10話
またNA・GU・RI・GA・KIだね。しかも短いし……(*^O^*)
あの春の日はあの二人にとっては記念日だった。
戦場で初めて会ってからもう何年と月日が流れた。
王女とハンクはある酒場で待ち合わせをしていた。ハンクは仕事で少し遅れるらしい。王女は時計を忙しなくチラ見してハンクが来るのをお腹を撫でながら待っていた。
王女の腹の中には子供がいた。もちろんハンクの子供だ。王女は記念日の今日にハンクを驚かそうと計画していた。だが、その計画は成功することはなかった。
不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、黒ずくめの男三人がそれぞれの得物をもち王女に向けていた。
咄嗟に反応したが突然の襲撃により王女は少なからず傷ついた。そこから3対1の死合が始まった。
ハンクが着いたときには決着がついていた。眼下に広がっていたのは血塗れの王女の遺体とと無傷の3人の黒ずくめの男だった。
それからどうやって殺したかわからない。心が見えなかった。ただ、ただ一つ言えることはハンクは理性を無くしていたということ。
それからハンクはおかしくなった。
忽然と儂らの前から消えて、一年後にアンデットを連れて国を襲った。自らの幸せを潰した王。その王家に列なる血統の殆どを惨殺して難攻不落と言われた門に深い傷を残した。
城下町である王都は荒れ果て、王は惨殺。国はたちまち機能したくなった。
儂らはあの国が嫌いではなかった。むしろ好きな方だった。嫌いなのは惨殺された王だけ。儂らは王がいなくなった国を建て直す手伝いをした。
国を建て直すのは容易ではなかった。まず、遠縁の王家の血統を継ぐ人物を王に、次は荒れ果てた王都に冒険者仲間を呼び、人を戻すために家屋の再建。次に店を出すために古くからの友人の商人に頼み込み王都で店を開いてもらった。
2年、3年の月日が流れ元の、それ以上の国なった。そんな何もかもが順風満帆な時に魔王を名乗ったあいつから手紙がきた。
手紙の内容は、とある場所に来いと言ったものだった。
国の上層部や世論はすぐに騒がしくなった。反対された、反対されたが最終的には儂らだけでハンクのもとへ向かった。
ハンクが居たのは、遥か昔に魔王の居城として知られていた場所だった。石造りで荘厳な城だが所々に苔や蜘蛛の巣がある、城というよりも廃墟に近かった。
久方ぶりにあったハンクは痩せていること以外、前と一緒だった。儂らは今まであったことを語り明かした。ハンクは話を聞いて笑ったり難しい顔をしたり、前より表情が柔らかくなっていた。
楽しかった時間も過ぎ、別れの時がやって来た。別れの際、二つの瓶を人数分渡された。不死の薬とその不死の薬を無効にする薬。
儂らはなにも言わずに不死の薬を飲んだ。そこから無言で国へ帰った。誰も一言も発しようとはしなかった。皆それぞれの思いを胸に秘め、大事な人を失った悲しみを噛み締めた。
それから死に損ないの儂らは英雄とおだてられて崇められた。
「これでおしまいじゃ。満足したか?」
「そうか、それならよかった」
「おやすみ。また明日」
扉が閉まった音が聞こえた。男は明かりを消した。部屋は闇と静寂に包まれる。
男はゆっくりと座っていた椅子から立ち上がり窓を開け放つ。この時期の夜は少し肌寒かった。
男は言葉を紡がない。ただひたすら、今は雲に隠れている大空に浮かぶ月を見つめていた。
***
あと少しで男の心臓をシリウスの腕が穿とうとしたとき、空間がグニャリと歪んだ。
「今覚醒するとは……面倒くさい契約者様じゃのぉ」
そこから現れたのは水色の長い髪で特徴的な東方の民族衣装の浴衣を着こんだ少女、ツバキだ。
悪態をつきながらツバキは力ある言霊を紡ぐ。
『安息なる眠り』
『記憶改竄』
突然、場にいるシャロを除く人々が次々に倒れる。殺されたわけではなくただ単に眠っているだけのようだ。
「魔法の並行行使は疲れるのじゃ。あとでたっぷりと労ってもらうからな」
そう言いながらツバキは、自分の背丈の倍ぐらいはあるシリウスをヒョイッと持ち上げる。そして、なにもない空間に手をかざす。すると先程と同じように空間が歪んだ。そこをツバキが潜ろうとする。
「ツバキちゃん!何で、何でシー君はおかしくなったの?!」
「思い出したんじゃよ」
「思い出した?」
「そう、全てをじゃ。自らが封じた思い出を全て……儂はもう帰る。気を付けて帰ってくるんじゃぞ」
そういい放ちツバキは帰っていった。それから少ししたあと、シャロは静かに闇に溶け込むかのようにその場をあとにした。
今回も低クオリティな作品なので誤字脱字の宝庫や表現が苦しいところが多々、っていうか殆どです。そんなときはコメントで教えていただければ幸いです。