12話
学園編、遂に始動!(ゝω・´★)✨改稿してリンがエルフになりました。
「今回の定員数は500。応募者は一万。辛く険しい壁だが頑張ってほしい」
ちょうど昼下がり、午前に筆記試験が終了し午後からは実技試験。学園内に存在するダンジョン攻略。
今、総勢一万の応募者達がダンジョンの地を踏もうとしている。
「では、試験……開始!」
応募者達は一斉にその場を動き出す。あるものは仲間を集め、あるものは武器庫に向かい、あるものはその場から一歩も動かない。そんな十人十色の応募者の中で、一番最初にダンジョンの地を踏もうとするものがいた。
手には武器庫にある大鎌を携え、遥か昔、禁忌といわれた紫の瞳、黒髪の男だった。その男はソロでダンジョンの地を踏もうとする。
「き、君!一人でダンジョンはきけ―――」
教師の一人が慌てて止めにかかるが時すでに遅し、男はもうダンジョンの中へと姿を消していた。
ダンジョンの中は薄暗い。湿気ているせいか所々に発光している苔が生えている。耳を澄ませばピチャッピチャッと水滴が地面に落ちる音が聞こえる。
「この空気、懐かしい」
喜色満面の笑みでそう言ったシリウス。最終確認だろうか、大鎌を左右にブンッと振って行だした。
入り口は小部屋だったが、今歩いているのは細いと言っても大人四人が通れるぐらいの通路だ。その通路にも先程の小部屋と同じように、発光している苔が生えている。
それは何の変哲もないただの通路。
シリウスはふと、疑問に思った。何故、一度も魔物に遭遇していないのか。どんな小さなダンジョンでも魔物は大量にいる。だが、このダンジョンは魔物の気配がまるでない。
もしや、ダンジョンの機能が停止しているのではと思ったが、もしダンジョンの機能が停止していればダンジョンは地中に消えるはずだ。
よくわからないが、まるでダンジョンが誰かに操られているような気がした。そんなことを考えると背筋がゾワッとする。
「何はともあれ、早くここから出よう。すぐ近くに人の気配がするから、あれがゴールか」
気色悪い感覚に陥りながら、人の気配がする場所へ向かう。足早にその場を後にしたシリウス。
次の部屋に入り、完全に目視できなくなる距離まで行ったとき、地面がモゾモゾと動き出した。
「……あの方に近い魔力」
地面から現れた異形の生物は、あろうことか言葉を発し、消えた。あとに残されたのは何の変哲もない通路だけだった。
進むにつれどんどん人の気配が大きくなる。おそらく、いや確実に学園側の用意した何らかの地点だろう。そこがゴールかどうかは定かではないが、何らかの情報は聞けるはずだ。
シリウスは歩くのをやめ、走ることにした。そして、息切れをする前に着いてしまった。本当に近かった。
「驚いた!もう来たのか!」
部屋に入ると同時に驚愕の声が聞こえた。声の発生源を見ると、エルフの象徴である尖った耳、長い黒髪を後ろで括った麗人が立っていた。
黒髪の麗人はカチャカチャと腰に携えた東方の武器、刀を揺らしながらこちらへ歩いてくる。
「初めまして、【一番】さん。私はイチミヤ・リン。この学園で生徒会長を勤めているものだ」
リンという男の唐突な自己紹介が終わり、手を差し出してくる。警戒こそするが、失礼にならないように握手する。男の手としては細く小さく、肌が白かった。
「初めまして、イチミヤ先輩。俺はシリウスです」
「うんうん、シリウス君か」
リンは何度も頷きながら唸っている。対するシリウスは先程の会話に出た【一番】が気になって仕方がない。リンにきけば答えてくれるだろうか。そんなことを考えていた。
「ん?何か悩んでいるね。ここは先輩に任せなさい!プライベートな質問以外なら何でも答えよう」
「お言葉に甘えて、【一番】って何ですか?」
その名の通り、何らかの順番を表しているのはわかる。だが、なんの順番なのかはっきりとわからない。
リンは中性的な美しい容姿で微笑みながら答える。
「それはね順番だよ」
「はい、それはわかっています」
「そうなのか!じゃあそれについて説明だね。さっき言った通り、順番を示す言葉で一番なら【一番】、二番なら【二番】ってなっていて、実技試験の合格者の合格番号のことなんだよ」
「成る程」
納得がいった。ってことは俺は一番ということか。
「はいはい、一人で納得しない。まだ話は続いているよ」
リンは手を叩いてシリウスを思考の海から呼び戻す。呼び戻されたシリウスは驚いている。
「まだあるんですか?」
「うん、まだあるよ。最高にぶっちゃけた話が」
「それは?」
「盛大にぶっちゃけるけど、シリウス君、君合格だよ」
リンからの突然の合格宣言に一瞬言葉を発せなかった。
「筆記試験の結果が発表されていないのに、決めていいんですか」
「私が決めたんじゃなくて、決まったから大丈夫だよ」
リンはシリウスの表情を見て、苦笑しながら答える。
「盛大にぶっちゃけると、この学園、筆記試験なんてあってないようなものだから」
何も喋らない俺を尻目に、リンは話を続ける。
「例えば、戦闘力が高い者と、机上の計算が得意な者どっちの方が国として重宝されると思う?」
「両方ですね」
「う~ん、間違ってはいないんだが、どちらか片方を選べと言われたら国は戦闘力が高い者をとる。万が一、戦闘力を高い者が敵国なんかに流れてしまうとそのまま国が滅ぼされてしまうかもしれないからね。机上の計算が得意なだけじゃ、脅威なんかにならないからね。まあ、必要なときに敵国から引っ張ってこればいいし」
おそらく、戦闘力が高いもの=自国に仇をなす存在、ということか。だから、そんな戦闘力の高いものが敵国に流れないようにするために、万が一その戦闘力が高いものがお馬鹿だった場合の為に、筆記試験はあってないようなものなのか。
「じゃあ、何故筆記試験があるんですか?それならば必要ないのでは?」
「全員が全員脅威って訳じゃないからね。ある程度、同じ戦闘力の子もいるし、その子達の優劣を決めるために一応筆記試験を実施しているんだよ」
成る程、成る程。よくわかった。
「色々な話をしていただきありがとうございました」
「いいよ、そんな改まらなくて。私もいい暇潰しができたし。あっ、そうそう、帰るときは私の後ろにある石に触ってくれれば帰れるよ」
リンの後ろを見ると、透き通った水晶が置かれていた。あれはおそらく、【魔法道具】なのだろう。水晶から微量な魔力を感じることができる。
「それに魔力を流せば帰れるから」
「ありがとうございました」
リンに今までのお礼を言ってから、水晶に触ろうとしたとき、ダンジョンが揺れた。そのあと直ぐに、ピキピキと地面が割れるような音が響く。
シリウスは恐ろしく嫌な予感がした。恐る恐る地面を見ると―――案の定大きな亀裂がはいっていた。
「イチミヤ先輩!にげ――」
咄嗟に叫んだ言葉も最後まで言えず、地面が限界を迎え崩れた。
「うわぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁ」
リンが女のような声を出したが、シリウスにはそれを聞いている余裕はなく、そのまま二人は暗闇の奈落へ消えていった。
そして、二人がいなくなったあと地面は元通りになった。
遂に始まりました学園編。11話という多いか少ないか微妙な話の数を経て、やっと書き始めることができます。最後に、いつものことですが誤字脱字があれば教えていただければ幸いです。