俺と夏とベルゼブブ
六畳一間、俺はいつも戦争をしている。
風を切り眼前に迫る敵機。
これでもう何体目だろうか。
終わることのない戦いだ。
屍の山は嵩みを増すばかりで、俺の中の虐殺器官は正常に作動する。
夏の暑さと気怠さに、神経までやられそうな日の午後、
俺は台所に悪魔の大王を見た。
ミルトンの園では正しく賢王だったベルゼビュートはしかし、
豚の生首のようで、実際は昨晩に調理しそこねた牛肉の残りだった。
疾く小さく、数多く犇めく無数の黒い蟲たち。
生理的嫌悪感から人生を辞めたくなる。
しかし、そんな驚異的大自然が突如敷地内に発生しても、俺は動じない。
それは麗しい義務教育のタワモノ、文明化された一個人としてのプライド。
文化的に健康で最低な生活を送る人間として、蟲ごときに負けるわけにはいかなかった。
王の下僕は空を翔ぶ。
フライするだけにフライと名乗る。
ダジャレみたいに軽い存在だが、その速度、野生から遥か彼方、エアコンの下ベッドで惰眠を貪る人間には追いきれるものではない。
が、俺も伊達に四半世紀生きたわけではない。
秘技両手塵紙圧し潰しの術や、必殺コンビニデカッタコバエゲキタイツールを駆使して応戦していく。
これは俺と、蠅たちの、仁義無き戦いの記録。
終わりなき戦争の軌跡。
続かない。