アムストル観光
アムストル最終日です
ニニさんに勧められたところを見て回ることにする。はじめにグミさんの屋敷の裏庭の辺りにいくと、そこは見事な薔薇園だった。
中を覗いているとグミさんとセラーノさんが仲良く花を眺めてあれこれと話している姿が見える。声をかけようかと思ったが、2人の邪魔をしてはいけないとラタン姉に止められた。2人のそばに控えていた山羊頭の使用人さんがこちらに気がついたのか近寄ってくる。
「先日はありがとうございました。グミ様の頭痛の種が1つ解消されました。先日までは苦い顔で頭を抱えていらしたのに今ではあのように笑顔で、セラーノ様と仲睦まじく……」
「いえ、結局僕達は何もできてないですし……」
「そんなことはありません。ご存知かと思いますが、セラーノ様はおおらかな方。自分が被害に遭われたにもかかわらずカシス様の事をグミ様に伝えなかったかもしれません。それが心のわだかまりとなり2人の間がギクシャクした可能性も大いにあるのです」
セラーノさんならあり得てしまう。隠し事、というよりは優しい沈黙をするのがセラーノさんだ。もし聞かれたとしても、軽く触れて済んだことですと笑ってごまかしてしまう姿が想像できた。そして、カシスさん……女剣士さんを放置しておけば今日もまたどこかで諍いが起きて、グミさんが頭を抱えていたかもしれない。
改めて2人を見ると、会話が弾んでいるのだろう、楽しそうな笑い声が。その声から取り繕いなどではなく心から笑っているのがわかる。
「ああ見えて、グミ様は毎日朝から晩まで町の皆が笑顔でいられるようにと激務に追われている身でして……セラーノ様とのひと時はグミ様の癒しの時間なのです」
確かに、代表であるグミさんの頑張りがなければ、3つの国に囲まれているこの町はここまで平穏にはいられないだろう。
「あの、お二人はどういった関係なのでしょうか?」
好奇心が抑えられなかったのかスズちゃんが使用人さんに尋ねると、使用人さんは笑う。
「以前、影を立ててグミ様とお忍びでドゥーチェ帝国までいったことがあるのですが、帰り際に悪漢に襲われましてな……その時に助けて下さったのがセラーノ様なのです。それ以来の付き合いでございますな」
「では、グミさんってセラーノさんのこと……」
「はっは、どうやらこちらのお嬢様はお年頃のようでございますな。使用人たる私の口からはハッキリとは言えませんが、今の関係は見たままの関係でございましょう?」
眺める2人の仲むつまじさには入り込む隙はなさそうだった。イブキさんにいい人がと思ったけれど既に先約がいた、ということか。こればかりは仕方がないことだろう。イブキさんにはそのうちいい人が見つかるさ。
敷地外からとはいえ薔薇園を眺め終えた後、次に祠まで行く。小さな祠だが町の人から余程大事にされているのか綺麗に片付けられており、新鮮な花や果物などが備えられていた。祠の中を覗いているとあっとクロムが声を上げ、中にいた町の女の子にお礼を言っている。どうやら、昨日果物をいただいた人らしい。町の女の子も驚いているようで、
「この祠に、昨日の方にもう一度会えたらなと願ったんです。そしたら本当に出会えるなんて……御利益ってすごい」
とのことだった。会いたい理由は分からないが、クロムにもう一度会いたかったと願った途端に僕達が来たものだからとても驚いたとのことだった。クロムとその人は名前を教えあったようだ。明日ここを出ると伝えるとその人は悲しそうな顔をするが、またいつか来ますとクロムが言うと嬉しそうな顔になる。名残惜しそうに握手をしてその人は帰っていった。
町を歩いているとカシスさんを見かけた。おじいさんと一緒に道に散らばっている果実を集めているようだったので手伝う。どうやらおじいさんが果実の入った袋を落としてしまったところ、カシスさんがやってきて拾うのを手伝っていたらしい。
無事全部拾い終えたらおじいさんは何度もお礼を言っていくつか果物を渡して去っていった。
「ん、よく見たら昨日グミッちの家にいた子達ではないか。手伝ってくれてありがとう」
カシスさんはどうやら僕達に今まで気がついていなかったらしい。今は何をしているのか話を聞いてみると困った人がいないか町の中を自発的にパトロールしているらしい。
「昨日までのような誰かに迷惑をかけるような事はしないよう心がけているのだ。あからさまに困っている人を見かけたら、だな」
これもまた正義のためだとカシスさんが言う。弱者を守り助けるのがカシスの言う所の正義らしい。頑張って下さいと伝えると、困ったことがあったら駆けつけるからと言ってパトロールに戻っていった。
夕方、勧められたスポットにいってみる。海を挟んで遠くにうっすらと見える半島へと沈んでいく夕日はとても美しかった。
この町をすっかり堪能したところで食事を食べて宿に戻る。建物に入ると食堂は未だに活気で溢れているようだった。と言うよりも朝よりも人が多い。余程、ニニさんトトさん夫婦は皆から愛されているのだろう。チラッと覗いてから部屋に帰り、明日に備えて早く寝ることにした。
早朝、旅支度をして宿の受付まで降りる。イブキさんに挨拶しようかと思ったが既に部屋にはおらず、荷物もなかったらしい。MAPに映る時と映らない時があるからどこにいるかも読めないしもうアムストルの町を出たのかもしれなかった。一言くらいくれてもいいのに、ちょっと残念だな。
受付にはくたびれた感じのトトさんが出立する僕達の事を待っていた。アムストルの町は良いところだった。クロムの約束もあることだし、いつかまた訪れたいな。そう思ってトトさんにお礼を言い、馬車を受け取り宿を出る。
町の入り口には目に大きな隈を作ったイブキさんの姿があった。その腕の中には皆が言っていた本が入っていると思わしき袋があり、ギュッと抱きしめている。
「や!欲しい物も手に入ったから私もスフェンに帰ることにしたの!」
それならと、僕達はイブキさんと一緒にスフェンまで帰ることになったのだった。
……疲れてはいるようだがいつもよりもよっぽど生き生きとしているように見えるのに、MAPには一向にイブキさんを示すマーカーが出てこないのが少し気になった。
次回久々にあの人が?