7話
今日は長めだワンッ(U^ω^)Uワンワン
格子から外を覗く。その眼下に広がる光景は圧巻そのものだった。
強大な石が何段にも積み上げられ一つの壁を築きあげられている。壁の上には外敵に備えるために、移動式大砲や投石車が所々に鎮座している。
そのなかで一際目を引くのは巨大な門。門には大きな傷から小さな傷が所々にあり、未だにあの頃の戦の生々しさを残している。
「これが、王都」
「すごいねー」
共に外を除いていたシャロが感嘆の声をあげる。それもそのはず、今までシャロは家以外の人工物を見たことがないのだ。だから、初めて見るものへの関心や興味が人一倍あるのだろう。
「お主等、そんなものを見ていて楽しいのか?儂には全く理解できん」
盛り上がる俺達とは対照的にツバキは外の光景に興味がないらしい。竜神もといツバキの感性はやはり人と違うのだろう。胡座をかいて気だるげそうにしている。
「ツバキちゃん、その年で枯れちゃダメー」
竜神にその年って、取り合えずツバキが枯れているのは確かだと思う。ツバキが興味を示すものといったら食べ物だけ、それ以外のものは見向きもしない。
それと話が変わるが、シャロのツバキの呼び方が『ツバキちゃん』になった。ツバキは呼び捨てでもいいと言ったが呼び捨てはシャロの性に合わなかったようだ。その後、色々な呼び方が出たが、どれも一癖二癖あったので妥協した結果、今の呼び方になった。
「なぁ、シリウス」
「急にどうした?」
「一つ聞いておきたいことがあってのお。王都には旨いものはあるのか?」
何を聞いてきたと思ったら、さいですか。まぁ、予想はしていたけどな。ツバキが関心を示すのは食べ物だけってことはわかってたよ。
「多分、旨いものは沢山あると思うぞ。少なくとも俺の飯よりは旨いはず」
「本当かっ!!」
水色の長い髪が一瞬揺れたかと思えば、いつの間にか目の前にいた。あまりにもツバキが勢いよく迫ってきたせいで、今ツバキと俺は密着状態にある。
ツバキからは女の子特有の石鹸の香りやそれとは少し違うが、心地よい春のような香りが鼻孔をくすぐる。
癖になるような匂いに頬を緩めそうになる。が、後ろからの冷ややかな視線で失いかけていた正気を取り戻した。
「ツバキちゃんーそろそろ離れなさいー!私でもそんなうらや――ゴホンッ。恥ずかしいことはしてないよ」
今羨ましいって言って途中で変えたよな。しかも恥ずかしいことはしていないっていているけど、今ツバキがしたことよりももっと色々やってるくせに何言ってんだか。
ツバキも同じようなことを思ったのか、冷ややかな口調で話す。
「お主はこれ以上のことしておるじゃろ」
「うぐっ」
ごもっとも。ツバキの言っていることはすべて事実。シャロはぐうの音も出ないようだ。
「お客さん、もうつきますよ」
外から声がした。その声は途中の町で拾った馬車の業者のものだった。
「わかりました。おい、師匠。師匠起きろ、後少しで王都だぞ」
「…んっ?王都?…………ウプッ。何か……入れ物を」
この道中で師匠の弱点が発覚した。その弱点とは、乗り物酔い。それも重度の。師匠は動いてもない馬車に乗るだけで吐き気を訴えてくるほどなのだ。
師匠は自分だけ降りて、歩いてついていくと言っていたが、夜は盗賊や魔物が出るし危険だ(盗賊と魔物が)。今まである程度の威厳は保っていた師匠が乗り物酔いでグロッキーになっているのがあまりにも可哀想なので、王都につくまでの間気絶させとくことにした。
えっ?それ以外の方法はなかったのだって?そりゃああったよ。師匠を竜の姿にするって方法が。けどな、それしたら一躍有名人。俺としては静かに細々と暮らしたいんだ。だから却下した。
「師匠頑張れ。後少しだ」
「もう……無理……」
「師匠ぉぉぉぉ」
「ふぅーシャバの空気は最高だぜー」
馬車を降りるなり師匠はハイテンションでそう叫んだ。通行人の人々は突然聞こえた大声の方に視線を向ける。そして視線を向けた全員、老若男女問わず頬を赤らめる。
その直後、大多数の視線が俺に集中した。怨嗟や嫉妬、狂気のような視線が俺に突き刺さる。視線で人を殺せるとしたら、今俺は身体中穴だらけの死体になっていることだろう。
「早く行くぞ」
「うん」
流石に居心地が悪くなってきた。いち早くここから離れようと、足早にその場を後にした。
「旨い、旨いのじゃー」
屋台が立ち並ぶ区間で、ツバキは両手に焼き鳥を持ち、一心不乱に焼き鳥を食している。
そのツバキの食べっぷりを見た屋台の店主がサービスしてくれた。
「お嬢ちゃん中々の食べっぷりだねぇ。ほれ、サービスだ」
店主の手には焼き鳥が握られている。ツバキは最初自分に差し出されたものだとは思わなかった。だが、店主の態度や食欲に負けその焼き鳥を受け取った。
「ありがとうなのじゃ!」
満面の笑みを浮かべお礼を述べた。ツバキの笑顔はその場とは不似合いなほど、酷く輝いていた。
店主は照れたのかポリポリと頬をかいている。
「働け!堕店主!」
屋台の中から恰幅のよい女性が現れた。そして女性は店主にかつを贈る。
「母ちゃん、働いているだろ」
「いや、働いていないね!若い子、それもお嬢ちゃんを見て鼻の下を伸ばしているなんてね。これはノルマを増やさないとね」
「いやぁぁぁぁぁ」
店主の悲鳴が響き渡る。だが、その悲鳴とは裏腹に店主の表情は満足しているようだった。
そろそろ日が傾こうとしている時間に目的の場所へ向かおうとしていた。昼過ぎに王都来てから何時間たったか忘れたが、それまでの間ずっと屋台の立ち並ぶ区間で時間を潰していた。
シリウス御一行は屋台の立ち並ぶ区間での観光を切り上げ目的の場所、今日から宿となる場所へ移動する。先頭が唯一場所を知っている師匠、その後ろにツバキとシャロ。最後尾がシリウスとなっている。
シャロとシリウスは見るものすべてが珍しいのか、世話しなくキョロキョロしている。
「んっ?」
何か違和感があった。それは本の些細な違和感。誰かがいない。周りを見るのを一旦やめ、最後尾からみんなを見る。シャロがいなかった。急いで師匠を呼び止め、辺りを見渡す。
シャロ、シャロ、シャロはどこに。
辺りを見渡しても、見知らぬ人ばかり。更に夜が近づいていることもあって、昼とは比べ物にならないほど喧騒に包まれている。
やはり人を探すのは単独の方がやり易いので、師匠とツバキには近くにあった、落ち着いた雰囲気のカフェで待ってもらうことにした。
師匠達と別行動をとったシリウスは、移動しながら辺りを見渡す。本当に見当たらない。
………もしかして。
いいや、そんなことは絶対ない。
一瞬思い浮かんだ、最悪の事態。シャロはそんなへまはしないと自分に言い聞かせる。だが、要らぬ想像が頭のなかを駆け巡る。段々と思い浮かんだ事態が鬱陶しくなってきた。シリウスはその想像を振り落とすかのように、頭を左右に激しくふった。
何かがなくなり頭が軽くなったような気がする。そしてシャロを探すためにまた歩き出す。
大通りをある程度見回ったがシャロはいなかった。次にシリウスは少し裏路地に入ったところを探すことにした。
裏路地は王都の住民達の家がある。多くの人が裏路地といえば暗いイメージと思うだろう、だが、王都の裏路地は明るく人が疎らだがいた。
そんななか、どことなく他の民家とは違う雰囲気の家があった。家の前には看板がある。どうやら店をやっているようだ。だが、今は店に行っている暇はないと、そう思っていても何故か目が離せない。仕方なくシリウスはその店に入ることにした。
「失礼します………シャロっ!?」
「えっ!?シー君」
シャロはいた。あの最悪の事態はなかった。よかった。シリウスは安堵した。そして、シリウスを物凄く心配させた女性のもとへ向かい、抱き締める。
「えっ?えっ?ぇぇええ!?」
突然のことにシャロは混乱しているようだ。だが、こっちの方が混乱したし心配した。あの想像を思い出し、シャロが痛くない程度に力を込め、耳元で諭すように呟く。
「俺をあんまり心配させんな。シャロがいなくなったら、俺の生きる価値がなくなる。シャロはずっと俺の側にいておけ」
「ふぇぇぇぇ」
プロポーズとも聞き取れる言葉を聞いたシャロは、顔を真っ赤にして、壊れた人形のように口をパクパクさせている。
「大の大人が、か弱いおなごに何を迫っておる」
突然声がした。声がした方に顔を向けると、そこには杖をついているご老人がいた。恐らく、このご老人がこの店の店主なのだろう。
「失礼しました、ご老人。私の名前はシリウス。この娘の家族みたいなものです」
「これはご丁寧に、私の名前はシバ。ここで店を経営している、しがない細工師じゃ」
細工師とは、主にアクセサリーや小物をつくる職人のことだ。現にこの店の中には、美しいアクセサリーが数多く存在していた。
「ところでシャロは何でここにいるんだ?」
ここは大通りから見えにくく、裏路地に入っても普通の民家とは外見が変わらないため見つけるのは困難だ。シリウスも偶然見つけたようなものだ。ならシャロはどうやってこの店を見つけたのか。それが気になった。
「えーとね、ここから懐かしい匂いがしたの」
そう言って、シャロはあるアクセサリーに指を指す。そのアクセサリーは白い何かの花の髪飾りのようだ。白い花のアクセサリーは、本物の花のような見た目で、花弁の一枚一枚が本物であるかのよう。
しかし、残念ながらシリウスはこの花の名前は知らなかった。
「雪月花」
シバがボソッと呟いた。聞いたことのない名前だった。
「遥か東方の雪山の山頂に、年に一度だけ花を咲かせる花。東方の神、狗神が愛するものへ贈った花と言われている」
その雪月花と言われる花は、シャロに縁があるものだったようだ。その話を聞いたシャロは、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「そうなんだ、お祖父ちゃんの……へぇ」
「やはり、お主は狗神の末裔か」
シバが確信といった態度でシャロに問う。シャロは最初、何でわかったの?って顔をしていたが、懐かしさのあまり思わず狗神の事をお祖父ちゃんと呼んでいたことを思い出したようだ。
「うん、そうだよ。けど、何でわかったの?」
「それはお主の金の眼とその銀髪じゃ。そのセットは狗神の末裔、銀狼族しかいない」
元々、この正反対の色は珍しいと思っていたが、まさか狗神の末裔の特徴とは思ってもいなかった。
「シバさん、それはいくらですか?」
シャロを見ていて、思わず言ってしまった。
「なんじゃ急に」
「俺がそれを買おうかと」
「済まない、これは非売品じゃ」
「そう、ですか」
雪月花の髪飾りが非売品と聞いて、シャロは悲しそうな顔をする。それもうそうだ。懐かしくて、それもシャロに縁があるものなのだ。落胆した気持ちを隠せずにいたそのときに、シバがシャロに話しかけた。
「これは普通の人には非売品じゃ」
雪月花の髪飾りに指を指す。
「これはのぉ、昔お主と同じ銀狼族からの依頼で作ったものなんじゃ。だが、この髪飾りが出来上がっても依頼人はいっこうに取りに来なかったんじゃ。流石に自分の作ったものには愛着があるから捨てられんかった。そして今日、あの依頼人と同じ銀狼族のおなごがきた。依頼人はお主にそっくりだった」
「えっ?それって……」
「これはお主のものじゃ。受け取れ」
シバから雪月花の髪飾りが差し出される。それを受け取ったシャロは泣いていた。偶々入った店で、懐かしい匂いがする髪飾りを見つけて、しかもそれがシャロのお母さんが依頼した髪飾り。これは偶然ではないはずだ。シャロとこの髪飾りはこう出会う運命だったのだ。
「シー君」
「なんだ?」
「着けて」
シャロに差し出された、髪飾りを手に取り、髪に着けてやる。
「どう?」
髪飾りを着けた方の頭を前に出し、上目使いで聞いてくる。可愛い。すごく可愛い。
「可愛いぞ。その、今まで見た女性の中で一番だ」
「えへへ、ありがとう」
シャロは満面の笑みでお礼を述べた。
「…」
「どうしたの?」
反応しないシリウスの顔を下から覗きこんだ。
「―――ッ!?」
シャロの顔が近くにあって、思わず後ずさってしまった。シャロを見るとドキドキして顔が熱い。絶対今顔が真っ赤だ。今までこんなことなかったのに、何でだ?あの笑顔を見てからシャロを直視出来なくなった。
「シー君大丈夫?」
おずおずと聞いてくる。そんなに俺、挙動不審だったか?何はともあれ今日はシャロを直視出来そうにない。
「あ、ああ、大丈夫だ。それよりも早く師匠達のもとへ向かおう。みんな待ってる」
全神経を集中させてもこんな会話しかできなかった。いつもなら他愛のない会話なんか普通にしてたのに。
「うん、そうだね!おばあちゃんありがとう!」
「その髪飾りはちょっとやそっとじゃ壊れないからの。もし壊れたらまたおいで」
「そうするね!」
「それとシリウス。お主は自分に正直になれ」
「それはどういう――」
「後は自分で考えな」
最後にシバにそう言われ店を後にした。その後酒場で師匠達と合流して酒場で飯を食べて、目的の場所に向かってるところ。
薄暗い夜道を仄かな輝きを持つ街灯が、キラキラと照らしている。
「ついたぞ」
師匠がそう言ったのが聞こえた。やっとかと思い師匠に近より、正面を見る。するとそこには、驚くほど大きな豪邸が。
「シリウス、シャロ、ツバキ様、ようこそ我が家へ」
今日からこの王都で新たな生活が始まる。俺達三人はこれから始まる、様々な事を思い家へ帰る。
「ただいま」
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