作戦会議
僕達がイブキさん達と仲良く帰って来たことで、未だにオロオロしていたニニさんはようやくホッとしたようだった。トトさんが用意した、サッパリとした夕食をいただく。
さて寝ようかという段階になった時、MAP上で見知った名前が町中を走っているのが目に止まった。何かあったのかと店の前まで出てこちらにくるのを待つ。
暫くすると走り回っている人……セラーノさんの声が聞こえてくる。どうやら僕の名前を呼んでいるようだ。常識人の筈のセラーノさんが遅い時間だというのに迷惑を考えずそんな事をするとは、何かまずいことでもあったのだろうか。
「ここですセラーノさん!どうしたのですかこんな夜中に」
「はあ、ここに居たのですね、はあ。お力を借りたく、願いまして」
息を切らせ大きく肩を揺らしてセラーノさんが話を始める。手を取られここまで引っ張ってこられたであろうグミさんとカシスさんは息も絶え絶えといった様子であった。
トトさんに断りを入れて3人を中に入れる。グミさんがいると知ってトトさんは驚いたようだが、グミさんがどこか声の漏れない静かな部屋がないかと尋ねると快く応じてくれた。ラタン姉達も呼び、皆でその部屋に入る。
「それで、どうしたのですか?僕にできることはそんなにないと思うんですが」
「ご謙遜を。キルヴィさん達に出来ない事などありますまい。実は大変な事になりまして」
そういってセラーノさんは僕達に書状を見せながらアムストルの現状を解説してくれる。宣戦布告状が届いたという事。降伏宣言しようにも、どこかに避難しようにも日数があまりに少ないという事。丁度ここにいるカシスさんから僕達がここに戻って来たと聞き、以前見せていただいた力を使って時間を作ってもらえないかという事だった。
「宣戦布告状が意図的にこの時期にたどり着いたように思えますね。要人などはとうに事前連絡が個別にいっているでしょうし、これは形ばかりの事前通達でしょう」
グミさんがそう締める。確かにこれは縋れるものがあったなら縋りたいと思う内容であった。なにせ突然この町を守っていた堅固な壁が音もなく崩れ去ってしまったのだから。
「最低限の自警団しか持たず、物理的な防壁のないアムストルでは数の暴力に蹂躙される事でしょう。どうか、どうかお力添えを」
セラーノさんが頭を下げる。安請け合いできる内容ではないのでしばし考えてみよう。
まず、防壁。防壁についてはまぁ、僕なら今聞いた猶予があるのであればある程度はなんとかなるだろう。勝手に壁を作ってもいいのか、この辺は確認しておくか。
「防壁ですか?可能であるならば作らざるを得ない状況でしょう。この町のあり方よりも私は民を守りたいのです」
グミさんがそう答える。ふむ、ならば防壁を作るのは確定。次にこの町に現在ある備蓄と兵力の確認だ。これに対し、備蓄は十分、兵力は自警団150名と返される。
「アムストルは不干渉の地として商売をウリとし、荒事が少なかったので、人々も戦うのは不得意です。我が領地ながら兵力が圧倒的に少ないですね。少なくとも5000程、それが2つの方向から来ると見ています。流石にこの土地で戦うとなると厳しいかと思います。悔しいですが、この地を手放す他ないかと考えています」
領主自らこの地は不利であると判断を下した。ふむ、ならば僕ができることはこの土地は気にしなくても良い条件で人を守れれば良いということでいいかな。
「わかりました、この町がどう変化してしまっても構わないという事であるならば、僕も微力ながら手伝えると思います。ところでカシスさんは以前聞いた話だと出身はノーラという事ですが、祖国と敵対する事になりますが大丈夫ですか?」
話の成り行きを黙って聞いていたカシスさんに話を振ってみる。表示は敵対反応でないことから伏兵だとかそういった事に関しては心配していないものの、気になったのだ。
「そうか、ここに来るまで聞けていなかったがノーラとドゥーチェとここが戦争になるのか……思わないことがないわけではないが、私はいつだって弱い者の味方でいたい。それに私はこの町が好きなのだ。力を貸すよ」
「そういってもらえると嬉しいわ、カシス。キルヴィさん方、何か用意するものがあるならばお申し付けください。私持ちでできる限りを用意するつもりです。ここは交易の場、揃わないものはそうそうないはずです」
そう言われ、現在ここにいないクロム以外の仲間と相談をする。大部分の実行者が僕なのだから、主に僕の考えで物を用意して貰えばいいのではないかと言われた。そうか、なら必要なものは決まっているな。
「魔力インクと魔力回復薬を沢山用意してください……あと、音のなるカラクリとかってあったりしますかね?」
僕の言葉にグミさんは果たしてそれがこの町で手に入るものか指を顎につけて考える。
「前者については問題なく。後者も確かそれらしいものも市井で見かけた気がします。必要とあらば用意しましょう」
人手が必要ならば貸しますよと言われるが、そこに人員を割くくらいなら避難誘導に回してくださいと返す。僕のやり方だと、近くに人がいるだけでやりにくくなるのだ。今日は寝て疲れを取り、万全の体調にしてから早朝行動開始しますと返す。必要物資はセラーノさんに持ってきて貰う約束をし、今夜は解散となった。
「いやはや、キルヴィさん方がいるというだけで私は肩の荷が軽くなりましたよ」
と帰り際のセラーノさんに言われるが、本番はこれからである。かつてセラーノさんに見せることとなった僕の力だけではこの窮地は脱せれないだろう。工夫が必要となってくる。
「キルヴィ、カラクリって何に使うつもりなのですか?頼んだものの中で浮いてる気がするのですが。基本の作戦はどんな感じですか?」
セラーノさん達が帰った後、そうラタン姉に聞かれ、仲間達に僕の考えていることを大雑把に話す。やり方によっては相手に大打撃を与えられそうで、カラクリは正直な所、時間を稼ぐ保険のようなものだと伝える。
「……最近の子は恐ろしいなぁ。いったいどんな環境で育てばこうなるのやら」
僕の作戦を聞き、ツムジさんがそう漏らすのだった。貴方は僕が育った環境は良くご存知でしょうに。




