一章第二話 大きな王国と大きな人間
この国には週に1度夕食の配給制度が存在する。 この配給だけで生きている人間も数多い。 それだけ国民は貧困なのだ。 そして今日はその配給の日。 リックは城を出て食事が振舞われる広場へと向かった。
居眠りをしたせいで行くのが遅れて既に広場にはものすごい人だかりが出来ていた。 リックには20mくらい先に屋台があるのが見える。 しかし、目を下ろすと腰の高さに大量の頭が密集していた。 下の様子が分からない。 無理に歩こうとすると人の腹を蹴り上げてしまいそうだ。 屋台はすぐそこに見えているのにただただ人の波に流されてあらぬ方向行くしかなかった。
数十分流れた所でようやく屋台にたどり着いた。 やっと食事にありつける。 そう思い、屋台のオヤジが差し出した器を手に取った。 数口分のスープ。 それは隣の人の半分にも満たない量だった。
「てめぇは子供の時大量に飯食ったんだからそれで良いだろ。 ここは謙虚な俺たちに食料を譲るのが道理ってもんだ」
いつもそうだ。 食糧難のこのご時世。 身体が大きい人は食糧を食い潰すとされて嫌われていた。 その中でも異例の大きさである自分への待遇は酷かった。 屋台の屋根が遮ってオヤジの顔は見えなかったが、ゴキブリでも見るような目だったであろう。 低くて邪魔な屋台の屋根が今回ばかりは救世主となっていた。
その後もリックは無言で再び人の波に流され、ようやく広場を脱出した。
あの時、オヤジの顔面を蹴り飛ばすことくらいリックにとっては余裕だっただろう。 この大男を止められる人はまずいない。 配給の食料を根こそぎいただく事も出来ただろう。 しかしリックはそれをしなかった。 もしそんな事をしたら、指名手配されて魔法使いを敵にまわす事になる。 ただでさえ味方のいないこの世界で、事件を起こしてしまえば相手の思うつぼだ。 リックにはそれが恐怖でしかなかった。
リックはスープを食べ終えると自身の寮へ向かった。 両親のいないリックにとって住むところがあることは幸せであった。 寝るスペースだけのカプセル型の部屋。 隷下のウドの部屋は狭く、縦の幅ですら150cmしかない。 足が伸ばせないのは愚か、体を大きく曲げて部屋に体全体を入れることさえ一苦労だった。 外にトイレもあるが、普通の人の首から顔の高さに股間があるリックは、しゃがまなくてはいけない小便器を利用する事はまるで筋トレをしている気分であった。
なりたくてなったわけじゃないこの身体。 人々には嫌われ、自分のせいで母親を失い。 この世界に心底嫌気がさしたのだった。