6話
フッ(´ー`)┌、今回も短い
「今日はお前達に話がある」
机をドンッと叩いてそう言い放つ師匠。今はツバキが人間に変化して現れてから昼になった。すでにもう昼食を済ませた俺達は各々だらだらしていた。
そんなときだ。師匠が真剣な眼差しで現れ、今に至る。まあその真剣な眼差しもツバキを見た後はなくなっていたが。取り合えず、師匠と向かい合うように椅子に座る。
「で、なんの用です?」
「いやな、お前達はもう成人だろ?だからな、外の世界を見てこいって言いたかったんだが……」
「が?」
「今思えば、お前がいなくなったら旨い飯が食えなくなると思ってな、どうしようか迷っているんだ。だがな、竜神様の件もあるしで、今困ってるんだ。それでお前達の話を聞きに来たんだ」
「うん、すごくどうでもいいことで悩んでいますね。馬鹿ですか?普通は後者を取るべきですよね」
「旨い飯を食べれない苦痛は何者にも及ばない。この世で一番辛いのは、死ぬこと、餓死すること、不味い飯を食うことだ!」
「はぁ、」
呆れた。しかも目が本気だし、この師匠なんか狂ってる。
「じゃあ、外に行きます」
「待つんだ!まだ決まった訳じゃない。そうだ!シャロは、シャロはどうなんだ!」
「私?私はシー君と一緒ならどこでも行くよ」
「シャロ、お前までもが私を裏切るのか!」
「裏切ってはないと思いますけどね」
そう言うと、師匠はハンカチを咥えて、「むきぃぃぃぃぃ」とか言っている。
そんな光景を見ていると、ふと、ある考えが浮かんだ。
あれ?俺らと師匠、離れる必要あるか?外の世界に行くなら外の世界を知っている人についてきて貰った方が心強い。
「――――師匠」
「そうだ!保護者としてついていけばいいのか!」
表情を明るくして、子供のように叫んだ直後、顎に手をあて考え込んだ。
「いや、早まるな。もしあいつ等についていったら私はなにもしなくなってしまう。今でさえなにもしていないのに。これは由々しき事態だ。私の、私の年長者としての威厳が失われてしまう。だが、あいつの作る飯は旨いから離れたくない。また、焦げた生肉を食うのは嫌なんだ」
う~んと呻きながら、どこからか取り出したかわからないクッキーを三枚手に取り、貪る。静かな部屋ではクッキーの咀嚼音がBGMになった。
クッキーを食べ終わり、またどこからか取り出したクッキー手に取った。そのとき、師匠が勢いよく立ち上がった。
「よし!大人の威厳はもう捨てる。これからはヒモになるんだ!」
「その思考死ねよ」
予想の斜め上を遥かに越えた答えのせいで、つい毒舌になってしまった。だが、それも仕方ないと思う。急にヒモ宣言とか思考とか以前に死んでしまえ。畑の肥やしになってしまえ。
いや、ちょっと待て。畑の肥やしになったら働いているからヒモじゃなくなるな。全世界の皆様、ヒモになりそうな人がいましたら、是非とも畑の肥やしにしてやってください。そうすれば働いていことになりますので。
「は、畑の肥やしになんてな、ならんからな」
「……ははは、勝手に人の思考を読まないでもらいますか?畑の肥やしにしますよ」
冷たい笑みを師匠に向ける。すると師匠がビクッと震えて、額に汗がにじんだ。
「す、すまない。は、畑の肥やしだけにはしないでくれ。頼む!」
「冗談ですよ。育ての親をそんな無下に扱うわけないじゃないですか……まぁ、ヒモにならなければの話ですが」
「ひ、ヒモになんかならないから!」
「それならいいですけど……で、結局ついてくるんですか?ついてこないんですか?どっちですか?」
「うぐっ、そ、それは」
先程大人の威厳を捨ててヒモになるとか言っていたが、やはりまだ自分のプライドを捨てきれていないのだろう。
中々決まらないので、ここは一つ師匠の背中を押すことにした。
「俺達は外に行くのは初めてみたいなものです。謂わば外は俺達にとって未開の地。なので外の世界を知っている先導者がほしい訳なんですよ」
「そ、それは」
「まぁ、簡単に言えばついてこい、ですね」
行くか、行かないかで迷うくらいなら行けばいい。プライドの高い生き物ほどそれが出来ない。だから誰かがその人に提案をしなければ、その人はずっと悩み、最終的には自分のしたいことと逆の結果になってしまうことがある。
この無駄なところだけがプライドの高いダメ師匠がいい例だ。頭のなかでは行きたいと思ってるのに、ついその事とは違うことを行ってしまう。はぐらかしてしまう。そんな人を見ていると痛々しくなる。
「ついていく。何せ弟子達の頼みだからな、断れない」
「お願いしますね」
「わかった。ところでシャロとツバキ様はどこにいった?」
「話の途中でどっか行きましたね。たぶん寝室にいるんじゃないですか?」
たしか、師匠がヒモ宣言した辺りからシャロが眠りはじめた。椅子で寝ると体が痛くなるし、掛け布団がないので風邪をひいてしまうかもしれない。なので、ソファーで寛いでいるツバキにシャロを寝室に運んでもらっていたのだ。
「まぁ、そんなことよりも、俺達外の世界に行って何をするんですか?」
「ああ、その事か。シャロ達には後で話すが、王都に行って学園に通ってもらう」
「王都の、学園。えっ、けどこの時季、もう入学試験のエントリー締め切ってるんじゃ」
王都の学園の殆どが試験を合格しなければ入学出来ないようになっている。その理由は、簡単な話、予算不足だ。王都には五つの学園があり、その中の三校が国がつくった学園。
国がつくった三校は、優秀な人材を育てるための場所であり、貴賤を問わず優秀なものは入学出来るようになっている。当然、優秀な人材を育てるための事前投資ということで、学費は全額無料。
そのせいで予算が不足しており、入学できる人数は限られてくる。昔はある程度のものは入学していたが、近年試験を行いその試験の上位300名が入学できる。三校合わせて定員900名。その枠を王都、いやこの国全土の人々が争うことになる。
まぁ、取り合えず参加者が膨大だ。何せ学費全額無料。貧しい人にとっては超が5個つくほどの優良物件。しかもその学園の卒業生は王都でかなりの役職につけることもあってか人が多い。大事なことなのでもう一度、人が多い。
なので、エントリーの期間を国は設けた。それが三月の終わりから四月の半ばの15日まで。
「よく知っているな」
「まぁそれは、有名ですから。なので、エントリーはもう締め切っているはずですよね?今は四月の20日ですよ」
「その通り、本来ならもう締め切っている」
「なら!」
「安心しろ。私のコネで入学のエントリーはしている。入学できるかはお前ら次第だが、多分できる。何せ私の弟子だからな!」
国が運営している学園に、エントリーさせてもらえるほどの権力者のコネを持っている。大体どんな人物かは予想できるが一体、師匠は何者なんだ?
「何者なんだ?って思っただろ!フッ、簡単な話。私を誰だと思ってるんだ?お師匠様だぞ。この私に出来ないことなど家事以外ない!」
「そこは全部って言いましょうよ」
家事を出来ないことを認めているのは、素直でよし。けどね、それをわかっているのなら、もう少し家事の練習をしてくれたらいいんだけどな。絶対師匠結婚できないな。
そんなことを考えながら、後ろでぶつぶつと呪文のように同じ言葉を発している師匠を無視して、寝ているであろうシャロとツバキを起しにいくことにした。
最近忙しくなってきましたので、投稿ペースが少し遅れるかもしれません。その辺りは御理解のほどを。では(@^^)/~~~