8話
疲れたドン!~(*´ω`*)
―――何で何で何でっ!
綺羅びやかな王宮の一角。隅々まで掃除が行き届いている廊下を、一人の少女が嵐のように疾走する。
短く切り揃えられた金髪を、窓から入り込んだ一陣の風がたなびかせる。そして、少女はそれが鬱陶しいと言わんばかり速度をまた上げた。
走っているうちに目的の場所の扉が見えた。少女はそのままの勢いで扉を蹴り開ける。
「父様!何故私が!」
不満を露にし、声を大にして叫ぶ。部屋の中で仕事をしていた父様は、体をビクッと震わせ、手を止めて恐る恐るこちらを見る。
「な、なんだいきなり」
「何故私が!学園に通うことになるんですか!」
「し、仕方ない。皆と話し合ったんだ。母さんや兄弟達も学園に通う側だったんだ。家族でただ一人、皆と違う意見を出して「何あいつ」みたいな目で見られたんだよ」
「そ、それは御愁傷様です」
燃え尽きたように椅子に深く座り込んだ父様を、気の毒に思ってしまった。けど――
「前から私は騎士になるって言っていたでしょ!」
「そ、それなら騎士学園に通えば――」
「そんなことをしたら、教鞭の質が落ちます!しかも、父様達は騎士学園ではなく、魔法魔術学園の方を選びましたよね!」
元々騎士の修業は師匠の弟子の一対一で教えを乞うものだ。しかし、戦により騎士の数が減ってしまったため、少ない師匠(教員)で騎士を育てようと言う魂胆だ。
パット見長所だけにみえるが、当然短所もある。第一に師匠が弟子に付きっきりで教えることができない。第二に一部の者の向上心、意欲の低下。第三に騎士の質の低下があげられる。
もし、学園を卒業した騎士が、師匠に一対一で教えを受けた騎士に戦いを挑めば、恐らく20秒も経たないうちに前者が負ける。それほどまでに実力が違うのだ。
「この差が父様にはわかりますか?な・の・で、私は学園に通わずにフロズベルクに弟子入りします」
「だがな、もう試験の申請をしたんだ。で、なんだ。我の可愛い娘は、試験を受けたくても受けれない、王都に来たくてもこられない人々を愚弄するのか?」
「うぐっ」
「さあ、どうなんだ?」
王は席を立ち、さながら悪代官のように近づいてくる。少女はほんのりと涙ぐみ、言葉を紡ごうとする。
「も、」
「も?」
「もう父様なんて知らないんだからぁぁっ!!!」
少女は部屋に入ってきたときと同じように、嵐のように疾走して律儀に扉を閉めて部屋を去る。残された王は膝から崩れ落ち、ボソボソと呪詛のような消え入る声で呟く。
「む、娘に嫌わ、れた」
父様の呟きはむなしく部屋に木霊する。それから時間が経たないうちに扉が開けられた。一瞬、娘が帰ってきたと思ったが、あの子は拗ねたらとことん拗ねるタイプだからこんな早くに帰ってこないと思いながらも、淡い願いに賭け、扉の方へ視線を向ける。
やはりそこには娘はいなかった。変わりに青銀の甲冑を身につけた人物が気だるげにやって来た。
「さっきのは何ですか?すごくうるさかったのですが」
「聞いてくれるか!」
青銀の甲冑越しから肩を掴む。肩を掴まれた本人は鬱陶しそうに、手を振りほどく。
「で、何があったんですか?」
王は今まであった出来事を全て包み隠さず話した。話を終わると青銀の甲冑を身につけた人物はため息をつき、その眼差しからは王ではなくゴミクズを見る目だった。
「それは自業自得ですねぇ。どうしましょうか。もう帰ってこないかもしれませんよ?」
「そ、それは」
「全て自分が撒いた種なんですから、自分でなんとかしてください。私は知りませんから」
と、言い放ち踵をかえす。
「最後に、探さない方がいいかもしれませんよ?あの人のことですし最終的には帰ってくるはずですから」
扉に手をかけ、青銀の甲冑を身につけた人物は恭しく一礼する。
「失礼しました」
二度目の嵐が去った部屋の中は静寂に包まれていた。その部屋に一人残された王は、あの青銀の甲冑の人物の言うことを信じて、執務を再開した。
「あ、あいつに文句を言うの忘れた」
つい先程まで部屋にいた人物が、件の近衛騎士団長フロズベルクだったのだ。
***
春の日差しを浴びて、春の麗らかな風を感じる、植物になりたいとシリウスは思った。
それは何故?朝からどれだけ飯を作ればいいんだよ馬鹿野郎。
今まで押さえてきたツバキの食欲が爆発したのだ。そのせいで、朝から食料の買い出し、それも尋常じゃない量の。買い出しを済ませ家に帰ると腕が筋肉痛になるぐらい飯を作った。鍛練でもこんなことになったことはなかったはずなのに、食欲恐るべし。
そして、シリウスはツバキを満足させるために作りきったのだ。恐らく料理人が数十人にないと作りきれない量を一人で、たった一人で作りきったのだ。彼こそが真の料理人シリウス!!
そんな茶番は置いておいて、ただ今、疲れた体にむち打ち王都へ繰り出している。目的は試験の時に必要な筆記用具を揃えることだった。
今は商業区を歩いている。大通り沿いには立派な店が建ち並んでいて、活気がすごかった。大通りには人が溢れ、店の中はほぼ人で埋まっていて店員が忙しなく動いている。
「シー君どれがいいかな?」
かなり日が登り、また一段と活気づいた頃に目的の文房具屋に着いた。こじんまりとした店だった。店に入っても静かで、人も疎らにいるぐらい。繁盛しているのか?と思うほどだった。大通り沿いの店とこの店では恐らく売り上げは雲泥の差であろうと思った。
だが、この店は大通り沿いの店とは違い、清潔で商品が探しやすいようにされていた。
「これなんかどうだ?」
と、商品棚から今は主流の文房具、鉛筆を取り出した。現在、シリウス達はペンの棚の前にいる。シリウスは早急に決め終わったが、隣にいるシャロが中々決めてくれないのだ。
どうしてこうも、女性の買い物というのは時間がかかるのだろうか。たかが、鉛筆を買うぐらいで時間を浪費する意味がわからないと、心の中で思うシリウスだった。何故心の中で思うかって?それは、シャロに言ったら怒られるか、拗ねられるかのどっちかだからな。
「………」
「な、なんだ」
「なんでもない」
「あ、ああ」
プイッと顔を背けられた。わからない。全くもってわからない。本当に女心というものがわからない。そう思いながら、シャロの方を見ると一本の鉛筆を注視していた。
その鉛筆は白い花の模様が描かれていた。
「白が好きなんだな」
思ったことを口にした。シャロは白色のものを好む。それが何故だかわからないが、シャロの私物は大体白色だ。現に、今日着ている服も白のワンピースなのだ。
「うん、好き」
「どうして好きなんだ?」
「どんな色にも染まれるからかな」
「お、おぉ」
そんな会話をしながら、鉛筆を購入して店を出た。ちょうどお昼時だったので、何か食べに行こうと提案する。
「別にいいけど、ツバキちゃん達はどうするの?」
「家を出るときあの二人から、昼は大丈夫だから外で食べてこいって言われたんだ」
「そうなんだ。じゃあ食べに行こー」
二人は大通りに向かって歩き出した。
昼飯は昨日行った酒場で食べることになった。食べに行くといっても知っている店はこの酒場しかなかったし、この店の料理が美味しかったのだ。
酒場のある場所に向かう途中も、夜と比べ若干人が少ない。だがそれでも賑やかなのは確かだ。やはり、ここの区間は夜に人が多くなる区間なのだろう。
しばらく歩いたら、余程の大男じゃなければ潜れる大きな木製の扉が目印の酒場に着いた。大きな扉を開けると、ベルがチリンッと音を響かせる。そして、そのベルの音が合図かのように店員の挨拶が聞こえるはずだった。
何か店の中で揉めているようだ。酒場にいるほとんどの人が注目している場所に視線を向けると、筋肉質な体のそこらじゅうに傷がある厳つい大柄な男と、その大柄な男と比べれば明らかに小柄で、フードを目深に被っている男?女?どっちか判別できない人物が各々武器を手に持ち対峙していた。
明らかに酒場では見ることのない光景だった。
何があったのか、近くにいる人に話を聞くことにした。
「何かあったんですか?」
「あ、ああ、新しいお客さんかい?それなら店を変えた方がいい。見ての通りとんでもない喧嘩だ。あと何時間かしたらあいつらも飽きるはずだから」
「そうですか……他の店行くか」
話を聞き、まともにごはんを食べれなさそうなので、酒場を出ようとシャロに声をかける。
「何でシー君は助けてあげないの?」
真顔で本当に不思議そうに聞いてくる。
「あのままじゃ、あの子負けちゃうよ」
シャロは先程から死合を始めた二人を指差す。戦況は今は互角だが、恐らく大柄な男が勝つ。フードを被っている人物は弱いわけではない。騎士剣術?昔、師匠に少しだけ学んだ剣術を使っていた。
「騎士剣術だけならシー君より強い。けど―――」
シャロの言わんとすることがわかった。
「圧倒的な実戦経験の差、か」
フードを被っている人物は、実戦の剣術ではなく、あくまでも型にそった剣術。対する大柄な男は、剣術はやや劣るものの男の剣術は、明らかに型などない。実戦で確約された要所要所で最善の選択を編み出す剣術だった。
「うん、正解。で、シー君はそれでもあの子を見捨てるの?」
「えーと、うんまあ、助けるよ」
「それでこそシー君!」
その直後、戦況に変化が起きた。フードを被っている人物が大柄な男に押され始めたのだ。
「オラオラオラ、クタバレェ!」
大剣を大きく振りかぶる。隙が大きく避けやすい攻撃のはずなのに、フードを被っている人物は完全に避けることができなかった。
「!?お前、女か!?」
かわしそこねた斬撃が、フードを切り裂く。今まで見えなかった素顔が晒された。そこには、美しい金髪を短く切り揃えた、少女がいた。
「……」
「無言、肯定か。そういえば、ちょうど奴隷が欲しかったんだ」
大柄な男は、ニタァと下卑た笑みを浮かべ、フードを金髪の少女を舐め回すかのように、上から下まで眺める。
金髪の少女は、初めてこういう目で見られたのか、恐怖のあまり、体を震えさせている。剣を握る手が、ガクガクと震え、剣をまともに握れていない。
勝利を確信した男は、余裕綽々の様子で金髪の少女に一歩、また一歩近づく。
「ひっ!」
声にならない悲鳴をあげる。それを見たシリウスは、その光景にどこか嫌悪感を覚えた。
ドクンッ
何かおかしい。この光景見たことあるような。
ドクンッ
頭が痛い。体がおかしくなったのか?心臓の音が煩い。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク
心臓が早鐘を打つ。体が熱い。だんだんと、先程から感じていた嫌悪感がなくなった。その代わり、大切な人、最愛の人をこの世から奪われたのかもしれない。狂気のような復讐心を覚えた。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
そんな思考が頭を占める。全く身に覚えがないのに、復習という二文字が頭から出るのが、酷く恐ろしかった。そして、恐ろしい速度でシリウスを狂気とも呼べる復讐心が汚染していく。
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
「コロスッ!」
その言葉を放った瞬間、体に変化が起きた。あの白かった髪が黒に染まり始め、瞳は遥か昔、禁忌と呼ばれた紫色に染まり始める。
「シー君!」
今のシリウスはシャロの声が聞こえなかった。今、頭を占める復讐心が、外界の音をシャットアウトして、目の前の敵を殺すために全神経を集中させている。
「シー君!シー君ってば!」
腕をつかみ、何度声をかけてもいっこうに返事がない。返事がない代わりに、シリウスの口からは呪詛のような、復讐という感情がこもった言霊が漏れている。シャロは生まれて初めて、シリウスを怖いと思ってしまった。
恐怖のあまり、つかんでいた腕を離してしまった。
「コロ、スッ!!」
理性を失った獣のごとく、シリウスは声にならない声をあげて、獲物を、敵を狩ろうとする。
右手には、陽炎のように揺らめく、実体のない漆黒の刀をもって…………
今回、殴り書きだね。誤字脱字酷そう。誤字脱字の報告やおかしいところが有れば教えてください。
コメント返信ー(*’ω’ノノ゛☆パチパチ
長い間、コメントを放置していてすいませんでした。時間がなかったのと、その設定がまえは適当だったのが重なって返せませんでした。
Q魔法と魔術の違いはなんですか?
魔法とは、本来自然界で起こり得ないもののことをいいます。簡単な例を挙げれば、ライターや火起こしの道具がないのに火がつくことや、存在していない水を空中から産み出すとかです。
魔法の発動条件は、体内にある魔素というものを触媒として、意図的に超常現象を起こす。
対する魔術は、本来は自然界で起こり得るもののことをいいます。まあ、一部は自然界では絶対に起こり得ないものもありますが、大部分が自然界で起こり得るものです。
魔術の発動条件は、体外にある魔素を触媒として、天変地異を促進させること。
魔法と魔術の適性について。
魔法の適性は、体内に含まれる魔素の属性の濃さにより、使える属性が決まります。
例えば、体内の火属性の魔素がものすごく濃くて、他がものすごく薄ければ、その人は火属性しか使えないし、逆に全ての属性が使えるが、全ての属性の魔素が薄ければ弱い魔法しか使えない。いわば、器用貧乏ということだ。
ごく稀に、全ての属性を使え、その全ての属性の魔素がものすごく濃い人が現れる。その人は全ての属性を満遍なく使え、強い魔法を使える。
魔術の適性は、体外に含まれる魔素の適応能力の高さによって、使える属性が決まります。
例えば、体外の火属性の魔素の適応能力が高ければ、その人は火属性の魔術を使えます。そして、魔術は魔法と違い、多くの人が複数の適性を持っています。魔法では一万人に一人の割合が魔術では百人に一人の割合で多属性が使える。
まあ、魔術は魔法と一緒で、全ての属性が使える人はごく稀にしかいない。
字足らずなところもありますが御了承ください。