犬との出会い 1
それからしばらく俺は眠って、不意に目を覚ました。
オレンジ色の西日が俺の頬を照らしている。周りを見ると既に誰もいなかった。
時計は六時十分前だった。既に図書館閉館の時刻をとっくに過ぎている。
まさか図書館に閉じ込められたかと俺は一瞬焦ったが、すぐに出入り口の扉が開きっぱなしになっていることに気付く。どうにもこの学校のセキュリティはいい加減過ぎる気がする。
俺は鞄を肩にかけ、席を立った。そして教室へと向かう。
栄介が待っているかもしれない。
そもそも俺は別に栄介のことが嫌いではない。大切かどうかは知らないが俺の友人の一人だ。あまりおざなりに扱うこともできない。
だから、部活の練習が果たしてこの時間まで長引いているかどうかは関係なしに、俺は教室へと向かった。
廊下には既に誰もおらず、オレンジ色が優しくそれを染め上げている。
教室の扉を開け、中に入る。
教室の中を見渡しても、誰もいない……はずだった。
それはそうだ。栄介の部活がここまで長引くはずがない。ウチの高校のテニス部はいい加減なことで有名なのだ。
おそらく五時くらいには練習を早々に切り上げてしまっているはずだ。
栄介はきっと、俺よりも仲のいいテニス部の面々と楽しく帰ったのであろう。
テニス部の面々が栄介と俺のクラスにはいない。だから、栄介にとって俺はテニス部の面々と放課後に楽しく会話するまでのつなぎなのだ。
……ってあんまりにも卑屈すぎるかな。俺は。
あながち間違っていない気もするが、我ながらほとほと嫌になる。
とにかく、教室には誰もいなかった、はずなのであった。
しかし、現実には一人、教室に残っていたのだ。
「あ……」
その人物は小さく声をあげて俺を見る。
いつの時代の人間だといわんばかりのおかっぱ頭……いや。よく見るといわゆるボブカットというヤツなのかもしれない。
だが、あまりにも地味な彼女にとってその髪型はボブカットというおしゃれな髪型の名称を殺しておかっぱ頭へと位を下げてしまっているのだ。
犬井理香子は、驚いた顔で俺を見ていたのだった。