一章第一話 大きな王国と秘密の会談
今から数百年前。 魔法が栄えていた時代。 人々は魔法が使える人間と使えない人間がいて、魔法使いは様々な魔法の研究をした。 そしてそれを使って戦争や魔法を使えない人達を征圧していた。 魔法を使えない人達はウドと呼ばれ、奴隷に近い扱いを受けていた。
そんな中、ある王国では先代国王が行方不明となり、初めて魔女が国王として向かい入れられていた。
魔女が国王になってからというもの、彼女は政治には興味がなく、農地の開拓などすらしない。 そのため食糧難に陥ると、食糧の消費を抑える事と魔女自身の魔力や権力の増大のために、研究や探検と称して大勢の命が奪われていた。
そんな魔女の城で雑用として働くウドであるシュバルツ・リック(18歳、身長195cm、体重76kg、足のサイズ30cm)は今日もまた大きな城の掃除をしていた。
一章第一話 大きな王国と秘密の会談
城の掃除は大変だ。 一階一階が非常に広く、それが数十階も存在する。 掃除は1人で行うわけではないが、隅々まで綺麗にするのは骨が折れた。
リックは掃除を適当に済ませ、いつものサボり部屋で一人休んでいた。 そこは普段は倉庫となっている。 成人女性の平均身長が約130cm、成人男性でさえ約140cmととても小さいこの時代にとって、リックの体は異常なデカさだった。そんなリックにはこの部屋は狭かったが、誰も来ることがなく、近くを通る人もいない。 サボるのにはもってこいの部屋だった。
リックは足を曲げて横になり、部屋の天井まで積んである荷物を眺めていた。 何に使う物なのか。 リックがこの部屋を見つけて数ヶ月もの間ずっとそこに置いてあった。
そんな荷物から目を離し、母親の形見である黒真珠を無造作に取り出した。 リックは黒真珠を見つめ物思いにふけているとそのままいつの間にか眠ってしまった。
「こんな所で話すのですか?」
「ここには誰も来ないからね。 情報屋に忍び込まれる会議室より安全なのさ」
そんな声が聞こえ、リックは目を覚ました。 隣の部屋に誰かがいるようだ。 とは言え、リックには関係のない事だ。
時計を見ると夜の8時。 仕事の終了時間を裕に越えていた。 雑用係をまとめる雑用長はカンカンに怒っていることだろう。 リックは面倒臭そうな顔をして、ゆっくりと立ち上がった。
「あの島の探索をするのですか? 何百年も前に捜索して、いないと結論が出ているではありませんか」
「貧困で税金もろくに納めない輩が増えてきた。 それらの仕事を与えるという名目で探せば良い。 見つかれば妾の国の安定へと繋がり、見つけられなければ妾への反抗として全員処し、無駄な食糧消費を抑える事が出来る。 妾にとってはどちらにせよ利益になる」
あれ? この声。 リックには聞き覚えがあった。 この国の王、魔女の声だ。 魔女がまたしても人々の命を奪おうとしている。 もう1人は誰だ? あの島? いない? なんの話だ? リックは魔女の会話に聞き耳を立てた。
「あやつらが持つという賢者の石の存在が不愉快じゃ。 妾の王政に支障をきたす」
「しかしわざわざ……」
「妾に口答えするか?」
「い、いえ……滅相もごさいません。 しかし、決行までには数ヶ月ほど時間がかかります。 大きな事業ですし……何より国民が納得する理由も考えねば……」
「任せたぞ。 重要な任務だ」
「はい。 仰せの通りに」
この会話を最後に部屋が静まり返った。 魔女達はどこかへ行ってしまったようだ。 リックは慎重にその様子を伺った後に、どすっと床に胡坐をかいて頭を抱えた。
賢者の石…… リックには心当たりがあった。 よく伝説として語られる小人。 その小人が魔力を跳ね返す能力を持つ賢者の石を持っているという話だ。 しかし、小人は昔の捜索の結果いない事が分かったはずだ。 今ではツチノコ同様に本気で信じている人は少ない。 架空の生物である。 そんな伝説を魔女が恐れている。 リックにとっては理解しがたい事だった。