二章第四話 大きな人間と開放感
朝になっても屋根の下でうずくまるリック。 このままずっと寝ていたい。 そんな思いとは裏腹に体はリックに水を要求した。
リックはしぶしぶ重い身体を叩き起こし、水の入った容器に口を付ける。
目に映る泉の景色。 そう言えば小人の捜索で下ばかりで、景色はあまり見てなかったなぁ。
島に着いてから1度も身体を洗っていない。 歯も磨いていない。 服も洗っていない。 小人を探すこと。 食べること。 寝ること。 それしかしてこなかった。
「美しい泉だなぁ」
心の声が口に漏れる。
リックは着ている布切れとブーツを脱ぎ捨て、泉の中に勢い良く飛び込んだ。 滑らかだった水面が突然に荒れた。 高くまで上がる水飛沫。 大きな波が渇いた地面を潤す。 ひんやりと肌を流れる水。 透き通ったその水はリックの世界を青くした。 クロールに平泳ぎ。 リックは数時間もの間泳ぎ続けて、ようやく陸へと上がった。
裸のまま地面に寝転がり、物重いにふけた。
この開放感。 自由。 そんな物を前にして、昔の出来事を思い出す。
王国には全裸で過ごせるビーチがあった。 開放感を味わう事が出来る。そんなビーチは窮屈な生活を強いられていたリックには夢の様な世界。 数の少ない休日を利用して1度だけ行った事があった。
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ここでは身体をいっぱいに伸ばせる。 やっと夢を叶える事が出来たんだ。 そうウキウキとした心は外見にも漏れた。 もう既に沢山の人が全裸でビーチを堪能していた。 リックは布切れやブーツを脱ぎ捨ててビーチ内を駆け回る。 身体に巻き付けた布も足を密封するブーツもない。 なんて気持ちが良いんだ。
そして、ビーチを一周したリックはそのまま勢い良く倒れこんだ。
グッグッと必要以上に足を伸ばして大の字になり暫く空を見上げた。 澄んだ青空。 所々に白い雲。 まるで芸術だ。 いつも下ばかりを見ていたリックには新鮮な景色であった。
そしてもう一度立ち上がり水平線を眺めて海の方へと歩みを進めた。
どこまでも続く広大な海。 自分の傷付いた心と違ってとてもきらびやかな姿。
「キャアー!!」
突然下から悲鳴が聞こえた。 リックは咄嗟に目線を下げる。 すると自分の目の前に2人組の女性が立っていた。 何かやってしまったかな? そう思い女性の顔を伺うも、この高さからだと頭頂部しか見えず表情が分からない。
「どうしましたかー?」
女性の悲鳴に警備員がすぐにかけつけた。 すると、自分が入れないほどの低い高さでの世界で会話が始まった。
「この人が私の顔にち○こ近付けて来たんだけど! マジキモーい!」
「早くこいつ捕まえてよ! 怖くてゆっくりできないじゃない!」
「そうだったんですか… はい。 分かりました」
そうして警備員は顔を上げて、リックに答えだけを述べた。
「ちょっとこっちに来て貰いましょうか」
リックの言い分は通らない。 結局、近づける気はなかったが近づけてしまった。 そう結論付られた。
幸い罰を受ける事は免れたが、謝罪金とこのビーチの出入り禁止を命じられてしまったのであった。
みんなが楽しめる所ではないのか? 俺はビーチを自由に歩く事さえ許されないのか? どうして俺だけなのか? 俺に休める所なんてないのか。
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「ここにはヒトが誰もいないんだ。 誰にも文句言われることはない」
リックはビーチの時と同じ様に長い足を大の字に広げて空を眺めた。
気が付くともう既に太陽が傾き始めていた。 しかし、いつの間にかやる気が湧いている。 明日からまた頑張らなくちゃ。 そう決心をして立ち上がったのだった。