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27歳の引っ越し  作者: 白石 玲
2/5

15日 昼から夜の物語

   27歳の引っ越し   ―――5月15日(金)昼から夜―――


「さて、これで全部かな?」

 車2台で運んできたダンボールをすべて部屋に運び込み、段ボールだらけの部屋を見回す。

「じゃあ、先戻るぞ」

「うん、ありがとう。予約19時だから、お父さんとお母さんにもうそう言ってあるけど」

「おう、じゃあ、店でな」

 兄と涼子さんは先に家に戻ってもらい、あとで夕食のときに合流することにした。

「少し片付けないと、今夜寝ることすらできないね」

「寝ることはできるよ。布団一組くらいひくスペースあるでしょ?」

「彰が大きいから一組じゃ狭くて寝れないわよ」

 とりあえずそれぞれの段ボールをあるべき場所に運ぶ。キッチンの棚に食器を入れて、洋服をクローゼットにしまう。

「ねえ、彰の荷物は?」

「うん?ここにあるけど」

 そう言った彰の足元にはたった2箱の段ボール。

「え?他のは?」

「ないよ。これで全部」

 段ボールの1箱は洋服でもう1箱は趣味のものが入っていた。

「本当に荷物少ないのね」

「うん、だからこの部屋は全部結衣ちゃんの好きにしていいからね。俺は結衣ちゃんさえ傍にいてくれたらそれだけで充分だから」

 そう言って彰が後ろから抱きしめてくるけど、私はそっとその腕をはずした。

「・・・ありがとう」

「つれないな・・・まあいいや。今日から毎日一緒にいられるんだからね」

 にこりと微笑む彰はやっぱり素敵だけど、私はそんな恥ずかしいことを平気な顔して言う彰にやっぱり慣れなくて、対応は少しそっけなくなってしまう。

「彰、今気づいたけど、シャンプーすらないわ」

「じゃあ、少し早めに出て、ご飯前に日用品の買い物しようか?」


 夕食に予約した店は、よく家族の記念日にいくレストラン。

「今日は結衣がおごってくれるって言うからな」

 お父さんはにこりと上機嫌でビールを頼むらしい。このお店はワインのほうが似合うのに。兄にじゃんけんで負けた涼子さんが帰りの運転担当らしく酒豪の家族は飲む気満々だ。

「藤堂くんは?」

「あ、俺は・・・」

「帰りの運転は結衣にさせるといいよ」

 私だって別に飲めないわけじゃない。むしろ、父に似て酒豪な方だと思う。

「あ、いえ、俺、全然飲めないんで。お相手できなくてすみません」

 そう、彰は下戸なのだ。付き合っていたころ飲み屋に行っても『帰りに結衣ちゃんを送っていきたいから』と毎回ウーロン茶しか飲まなかった。私は彰がお酒を飲んでいるという姿を見たことはない。本人曰く、実際飲むと大変なことになる、らしい。

「飲みそうなのにな」

「よく言われます。さあ、結衣ちゃんはワイン好きだよね?」

 彰がドリンクメニューを私に差し出す。

「うーん、今日はやめとこうかな・・・」

「気にしないで飲んで?結衣ちゃんが酔いつぶれても、俺、抱いて帰ってあげる」

「それはどうもありがと」

 その彰の言葉に甘えて、私はワインで乾杯に参加した。




・・・夜の会食に続く




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