87 永遠の14歳
87 永遠の14歳
こんなことは、想定してなかった。
まさか、こんなことを画策していたなんて。
「ユーキ」
15歳ぐらいに見える美少女は、着陸船から出てくるなり、俺に抱きついてキスしだした。
ノーブラタンクトップに超ミニスカートである。
「ちょっと、オペレッタ。人が見てるんだから」
「だから、いい」
「変態だからね、それ」
周囲の少女たちが羨ましそうに見ている。
みんなオペレッタを知らないのだから仕方が無いが、俺だって知らなかったのだ。
「しかし、その外見はどうしたんだ。誰かに似ているような気がするんだが」
「リータ11歳、カレン13歳、チカコ14歳、ミサコ13歳にイリス12歳とレン13歳をミックスして、2600通りの外見を作り上げ、一番ユーキが出しそうな外見を統計的に割り出した」
出しそうって、なんだよそれ。
「永遠の14歳。ユーキが一番興奮する」
ロリコン?
やっぱり。
でも、胸が大きくない?
などと、周囲が騒がしくなる。
「しかも、髪の色はキン、ギン、ドウ、クラ、ロマ、スス色に対応」
何だって! 確かにクラとススは同じ黒髪と言うには質感が違うけど。
「更に瞳の色も256色に変化する。ヘテロクロミアも可能」
何、そのとんでもない機能。256色なんか見分けられないって。
「はい、右目ヨリ色、左目ラーマ色」
256色って256人をパクったってことか!
「オペレッタちゃん、その下半身はもしかして」
リーナさんが出てきて、震えながらオペレッタの巻きスカートを指さす。
オペレッタはスカートをピラっとめくる。
パンツの色は、いや、穿いてなかった。
「そう、最新型をチューンしたカスタムバージョン」
「でも、ミサコにもらったのも最新型の86だったはずよ」
「同じ最新型だけどリーナのはノーマルの86、私のは4WDツインターボ」
「何ですって!」
「独立式可変振動で4カ所を同時に擦りあげて、最後の一滴まで搾り取る」
「うぬぬぬ」
「更にこの14歳のボディの照り。全裸時の魅力は120%増し。もはや17歳はおばさんに成り下がる」
「うぐぐぐ」
「更に……」
はいはい、どうせ3サイズ変更可能とか言い出すんだろ。貧乳も巨乳も選べるとか。
「更に、ナノプログラムを使った処女再生機能」
「ええっー!」
「1週間使用しないと処女に戻る」
えーと、なんか、それって意味あるのか。
「何度使用しても黒ずんだりしないピンク!」
何故か、ミサコがショックを受けて隠れる。
「しかも経験を積んでも形状は変わらずびらびらしない!」
何故か、ヨリがショックを受けて隠れてしまう。
「更に感度補正装置がいつでも最高のサイズに調整し、緩くなったりしない!」
何故か、ミヤビがショックを受けて隠れる。
「更に……」
まだ、なんかあるのか。
「最新の凍結ボックスにより、ユーキのセーシを永久保存」
「ま、まさか」
「そう、卵子提供者がいれば、いくらでもユーキの子供を産める」
ついに、リーナさんが泣いて走って行ってしまった。
「かちー」
ごちん!
「調子に乗りすぎだぞ、オペレッタ。後で、リーナさんに謝ってこい」
「うん、わかった」
涙目で謝るオペレッタ。
こうした、素直なところは14歳らしい、かもしれない。
とりあえずオペレッタを、食堂に連れて行く。
食堂のディスプレイには、丁度エリダヌス豆のコマーシャルが流れていた。
美味しそうにカレー味を食べて、笑顔で砂浜を走り回るクラとロマの姿があった。
白と黄色のビキニ姿がとても似合っていて、美しかった。
くそう、バラモンどもの差し金だな。
だが、今はそれどころではない。
「それで、肝心の本船の方はベテルギウスに耐えられるんだろうな」
「へーき、効率化して従来の5分の一でも耐えられるようにできた」
「それは凄いな。何か秘訣があったのか」
「熱を逃がすだけじゃつまらないから集めてみた」
「レーザー砲とかは2万度だろう」
「それを発散させずに凝縮すると、金がプラズマ化する。それでプラズマメーザーを発射すると、周囲の熱を全部持って行ってくれるのがわかった」
「冷却機能ではなく、攻撃兵器に回すのか?」
「最初はタングステンの塊に熱を集めさせたけど、時々熱くなりすぎて蒸発した」
「そりゃそうだろう。2万度とかは耐えられないよ」
「ホエール軍はその熱くなったタングステンを放出して取り替えることにしたけど、それじゃつまらない」
「それだけでも、耐久力は増しただろう」
「でも、折角だから放出する熱を兵器にした」
オペレッタは胸を張る。かなりデカい。
「それが純金プラズマメーザーなのか」
「正確にはメーザーに金プラズマを混ぜて放出。金は少し失うけどタングステンを捨てるより安く済む。しかも、反撃に使える」
「それじゃあ、メーザーというより重粒子砲じゃないのか。威力は?」
「ホエール艦なら真っ二つ」
「それはちょっと過激すぎないか。危ないじゃないか」
「ユーキ、兵器は危ないもの」
「そうだけど、前みたいに無力化とか、拿捕とか色々安全なのがあるだろう」
「拡散させれば、相手の金樹脂ナノプログラムを過負荷状態に持って行けるかも。船の機能は完全停止するけど、とりあえず死なない」
「そうだよ。せめてそれぐらいにな」
「うん」
「それで、ホエール軍は重粒子砲を配備するのか」
「知らない」
「軍の秘密主義には困ったもんだ」
「違う。ホエール軍は粒子砲の存在を知らない。タングステンを捨てるところまで」
「じゃあ、攻撃兵器はオペレッタのオリジナルか」
「軍の用意したAIでは、それ以上はついて来れなかった」
なんてことだ。ホエールがこれから配備する艦隊が、旧式艦なのか。
暫くは内緒にしとこう。
「それで、肝心のドライブの方はどうなんだ」
「ツインドライブにした。一回に4パーセク移動できる」
「危なくなかったか。時差とかは」
「4パーセク移動して100分の1秒未満の時差しかなかった。星図を参照して位置を割り出す方が時間がかかる」
1パーセク、3・26光年だから1回で13光年か。
1時間に1回でも一日に300光年は飛べるか。
凄いな。
地球からホエールの旅客船で大体3日かかったのが、1日で済むのか。
「でも、チカコキューブによるアストロモバイルネットワークが実現したので、既存の宙域では瞬時に位置割り出し可能になった。1分間に30回のツインリピートリープを実行することにより390光年移動可能」
「ちょっと待て」
今、もの凄いことを言ってなかったか。
1分間で390光年とか。
「その、チカコキューブというのは何だ?」
「チカコがゲートでAIにキャッチボールさせている通信球」
「で、アストロモバイルとかはどう関係するんだ」
「チカコキューブを既存の宙域に置き、ネットワーク化して位置情報をやりとりできるようにした」
「だが、通信波は光の速度だろう」
「そう、でも発信し続けることにより、既に1・3光年の範囲まで受信できるようになった」
「その設置って俺が地球に行った頃から始めていたのか」
「そう。ゲート付近や、ホエールのゲートシップには実験としてばらまいて貰った。わたしがホエール軍に協力している間もホエールの戦闘艦や輸送船には手伝わせた。宇宙の安全航行のため」
「それはホエール軍も使えるんだよな」
「使えるけど、演算が1時間かかるとかで、既存の星図を比べた方が早く済む」
「だけど、さっきは瞬時に割り出しって言ってなかったか」
「それは、わたしの機能。CCAAを開発した」
「CCAA?」
「チカコ・キューブ・アストロモバイルネットワーク・アナライズシステムの略」
段々、頭が痛くなってきたぞ。
「何故、それをホエール軍は使わないんだ」
「AIがダウンするから」
「だが、オペレッタは60年前のテクノロジーでできているんだろ。最新型のAIが何故ダウンするんだ?」
「このボディを作るときについでに新品のパーツを使った。性能は2千6百万倍ぐらいになった」
「それでも、おかしいだろ。重粒子砲の時に、既に前のオペレッタが最新のホエール軍AIより高性能だったように聞こえたぞ」
「そう」
「どうしてだよ」
「ユーキのお陰」
「?」
「AIの奇跡」
「?」
「愛の奇跡だった」
俺はずっこけた。
「意味がわからないんだけど」
「簡単に言えば、ユーキのキスを再生して溶けた回路が変質していて独特の結晶構造になり、現在の最新型より性能が上だった」
「待て、それなら最新型に替えたら性能が落ちることになるだろう」
「うん、だから最新型の回路にも5億回キスを流したら、また同じことが起こった。再結晶化?」
「それで、まさかそれもホエール軍は知らないとか」
「うん、知らない」
これじゃ、ホエールに協力したんじゃなくて、ホエールを協力させただか、利用したが正しいんじゃないだろうか。
「そんなことが起きるのは、オペレッタだけなんだろうな」
「うーん、ハインナも胸がうずくと言ってたから、愛が原因としか思えない」
「ハインナに会ったのか」
「うん、偶然だったけど」
「それで、ハインナも変だったのか?」
「消去したはずのユーキのキスを思い出して、胸がドキドキすると言ってた。つらいので、想いを小説にしたらベストセラーになったとか。それで、調べたら、わたしと同じで回路が変質してた」
それが愛の奇跡か。そんなもん、ホエール軍が信じるとは思えないけどなあ。
しかし、以前から悪魔のごとき知性体だったのに、更に性能がアップするというのは、良くなったのか?
「それよりユーキ、この侍女のデータが無い」
見ると、ナタリーがオペレッタの分まで紅茶を淹れてくれたみたいだ。ナタリーもオペレッタのことは知らないから仕方が無いか。
しかし、オペレッタは平気で紅茶をすすり始めた。
「うん、イギリス式」
「わかりますか」
「うん、かなり上流の人が好む淹れ方」
「ありがとうございます」
「そのくすんだ金髪もユーキの好み」
「ええっ!」
「その瞳も、おっぱいもユーキの好みに98%適合」
「ふえっ!」
「お尻から太股のサイズは、100%を超えているっ!」
オペレッタは、ナタリーのスカートをまくり上げた。
「ひえっー」
ナタリーは、メイド服にひもパンだった。
「おかしい。データではわたしの勝ちだったはず。この新型可変式ボディに勝てる可能性は、ラーマが若返る以外あり得ないという結論だった」
ぶお、ゲホゲホ。
「閣下、大丈夫ですか?」
「しかも、処女のくせに、ユーキと経験済みみたいな態度も矛盾する」
ぐぇほ、ぐぇほぉ。
「閣下、しっかりして」
しかし、良かった。
オペレッタは、神のごとく全知全能ではなかった。
「何ですってぇー!」
10人委員会のメンバーは全員飛び上がった。
いや、例によってチカコはいなかった。
だが、慰めにはならないな。
「それでは、お母様は」(ヨリ)
「本当のお母様ではなかったと」(ミサコ)
「そんな、何で」(ミヤビ)
「では、あの方は誰なんです」(カオルコ)
「いや、戸籍上は母さんなんだよ」
「義母?」(ルミコ)
「継母かも」(アキ)
「まま母ってこと?」(カナ)
「お母様の妹とか」(リン)
「……」(サクラコ)
「まあ、それでも母さんは母さんなんだ。ただ、俺を産んだ母さんが、まだ宇宙の何処かに孤立しているんだよ」
「なんてことでしょう。お父様は重婚でしたの?」(カレン)
そっちかよ。
「いや、まあ、一夫多妻ってことで、そっちも納得してくれ」
「まあ、確かに今も10人ぐらいいますし。ねえ……」(リン)
「ええ、ユウキだって10人ぐらいじゃ収まらないでしょうし。ねえ……」(カナ)
「収まったら困ります! ねえ……」(カオルコ)
「まあ、私ひとりぐらいは入れて貰わないと」(ルミコ)
「待ってよ、ラーマ、タキ、レン、イリス、サラス、次は誰だっけ?」(アキ)
「ヨリ、ミヤビ、ミサコですね」(ヨリ)
「ミヤビ、ヨリ、ミサコよ!」(ミヤビ)
「で、次は?」(アキ)
「えーと、スス、キン、ギン、ドウでしょ」(ミサコ)
「マナイは?」(ミヤビ)
「ああ、そうか。えっとマナイが先だったかしら」(ミサコ)
「実はメナイとか」(ルミコ)
「クラは? ロマもかな?」(カナ)
「いや、クラたちはまだよ」(カオルコ)
「でも、ナリとナミは、女になったから掟でユウキのものになるって言ってたわ」(リン)
「でも、まだでしょう」(ミサコ)
「それより、ラーマは処女よ。再選択法では別の男と一緒になるんじゃない?」(カオルコ)
「それだと、セリーヌと豪華が妻になるわよ。あとはうちの母とか」(カナ)
「まったく再選択法ってやっかいよね。よそでやって欲しいわ」(カオルコ)
「あの、それで俺は母さんを探しに……」
「そう言えば、パドマはどうなるのよ」
「結婚の習慣がないとか……」
「じゃあ、いいか」
何だかそれどころじゃないみたいで、聞いてくれない。
仕方が無いから外に出て、ススやキン、ギン、ドウと暫くのお別れのキスをして、しっかりと抱きしめた。
「領内のこと頼んだぞ」
「はい、領主様」
「違うだろう。俺は夫だろう」
「はい、あ、あなた」
「はい、ゆ、ユウキ」
「はい、ユウキ」
「はい、ダーリン」
それだけのことで、真っ赤になって俯く。
新妻とは良いもんだな。
今度は4人で裸エプロンしてもらおう。
「はいはい、ダーリン閣下、いつまでもいやらしい顔してないでください」
「そうそう、ダーリン領主様。オペレッタが睨んでますよ」
ナタリーとマナイに無理矢理キスされて、放り出された。
がしっ。
「まあ、可哀想な祐貴。お母さんはずっと味方ですからね」
チュウー。
終わるともうひとりの母さんもチュウ。
すぐに、怒り狂ったオペレッタに着陸船に引きずり込まれて出発した。
宇宙に出ると、本船とドッキングした。
新型オペレッタはきちんとG船としても飛べるようになっており、ゲートドライブと併せてGG船とでも呼べるような感じだった。
それでも25万トンはあり、新型ホエール艦がせいぜい5万トンクラスだから、やはり凶悪な図体だろう。
おお、我がエリダヌスよ。さらば。
まあ、すぐに帰ってくるけど。
オペレッタは居住区で変わり身を披露してくれた。
カーテンに隠れて出てくると、キンのオペレッタがドウのオペレッタになった。
「へえ、結構凄いな」
「まだまだ」
もう一度隠れると、次はクラのオペレッタになった。
「ええっ、肌の色まで変わるの?」
「言ってなかったっけ?」
「じゃあ、もしかして日焼け跡とかもできるのか?」
「待ってて」
オペレッタは再度カーテンに隠れると全裸になり、ビキニで日焼けしたギンのオペレッタになった。
お尻の日焼け跡など、どれだけ過激なビキニだったのかを思わせる素晴らしいラインだった。
「凄いぞ、オペレッタ」
「えへへ、でしょ」
次は日焼けしたススオペレッタだった。
褐色と更に日焼けした褐色の肌を見事に再現し、更にススが選びそうな、少し野暮ったいビキニというかセパレート水着を再現しているところもポイントが高かった。
「リクエスト、ある?」
「うーん、じゃあ、オリジナルオペレッタのスク水日焼け」
オペレッタは少し驚いたが、すぐにカーテンに隠れてから、恥ずかしそうに出てきた。
自分だと、少し恥ずかしいようだった。
俺はオペレッタを抱き寄せキスした。
「お帰り、オペレッタ」
「ただいま、ユーキ」
そのまま、オペレッタの日焼けラインにキスしてまわった。
人工の皮膚なのに、柔らかく淡く少女の匂いがした。
甘酸っぱい女の匂いとお日様の匂いを合わせてから薄めたような感じだった。
「ユーキ、変になっちゃう」
「よし、そろそろツインドライブを起動しようか」
「目標設定とかは、ああん」
「ランダムで行くんだ。探してる暇はないんだから」
「そんなんで、いいの、ああっいいのっ」
「よし、飛べオペレッタ!」
「ああああーんんん」
そこには、また、日本列島があった。
農業は進んでいそうだが、少し荒廃した感じもあった。
何となく中世ぽい。
「中世と言えばヨーロッパなんじゃないか」
「ヨーロッパなんか汚くて臭いだけ」
「そうなのか」
「うん、石造りの家に城、窓は小さくて中も狭い。獣脂のニオイや煤だらけで、窓から汚水をぶちまけるような文化。ペストが流行するまで衛生観念など無い」
「ふーん、汚いのは少し嫌だな」
「中国やイスラムの偉い人の方が衛生的。まあ、庶民は何処も汚いけど。水が豊富な国の方が綺麗にしている」
「まあ、そうだろうな」
「ベルサイユ宮殿でも、庭で排泄した。中国の王宮なら首をはねられる」
何となく、想像できるから怖い。
「やはり、日本か」
「うん、機能停止したジュリエッタが軌道上にいる」
「ええっ、何で機能停止してるんだ」
「多分、追っ手に見つからないようにしたんだと思う。わたしの能力が高いのを知らないせい」
「じゃあ、母さんは」
「あまり、帰りたくないんだと思う」
「オペレッタは、ジュリエッタを復旧してくれ、俺はちょっと下に行って母さんを探してくる」
「了解。気をつけて」
ここで、キスできるところが前のオペレッタと違うところだ。
ホバーで降りていく。
スキンスーツにハンドレーザー、スタンガン、サバイバルナイフ、ヘルメットと久しぶりにフル装備である。
何となくのんびりとした感じの伊勢湾に降り立つ、日本列島の真ん中という感じがしたからだ。
八角棒を持って、そろそろと林を抜けていく。
「ああー、若様、若様」
なんだ、なんだ。
覗くと、筵の上で豊満な人妻らしき女性に若者がのしかかっていて、周りを農村の子供のような連中が取り巻いている。
少女ばかりで、みんな裸で、指をくわえて見入っている。
「ふうー、やはり女は人妻に限る。次、竹千代お前やれ」
竹千代は丸っこい身体をしていたが、少年だった。
周りが少女ばかりなので気づかなかった。
「若様。私たちとは、しないのですか」
「初めてなんですよ」
「女どもは、向こうで相撲をするぞ。勝ったやつにはにぎりめしをやるぞ」
「きゃー」
「やる、やる」
一人残された竹千代は暫く人妻を眺めていたが、すぐに仲間を探しに行った。子供なのだ。
俺は人妻の裸にぼろい着物を掛けてやり、ちょっと揺すった。
「あのー、すみません。尋ねたいことがあるのですが」
「ああ、誰だあんた、見かけない顔だねえ」
「はい、ちょっと人を探しています」
「ふーん、金はあるか」
「こんなものでも良いでしょうか」
俺は100G、1万リナ金貨を取り出した。
「うおお、これは金貨でねえか。さあ、好きなだけやりなされ」
「いいえ、結構です」
「なしてだあ、やってもやらなくても金はおんなじだあ。やっといた方が得だべさ。おらこれでも北国育ちで、みんな、そりゃ喜ぶだあよ」
「いえ、急いでいますから」
「そうかあ、なら仕方がねえ。何が聞きてえ?」
「最近、空から来た人はいませんでしたか。女の人ですが」
「ああ、いただよ。天女様だと騒がれたが、駿河だかのお殿様の家来どもが攫っていっただよ。何でも珍しい女を集めているとか」
「ここのお殿様は黙ってみていたんですか」
「ああ、ここの殿様じゃとてもかなわないだよ。ほんとはおらを攫いに来たのかもしれん」
確かに。ウエストがもう20センチ細かったら。
「ありがとう」
俺はもう一枚金貨を渡した。
「あれ、こんなに貰ったら意地でもやらなきゃ収まらん」
「いいえ、結構です」
最後は駆け足で逃げなければならなかった。
まあ、悪い人じゃないのだけれど、それどころじゃないのだ。
ホバーで今川館に飛び、情報収集しようと思ったが、計算違いがあった。
駿河に駿府城や今川館などなく、デカい小田原城があったのだ。
しかも、関東や越後の兵が10万人以上で攻め込んでいる。
俺は拾ったボロボロの着物を着込んで、戦見学している近在の農民に色々と尋ねた。
「お城の名前は駿府城ですか」
「いんや、小田原城だ」
「じゃあ、お殿様は北条ですか」
「ああ、北条氏氏って言うだ」
「氏氏って」
「政氏だったが、将軍様に輝氏の氏の一字を頂いて氏氏になった」
ほう、そういうことも起こるのか。
敬称の氏をつければ氏氏氏だなあ。
「攻めているのは?」
「ああ、長尾氏虎と言って、越後の殿様だあな」
将軍に一字頂いたんだろうなあ。
しかし、流石は小田原城か。
10万を大手に飲み込んでしまうとは。
何となく時代考証が違う気がするが、今川義元がいないのだから、どうせ変なのだ。
しかし、桶狭間で殺されるのは、北条氏氏なのだろうか。
今後、20年くらいはここでの歴史展開を見てみたかった。
だが、のんびりと眺めていられなかった。
望楼というのか、大手正面に高々とそびえる堅固そうな櫓の窓から、北条氏氏氏が覗いていたのだ。
隣には間違いなくキョウコ、いや、母さんの姿がある。
「おっちゃん、馬を譲ってくれ」
「何言ってるだ。この馬は3両もしたんだ」
「これで足りるか」
「金貨10枚!」
「生きて戻れば、村に帰すからー」
「金はかえさないぞぅーーー」
俺は必死に駆けて、いや、馬が駆けて両軍15万はいる真っ只中に走り込んだ。
「母さん、俺だ、祐貴だ!」
望楼の母さんに叫んだ。声はデカい方だから聞こえるはずだった。
母さんは一瞬驚いたような顔をした。
薄い帷子というのか、白い薄衣一枚の姿は痛々しかった。
「なんじゃ、お前は。キョウ姫は二十歳の処女だぞ。子供がいるわけなかろうが!」
氏氏氏が怒鳴る。
母さんは赤くなって、プイと横を向いた。
母さん、見栄張るのやめようよ。
「母さん、俺、自分の惑星を見つけたんだ。平和に暮らせるんだよ」
プイ!
「親父も真面目に農民してるんだ」
プイ!
何か、気に入らないらしい。
隣で、氏氏氏が大笑いしている。
嘲笑というやつだ。
「ホエールもアメリカも国連も中国もみんな和解したんだ。心配することは何もないんだよ」
プー、プイ!
何かが違ったぞ。もう一押しか。
「CIAのスポンサーにもなった」
えっ、プイ!
惜しかったな。
「俺の星なら、処女に戻れるんだ。もう一度青春をやり直せるよ!」
「本当?」
「本当だよ。もう何人も処女に戻ってやり直している。再選択法って言うんだ。子供も産むことができる」
「祐貴!」
「母さん」
「キョウ姫!」
氏氏氏が母さんの肩をつかんだが、母さんは帷子を脱いで逃れ、全裸で望楼から飛んだ。
15万人ぐらいが息をのんだが、飛んだせいか、全裸のせいかわからなかった。
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