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27歳の引っ越し  作者: 白石 玲
1/5

15日 朝から昼の物語

   27歳の引っ越し   ―――5月15日(金)朝から昼―――


『結衣ちゃんと一緒に住もうと思って』


 あなたがそんなことを考えてくれていたなんて、私はちっとも知らなかったの。


『ごめん、結衣ちゃん。終わり次第すぐに行くから』

 昨日の夜になって急にそんな連絡をよこした彰。

「いいよ。無理しないで」

『絶対すぐ行くよ。昼過ぎには着くと思うから』

「兄が来るって言ってたから、手伝ってくれると思うから平気」

『・・・結衣ちゃんは俺に会いたくないの?』

 急な夜勤交代で無理をしているであろう彰を気遣って言えば、今度はそんな子供のような言葉が返ってくる。

「そんなわけないでしょ。それに、いま焦って会わなくっても、明日から毎日会うのよ?」

『じゃあ、行ってもいいね』

「ちょ、彰・・・」

『じゃあ、そろそろ仕事いかなきゃ。おやすみ、ゆっくりやすんでね』

 なんて言って勝手に電話は切れた。



「結衣、このダンボールこっち積むぞ」

「うん、お願い」

「結衣ちゃん、箱閉めちゃうけどいい?」

「はい、お願いします」

 急すぎる私と彰の引っ越し計画はゴールデンウィークに阻まれ、結局この週末までもつれ込んだ。予定通りに4月30日に社員寮を追い出された彰は一時実家に避難し、私の移動に合わせて今日から入居することになった。

世間とずれた連休で帰省してきた兄と、来月兄嫁になる予定の義姉に手伝ってもらって引っ越し準備をしている。

「そろそろお昼よ。ちょっと休憩したら?」

 母に呼ばれて、一時作業は中断。

「涼子さんせっかく来てくれたのに、ごめんなさいね」

「いえいえ、家族の仲間入りみたいで嬉しいです」

 父も合わせて家族5人でパスタを食べる。結婚の打ち合わせに来たはずの兄も義姉も私の引っ越しの手伝いでそれどころではない。

「夜は私のおごりでみんなに感謝を込めてどこかに食べにいこ」

 家族に迷惑をかけまくっている私の、この家に住んでいる間の最後の家族サービスだ。

「せっかくなら、藤堂君も呼んだらどうだ?」

 先日挨拶にやってきた彰を、父はなぜか大層気に入っている。私の兄・・・つまり、自分の息子とは全く正反対のおおらかさがいいポイントだったのだろうか?

引っ越しを手伝うといっていた彰は主任の体調不良で昨夜の夜勤を請け負い、今日は来ていない。

「でも夜勤明けだしな・・・」

 なんて言いながら、パスタを食べ終えて午後の作業を再開しようとした時だった。

「こんにちはー」

 何とも伸びやかな声が玄関に響き渡る。

「彰?」

「遅くなってすみません」

 少し息を乱してにこりと微笑んでいる。

「友達に車借りてたら遅くなっちゃって」

「お、じゃあ往復しなくて済むな」

「お久しぶりです」

 兄と一度か二度会ったことがあっただろうか。ふたりは薄いだろう記憶をたどって挨拶をしている。

「はじめまして、こんにちは」

「こんにちは。藤堂です。結衣ちゃん3人兄妹だったっけ?」

 涼子さんと私を見比べて瞬きしている。

「そいつは俺の嫁」

「結婚されたんですね」

「来月な」

 そんな話をしつつ、引っ越し準備は進む。小学3年生のときに引っ越して以来、ずっと住み続けてきたこの部屋にはあまりにも多くのものがあって、私は持っていくものをかなり厳選しなければならなかった。

「結衣、これ置いてけよ」

「ええー・・・」

 兄に突っ込まれているのは段ボール2箱にもなっている絵本。小さいころからのお気に入りの総集編(にしては多いんだけど)だから、できれば手放したくない。

「結衣ちゃんが持っていきたいものは全部持っていくんで」

 絵本を挟んで向かい合う私と兄の間から彰が段ボールを運び出す。

「一部屋結衣の物置になるぞ」

「いいですよ。俺、物ない人なんで」

 なんて彰は笑って絵本も全部積んでくれた。




・・・昼から夜に続く



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