2話
短めです。すんません。
あの日、師匠と小川で出会ってから10年が経った。今は俺は師匠と暮らしている。今日も今日とて朝起きて朝食を作る。何故俺が作っているのか?それは師匠の家事スキルが壊滅的だったからだ。
魚や肉を焼こうとすれば炭になり、何かを切ろうとすればまな板ごときれ、スープを作ろうものなら紫色になる。だから俺が作ることになった。幸いその手の本は家で飽きるほど読み漁ったので全て暗記していた。
今日はコッコ鳥のスクランブルエッグとトロルポークのベーコンとサラダだ。朝食の準備を終えた俺は寝坊助のお二方を起こしに行く。
「朝だ。師匠、シャロ起きろ」
「んっ、もう朝か」
「ん~、シー君の匂いだ~」
師匠は美しい妙齢の女性だ。黒髪ストレートの黒眼で高身長、スタイル抜群の凛々しい美人さん。家事スキルさえ有れば最高の女性なのに・・・悔やんでも悔やみきれない。師匠は竜人で人の姿と竜の姿になれるハイスペックな種族だ。
シャロは銀髪のショートボブで金眼の可愛い系の女性だ。身長は低めだけどある部分だけ師匠よりデカイ。どことは言わないが。残念な事が一つ。シャロは俺が絡むとお馬鹿になってしまうのだ。俺は今になって教育方法間違ってしまったと悔やんでいる。シャロは東方の寒い地域に住む戦闘種族の銀狼族の末裔らしい。確か東方の神、狗神の末裔で狼の姿と人間の姿に変われるハイスペックな種族だ。二人ともいつもは人の姿で活動している。
「今日行きたいところあるから行くぞ」
朝食の場で師匠がそう切り出す。俺は食べる手を止め、今も夢の中にいるシャロを揺すって起こす。
「で、どこに行くんだ?」
「竜神の祠」
「何ですか?それ」
「ん?知らんのか?」
「まったく」
「竜神の祠は成人になった者が加護を貰いにいく場所だ」
師匠の話はやたら長く、意味が分かりにくかったので噛み砕いて言うと、竜の森は広大でその中には一部の者しか知らない場所があるらしい。その一部の者しか知らない場所に竜神の祠があるというのだ。竜神の祠は竜人の成人だけではなく人族の者でも誰でもOKらしい。
で、只今空中移動中。いつなっても師匠の上に乗るのは慣れない。師匠は低空飛行を知らないのか、高度を物凄く上げて飛ぶ。しかもかなりの速度で飛ぶため寒い。だが最近は少しだけ余裕を持つことができ、天空からの光景を眺めている。
竜の森は馬鹿でかかった。かなりの高度から眺めているのに周りは木。師匠達と暮らしている家以外人工物は無いはずだ。
「そろそろ降りる。ちゃんと捕まっとけ」
「了解。シャロ、ちゃんと捕まっとけよ」
「えへへ、シー君の匂いだ~。スリスリ」
行動は可愛い。だがむ、胸が当たってる。凶器が形を変えて俺に襲い掛かってくる。
「やめなさい」
「ん?捕まってるから大丈夫だよ」
「スリスリするのをやめなさい」
そう言って離すと、シャロはガバッと頭を上げ声を大にする。
「駄目だよ!シー君は私の精神安定剤なの!シー君が冷たいと、冷たいと私。もう駄目かもしれない」
「わかった、わかったから」
何でこの子精神安定剤なんて言葉を知ってるの!本当に教育方法間違ってしまった。しかし何でシャロは俺の匂いが好きなのかな?俺とシャロは兄妹のような関係だからやっぱり、家族にじゃれている感じか。なんかそう考えると胸が締め付けられるような―――
「シャロ、やめなさい」
胸が締め付けられると思い胸の辺りを見るとシャロが俺の胸にしがみ付いていた。やはり(物理的で)シャロのせいか。
「シャロ、今日のおやつは抜きだ」
「えっ!?」
シャロの顔が驚愕から絶望に変わるのにそう時間はかからなかった。
「そ、それだけは、それだけはやめて」
「反省しなさい」
「はい」
シャロはようやく俺を離してくれた。まだ俺はすることがある。傍観している師匠に聞かなければいけない。
「師匠、あなたは何をシャロに教えているんですか?」
「い、いや、お、降りるから口閉じとけよ」
「師匠あとでコッテリ絞らせてもらいますからね」
俺は最後に師匠にだけ聞こえるようにそう呟いた。その呟きを聞いた師匠は心なしか震えていたようだった。
誤字脱字があれば教えてください。次回の予告『竜と契約するのは間違っているだろうか』