84 夏休みの宿題6
84 夏休みの宿題6
地球のタブロイド紙が、また嫌なものを企画した。
『エリダヌスの皇后は誰か! 第1回人気投票』
最初は例のマリーの講義が発端だったらしく、過去の歴史の話として、それほど非常識な記事ではなかったのだが、これはひどい。
何で、人間は順番が好きなんだろう?
それにだ。
好きなものを最初に食べる派と、最後までとっておく派がいるだろう。
俺なんか最初に好きなものを半分食べて、最後に半分食べる派だぞ。
嘘だけどさ。
そもそも好きも嫌いも無いだろう。
相手にはおっぱいがついてるんだぞ。
みんなも好きだろう?
最初に右おっぱい、最後に左おっぱいを食べればいいじゃないか。
いや、そんな話ではなかったな。
投票は3日間ライブでさらされ、契約者は見ることができる。
購読者サービスなのだそうだ。
数億配信をまた狙っているのである。
金儲けに利用するなよな。
ところが、夏休みでもみんな学校に残っているから、生徒たちも興味津々で、ついに大食堂の大型ディスプレイにライブ中継されてしまった。
どうやら、定時ニュースでも取り上げられた模様である。
ああ、本当に情報部を設立しないと、やばいかもしれない。
ディスプレイは選挙速報みたいな画面で、名前と全身の写真と得票数が出ているが、得票数の単位が何故かPである。
ポイントだろうが、それの基準がわからない。
まあ、選挙じゃないから不正も何もないが、基準がわからないと少しイライラする。
現在1位はラーマで、ホエールで撮られたのだろう、全身スーツ姿である。
当然、若い姿だ。
2位はチカコで、これはマリーの講義が効いているのだろう。
身分が高いからだという戯言である。
だが乗馬服姿のチカコを撮影したのは誰だろう。
「マナイ」
「はい」
「この写真は?」
「さあ、よくわかりません」
うーん、魔女でもテクノロジーは苦手か。
「おーい、カオルコ」
「だから、まだわからないでしょ」
「おい、カオルコ」
「ホエール票が開くのはこれからなんだってば」
「おい、カオルコ」
「ああ、ユウキ。何よ」
「これの、チカコの写真なんだが」
「ああ、カナホテルからの超望遠よね。お風呂とか気をつけないと駄目よ。いくつか改修して!」
そうなのか。この辺は森があるからあまり気にしてなかったが。
3位はクラで、地球の学校の制服を着ている。
大使だから、笑顔で撮られているのは仕方が無いか。
4位はキンで、これも国連総会が影響している。
写真はその時のトップレスである。
確かに美しいが、タブロイドで取り上げるのにこれはないだろう。
財務大臣なんだぞ。
5位はギンで、キンと同じだ。
ならば6位はドウじゃないかと思うのだが、ここにヨリが入っている。
軍服が似合わないほどの日本美人で、こちらはいくらでも撮影する機会があったろう。
7位はしゃれなのかナナである。
トップレスの大きなおっぱいは投票したくなるだろう。
だが、ナナは人妻だぞ。
おかしくないか。
8位はススだが、写真ははっきりしない。
ははあ、誰だかわからないやつが、勝手に撮影した中から特定して使ってるんだな。
だから、タキとレンが入っていないんだ。
噂しか聞いたことがないからだろう。
ラーマだってずっと領地から出なかったから、話に聞くぐらいしかないはずなのだ。
9位は母さんで、皇太后(参考)と書かれている。
写真はラーマと一緒の時のものだ。
10位も母さんで、まだ写真はなく「新人」と書かれている。
まったく、いい加減なマスコミである。
11位からは扱いが小さくなっているのは、マリーの講義で10人まで、つまり嬪までで10人だからだろう。
もっとも、まだホエール票は入っていません、とのテロップが流れているから今後はわからない。
カレン、サクラコ、ミサコ、サラサ、セリーヌ、キヌ、マナイ、ササ、豪華、ポリーナと続いているが、まったく話にならない。
大体、懐石とかフレンチとかのコース料理だって、お品書きの1番目にメインディシュが書かれていることはないだろう。
女だってそうだ。
最初は軽い女から入って、徐々に趣きのある女に、って、軽い女なんていたかな?
ラーマは焼き餅焼いたりしないけど、一生信じてついて行きますタイプだし、タキもそうだ。
レンなどは最初からあなたの女です違うなら刺しますみたいなタイプだし、サラスはあなたと一緒になるためならどんなことでも頑張って見せますだし、イリスは軽く見えてこれで駄目なら死にますタイプだった。
ヨリは命がけで守りますで、ミヤビは何があっても諦めません、ミサコはあなたのそばにいられないなら死にますか刺しますタイプだった。
クラとロマは最初から私の命はあなたのものですだし、パドマは民族滅亡の淵に立っていた。
うーん、軽い女なんてこの世にいるのだろうか。
「そろそろ、相撲協会との顔合わせですが」
マナイが日本製の端末を見ながら言ってくる。
「盗撮の危険がある場所を後でリストアップしてくれ」
「盗撮ですか」
ああ、そうか。マナイはエリダヌス関係には優秀な秘書だが、地球やホエール関係だと途端に低下する。
外にも行ったことがないから仕方が無いのだが、ここは地球文化とかテクノロジーとかも理解できる秘書が欲しい。
実際にはカレンが欲しい。
有能で、かゆいところに手が届くタイプだからだ。
だが、エリダヌス人ではないし、生徒だしなあ。
先生みたいに外国人として雇えばいいのだけれど、手続きすれば、面接に何十人も訪れるだろう。
そこにカレンを入れて出来レースをするわけにはいかないのだ。
クラが卒業すれば、秘書にできるんだが、まだ先の話だしな。
喫茶ギルポンに行くと、お客様はセリーヌが相手をしてくれていた。
一応、外務部の顧問でもあるからだ。
本人も日本語の先生よりはやりがいがあると言っているし、実際にホエールの外交上必要なのだと思う。
「いや、聞きしに勝る美しさとはこのことです」
「いやですわ。きっと娘のチカコと勘違いされた人が多いのでしょう。これからホエール票が入ってくれば変わりますよ」
「もっと、上位に入るのではないですか」
「そうでしょうか。困りましたわ」
セリーヌは全然困っていない気がした。
しかし、集客のためとはいえ、喫茶ギルポンにニュースを配信したのは拙かったか。
50インチの金属液晶だが、情報は十分に伝わる。
「親方、お待たせしました」
「おお、ユウキ代表。お招きくださりありがとうございます」
大鯨親方は2mもあって、マサイ人並であるが、横幅はマサイ人3人分ぐらいある。
現役の頃はもっと体重があったから大変な大男だ。
店に押し寄せているタルト村の男たちは感激している。
相撲があるときだけは、夜更かしして騒いでいるぐらいだ。
「エリダヌス人は相撲が大好きで、どうしても本場の相撲が見たいとうるさいので、ご無理を言いました」
「いえいえ、こちらこそ光栄です。噂のエリダヌスにご招待頂けるなど、夢のようです」
「セリーヌとは初めてでしたか?」
「ええ、お噂はかねがね伺っていたのですが、なかなかお目にかかれず」
豊作氏は大鯨親方の部屋にいる横綱『青鯨』のタニマチというのか、ファンでスポンサーでもある。
昔なら後援会会長か。
まあ、代表とトップレディーは別々に行動した方が効率はいい。
一緒に行動するのは、普通は上位の存在というか格式の所へ行くときなのだが、最上位の青鯨豊作であれば、そんなことは気にしないで済む。
仕事が二つ片付く方がいいのである。
だから、セリーヌと初対面でもおかしくはない。
もっとも、豊作氏は今ではいつでも4人で行動しているらしい。
もう、第2夫人も第3夫人もお飾りだったと言わんばかりにキヌと妹二人を離さない、ロリコン親父である。
とはいえ、俺もラーマを出したことはない。
誰が見せるか馬鹿野郎、って感じである。
今までは侍女で済んでいたから、そのままである。
お陰でニタに嫌みを言われたことがあるくらいだ。
ふん、妻を大事にして何処が悪い。
「村長のタルトを紹介します。今回のことが実現したのはナナ&サラサが協力してくれたからです。代表は俺になってますが、実際に経営しているのはタルト村長の娘とその友人なんです」
「ほう、そうでしたか。莫大な資金を出して頂いて……」
タルトは、あこがれの力士、いや親方を前にして目がハートになっている。
頭が動いていないのは確かだ。
「親方、一発張り手でお願いします」
「ええっ、そんなこと」
「いいんです。そうしないとずっと目覚めません」
「では、はいっ」
どんがらガッシャン。
片手で身体全体が吹っ飛び、タルト村の幹部たちを巻き込んでいった。
「タルト目覚めたか」
「流石、本場の張り手は違う」
「何で俺まで」(コラノ)
親方はモンゴル系だが、ホエール初の大関である。
青鯨はホエール出身では初の横綱だった。
勿論、モンゴル系である。
そのモンゴル人の先祖に近いエリダヌス人が、相撲が大好きだと知ったモンゴルの反応は凄く好意的だった。
世界相撲協会がエリダヌス巡業を許可してくれたのも、モンゴル人の好意が裏にあり、更に黒字をため込むばかりのナナ&サラサに青鯨豊作氏が手を貸してくれたのが大きかった。
後援、協力、協賛と色々な言い方ができるが、ごっそりと金を払ったのだ。
普通の後援の額ではないから、相撲協会の方が戸惑ったぐらいである。
まあ、モンゴルは日本とも仲がいいので、交渉は簡単だったし、将来ナナ&サラサがウール事業を興すときも、モンゴルが輸入相手になるだろう。
翌日、国技館の支度部屋は大勢の見物人で賑わった。
今日は練習日で、明日が本番である。
関東平野の男どもはみんな集まってきた。
女たちは苦笑しながらも、何人かで畑を守っている。
最も大変な思いをしている女たちもいる。
まず、侍女と見習いは一部を除いて力士たちの世話である。
カナホテルの従業員も借り出して世話している。
とにかく食べる量が半端ではない。
しかも舌が肥えているから、手を抜けないのだ。
タルト村とカマウ村の女たちは総出で、観客の世話である。
相撲見学は無料だが、飲み食いにはお金がかかるし、お金を取るからにはそれなりのものを用意しなければならない。
カマウ村の女たちは、大役を任されて張り切っている。
無事に2日間を乗り切ってくれるだろう。
幕下の練習の時、何人かはエリダヌス人に胸を貸してくれることになって、タルト村の幹部連中やパルタやイタモシなど若手が挑んだが、簡単に左右に投げられておしまいだった。
大男に群がる小学生のようだ。
「こいつはうちの有望な新人で波鯨と言います。代表、一つどうです」
そう言われると、俺も力士と相撲するチャンスなどこれっきりだろうから、挑ませて貰った。
波鯨は、185ぐらいのロシア人で16歳だという。
俺は全力でぶちかまし、上手下手と繰り出したが、半歩動かすのがやっとで、上手投げで簡単に投げられてしまった。
これで、まだ身体ができていない新人なんだから嫌になる。
「はは、どうです代表、有望そうでしょう」
ナナ&サラサは、波鯨のスポンサーになった。
その後、上位陣が軽く汗を流してから、子供たちのためのサイン会をしてくれた。
色紙に手形を押してくれるのだ。
ナナとサラサが子供たちに色紙を配ると、横綱以下上位力士の所へ飛んでいく。
大関ペガスス山。
関脇の白鳥湖。
同じく関脇のエリダヌス川。
そして一番人気の横綱青鯨である。
途中から大人も混ざり始めたが、横綱たちは笑って許してくれた。
タルトは10枚以上も色紙を集めたくせに、大鯨親方にまで貰っていた。
翌日の本番は凄いものだった。
カオルコの会社が配信したが、モンゴル、日本、ロシアでかなりの視聴率が出たし、ホエールでも凄いことになっていた。
だが、真剣に戦う力士たちの勝負は、見慣れた俺でも感動するものだった。
波鯨も先輩ひとりを倒して活躍してくれた。
最後はロシア系の大関ペガスス山を倒した日系の白鳥湖と、モンゴル系の横綱青鯨の一戦になった。
白鳥湖は善戦したが横綱には及ばなかった。
だが、将来の横綱を思わせる好勝負だった。
エリダヌスの住民が誰も彼も大喜びで、幸せそうだった。
ホエールの旅行客も一体になって喜んでいた。
タルトの悲願は、エリダヌス住民全体に夢と希望を与えた。
力士たちが満足して、アキの会社のチャーター機4機で帰って行くと、ホッとする間もなく、今度は盆踊りの準備に入っていった。
樽職人に競わせて和太鼓を作り、迎賓館前に櫓を作った。
タルトは花火職人と打ち合わせをし、コラノは息子のトリノと一緒に、『タルト村音頭』のレコーディングに入った。
カナとリンがシンセサイザーで演奏し、タルト村の夫人たちがバックコーラスを担当し、アカリが振り付けを考えた。
俺もルミコ、サクラコ、アキ、ジュンコに協力して貰い、内緒の企画を進めていた。
そういえば、皇后はラーマに決まったようだ。
ヨリとチカコがホエール票で伸び、妃に決まったようだ。
司法試験に受かったミサコが帰ってきて、ミヤビと二人で愚痴ってきたが、マスコミの戯言で片付けた。
カオルコは父親に言って順位が不当だったとタブロイド紙に脅しをかけそうだった。
やがて9月に入り、ブドウが実ると農業実習をかねてブドウ狩りを行った。
タルト村は総出で、ホエール人観光客まで巻き込んで、ブドウを刈り尽くす勢いだったが、ブドウの丘はびくともしなかった。
今回は夏期施設に間に合わなかった真鈴と美鈴姉妹も参加し、最初のブドウ踏みの栄誉を授かった。
侍女たちも次々に参加し、ホエール娘たちも全員が参加した。
ヨリ、ミサコ、ミヤビは臆していたが、無理矢理やらせると、3人の少女は楽しそうに踊り回った。
次は母親十人委員会が参加して、処女縛りなど関係無くなった。
ポリーナ、ベッキー、マリー、アリエと次々に参加していき、国家も星系も関係無くなった。
俺はダライラマ氏とガンデン・ティパ氏にスク水を無理矢理着せて、ブドウ踏みをやらせた。
領地の外で、流石にトップレスは拙いだろうと思ったからだ。
二人は恥ずかしそうだったが、周囲が皆楽しそうなので、頑張ってくれた。
普通に美しい少女たちだった。
ホエール人観光客もマスコミも満足したが、一番喜んでいたのはカナホテルの支配人だった。
1週間で2000樽以上のワインを仕込めたからである。
ブドウの収穫が終わると、農民たちは忙しくなるので、祭りもこれが最後である。
これから、クリ、リンゴ、米、麦、芋、それから鮭と11月末までは一年で一番多忙な時期である。
だからこそ、盆踊りぐらいは楽しんで貰いたい。
俺は侍女たちを連れて、妻の館から回った。
ラーマ、タキ、レン、サラスとイリス、それに子供たちに浴衣を選ばせた。
母さんと母さんが参加してきて、それはもう楽しそうだった。
皆、一応妻らしく、膝丈の浴衣で統一された。
レンはミニ丈を俺に披露してくれたが、タキに文句を言われて、膝丈に戻した。
子供たちも浴衣の柄は男の子も女の子もなかったが、男の帯は黒で統一された。
次はヨリの部屋だったが、館が広いので、最近はチカコとミヤビとカレンも一緒に住んでいる。
ミサコも参加してきた。
ヨリは駐在武官だし、ミヤビは教師だ。
ミサコはこれから豪華さんに変わって法律の教鞭を執るという。
カレンは何となく居着いているが、便利なので誰も文句はないようだった。
チカコは元々ここに住んでいるのだった。
時々現実感がなくなると、チカコのおっぱいを揉んで殴られるを繰り返していたが、最近はおっぱいぐらいじゃ文句も言わなくなってきた。
面白くない。
実は、チカコは迎人氏と通信球というのを開発し、ゲートの両側のAIにキャッチボールさせて、30分に一度という通信手段を開発していた。
これで、地球と迎人氏とエリダヌスは、30分のタイムラグで情報を共有することができている。
ホエールの船が来るたびにニュースなどが配信されるが、ユウキ領もチベットも、ホエールと3日から1週間ぐらいのタイムラグがあったのが、これでだいぶ解消されてしまった。
ともかく、5人の浴衣姿は美しかった。
ヨリは日本美人だから当たり前だが、他もみんなお嬢様だからかよく似合っていた。
きちんと長い浴衣を選び、下着は着けないという王道だった。
5人のお尻を触りまくりたいと思ったが、マナイが視線を寄越したので、我慢して学校に向かった。
学校ではまず先生と母親十人委員会に浴衣を着て貰い、それからホエール娘たち、侍女たち見習いたちと着付けをしてもらった。
過激なミニの浴衣姿が沢山生まれていった。
最後にタルト村へ向かい、夫人たち子供たち、それから親父たちに浴衣を配り、その後迎賓館で手伝いの少女たちにも浴衣を配った。
迎賓館前で、タルト村の盆踊りが始まった。
俺は迎賓館の広間で、妻や子供たちと村長たちの挨拶を受けていた。
カリモシ村、村長カリモシ。
ニタ村、村長ニタ。
サンヤ牧場、牧場主マリブ。
ラシ村、村長ラシ。
カマウ村、村長カマウ。
ギルポン村、村長ギルポン。
ナルメ村、村長ナルメ。
イタモシ村、村長イタモシ。
パルタ村、村長パルタ。
ロン村、村長ロン。
ウマヤ村、村長ウマヤ。
トチ村、村長トチ。
ミト村、村長ミト。
カナホテル支配人、ミゲール玉置。
七湖荘支配人、サンヤ。
湘南リゾート代表、空鯨ツバキ(カエデの妹)
元タマウ族、族長タマウ。
元スルト族、族長スルト。
農民、ユウイチ。
農民、マサシ。
変な親父が10人ずつ妻を従えて現れていたが。
「おい、伶子。ずいぶんと若返ったじゃねえか」
「処置して、処女に戻ったのよ」
「へえ、また痛い思いをするなんてお前らしいといえば、お前らしいか」
「祐一、私、子供を産めそうなの」
「何だって!」
「新しい遺伝子処置で15歳ぐらいの子宮に戻ると不妊は改善されるのよ」
「じゃあ、お前」
「ええ、あなたとは終わり。キョウコの息子の子供を産むわ」
「そうか、まだ続けるのか」
「ユウキなら見つけられるわ。強運だもの」
「そうかもしれねえな。祐貴、お前ももう大人だ。自分の人生は自分で決めろ」
いったい何の話だろう。
「祐貴、実はこの夏、三国峠を越えて新潟に行ったんだが、そこで100人ばっかり飢えた娘を預かってきた」
「何の話なんだよ」
「教育して、新潟に農業を興せるようにしてくれ」
「親父が教育すればいいじゃないか」
「俺はまだ、100人も養えねえよ」
「祐貴君、領民は大事だよ。後はよろしく」
親父も校長もそれだけ言うと、妻たちを連れて盆踊りに行ってしまった。
「母さん」
「祐貴、今度説明するから、今日は許して」
驚いたことに母さんは涙ぐんで逃げていった。
俺は追いかけようとしたが、もう一人の母さんに抱きつかれて『ユウキ、赤ちゃんもっと』とキスされると、ミヤビとミサコが参戦してきて、それどころじゃなくなった。
そういえば、このもう一人の母さんはどうするんだよ、親父。
もっとも、母さんが親父を忘れているようだから、親父が覚えているとは思えなかった。
盆踊りは順調で、櫓の上段にはお手本を示すタルト村の夫人たちが、日本の有名どころの踊りを見事に再現し、周囲は見よう見まねで踊り始めていた。
そこには、ホエール娘も侍女も教師も観光客の区別も無く、年齢も人種も国籍も関係無かった。
タルトとコラノは最上段で和太鼓のバチを見事にさばき、ドンドンと腹に響くいい音を奏でていた。
迎賓館前の通りには両側に屋台が沢山出ていて、子供たちが走り回っていた。
俺の子供たちも、いつの間にかその流れに入り込んでいる。
やがて、初公開の『タルト村音頭』が流れた。
リズムのとりやすいテンポに民謡らしいメロディー。
故郷の有名な産物を褒め称え、山河を喜ぶとても味のある歌詞をトリノの美声が歌い上げ、コミカルに合いの手が入っている。
みんな自然に踊り始め、楽しそうだった。
だが、歌詞の最後がひどかった。
「でもでもさぁー、ご領主さまはぁー、ナナおっぱい!」
踊りの振り付けも大きなおっぱいを思わせる振り付けになっている。
ナナが座り込んで、いやんいやん言っていた。
なんだよ、このオチは!
やがて、上空を大きな花火が彩り始めた。
大江戸花火が隅田川の河口付近で打ち上げているのだ。
エリダヌス人は、初めて見る花火に興奮していた。
妻たちや子供たちも、大喜びだった。
タルト村音頭は日本で流行り、日本の小学生の間では、ナナおっぱいが大流行した。
それから、俺はダライラマ氏とガンデン・ティパ氏を解雇し、空港から小型機で上海に連行した。
ダライラマ氏は何かが進行していることは予想していたが、具体的には何も知らされていなかった。
ヨリとカオルコがブロックしていたからである。
「中国に引き渡すのじゃな。見損なっていたか」
「猊下だけは逃がしてくれませんか」
強がって見せていたが、13歳の少女は蒼くなっていた。
まあ、俺は精一杯したつもりだから、今後の評価はそれぞれに任せることにした。
中国のダライラマは、亡命政権が上手くいかないのを悲しみ、この少女にチベット人の未来を託したのだった。
その後、家臣の中核をなす名家の息子たちを送り込んだが、そこからは中国の妨害が入り、何もできなくなってしまった。
だが、いつかエリダヌスのチベットが力をつければ、地球のチベット人は少女の国に行き、悲願のチベット王国を築いてくれるだろうと考えたのだ。
インドの従兄弟がダライラマとしてエリダヌスに渡ったことを知れば、きっと満足してくれるだろう。
ポタラ宮には特別に着陸設備が備えられ、上海国際空港で乗り換えなくても良くなっていた。
まあ、小型機だけなのだが。
サードと一緒に宮殿の扉前に行くと、ロシア系とポリネシア系の僧服の少女が出迎え、ダライラマ氏とガンデン・ティパ氏を連れて行った。
その先で、インドの、いやエリダヌスのダライラマ猊下が、ゲーモを出迎えていた。
ダライラマ氏は、いや、チベットのゲーモは驚愕して、大体おじいさんに当たるはずのダライラマ猊下に抱きついていた。
即位する女王と未来の座主は、慌てて振り返って何かを言ったが、俺は既に背を向けて歩いていて、サードと小型機に乗り込み領地へ帰還するコースを小型機に指示していた。
サンホセとサンリンが、泣きながら手を振っていた。
俺は、やっと夏休みの宿題を提出して肩の荷を降ろした。
「最後の言葉を聞きましたか、ボス」
「いいや、聞かなくてもわかるよ。ユウキ、この馬鹿者、だったろう」
「いいえ、ボス」
「何だって?」
「この大馬鹿者ですよ、ボス」
「そうか、まあ、それぐらいで済んで良かったよ」
「そうですね。他にもロリコンとかマザコンとか結婚詐欺師とかおっぱい星人とか、色々ありますからね、ボス」
いや、あの場面で、おっぱい星人だったら、流石の俺も泣くからね。
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