気付き 4
その日も俺の一日は普通で終わった。
そして隣の席の犬井も、長澤と藤野のおもちゃとして一日を終わった。
必要以上に罵声を浴びせられ、犬井自身の存在を否定されていた。
そのたびに犬井は涙を浮かべる。その様は益々長澤や藤野の嗜虐心を煽った。
事実、俺でさえ、そんな犬井の表情を見ていると苛めてやりたいと思ってしまう。ある意味ではそれは才能なのかもしれないと思った。
「おーい、直人」
そこへ栄介が声をかけてきた。
「今日さぁ、テニス部の練習だから、終わるまで待っててくれないかな?」
「ああ、いいぞ。どうせ暇だからな」
栄介と俺はいつも一緒に帰っている。帰る方向が一緒だからだ。
それは栄介にテニス部の練習があっても同様である。俺は栄介の練習が終わるまで図書室で本を読んでいるのだ。
「悪いね。じゃあ、練習終わったくらいに教室に来てね」
「ああ。わかった」
どうせ暇なのだから断る理由もない。俺は教室を出て図書室へと向かう。
「おい、駄犬。何勝手に帰ろうとしてんだよ」
と、廊下に出ると、また犬井が長澤と藤野に絡まれていた。
犬井は脅えきった顔で俯いている。よくもまぁ、長澤と藤野も、高校生にもなってくだらないことをするものだ。おそらく、奴らも俺と同じくらいに暇なんだろう。
俺はそのまま三人を尻目に図書室へと向かった。一瞬だけ犬井が目の前を通り過ぎる俺のことを見た気がしたが、そんなことは俺にとってどうでもよかった。
なにせ、俺と犬井には関わりが無い。助けてやる義理もない。
だとしたら無視するのは酷いことでも悪いことでもない。俺にとってはそのまま図書室に行くのが正しいことなのだ。