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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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81 夏休みの宿題3

 81 夏休みの宿題3




「あの、カーストとか問題になりませんか」

「上位者だから問題ない」


 俺はカースト制度を全然知らない。

 士農工商のインド版ぐらいにしか思ってなかった。

 表向きは廃止されたとか聞いたが、下の方だけだろう。

 その更に下とか。

 平民が平民として登録されただけじゃないだろうか。


「そうですか。それで少しチベットの情報を知りたいのですが」

「何でも聞いて、私はハニートラップにかかったことになっている」

「インド諜報部は、大丈夫なのですか?」


 ヨリの見立てでは、先生の中で国の情報部門に所属してないのは、ロシアと日本だけだそうだ。

 ロシアはポリーナがいるから、情報部は出しづらかったようである。

 日本は脳天気な国だから、思いつかなかったのだろう。


「私は諜報部に所属していない。諜報部が私の下位カーストに所属している。文句など誰も言わない」

「しかし、国としては困るのでは?」

「国? 国など駄目になったらドラヴィダ人を使ってまた作れば良い。我々は何千年もそうしてきた。ムガルやマラーター王国の様に。今回は母がユウキのカーストなら大丈夫なので行ってこいと言うので来た。確かにユウキは国を100や200は作り出せる。上位カーストだった」

「マハラジャというのはそんなに身分が高いのですか」

「マハラジャは我々の手足。下位カースト。母は相手がいないのでバラモンを還俗させて私を産んだ。そのバラモンは、コーサラ王を指導をしたバラモン一族の末裔だった。母は、少し低い相手で我慢するしかなかった」


 それって、2500年以上の歴史がある家系なんじゃないでしょうか。


「するとパドマ先生はインド人ではないと」

「インドはドラヴィダ人に経営させている国でしかない。我々は下位のバラモンを派遣してドラヴィダ人に国を作らせる。3千年以上前なら我々はアーリア人と呼ばれた。だが、上位カーストは維持が難しく、今では純粋にアーリア人と呼べるものは残っていない。我々はスメルという部族から生まれて部族でない国家を作った。スメルは部族のままシュメール、サマルタイ、スキタイ、ヒッタイト、秦や後の匈奴などになっていったが、滅ぶまで血族による支配から逃れられなかった。正確には、遊牧民は滅んだりはしないが、変化し、忘れ去られていった」


 スキタイって、オリエント文明の頃に周囲にいた遊牧民ですよね。


「アーリアは支配者にならなかったが、血族で縛りすぎて上位者の才能を維持できなかった。今は血統ではなく才能でアーリア人を探している。血族時代は、吐蕃の援助もしたがチベット高原を統一できなかった。ヒッタイトも中国を統一するのに援助を求めてきたが、長続きせず作った秦もヒッタイトも滅んだ。それでは困るのだ。国作りは成功させたい。その後は滅ぶものは滅ぶが、栄華は歴史として土地の肥やしとなり、新たな国を生み出す土壌となる」

「マリー先生が聞いたらたまげますよ」

「マリーはイングランドの下位カースト。知らなくても良い」

「それで、目下の悩みは現在のチベットというかダライラマなのですが、わかりますか」

「キスして欲しい」

「パドマさん?」

「キスが先。ハニートラップなのだから」


「ううう、いい、男とはこんなにいいのか」

「パドマさん」

「うん、チベット、チベット」


 パドマは端末を持ってきてあれこれ見ていた。

 横柄な口調の割に、ちょこちょこと恥ずかしそうに動き回る仕草が微笑ましい。


「あの子供たちを送り出したのは、中国のダライラマと側近。亡命チベットは移民を歓迎し、ガンデン・ティパと接触をもった。中国は知っているが、エリダヌスにチベット国ができれば支配に介入するつもり。次々に中国化したチベット人を移民させ、チベットの不穏分子を取り除く。一石二鳥か? 鍵は最初の50人の忠誠心。駄目なら中国のダライラマに圧力をかける」

「インドは?」

「キス」


 パドマは驚くべきスピードで腕を上げていく。


「それで、インドは?」

「今回は見送り。失敗とみている。何しろユウキが許さないから」

「何か中国の介入をやめさせる方法はありませんか」

「おっぱい」

「こうですか?」

「ふあああー」


「双子座。インドにも調査権を渡すと言えばいい。ホエールが先にインド軍を双子座に展開させれば、中国は不満がふくれあがり民族独立運動になる。宇宙の支配権どころではなくなる。ただし、ブラフに抑えて、本当にはやらないこと」

「中国は俺と交渉する気が無いようです。インドから流せますか?」

「私に子をくれれば何でもする」

「俺の子でもあるのでしょう」

「いや、母のカーストに入る。祐貴のものにはならない」

「幸せになれるんですか」

「我々は国をプロデュースするアーリアの末裔。祐貴と同じ。私は未開のオーストラリア辺りでポリネシア人の国を作りたい」


 はあ、なんという民族だろう。


「これが無事終わったらですよ」

「初めて、上位カーストらしく見える。チベットの子供たちには金塊を用意するのがいい。それで独立できる。祐貴からは独立できないけど」

「開発資金として援助しますよ」

「そういう優しい支配は、国が長く続く。いいこと」

「そうですか」

「だから、もう一度キス」


 ハニートラップにかかったのは、どちらだかわからなくなった。



 中国は大豆が豊作だが、工業用に天然ガスが不足していた。

 多少の値上がりなら大豆の収入で何とかなりそうだった。

 だが、翌日から大豆の相場が崩れ始めた。

 豊作の発表をした後なので、打つ手がなかった。

 輸出を規制して値を戻そうとしたが、今度はエリダヌスが大豆を放出した。

 量は僅かだが市場不安が起きていたのでホエールが待ちきれずに動いて、中国大豆は更に下がった。

 これはチカコの細工で、実際は殆どがホエール産の大豆だった。

 何故か市場はエリダヌス産の大豆が人気で、中国大豆は見捨てられた。


 中国の大豆農家が不安を感じ始めた頃、天然ガスが高騰し始めて、更に不安を煽っていった。

 大豆の加工を天然ガスで行っている工場が中国に集中していたからだ。


 中国の国連大使がエリダヌス大使館を訪れ、抗議しようとしたが、クラ大使が市場経済を理解できないので、4時間も講義して、疲れて帰って行った。


 いい人だった。


 ロマがお土産にタルトワインを渡したから、やけ酒は確定していた。


 翌日、チカコが旅客用プラズマシップを2隻も用意し、土建用アンドロイドと農業用アンドロイドを型落ちだが30体ずつ用意してくれたので、サンホセとサンリン以下50名を上海に送った。

 彼らは農業用アンドロイドと共に農地開発し、土建用アンドロイドは王宮とカンデン寺の建設に入った。


 100G、つまり1万リナの金貨を5千万枚、ダライラマ名義で渡し、国家財政はダライラマからの借款で運営を始めることになった。

 彼らは、ダライラマの臣下で領民となった。

 本物のダライラマが到着すれば、彼女はチベット王に即位することになる。

 エリダヌスでは、宗教は認めても、宗教国家は認めないからだ。


 日常の貨幣、リナ貨は、常に両替できるよう銀行も作って貰う。

 しばらくは建設完了しそうな、ホエール銀行上海支店がやってくれるだろう。

 1万リナ金貨は、持ち出し可能にした海外取り引き用金貨で、ホエールの100Gとグレードは変わらない。

 日用品や農機具は、カオルコの連絡で、ホエールの企業が上海に向かった。

 ホエールは王宮の材料も設計も、何でも揃えてくれた。


 その後、100人の移民団が到着したので、タルト村で移民試験を行った。


 畑で鍬を振って貰ったのだ。


 合格者は迎賓館に送り、侍女見習いたちのもてなしを受けて、デレデレになっていたが、不合格者はタルト村幹部の補習を受けて貰った。

 その後1週間ほど、移民団はタルト村の試験と補習を繰り返した。

 夜は迎賓館でもてなされ、時々大型ディスプレイで、上海の移民団の様子などを通信で教えて貰っていた。

 サンホセもサンリンも、野性的だが美しい少女を既に3人も妻にしていて、上機嫌だった。


 おい、ちゃんと農業もしてるんだろうな。


 100人の移民団は、自分たちの未来を想像し、興奮していた。

 しかし、彼らの行動のすべてをマナイが見ていたのだった。

 その夜は湘南のパドマの部屋で、幹部を集めて最終打ち合わせを済ませた。


 ヨリは各国情報部員たちに変な動きはないことを保証してくれた。

 カオルコはホエールとの連携がすべて滞りなく進んでいることを報告した。

 チカコは、6人乗りの宇宙艇をやっと確保できたと言ってきた。

 しかし、3万トンの金塊は既に7万トンに増えていた。

 誰かが損をしているはずなのだが、どんなに調べても中国の大豆問題以外はおかしな所はなかった。

 チカコの博打に便乗したロシアも笑いが止まらないようだった。


「人類ひとりひとりが毎月のコーヒーを3杯ほど節約すれば、これくらいのお金はすぐに戻るわよ」


 俺は経済の基本となる農産物の威力を、恐ろしく感じた。

 農業は生きるための基本なのだ。

 どんなに工業技術が発展しても金塊は食えない。

 食うための金を、人は疑問に思わず払う。

 家電をあれこれ調べて買うのとは違うのだ。


 400億の人類が300円のコーヒーを飲むと、売上げは12兆円だ。

 金塊1キロは10万リナだから、1万トンは50兆円である。

 日本の国家予算は100兆円だが、半分は借金の返済だから実質50兆円である。それを人類全体なら、コーヒー4杯、1ヶ月でひねり出せる。

 月に3杯でも、3ヶ月で100兆円である。


「国家は如何に国民を食えるようにしていくかが基本。祐貴はその基本がわかっているから大事にするし、恐ろしくも感じる。そうでなければひとりで2000石や3000石も田畑を作らないはず」

「ねえ、ユウキ。パドマを妻にしたの?」


 部屋に緊張が走った。

 ヨリは、まあ籠絡を勧めて来たぐらいだから事情は知っているが面白くないだろう。

 カオルコは徴発されたから、すべての事情はよく知らないが、事態を見守っていたから予想はしていたかもしれない。

 ミヤビは遊軍で、あまり出番はなかった。

 良くはわかってないのだろう。

 だから、質問してきたのだ。

 何故かチカコが涙目である。


「うーん、どうなんだろう」

「妻ではない。上位カーストに婚姻などの贅沢は許されない」

「だってさ、俺にもよくわからないんだよ」

「でも、男と女の関係なんでしょ」

「男はいい。こんなに良いものとは知らなかった。宮殿で祐貴と過ごしていれば人生が変わっていた。10年も無駄に過ごしてしまった」

「やっぱり!」

「もう! また、私を飛ばして!」


 暫くドタバタしたが、明日に備えて全員で雑魚寝した。


 翌日、パドマとミヤビを連れて湘南を抜け出した。

 抜け出す途中でポリーナ先生に見つかったが、泣いて逃げていくのを見送るしかなかった。

 イケメン馬車では、カレンが待っていた。

 折角、父親に対面できるのだから、カレンをのけ者にはできないだろう。


 空港では、移民団が70人と30人の組に分けられて出発を待っていた。

 70人を先に旅客用宇宙船に乗せて、上海に行かせてから、俺たちは第2陣で貨物船に乗った。

 30人は不満そうだったが、2万トンの金塊があることを知ると、ビックリして何も言わなかった。

 警備で、サードを2体乗せても、文句どころか不信感もなかったようだ。


 チベット人から選ばれているから、2流のスパイか、下っ端の共産党員しかいないようだった。

 マナイの目は理屈ではないが、間違えることはない。


 軌道上にはゲートまでの固定ゲートができていて、案内用のAIが誘導してくれた。

 あれだけ苦労したゲートだが、チカコの手にかかるとこんなにも簡単なものになってしまう。

 数秒で二つのゲートをくぐると、地球から2ヶ月のゲート工場に到着した。

 巨大なドーナツ状の宇宙ステーションに黄鯨迎人氏は住んでいた。


 ミヤビとカレンの感動的な再会があったが、俺は急いでいるので、挨拶だけして帰りに寄ると約束して、すぐに地球に出発した。

 地球までのゲートは、固定型で、やはり案内のAIが管理していたが、エリダヌス以外の船は通さないようになっていた。

 天然物の方は、無理矢理通るとベテルギウス行きになるらしい。


 俺たちは地球軌道にあっという間に入るとすぐにインドはデリー郊外の宮殿に着陸した。

 操縦はAI任せで、すべてやってくれている。

 貨物室の様子はよくわからない。


 インドの首相は貧相な小男で、少し文句を言いたそうに待っていたが、トップレスのパドマが現れると仰天して這いつくばった。


「ご苦労、ドラヴィダ人」


 パドマはそれだけ言うと、やはり仰天しているインド兵たちを気にする風もなく宮殿に入っていった。

 ここがパドマが育った宮殿であることは間違いないようだった。


「ネリー首相」

「はい。祐貴様閣下!」


 首相の態度が、いっぺんに変わってしまった。


「30人の中国のスパイを捕まえてあるから、ゆっくりと強制送還してください」

「はい、喜んで。おい、大佐。すぐに捕まえて取り調べろ」


 大佐は部下を連れて船内に踏み込んでいった。


 引っ立てられるスパイの中に俺を睨む奴らがいるので、


「あんたたちが、共産主義よりエリダヌス人の妻を大事にできるようになったら、また、移民を申し込んでくれ」


 それだけ言うと、彼らの頭の中にはトップレス美女が再生されているようだった。

 気持ちが揺れ動いている。

 侍女たちのもてなしを受けたのだから仕方ないか。

 酒と肉と美女を出されて文句を言う男はいないのだ。


 首相は俺を宮殿に案内してくれた。

 やがて、一つの部屋に案内されると、首相はパドマと共にいる平凡な中年女性の前にいき、インド式の拝礼をした。

 ここでは首相であるよりカーストが強いようだった。


「祐貴。良く来てくれた。娘が世話になった」

「いいえ、お世話になったのは俺の方ですよ」

「そう言って貰うと嬉しい。ところで、娘が言うにはドラヴィダ人に土産があるとか」

「はい、金塊を2万トン持ってきました」

「ドラヴィダ人、早く行ってしまっておけ。国家に金塊は大事だろう」


 首相は現実感がないみたいだが、一礼すると出て行った。


「それで、何か望みのものがあるとか」

「はい、そこにおられるダライラマ氏をチベット王の教師としてエリダヌスにお招きしたいのです」

「チベット王?」

「はい、うちには危なっかしいゲーモがひとりいまして、王となっても躾をする人がいないと困るのです。ダライラマ氏が付いていてくださるなら」

「ははは、バラモンよ。金で買われたのは初めてか」


 側には4人の僧侶が控えていた。

 富や権力には無縁というのは本当のようだった。

 洗いすぎてボロボロの僧服である。


「確かに」

「我らに金を積むものなどおりませんよ」

「托鉢しても、せいぜい米を200グラムぐらいしかもらえませんな」


 しかし、ひとりのバラモンはハラハラと涙を流した。

 4人のバラモンの中ではまともな僧服であると言えるが、一番下のようだった。


 それがインドのダライラマ氏で、中国のダライラマ氏のまあ、従兄弟と言って良いだろう。

 その姉の孫が、うちの猊下だ。

 全くややこしくてかなわないが、中国のダライラマ氏を後押しする勢力には十分に対抗できるだけの格式ではある。


「バラモン、新たなる国だ。それは我らの望みである。ためらうことはあるまい」

「新たな火種になるやもしれません」

「国作りは火種作りでもある。争っても国を作りたがるのが人の性。国同士でも争うのが人の性。だが、それでも人は国を求める。それで良いのだ。国の運営は新たなドラヴィダ人に任せればよい。バラモンは迷う人を教え導くのが役目。争いや権力には惑わされるまいぞ。ただ、人を見よ」

「はい」


 ダライラマ氏はエリダヌスに来てくれるようだ。


「さて、祐貴。我は孫が欲しい」

「結婚制度はないとか」

「我らアーリアには、種族などはない。つまり、婚姻もない。だが、人であるし、情もある」

「孫を預けろと?」

「娘を預けるのだから、それぐらい良いだろう」

「人質みたいですね」

「そうではないが、アーリアがいなくなるのはドラヴィダ人にとってもバラモンにとっても不安要素だ。跡継ぎをくれぬか」

「大事にしてくれるんですよね」

「我らにとっては、国一つより大事だが、上位カーストに富や権力は無い。祐貴は富や権力のためにエリダヌスを作ったのではないだろう。貧しいが幸福な生活だったか」

「まあ、そうです」

「国が保証すべきは、飢えの対処と女の選択だけだ」

「女の選択?」

「そう、力ずくというのは食と女の権利を奪う。我らが国を作るのはそれを見かねてなのだ。国や文明とは飢えず、女の権利を守ることなのだ。それができぬ国は、他も推して知るべしということだ。祐貴は優れたアーリア人であることをエリダヌスとホエールで証明した。260の宇宙の国々は娘と娘の子供が作るだろう。だが、地球にもアーリアを残したい。やっと見つけたのだ。祐貴こそアーリアの末裔だ」


 彼女の瞳は蒼かった。

 髪は黒いが肌も白く、顔立ちはペルシア人とロシア人の間のような雰囲気だった。

 娘のパドマには、インド系の血筋が現れたのだろう。


「俺は平凡な日本人ですよ」

「日本もアーリアの息がかかっている。昔、大国主とか呼ばれるバラモンが行っていたはずだ。国津神だったか」

「では、アーリアは天津神ですか?」

「我々は侵略も支配もしない、何人かのバラモンを使って国作りを促すだけだ。国の経営は現地のドラヴィダ人に任せる。だから先祖でもない。僅かばかりの人間が市井に混ざるだけだ。我らアーリアは、ほんの僅か先に国の概念に目覚めた民族だった。国作りを促し、権利を守ることを教えた」

「あなたの名前は?」

「そうじゃなあ、名は意味が無いのだが、日本式に言うならウケモチか、可愛げが無いから『サクヤ』と呼んでくれ」

「では、サクヤ様。子供の件はパドマに任せます」

「おお、これでアーリアが途絶えぬ。感謝しよう」


 それで、神との面会は終わった。

 実感がなかったが、外で首相が驚喜していた。


「ユウキ閣下。これで、インド財政は救われましたぞ。我々はどうやって恩返しをすれば良いのか」

「ダライラマ氏をいただきました。後は中国に交渉のテーブルに着いて貰うため、インド政府には一芝居打って貰います」

「何でしょう」

「双子座の開発に名乗りを上げてください。勿論形だけです」

「承知いたしました」

「それから、大豆で商売してください。中国大豆を高く買ってください」

「損しますよ」

「いいえ、加工品をホエールが買ってくれるのです。まあ、2、3年のブームでしょうが」

「短期的な投資でいいのですね」

「ええ、でも驚くほど儲かりますよ。時期はお知らせします」

「はあ、わかりました」

「あと、2回ほど押しかけ移民を連れてきますが、それもお願いします」

「ここには常に大佐が待機しています。何でも、お申しつけください」

「ありがとうございます。インドと友好関係を結べて良かったです」

「それは、こちらの台詞ですよ、閣下」



 ダライラマ氏の準備が整うまでかなり時間があった。

 その間、貨物船で地球情勢を調べて時間をつぶしていたが、やがて3人のバラモンが托鉢から帰ってきて食事を奢ってくれるというので、宮殿の一部屋に行った。

 出されたのは牛乳粥だった。


「今日は豪勢ですよ。卵も付いてきた」

「菜っ葉も入っておる」

「菜っ葉入りは邪道かもしれんが」


「これがあの有名な、スジャータが作ったというお粥でしょうか」

「いいや、スジャータは金持ちの娘だから蜂蜜が入っていただろう」

「鶏肉も入っていたかもしれんぞ」

「まあ、菜っ葉など入れんじゃろう」


 話を聞くと、彼らはいつもこんな生活をしているという。

 托鉢と瞑想の日々だそうだ。

 托鉢で、現在の国の状況がよくわかるそうだ。


「我らは落ちこぼれでな。50まではCEOとか社長とか言われて、オフィスビルでふんぞり返っていたものだ」

「一族が経営しているから怖いもの知らずでな」

「しかも、親の資産を受け継いだだけじゃ」

「だが、引退した父は托鉢に出かけ、僅かの粥を孤児たちと分け合って食べていた。気が触れたのかと思ったよ」

「うちは、母が動けない老人の世話をしていた。泣いて戻ってきてくれと頼んだが、どちらの生活が大事だと思うかと怒鳴られた」

「まあ、どちらかと言えば、あの頃はあっちの生活じゃがなあ」

「だが、我々もバラモンだった」

「米は作れんし、料理もできんからな」

「世界も見えていなかった」

「役立たずだった」

「人がひとり食べていくというのは大変なことだとわかったの」

「金儲けの方が楽じゃよ」

「便利なのだが」

「車に乗って脚を弱くするようなものだ」

「だが、それは車のせいではない」

「金もそうじゃな」

「しかし、2万トンの金塊を使い道がないと、ポンと置いていく人がいるとは思わなかった。アーリアとは恐ろしいのう」

「長生きはするもんじゃな」

「我らもまだまだ、アーリアの役に立てんな」


 俺は、貨物船からパルタワインを取ってきた。


「2年もので、少し若いと思いますが」

「ほう」

「大地の味がする」

「太陽の恵みじゃよ」


 やがて3人は気持ちよく酔っ払い、2万トンの金の使い道をあれこれ考え始めた。

 最終的なアイデアは、生活に重要な橋にして、住民たちがどうするか眺めたいと言うものだった。

 毎日、金をはがしに行くと橋が壊れるので、困るという設定だ。

 やがて、吊り橋が出来、金は木材に変わり、立派な木の橋になるだろうとのことだった。

 税金を使う見本のような話だというが、俺には酔っ払いの馬鹿話にしか思えなかった。


 準備ができたのか、ダライラマ氏が現れた。


「ほう、馬子にも衣装か」

「なかなか立派なものだ」

「エリダヌスに婿入りするんじゃからな」


 4人は大笑いして別れを惜しんだ。

 パドマが来たので出発する。


 途中でミヤビとカレンを拾って、迎人氏にエリダヌスでの休暇を勧めておいた。

 豪華さんがエリダヌス法の整備で、引きこもっているからだ。彩子さんもだが。

 まあ、非常に重要な仕事を押しつけている自覚はあるので、少しでもと思ったのだ。


「一瞬で来れるようになったのですから」

「悪いが祐貴君、よろしく頼むよ。豪華が夢中になるなんて、そうそう無いことなんだ。僕も美少女ばかりに囲まれる宴会はもう少し先だなあ」


 迎人氏は相変わらず仕事人間だった。

 まあ、これからは時々ミヤビやカレンが遊びに来れるから少しは慰めになるだろう。


「せめて、名物のワインぐらいは楽しんでください」

「ああ、喜んで頂くとするよ」


 そのまま上海まで飛び、ダライラマ氏はエリダヌスの地に降り立った。

 住民たちは、全員が泣いて喜んだ。

 本当に何処のダライラマかなど関係無いかのようだった。

 ポタラ宮とか言う今は小さな王宮に、チベット王を迎える準備は整っていった。


 夜には、ポリーナ先生の補習を受けていたが、色々あって疲れてた俺は授業中だというのに寝てしまったようだ。

 朝になって起きてみると、隣で先生も机に突っ伏して寝ていた。

 丁寧にベッドに運んで、先生の部屋を抜け出すと、ミヤビに殴られ、ヨリに張り飛ばされ、カオルコに蹴り飛ばされた。


「まったく」


 3人は見事なお尻を振りながら朝食に行ってしまった。

 何故か、朝からきわどい水着姿だった。


 そういえば、今年はまだ浜辺に行ってなかった。



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