16話~猫と縁と入学と
遅れてすみません
桜咲く季節と今の時期のことを東方ではこう言うらしい。だが、残念なことにこの国は桜というのものが存在していない。植林が困難らしいのだ。季節を花に例えるとは、その桜はさぞかし美しいのだろう。見たことあるけど。
と、現実逃避している今日この頃。とある事件が起きて一悶着あったが、何とか入学することができた。シャロが先輩とか変だな、と思いながら入学式の定番、校長の長ったらしい話が始まる。
入学式は講堂で行われている。講堂には総勢300名の新入生と同じく300名の二学生と三学生。その左右には、来客と教師陣。三学生の後方には、新入生の保護者が座っている。来客の中で一際目を引く人がいた。
「国王陛下だ」
と、新入生の人波がそう伝えてくれた。あれが国王陛下か。どう見ても武人にしか見えないその容貌。長身で、適度に引き締まった筋肉、顎には黄金色の髭を蓄え、オールバック。うん、武人だ。その周りには騎士と思われる男性が四人、国王陛下を護るように配置されている。
「では、善き学園生活を」
長き拷問がようやく幕を閉じた。先程の拷問で新入生の三分の一が夢の世界へ旅立っている。起きているといっても辛うじて起きている者や、生真面目な者、人それぞれだった。その中で、シリウスは聞き流し別のことを考えていた。
「我がご主人終わりましたよ」
シリウスが考えていたこと。それは、横に当たり前のようにいるメイの事だった。こいつは試験に出ていなかった。なのに入学しているのだ。うん、権力ってすごいんだね。
あれから家に帰って、メイを紹介したところ皆メイを気に入ってしまって、挙げ句メイをここに入学させよう!と意気込んで、師匠は知り合いのもとに行った。帰ってきたのはその数分後だったから、無理なんだなと思ったら、OKを貰ったとか。何時も思うが、知り合いって誰なんだよ。
式は厳かに執り行われ、残すところ生徒会長のお話だけになった。知り合いが壇上に立っている。シリウスはリンの方を訝しげにジッと見つめる。
あの人、本当に女なのか?あのとき見た胸が無くなってる。その胸は上着を着ても隠せないはずだ。うーん、謎が深まるばかり。例えるならリンゴとまな板だ。
新入生で先輩が男じゃないと知ってるのは俺とメイだけだ。二学生と三学生はわからないが、大半の女子が王子様と言っているので、本当の極一部にしか言ってないようだ。
「我がご主人!我がご主人!お話終わってしまいましたよ。聞いてましたか?」
「えっ?ああ、き、聞いていたぞ」
「それなら良いのですが……リン様がこちらを見ていますよ」
背筋に冷や汗が落ちる。ギギギとロボットのような音を鳴らしているかのように、メイの視線の先に顔を向ける。リンは笑っていた。それも最上級の笑みだ。よく見ると口が動いている。読唇術か?
何々?
『あ、と、で、せ、い、と、か、い、し、つ、ま、で、こ、い』
話を聞いていないことバレてました。次第にリンの特上の笑みが怖くなったシリウスは無言で頷く。リンはシリウスの反応に満足そうに微笑み、壇上に視線を向けた。
何故か、式よ終わらないでくれ、と思うシリウスだった。
クラスが分けられた。一クラス五十人の六クラス。案の定、シリウスとメイは同じクラスだった。これも師匠の陰謀か、と嫌なことを考えてしまうシリウスだった。
クラスは段々畑みたいになっていた。引率の教師からはどこにでも好きなところに座れと言われたので、シリウスは最上階の窓際を陣取り、その横にメイが続く。他の生徒たちも各々、席につく。どうやらこのクラスには突っ掛かってくる奴はいなさそうだ、と安堵してこのクラスの教師が来るのを待つ。
十分後、ようやく扉が開いた。そこから入ってきたのは、教員の証である青色のローブを身に付け、左胸にクラス章である鷹のエンブレムを着けた好青年だった。
いい忘れていたが、クラス章とはクラス別に配られるエンブレムで、一組から順に、獅子、狼、鮫、熊、鷹、馬となっている。二学生と三学生も然り。このエンブレムでどこのクラスかを見分けるのである。学年は色で判別する。今年の一学生は赤、二学生は青、三学生は緑で来年の一学生は緑になる。
クラス章が配られている。シリウス達のクラスは好青年が着けている鷹のクラス章。デザインは粋なもので、翼を広げた鷹、交差された剣。赤も相まって中々良いものだった。
突然青年が手を叩いた。暫しの静寂。それを打ち破るのは手を叩いた青年。
「これからここで教鞭を振るうことになった、カイと申します。一年よろしくお願いします」
ふむ。優しそうな人だ。
シリウスは校舎内をさ迷っていた。隣には自称執事のメイがいるが周りの景色に夢中で使い物になっていない。リンに生徒会室に来いと言われたが場所を把握していない。いかんせん敷地が広すぎるのだ。
「なあ、こっちてあってるのか?」
「さあ?私にはわかりません」
「それでも自称執事なのか?」
「自称ではありません!ちゃんとした執事ですぅー」
シリウスとメイは意味のない言い争いを何度も続ける。
「あ、猫」
メイの指差す先には黒猫がいた。窓の縁で日向ぼっこをしているようだ。
「どうしてこんなところに?」
メイは近づき黒猫を抱き上げる。黒猫は腕のなかで暴れようとしない。どうやら人に慣れているようだ。よく見ると黒猫の首に銀の鈴が付いた首輪が着けられていた。
「レナちゃんですか。可愛い名前ですねー」
愛くるしいとは思う。が、苦手だ。嫌いな動物ベスト3に入賞するぐらい苦手だ。世の女性はあのつぶらな瞳が可愛いと言うがあれは狩人の目だ。狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの恐ろしい目を世の女性は可愛いと言っているのだ。気がしれない。
今は愛玩動物でも元は野生の肉食獣。あれは恐ろしい生き物だ。
「我がご主人どうしました?」
「いや、何でもない」
「はぁ?」
メイは可愛らしく首をかしげる。これ以上考えるのはよそう。無駄なことだ。ここに長居しすぎた。そろそろ学内を探さないと生徒会室を見つけるのに日が暮れてしまう。
「メイそろそろ……何してる?」
「何って、戯れているんですよ」
メイは自分のフードの耳を猫じゃらし代わりに使って猫と遊んでいる。全く能天気な奴だ、そう思ったがメイは心から楽しそうだった。かなり長い間、メイを放っておいた。それを踏まえて、シリウスは極力メイの望みをなるべく叶えることにしている。
「もうちょっと遊んでいたいか?」
「はい!それはもちろん!」
「じゃあ、少し休憩だ」
シリウスは壁に背中を預ける。メイと黒猫は同じ遊びを続けている。飽きないのか?だが、悪くはない。楽しそうならそれでよし。
「にゃっ」
チリンと鈴が鳴った。その直後、猫は弾けたようにメイの腕の中から飛び降りる。そのまま後から向かう予定の方向に走ってしまう。一拍遅れてメイは黒猫を追う。
「レナちゃん~待って~」
呼び掛けるが、当然黒猫は言うことを聞かない。いつの間にか黒猫とメイが見えなくなった。大丈夫だと思うが、心配だ。
生徒会室を探すのを諦め、メイの後を追うことにした。
「やっと捕まえましたよ」
メイは扉の前でそわそわしている黒猫を抱き上げる。やはり黒猫は抵抗しない。そんな黒猫はじっと扉を見つめている。
「ここに入りたいですか?」
そう聞くと、黒猫はニャッと鳴く。メイはわかりましたと返事を返し黒猫を撫でる。
「失礼しまーす」
ノックをして扉を恐る恐る開ける。中では誰かが話をしている。メイは気付かれないように、そっと扉を閉めて部屋のなかに入った。
「そこをなんとか」
「ですから私は!」
話し合いと言うよりも言い合いに近い会話だった。椅子に座って話している方がリンで、メイが入ってきたときから気付いている。それで早めに話し合いを終わらせようとしてくれている。が、対する黄土色の髪の少女は語尾を荒げている。その対応はこの少女には間違いだったようだ。
「だから……もういいです!帰ります!」
少女は踵を返し扉に向かった。途中メイと黒猫がいることに気づいたが、無視した。少女は扉を乱暴に開けて部屋を後にした。
「ふぅ~すまないね、変なものを見せてしまって……あれ?メイちゃん~メイちゃん~」
メイは驚愕で言葉がでなかった。外からも何も聞こえない。驚きのせいで感覚が麻痺している。ようやく感覚が回復したメイは、脳を回転させる。
あの人を私は見たことがある。それは人の記憶でだが記憶に残っている。あの人は、いやあの方は―――それはあり得ないはずじゃ!?
だが、あの方はここに存在している。あの人は見た目だけではない。雰囲気から何から何まで似ていた。まるで生まれ変わりであるかのように。
メイの背筋に雷に打たれたような衝撃が走る。我がご主人は生まれ変わっている。それで、メイは確信した。それを確信したメイは絞り出すような、弱々しい声を出す。
長い沈黙のあと、放たれた言葉は部屋によく響いた。それはリンの耳にも届いた。
『……エシリア様』
と
最近忙しくて投稿が遅いです、ごめんなさい。書こうと努力はしてますが如何せん時間が……
話は変わりますがこれから改稿していきます。より見易くなったらと思って。あと、題名もつけようと思います。