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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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アムストルでのお買い物

「あうー、なんか無駄に疲れたような気がします……」


 ラタン姉がダラけたような感じでそういう。その様子はいつものもののように思えた。そうだねと相槌を返すとやっぱり皆疲れましたよねー?とダルんとした顔で続けた。うん、ラタン姉はラタン姉だ。


「この後はどうしましょうか?予定通り明後日旅立つならお買い物しないとですね」


「そうだな、スズ。何が必要かは大体リストアップしてあるし私と手分けして買うとしようか」


 クロムとスズちゃんが次の行動に向けての打ち合わせをしている。こちらもいつも通りのスズちゃんだな。2人がいつも通りに戻ってくれたと少し安心する。


 買い物なら、とこの町の地図を広げながらイブキさんにいい商店がないかと尋ねると、指をさしながらいくつか候補をあげてくれた。そこを丸で囲って地図を複製する。


「組み分けはどうしたい?いつもみたいに男女にしておくかい?」


 クロムがそう尋ねてくると、両サイドから掴まれる。右手を見ると腕にがっしりと抱きつくようにスズちゃんが、左手を見るとキュッと指先だけを照れた様子で遠慮がちに握っているラタン姉がそれぞれいた。……元どおり、あれー?


「それじゃクロムとは私が行くことにすれば良いわね?じゃ、また後でねー?」


 黙って成り行きを見ていたイブキさんは2人の様子を見届けるとガシッとクロムの襟を掴んで僕達から離れていってしまった。クロムがやや恨めしそうな顔でこちらを見ているが許してくれ、僕は現状把握に手一杯でどうにもできない。


「こちらのお店が近いです!」


 とまるでクロムのことを気にしていないスズちゃんに右手を引かれ、僕達は買い物を開始したのであった。


 保存の効く食べ物や馬に食べさせる飼葉、清潔な布などを買っていく。分担したこちらの分は粗方買い終えたので2人に連れられてゆっくりと街並みを見て回る。


「こうしているとなんだかスフェンの町での初めての買い物を思い出すなぁ」


 あの時もこの顔触れであった。もちろん町並みは全然違うし僕達も大きくなったという差はあるが、なんだか懐かしく感じた。


「キルヴィ、次はどこに行きます?どこにだってついて行きますよ」


「キルヴィ様、あっちの雑貨屋さん面白そうです、行ってみましょう!」


 この時間が愛おしい。とても楽しい時間だ。雑貨屋さんで2人に小さな髪飾りを買ってあげると両方から抱きしめられた。町中でされたので少し恥ずかしい。さて、そろそろ宿に戻ろうかと行ったときにスズちゃんが話したいことがあるといい、ラタン姉が聞いてあげてください、と少し寂しそうにしながら僕にそう言った。


 話を聞くことにしたが、いざとなるとスズちゃんはなかなか言い出せないみたいで視線をあちこちに飛ばした後、意を決してこちらをみてくる。


「キルヴィ様、私はキルヴィ様が好きです」


 少し震えながら、そして顔を真っ赤にしながらスズちゃんがそう言う。


「ありがとう、僕もスズちゃんのこと好きだよ」


 スズちゃんはその言葉にパッと顔を上げた。ラタン姉が辛そうに胸元を抑えたように見えた。


「ラタン姉も、クロムも好きだ。ツムジさんもヒカタさんもイブキさんもナギさんも……皆、みんな大好きだ」


「「へっ?」」


 そう続けると2人はぽかんとした顔になったかと思うと、次の瞬間には顔を合わせて笑いあっていた。なんだかよくわからないが、2人とも笑顔が一番だ。


「あー、ラタンさんホッとした顔してる!やっぱり素直にならないとですよ?」


「そうですね、ボクもいざとなるとこう、胸が苦しくなったのです。素直になるとしましょうか」


「でも、これじゃお預けですねラタンさん?」


「まだ、時期ではないってことなのです。焦らないで行きましょうかスズ」


 そうそう、ボクもキルヴィのこと好きなのですよとラタン姉に腕を掴まれる。スズちゃんも反対側の腕を掴んで、僕達は仲良く並んで宿に帰ったのだった。


 ◇クロム◇


 買うべきものは買った。今は私に付き合ってくれたイブキさんの買い物に付き添って本屋にいる所である。イブキさんは気になる本があったのか食い入るように本を眺めている。


 2人きりになったことでてっきりまた例のあれが発症するのかと思ったが、そんな様子もなくごくごく普通の、気のいいお姉さんといった感じだ。


 手持ち無沙汰にしていると、この町の娘だろうか?兎のライカンスの子に「あ、あの」と声をかけられる。どうしましたか?と尋ねると顔を真っ赤にする。


「旅の方ですよね?良かったらこれをどうぞ」


 と小さな袋を手渡された。中を覗くと美味しそうな果物が入っている。


「ありがとう、でもどうしてですか?」


 ニコッと微笑みながらそう尋ねると、その子はしどろもどろになる。


「ま、町の風習なのです!そう、気になった旅人さんの安全を祈るために果物を渡すっていう風習!」


 いうが早いかその子は走り去っていってしまった。それにしても風習か。いく先々で町の女の子に風習としてこうして何かをもらっているが随分と流行っているらしい。とはいえ、物を貰えるのはありがたい。……今の子、可愛かったなあ。


 その時イブキさんがふらりと出てきた。手には袋を持っている。どうやら迷った末に買うことにしたらしい。お待たせ、と言った後に少し遠い目をしながらイブキさんは


「望んでいたものがやっと、みつかったんだ」


 と言った。その声に少し背筋が寒くなったのは気のせいだろうか。少しの不安とともに私達は宿に戻るのであった。

おや…?

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