83 夏休みの宿題5
83 夏休みの宿題5
カテレヤは、イリエンコワ大統領より落ち着いた人物に見えた。軍人としては美人であり、関係ないが巨乳でもある。
どうも、あの大統領がはっちゃけすぎているので、これくらいが普通なのだと思う。
しかし、何処かしら色っぽさという点では、大統領やポリーナ先生に繋がる部分があるような気もする。
やはり、血筋なのだろうと思う。
「いつも娘がお世話になっております、閣下」
「いえ、俺の方こそ不出来な生徒で、ポリーナ先生にはご迷惑をおかけしてばかりでして…… きっと愚痴ばかり聞かされていますよね」
「まあ、愚痴というか弱音というか、あの子は少し打たれ弱いところがありますので、つまらない泣き言ばかり申して困っております。大統領と足して2で割るぐらいが丁度良いと思っております」
「確かに両極端ですよねえ」
「それで、閣下はどちらが好みなのでしょうか」
「えっ?」
「おっぱいを見せたがるのと、恥ずかしがるのとですよ」
「それは……」
えーと、普通は見せたがるのが嬉しいだろうが、恥ずかしがるのも嬉しいよな。
でも、大統領は困るよな。国際問題になりかねないし。
ならば、ポリーナなら見ても良いのか?
いやいや、駄目だろう。教師と生徒の関係だしな。
俺が混乱していると、カテレヤは嬉しそうだった。
なせか猛禽類と同席しているような気分になったが、相手は訓練された軍人であるから、まあ、そんな部分も持っているのだろうと思う。
「あら、流石に専門家と呼ばれる方は違いますね。私は見なくては始まらないと思っておりました。少し軽率でしたわ」
いや、専門家じゃありませんよ。
カテレヤはユーモアのある人のようだった。
「では、お詫びに私のおっぱいでもどうですか」
「いえいえ、ジョークでも結構です」
「あら、ジョークなどではありませんよ」
カテレヤはごついリムジンの中で制服の上着を脱ぎ始めた。
スモークガラスではないから外から見えるのではと心配したのだが、車内はすぐにカーテンが張り巡らされていく。
いや、ナノプログラムのガラスで、レース状の模様が入っていったのだ。
「いえ、結構です。困ります」
「まさか、母や娘のおっぱいは良いのに、私のは駄目だとか仰いませんよね!」
何だか怖い。
しかも、向かい側の席にいる二人の女性部下の目が更に怖い。
「いや、そうではなく……」
そうではなく、何だろう?
何で、こんなことになっているのか? 誰か説明して!
「幸い、大使館到着まではかなりの時間がかかりますから、十分に堪能する時間はございます」
そう言いながら、カテレヤは白いブラウスを脱いで見事なカップを見せつけてきた。
いや、カップも見事な作りだったが、本当に見事なのは中身である。
それは、少女には絶対に出せないような大人の色気がにじみ出すというとりは、溢れ出していた。
「准尉、伍長、何をしている! お前たちも脱いで閣下にお見せしろ!」
「はい、大尉」
「了解です、大尉」
二人の部下も、すぐに脱ぎ始めた。
カテレヤは、既にスカートも脱いでいる。
いや、『何をしている』はこっちの台詞ではないだろうか?
ああ、あのポリーナのひもパンは、母親が選んだのかもしれない。ついでに、部下の分もかも?
「さあ、閣下。最後の一枚は閣下のお手でどうぞ」
俺の座っていた座席は背もたれが勝手に後ろに倒れて、ベッド状になってしまった。
膝立ちで、ひもパン1枚のカテレヤがにじり寄ってくる。
大統領ともポリーナとも異なる?おっぱいが揺れていた。
「あ、あの、そういうことは、もう少し、お互いのことを、良く、知り合ってからですよね」
「あら、閣下は大統領やポリーナと良く知り合っているのでしょうか?」
「いいえ、はい、いいえ」
「さあ、どれでもお好きなのから召し上がれ」
前後から、いや左右から、3つの、いや6つの、いや3組のおっぱいが攻めてきた。
もがいても押しつけられ、呼吸もできないほどだ。
ジタバタしているうちに、すぐに下半身に異常を感じ、ズボンは既に無くなっているようだ。
「さあ、邪魔なものは、全部、脱いでしまいましょうね」
ずるりとパンツを脱がされる感触がした。
だが、上半身は二組の上気したおっぱいに攻められ、今は下半身どころではない。
にぎり!
「どうわー、降参です。降参します。許してください。何でもしゃべります」
「あら、残念。閣下で先日の嫌な男を上書きしようと思いましたのに」
カテレヤはそう言うとぺろりとなめた。
暫くして、車内は元通りに戻った。
何もなかったかのようである。
いや、部下二人が赤くなって俯いているところが違うが、カテレヤは何もなかったかのようである。
「まったく、同盟国にハニートラップを仕掛けるなんて」
「人聞きがお悪いですよ、閣下。トラップなどではなく、単なるサービスです」
「過激なサービスには、高額な請求書が付いてくるのではありませんか?」
「お金など要求しませんよ。ロシアは閣下のお陰でずいぶんと儲けましたもの」
「どうだか」
「それに、二人の娘も男を知って大喜びですわ」
「ふ、二人の娘って?」
「ええ、こっちの准尉がカリーナ、長女です。21ですわよ」
カリーナはちょこっと顔を上げたがすぐに俯く。
「こっちの伍長が次女のセリーナ。二十歳になったばかりです」
セリーナは顔も上げない。
「あの、失礼ですが」
「ええ、三女がポリーナです」
「しかし、でも」
「ええ、私がこんな仕事をしているせいで、3人とも父親が異なりますの。お相手は選りすぐりのいい男だけに決めておりますから娘たちは3人とも優秀なのですわ。でも、何故か男性恐怖症になってしまいまして、軍には居場所がないので私が引き取りました。ポリーナはまだ民間人の身分ですけど」
「しかし、このような環境では、更に悪化するのではありませんか?」
「いいえ、娘たちには私の仕事はさせていません。雑用ぐらいでしょうか? 情報を引き出すためにパンツを脱ぐなんてお仕事、とても娘にはさせられないでしょう?」
いや、さっきしましたよね。
それどころか、領地ではポリーナ先生まで脱ぎかけたんですが。
そうか、民間人でも、一応、情報部所属なんだろうな。
可哀想に。
母親からは、逃げられないよな。
「今度からは、娘を使わずに直接聞いてください」
「では、私と4人目を作ってくださいますのね」
俯いていた姉妹がピクリと動いた。
「あら、競争かしら?」
今度はもぞもぞしている。
「で、何が知りたいんです」
俺はクーラーボックスに入れておいた竹筒を取り出し、ユウキ領のわき水を飲む。
駆け引きは、もう沢山である。
「そんなに拗ねなくても、後でちゃんと続きをしますから」
「いいえ、結構です」
「まあ、もしかして気に入らないとか? お母さんに男の子を産ませたマザコンのくせに生意気!」
「うぐっ!」
流石に情報が早い。ちくしょうめ。
姉妹の視線が来たような気がするが、見ると俯いたままである。
「ああ、まだポリーナが泣いているような気がするわ」
「だから、何が知りたいんです!」
一瞬で車内の何かが変わった。
多分、録音か録画か両方かが作動したのだろう。
俺はわざわざ、ロシア大使館の罠にはまりに来たんだな。
これでは、エリダヌス大使館の車でも駄目だったろうな。
農業惑星にもスパイが必要なんだろうか。
チカコはともかく、マナイは攫われそうだな。
「一つは、インドの双子座進出が本気かどうかです」
「いいえ、演技です」
一瞬の返答に、カテレヤは少し驚いたようだった。
姉妹もフリーズしているみたいだった。
優秀な分析官なのだろう。実戦は駄目そうだけど。
「こほん、そうですか…… では、ホエールは干渉せずに黙っているだけですね」
正確には何も知らないのだが、今はそれでいいだろう。
「ホエールのことまではわかりませんが、双子座を中国に譲るのは前からの決定事項ですよ。ホエールも渋々ですが承諾しています」
「マサイといい、双子座といい、まったく星ひとつをポンポンと簡単に譲って……」
「そちらもロシア大陸に移民してるじゃないですか。開発も順調だし、中国よりずっと有利になると思いますよ。双子座は100年先にならないと利益も出ないでしょう? それに近隣の大国のの野望が宇宙に向いているというのは、ロシア政府の精神衛生上いいことじゃないですか。近隣の心配せずに平和に暮らせるのが最高ですよ」
「でも、その先は負けてしまいます」
「そんなことはありませんよ。星がひとつより星系連合の方が強いんです。いつか別の星が見つかった時に星系連合加盟国の方が何かと有利になると思います」
「エリダヌス連合ですか」
「エリダヌス・ホエール連合です」
「130人の妻ですか。閣下は自分の子供たちで宇宙を征服できますわね」
「俺は辺境のいち農民ですよ」
まったく、地球の国際問題など迷惑なだけだ。
もっとも、今回は宿題だから仕方なくやっているのだが。
「その、いち農民がホエールの手も借りずに300光年を簡単に飛んでくるのは、一体全体、どのような仕掛けでしょうか?」
「理屈はわからないので、黄鯨迎人氏にでも聞いてください」
「今度来る時はインドの方でなく、ポリーナを連れてきてくださいますか?」
「機会があればそうしましょう」
「それより私が会いに行きたいので、ご一緒に連れて行ってくださいませんか」
「考えておきましょう。でも、お忙しいのでしょう?」
「ええ、中国国境が騒がしくて、上層部が落ち着かないのですよ」
「へえ、大変なんですね」
「大豆農家の大豆が売れないらしいんです。何で中国人はホエールに頭下げるのが嫌なのかしら」
「貿易で一度負けたので、もう負けたくないんですよ。ですから俺の双子座に飛びついたんです」
「それにしてはチベット移民に嫌がらせをしていますよね。恩知らずだから、少し叱ってはどうなんで……」
カテレヤは気づいたようだった。
「まあ、既にお叱りになったのですね。まあまあ、そうでしたの。流石は閣下、今日はみだれてしまいそうですわ」
「相手次第ですけどね」
「閣下なら横っ面を張り飛ばしても、相手は文句を言えないと思いますよ。相手に、Mの気があると良いのですが」
カテレヤはご機嫌だった。
中国人が嫌いなのだろうか。
中国人のハニートラップには引っかからないようにしよう。
「最後にひとつだけ。ダライラマは決定ですか?」
「何でも、最高のダライラマを呼んであるそうですよ」
「まさか閣下でも、愛人をダライラマにはしませんよね。チベット人が納得しないでしょう」
いや、彼女はまだ13歳だし、愛人じゃないです。
「決めるのはチベット人に任せてあります」
「けれども、閣下が文句を言っても中国のダライラマは手に入りませんよ。双子座を手に入れてもチベットが反乱を起こせば中国は収まりません。本当は、ランクで見劣りしないインドがおすすめですが、インド政府も頑固ですし、力尽きた亡命政権で手を打った方が平和で良いのではないですか」
「いえ、チベット人は自分たちで決めるでしょう」
「そうですか」
カテレヤは少し考えていたが、『ちょっと失礼』と言って、リムジンの運転席側に行ってしまった。
非常事態もあるので、完全防音の隔壁ではなかった。
『そう、インドの方よ。何、托鉢している。ダライラマが托鉢など、何、新たなダライラマ? 生まれ変わりだと』
『何故、インドが大豆を買うんだ。不作? そんなはずはない。理由はあるはずだ。もう一度全部調べろ』
残された姉妹と俺は居心地が悪かった。
俺の視線が動くと、スカートの裾を引っ張ったり、胸を隠そうとするのが悲しかった。
『もう一度調べてから、もう一度調べ、それからもう一度調べろ。わかったな』
すぐに、カテレヤは戻ってきたが、その表情には見覚えがあった。
俺を獲物として狙う大統領の顔だった。
ロシア大陸移民で、都市部のスラムが消え始め、イリエンコワ大統領は、相当人気をあげている。
やはり、この人が大統領の後継者なのだ。
しかし、良い情報は得られなかったらしい。
「閣下、今夜は寝かせませんよ」
「悪いけど、日帰りなんだ」
カテレヤはビックリしたようだが、にやりと笑ってからクーラーボックスから多分ウオッカを取り出すと一気に飲んだ。
メープル酒を飲み干すイリエンコワ大統領そっくりで、一応諦めてくれたようだった。
「ところで、閣下のところで処女に戻れるって本当でしょうか?」
「まあ、近いうちにそうなりそうです」
「私を招待して頂けないでしょうか」
「何故です。お仕事に差し支えが出るのではないですか」
「最近、疲れてきまして、引退も考えているのです」
「とてもそうは見えませんが……」
「最近、処女膜がすり切れてしまっているようなのですよ。閣下、探して頂けますか?」
「わ、わかりました。招待しますよ」
その返事で、カテレヤは少しだけ気が晴れたらしく、ウオッカをもう一杯飲み干した。
大使館では、中国の農業担当副総理とインドの財務大臣が、ご機嫌でタルトワインを飲んでいた。
クラとロマが笑顔で注いでいる。
押し寄せていた大豆農家は、大豆が高値で売れていると聞くと、慌てて各国市場の動きを見に行っていなくなった。
「いやあ、まさかインドが大豆を買ってくれるとは」
「いやいや、我々も商売は商売、これは別ですからね」
「ユウキ閣下、スパイは主席も知らなかったと言っております」
「そうですか、良かったですよ。青島がマドラスになるかと心配していたんです」
これはちょっとした嫌みだ。
既に、人民解放軍総参謀部第二部の第三処と、国務院・国家安全部第九局の人事は混乱しているという。
どちらかが、スパイの配給元だったのだ。両方かな?
双方が責任を押しつけ合って、共倒れになりそうである。
「いや、双子座は我々の悲願ですから、下っ端のスパイなんかにつぶされては堪りませんな。それに中華という名の惑星に、マドラスは少し響きが悪いでしょう」
「確かにチンタオが似合いますな。ビールも美味そうです」
インドの財務大臣が合いの手を入れる。
頗る機嫌が良さそうだった。
「おお、そこをわかってくださるか。今度は中国最高のビールを奢りますから、インドの友人たちを連れて遊びに来てください。如何に中国が土地を大切に育てているかわかりますから」
中国は決して謝らないが、とりあえずエリダヌス介入は防げそうだ。
インドの双子座介入により、如何に不愉快か学んだのだろう。
肝が冷えたか?
インドの買いで、大豆も例年通りに近い値段で売れ始め、そうなると天然ガスも価格が下がるから不思議なものだ。
チカコのお陰だろうが。
今後はエリダヌス豆という革袋に入ったお菓子やつまみがホエールで売れまくるはずだ。
革ではなくビニールに入った廉価版だが、仕掛けたチカコが言ってるのだから、間違いない。
そもそもホエールでは豊作氏のお気に入りのつまみで、わざわざタルトワインとセットで輸入しているぐらいなのだ。
しかし、豊作氏は中国嫌いである。
以前、貿易問題と移民問題で中国の不遜な態度に相当頭にきたらしい。
だから、中国の大豆がいかに安くても買わない。
ホエールで大豆が不作でも買わないぐらいの意地っ張りで、ホエールの食品会社が困っても譲らないのだ。
なのに、インドが加工すればOKなのだから話は単純だ。
実際はチカコがすべて仕掛けたことなので、俺は命令して、眺めていただけなのだが。
お陰でインドも大儲けの糸口をつかんで大喜びである。
ホエールとの取引は、地球市場の200倍も儲かる。
それで、中国に頭を下げるぐらい何でも無いのである。
よいしょのひとつやふたつ、安いものなのだ。
「あの、領主様」
俺が帰りの船をエリダヌスに向けて飛ばしていると、すっかり地球人らしくなったクラが寄ってきた。
セーラー服なんて、誰に教えて貰ったんだか。
しかも、見えそうなほど短いスカートである。
「あの、クラは領主様と一夏の経験をしたいです」
「クラ、また地球で変な知識を仕入れてきたな」
「いいえ。今回はエリダヌスです」
「何だって?」
「だって、処女再生できるんですよね」
「まあ、そうなる予定だな」
「それなら、今回経験しても、卒業後に再生して、また領主様とできますよね」
ううーん、それって何か意味があるんだろうか。
「別の人とするために再生するんだぞ。同じ男なら再生する意味ないだろう」
「いいえ、二度目の初めても、クラは領主様がいいのです」
二度目の初めて?
日本語としてはおかしくないか。
「じゃ、ロマは3度したいです」
「ロマ、何で裸になってるんだ!」
「エリダヌスらしいからでーす」
地球の水が合ったのか、ロマは元気キャラに変貌していた。
まあ、元々筋肉系の両親だったからなあ。
前は言語問題があって意思表示がはっきりしなかったけど、地球での生活で自信が付いたのだろう。
「地球で裸になったりしてないだろうな」
「クラと違ってロマは大丈夫です」
「こら、ロマ! 酷いこと言わないでよ」
「クラは下着の時に男の子に覗かれて泣いてましたー」
「何だって! 覗かれたのか」
「ロマなんか、もう3回も告白されてます!」
「告白だと!」
「あら、クラだってショーンに告られてたじゃない」
「ロマはユーリ先輩とハンバーガー食べに行ったでしょ」
「お腹すいてたんだもん」
何だ、青春しているのか。
ちょっぴりとうらやましい。
「あの、領主様?」
「あの、領主様?」
俺の青春は、エリダヌスかなあ。
「もう、ロマのせいよ」
「クラだって悪いのよ」
「ロマはもう一年処女で良くても、クラは待てないの」
「ロマだって今年初体験したいもん」
「地球でしてなさい。領主様はクラとするんだから」
「領主様以外は絶対に嫌!」
「でも、クラが先です」
「ずるーい」
クラとロマはエリダヌスまでずっとドタバタしていた。
地球では普通に女子中学生しているようだ。
だが、やはり故郷に降り立つと雰囲気が変わった。
唯一地球に持って行った巻きスカートを穿いて防疫所を抜けてくると、出発前に戻ったかのようだ。
しかし、クラは163センチ、ロマは167センチもある。
スカートは、はち切れそうだった。
二人は俺の左右の手を取ると、引っ張るように歩き出した。
わざわざ夕暮れの東京湾を歩き、それから近代化している商店街や行政庁舎に足を向けた。
「変わってしまっても、やっぱりエリダヌスは故郷です」
「うん、空気が違うね」
「落ち着いた感じがします」
「地球は楽しいけど、せわしなくて」
「水が不味いです」
「うん、ロマも地球の水が一番嫌」
「領主様。鮭が食べたいです」
「ロマも鮭。ギルポン茶に鮭ドッグ!」
「鮭は冬じゃないと取れないぞ」
「鮭ビンでもいいです。ひとつ丸ごと食べたいです」
「50食は無理だろう」
「そうですね。でも、丸ごと食べたいくらいです」
「鮭ビンは領主様が初めて作ったんですよね」
「エリダヌス人にとっては、故郷の味ですね」
「そうそう、あれを食べないとエリダヌスって気がしないよね」
「俺が来る前からみんな鮭好きだったけどなあ」
「でも、焼いて食べるだけだったんですよね」
「後は塩鮭か干したやつだね。春まで持たないからみんな飢えていたな」
「一年分を食べてしまうぐらいの必死さがあったのを覚えています」
「そうそう、体重が倍になるんじゃないか思うほど食べておかないと、次はすぐに飢えちゃう」
子ジャケがそうだったな。
鮭が来る前はそんなに目立たないのに、鮭を食べまくって、あんこ型の体型になってたっけ。
「よし、迎賓館で鮭ビン大会だ」
俺は見習いに手伝って貰って、鮭ビンで何品も料理を作り出した。
タルトたちが聞きつけて集まり、参加してきた。
夫人たちも来て、芋の飴煮を出してくれた。
「うわあ、こっちも懐かしいです」
「故郷の味よね」
タルト家とコラノ家の子供たちも一緒に夕食になったので、大騒ぎになった。
子供も孫も区別無く一緒に育っているので、どちらも大所帯である。
大きなクラとロマは、子供たちに大人気だった。
みんな地下鉄や、お店が1000店舗もあるショッピングモールの話を夢中になって聞いていた。
俺が新作の鮭天丼を出すとみんな美味いと喜んだ。
ロマは鮭天丼にマヨネーズをかけ、クラはケチャップをかけて食べていて、子供たちが次々とまねしだして、ケチャップ派とマヨネーズ派に別れて争った。
夜に、クラとロマは湯上がりの裸を見せに来た。
あれから1年以上が過ぎていたから、二人の身体はずっと大人びて見えた。
「クラは領主様のものです」
「ロマだって領主様だけのものです」
その夜は、3人でいちゃいちゃしながら寝た。
ロマは、おっぱいつんつんを喜んだりした。
翌日、湘南に二人を連れて行くと、侍女たちに大歓迎された。
群がって地球の話を聞きたがった。
砂浜では相変わらずビーチバレーが流行っていて、俺はクラとロマをチームメイトにしてベッキー・マリーの最強コンビに挑んだが、3戦3敗だった。
実は新たなチベット人が100人到着していたが、タルトとマナイに頼んである。
要領を覚えたから、明日にはスパイはより分けられているだろう。
本国の意向が、末端のスパイに行き渡るには、だいぶ時間がかかるようだ。
その後、夏期施設は無事に終わり、みんな学校に戻った。
母さんは母さんに引き合わせると、『ユウキの赤ちゃん』とかまだ言っていたが、邸をひとつあてがわれ、見習いを二人つけてもらえた。
弟の名前は『頼一』になった。
母さんの名前が何度聞いても『ライ』なので、母さんがそう名付けた。
一応、親父の子供であると認めたのだろう。
アマゾネス軍団は、10人がカナにスカウトされ、リゾートで研修に入った。
カナホテルの支配人が、3人ほどベテランを教師として出してくれたらしい。
残りの10人は、一度ボルネオ島に戻した。
食料を満載してやると半分は仕方が無くという感じで戻っていった。
どうせ、カナリゾートが始まれば、人手は足りなくなるから、すぐに何人かは戻ってくるだろう。
子作りは諦めてないようだし。
自分の娘たちが、ボルネオ島でアマゾネスをしている姿を想像して、おっかなくなった。
俺はボルネオ行きは諦めよう。
親父の娘たちと自分の娘たちに、子作りを迫られても困るからだ。
空港に行くと15人が縛り上げられていた。
彼らは、まさか130センチ台のタルトたちに、のされると思っていなかったようだ。
85人はすぐに上海に送り、次の100人をサンホセたちに迎えるように指示した。
ヨリの予想では、最初の50人を中国側に取り込むのが目的だから、後から来る方がスパイには不利になるので、もうこれでスパイは残ってないだろうとのことだった。
ニューヨーク国際空港には、きちんと大使館員がクラとロマを迎えに来ていた。
クラとロマの涙ながらのキスは、クラたちの学校でも話題になったという。
学校の男たちは何故告白しても断られるのか、理由を知って悔しがったらしい。
俺はサード二人と15人のスパイを護送した。
デリー郊外では大佐が待っていてくれて、スパイを受け取ってくれた。
インドは大豆加工の半分を中国工場に依託し、更に中国政府から感謝されているそうだ。
勿論、市場がホエールだから、販売はあくまでもインドの商社扱いになっているという。
困ったことに、エリダヌス豆はインドでも中国でも売れ出していて、下手すると中国が大豆輸入国にならないと間に合わないかもしれないとのことだ。
インドの大臣と中国共産党の幹部たちが、エリダヌス豆とチンタオビールを組み合わせて喜んでいるところを、メディアに取り上げられたらしい。
俺は本物の革入りのエリダヌス豆を取り出して、一袋大佐に渡し、二人でポリポリ食べながら、スパイが連行されていくところを眺めていた。
スパイレベルは更に下がっていて、金で雇われたものばかりだった。
「そう言えば、カレー味の豆って作ってなかったな」
「それじゃ!」
いつの間にか現れたバラモン3人組が、俺の豆を奪ってポリポリ食べ始めた。
「ガラムマサラでは、原価が上がりすぎます」
大佐がそう言うと、バラモンの一人が
「日本の商社はスパイス10%以下のカレー粉を作れるのじゃ」
と、面白そうに言っている。
「そういえば、日本のインスタントコーヒーにコーヒー豆100%と書かれているのを見ましたが、100%じゃないのは何を使っているのでしょう」
「昔、ドイツのUボートではコーヒーがなくて、あらゆるものを混ぜてコーヒーと称するものを作ったそうじゃよ。まあ、大豆じゃろうな」
「へえ」
「モドキの食品作りでは、日本は世界一だから、今回も安いカレー味は作ってくれるだろう」
「昔のコネで頼んでみますかな」
「これで、インド豆とか名前を変えられるかもしれんぞ」
「あんまり、ナショナリズムに走らなくても」
「どうせ、中国では名前を変えてしまうからの」
バラモン3人は、中国がどんな名前をつけるか予想し始めた。
「爆竹豆」
「辛辣豆」
「咖哩咖哩豆」
「唐辣豆」
「祐貴閣下、パドマ様からご連絡です」
大佐が軍仕様のごつい通信機を渡してくれた。
「パドマ」
「ユウキ、サモアでバラモンが見つかったわ」
「すぐに連れて行けるのか?」
「すぐに来て、ああ、トンガに迎えに来て」
「トンガ? サモアじゃないのか」
「トンガよ。ヴァヴァウ本島ネイアフに」
それで切れてしまった。
なんなんだ?
バラモンたちにエリダヌス豆を一袋ずつ渡すと、すぐにトンガに向かって旅客機を飛ばした。
サード2体だけが同行者である。
トンガタプ島付近では、イギリスとインドの海軍が合同演習していたが、俺は顔パスだった。
ネイアフの海岸線にパドマたちがいたので、すぐに着陸した。
乗り込んできたのはパドマと、でっかいトンガ人のジョージ、ぷっくらとしたサモア人のトーフ(そう聞こえる)、それからやせこけたスコッティ元大統領とみすぼらしいライカー元副大統領だった。
それから、何故かランドセルを背負ったミランダである。
「CIAとNSAは、我々に賞金までかけてきたのだ。ホエールは入国禁止だし、地球では賞金首なんだよ。助けてくれたまえ」
「殺される。殺される。殺される」
「逆恨みでゴンザレスに追われているのよ、ユウ兄ちゃん。日本の貨物船に密航したんだけど、何故か日本に帰らずにこんな所へ」
ははあ、合同演習はCIA狩りだったんだな。
もう、彼らはアメリカの援助は受けられないのだから、不審船でしか無い。イギリスもインドも同盟国のトンガに要請されれば狩りにためらいはないだろう。
「サード。ゴンザレスは知ってるか」
「ジェームス・カークのカタリ野郎ですね、ボス」
「バイオレッタから見つけたら連れてこいと言われてますよ、ボス」
「じゃあ、捕まえてきてくれ」
「了解、ボス」
「了解、ボス」
サードたちがゴンザレスを捕まえてくる間の10分ほどをパドマの自慢話と、元大統領たちの愚痴と、ミランダの冒険譚でつぶしていた。
ミランダはオーストラリアに帰した。
「日本人のすべてがロリコンじゃないから、そんな変な格好はするなよ」
「でも、ミランダは処女なんだからね!」
変な捨て台詞を吐いて、ミランダは走って帰って行った。
途中で、転んだが、泣かなかった。
ゴンザレスは当然、サンヤ牧場送りだ。
185はあるゴンザレスは、サンヤの少年兵たちにとって絶好の訓練相手で、ゴンザレスが暴れるほどサンヤ兵は喜んだ。
「何だ、こいつら忍者か。寄るな、突くな、やめてくれー」
まあ、逃げられないだろう。
それからボルネオ島に飛び、母さんの故郷の集落に降り立った。
何故かジョージが先に一人で降り立ち、カボチャを煮込み始めた。
アマゾネスたちは警戒して周囲を取り巻いていたが、好奇心からかジョージの邪魔はしてこなかった。
やがて、カボチャの料理ができあがると、ジョージは女たちを集めて料理を振る舞った。
女たちは一口食べると、もう警戒を解いてジョージの周りに集まった。
次にトーフが出て行き、母さんの代理である族長の所へ行った。
代理族長は流産の悲しみから寝込んでいた。
「生の喜びは性の喜び」
パドマの通訳ではそう言っているらしいトーフは、寝込んでいる族長代理に優しくマッサージを開始し、1時間後には歓喜の声を上げさせた。
「これで、大丈夫。我がバラモンは優秀」
その後、パドマは元大統領と元副大統領を蹴り出した。
「生きるために、全力を尽くせ、バラモン」
それだけ言うと、パドマはさっさと帰ると命令してきた。
大丈夫なのだろうかと心配だったが、俺は俺でカナホテルのスイートルームに3日間監禁され、トイレと風呂もパドマの世話がなければ行けず、食べ物と飲み物はすべてパドマの口移しで与えられるという、どっちがどっちの奴隷なんだよ、という生活を強いられた。
ドウが作った公式文書では、3日間の行方不明である。
「本当は、子作りしてましたと書きたかった」
ドウは意地悪く、そうコメントした。
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