷物を抱えて待っていた。


「馬車の隙間からチラリと見えましたが相変わらずキルヴィさんは恐ろしいお方だ。短時間の間に1人で要塞を建築なさる。ここに貴方がいることが、相手にとって最大の誤算ですな」


そう言いながら回復薬を僕達に渡して来るのですぐに1つ飲み、残りをスズちゃんに持っていてもらう。後の負担を減らすために魔力インクを受け取り、ドゥーチェ側まで移動している間に土壁のスクロールを作れるだけ作成しておく。そして、到着次第こちらでも反対側同様の防壁の作成をしていく。


昼を少し過ぎた頃、なんとか防壁の建設が終わりその場にたまらず座り込む。魔力もだが、精神的にもだいぶ疲弊してしまった。


「お疲れ様でした。これで多少は相手を止めることができるでしょう。予定ではそろそろグミがルベストへの避難を呼びかける時間ですね。非戦闘民の移動は早ければ今からでも始まるでしょう」


セラーノさんがそう言ってくる。今のところは予定通りか。ある程度町の人がいなくなった後にはまた僕の仕事が待っている。重い体を持ち上げ移動しようとすると、よろける。指示していた仕事を終えたのかいつの間にか近くに来ていたラタン姉が支えてくれた。


「ここにいたんですねキルヴィ!ああもうアンジュに似てあなたも無茶ばかりするのです!会議では休憩を挟みながらやるって話になっていたじゃないですか!それを一息に作って回るなんて、魔力暴走してないのが不思議なくらいなのです!」


そして怒られる。心配かけて申し訳ないと思う反面母さんと似ていると言われて嬉しいとも思ってしまう。そんな思いが顔に出ていたのか、ラタン姉は呆れた顔になった。


「ともかく、しばらくはできることもないのですからちゃんと安静にしていることです。スクロールの作成も禁止します。ほら、巻物とインクをよこすのです」


とっさにラタン姉から隠そうとするが、先回りして後ろに来ていたスズちゃんに取り上げられてしまう。くう、最近なんだか2人の連携が凄い。呆然とした中そのまま馬車に連れ込まれ、気がつけばラタン姉に膝枕をされる形となっていた。なにこの状況。


「さ、寝るのです。疲れをとるのには寝るのが1番なのです」


いや、何も膝枕でなくてもと頭を浮かせようとすると逃すまいとおさえつけられる。


「んんっ、あんまり動かないでください。重心が変わるとボク困ってしまうのです」


少し焦ったような声色でそんなことを言われてしまうと、もう僕に抵抗する手段はなかった。されるがままに膝枕され、そして徐々に意識を手放した。

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