人攫い
いつもありがとうございますなのです!
走らせること一日、村に着く。村の大人達があちこちで誰かの名前を呼びながら駆け回っていた。何やらただ事ではないようだった。ツムジさんが近くにいた人を呼び止め、事情を聞く。
「ああ、誰かと思えば商人さんじゃないか!いや、それが村の子供の1人が行方知れずになってしまって……こうして探してるんですわ」
そう言いながら村の人は今も目線をあちこちに向け、目の届く範囲に隠れていないかを探している。その目線がクロムの方に行くと、その村人は驚いた顔になり、目を擦る。
「勘違いだったら申し訳ないがお前さん、もしかしてクロムかや?」
その言葉に今度はクロムが驚きながら、はいそうですと返す。村人はやっぱりかと呟いてクロムの手を取った。
「隣に住んでいたんだが覚えているかね?しかしあのやんちゃ坊主がもう大人か。親父さんの若い頃にそっくりだ……一緒に奉公にいった妹ちゃんはどうした?元気か?」
「ああ、隣のおじさんですか!スズならこの通り、元気にやっていますよ」
クロムがスズちゃんに前に出るよう促す。スズちゃんは少し躊躇ったようだが、すぐに笑顔で前に出る。
「お久しぶりです、おじさま!私達のことを覚えてて下さってありがとうございます」
そういうが早いか僕の元まで戻ってきた。クロムとツムジさん、おじさんはそのまま世間話に移ったようだった。いつものスズちゃんらしくないので少し離れた所でラタン姉といったいどうしたのか尋ねる。スズちゃんは、おじさんの方を気がつかれないように睨んだようだった。
「あいつの事忘れるわけがないです。あの男は、私達がツムジさんに使用人として拾われる事になった時に真っ先に家の物をかっぱらっていった奴です。自分が何をしたのか覚えているんだったらよくもまあぬけぬけと元気かどうか聞けますね……」
そう言われておじさんの方を見る。見てくれは気の良さそうなどこにでもいるおじさんのように見えた。今のことをクロムが知っているのかスズちゃんに尋ねると、お兄ちゃんの右手をみてくださいと言われる。笑顔で取り繕ってはいるが、その右手は強く握り固められていた。
「お兄ちゃんも内心怒っています。怒っていますがああやって世間話ができる。私はお兄ちゃんほど大人になれないので会話を切り上げたってだけです」
そう言いながらスズちゃんの手が震えていた。それは怒りからなのか、はたまた当時何もできなかった無力からなのか……不安と怒りを取り除こうと、その手を僕の手で握ってあげる。ん、思ったよりも小さい手。
震えが何故か大きくなったのでどうしたのかと顔を上げるとスズちゃんはこちらをみて口をパクパクさせていた。大丈夫?と顔を近づけると耳まで赤くなっていく。
「……今だけ、ほんの少しだけ感謝です」
スズちゃんが声を絞り出してそう呟く。うん?聞いた限りだとロクでもなさそうだが、いったい何を感謝するんだろうか。そんな様子を見ながらラタン姉は
「皆自分が生きるだけで必死なんですよ」
としめたのだった。
話が終わったのかクロム達がこちらに来る。
「子供が行方不明になる前……昨日の昼頃らしいが若い女が1人、馬車に乗ってやってきたそうだ。どうも、その女の姿も見当たらないらしいことから人攫いの可能性が高いみたいだ。皆も気をつけるんだぞ」
ツムジさんにそう言われる。行方不明の子の名前を教えて貰えばMAPから拾えるかと思い、ツムジさんから教えて貰ったが遠くにいったのかもう手遅れなのか見つからなかった。
「うーむ……一晩ここでと思ったが、昨日の今日だ。現状余所者に対して今あまり良い印象を持ってないみたいだからな。クロム達には悪いが、墓参りを済ませたらすぐにでも出ようと思う」
それが、僕達が出した結論であった。手早く済ませてきます、とクロムがスズちゃんを連れて墓の方まで行ったのを見届ける。
待っている間馬車の近くでたむろしていると、近くにあった家から小さな子がこちらを覗いているのに気がついた。軽く手を振ると近くに寄って来る。
「おにーさんたちたびのひと?きのうのおねーさんのおともだち?」
「うーん、ごめんね。その人の特徴がわからないからなんとも言えないなぁ」
そう返すとその子は昨日きた人がどんな人だったのかを教えてくれる。その子の説明を要約してみる。
綺麗で陽気な女の人が馬車でやってきた。来た方の道からすると多分町の方からだと思う。この村に続く道はスフェンか森に続いているのでどうやらスフェンから来た人らしい。
その人はお菓子を配ってくれた。甘くて美味しいお菓子だったそうだ。それから悪い子いらない子いたらついておいでと歌いながら村を歩いていたと言う。何を言っているかはわからなかったがとりあえずついていけばもっと貰えるかもと思いついて行こうとしたが、1番上のお兄ちゃんが理解したのかあの人は危ないから行くなと止められたという。
そこから先は家に入ったから、どこに行ったかとかどうなったかはわからないらしい。行方不明になった子の名前を聞いてみると村の有力者の子で、いばりちらしている意地悪な男の子だと言う。
……これは、歌詞の内容からしても連れていかれたとみて間違いないな。しかし子供にお菓子、か。ふと頭に嫌な考えが浮かぶが、まさかそんなわけないだろうと隅に押しやる。
丁度クロム達が戻って来たので僕達は村を後にするのだった。