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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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79 夏休みの宿題1

 79 夏休みの宿題1




 今年の夏休みは、行事が目白押しだった。


 しかし、今は試験休みのだというのに、赤点のロシア語でポリーナ先生にしぼられている最中だった。

 場所は喫茶ギルポンで、学校に押しかけられない女官やタルト村の幹部が詰めかけてきている。

 ポリーナ先生が一休みしましょうかと、優しく言ってくると、途端に長官、局長、侍女、タルトやコラノ、カナホテル支配人などが押し寄せてくる。


「イギリス隊がアフリカ大陸の調査を望んでいます」

「日本の調査団が沖縄に渡りたいそうです」

「牛乳の殺菌温度を、70度以下にする方が需要が高いのですが」

「世界相撲協会が夏巡業してくれるんだ。大関ペガスス山や関脇の白鳥湖、エリダヌス川に横綱の青鯨まで来てくれるそうだ。村対抗戦を前座でやった方が良いか」

「パルタワインが人気なので、今年はもう300樽増やして欲しいのです」


 ポリーナ先生とマナイが気の毒そうに見てくる。

 ポリーナ先生には氷イチゴにアイスと生クリームがのっかったイチゴフラッペ、マナイにはコーヒーフロートをおごってある。


「シェカラーシカ!」


 俺はついロシア語っぽく怒鳴ってしまったが、実際は日本語の方言だった。


「ギン、少しはさばいてくれよ」

「海外の調査隊は、行政長官の権限では無理です」

「外務部は何やってんだ」

「地球大使館からの申し送りをさばくだけで手一杯です。ホエール大使館もできあがるのに、人材不足は深刻です。それから、日本からの移民希望者が3万人を超えました。大阪の道頓堀川の少女たちの映像が流れたせいです」


 どうも、関西で部族同士の戦闘があったらしく、親を失った少女たちが川沿いでウナギを捕って命をつないでいる。

 ただでさえ男が少ないのに、更に戦闘で失ってどうするのか。

 日本の男たちは、その映像を流したマスコミに踊らされて『ロリ難民を救え』と気炎を上げているらしい。

 救援物資は、戦闘の継続と拡大につながるとして手を打てないでいる。

 まあ、俺が来る前は、こんな程度の戦闘は日常茶飯事だったらしい。

 戦闘が終息すれば、ロリ、いや少女たちは勝った方だろう部族の一員になる。

 救うべきは棍棒を持った戦士の方なのだが。


「外務長官と移民局を頼んでおいただろう」

「人材が足りません。タチアナ先生やベッキー先生にまでお縋りしている状態です。それに、商務省も作らないと新製品に介入しきれません。キンも倒れそうです」

「外務はセリーヌに協力して貰え。何なら外務長官を引き受けて貰え」

「セリーヌ様の見返りが妻になりますが」

「うう、そこを上手く交渉してくれ」

「まったく、もう。一晩ぐらいは私が貰いますからね」


 ギンが下がると、今度はタルトとコラノだ。


「タルト、相撲協会はカナホテルに入りきるのか」

「後援のナナ&サラサが全部やってくれた」

「村対抗は冬だろう。盆踊りも花火大会もあるんだぞ」

「どうせなら、国技館で全部やろうかと」

「全部いっぺんには無理だ」

「そうか」

「それよりコラノ。大江戸花火と音楽著作権協会に確認しておいてくれたか」

「そういえば、返事が来ない」

「花火は割り込みなんだから、早く交渉しとけ。5尺玉は無理でも3尺玉は沢山確保しないと盛り上がらんぞ」

「わかった」


 次は、ミゲールか。


「支配人は、パルタと直接交渉してくれ」


 それから、サクランボの軸を口で結ぶな。

 コロンも以前よりきついぞ。


「それが、パルタ村長が怯えて来てくれないのです」

「あんたが迫ったからだろ」

「すみません」

「マナイ。いや、すまない、メナイ」


 マナイには、直属の部下がいないのだった。


「はい」

「侍女を、パルタ村に交渉に行かせてくれ」

「はい」


 次は、局長級の女官である。


「低温殺菌乳は、村の中だけだ。パッケージをナルメが開発するまでは120度で行え。夏場は足が速いぞ」

「はい、領主様」


 まったく、俺は今、高校生なんだぞ。


「それで、先生。俺はどうもキリル文字から発音を想像するのが苦手です」

「文字から発音するのではなく、会話で発音を覚えて、文字を当てていく方が早いのです。ロシア人の恋人でもいると覚えが早いのですが……」

「タチアナ先生が村を見て回りたいと言ってたな。ロシア語縛りで、デートでもするか」

「祐貴君!」

「はい、ポリーナ先生」

「や、やはり、明日も私が補習します。朝から教員室に来なさい」

「は、はい、ポリーナ先生」

「まったく」


 先生はかき氷をしゃくしゃくやり始めた。


「あ、あいたー」

「急いで食べるからですよ」

「わ、わかってます」


 涙目で小動物みたいに可愛らしい。

 予想通り、ぽっちゃり体型はタルト村でも大人気である。


 先生方は、大なり小なりだが男が怖いらしいが、この世界の小男たちは少しだけ安心なようだ。

 ひとりで出かけられるのはアリエ先生だけだが、他の先生たちも少しずつだが、複数人で出られるようになってきた。

 ポリーナ先生も甘いものが大好きなので、行き帰りは俺にしがみつくほど怖がりながらも、喫茶ギルポンまで来るようになった。

 店内では、ウェイトレスや厨房担当の夫人たちと仲良くなったので大丈夫である。

 いくつかの甘味もアイデアを出したようだ。


 まあ、ひとりで、しかもノーパントップレスで来て鰻丼を食べていく、豪華さんみたいにはきっとなれないだろうな。


 タルト村の男たちやホエール人観光客からの好奇な視線を遮りながら、ポリーナ先生をマナイと守りつつ帰ると、居酒屋からアリエ先生が現れた。

 誰がつけたのか、あだ名は『漆黒の宝石』である。


「アリエ先生、もう酔っ払っているんですか」

「おう、ユウキ。出来の悪いお前らの採点から解放されたんだ。一杯ぐらい引っかけても罰は当たらねえだろ」


 ホエール人の男が残念そうに見ていたから、きっとずいぶんと奢ったのだろう。

 だが、この後先生をカナホテルに連れ込もうとしても、ホテルで先生は引き取られるのだ。

 男嫌いの自称『処女』のアリエ先生が、自分から男の部屋に行くことはないのである。

 ホエール人もしらふなら悪い人間はいないので、まだそんなに問題にはなってないが、3回目である。


「先生、いつか危ない目に会いますから、少し自重してください」

「危ない目って、処女を奪われるってか。けけ、それなら先にユウキにくれてやるよ。今回成績がずいぶんと良かったから、褒美だ」

「そんなご褒美は、いけません」

「おお、ポリーナか。どうだ一緒に処女卒業しようぜ。ユウキは結構いい男だそうだぞ」

「それは、その、あの」

「おお、その面は満更じゃねえな。実はあたしも満更じゃねえんだ。さあ、ユウキ。今夜どっちとやる?」

「さあ、先生帰りましょう。すぐに夕食ですよ」

「こいつは余裕だねえ。あたしじゃ不満か。それともポリーナに惚れたか」

「ふええ」


 そのままアリエ先生は幸せそうに眠ってしまった。

 冗談言う余裕があるなら、帰る余裕を残しとけよ。

 まったく、おぶって帰るしかないじゃないか。


「ごめんね、祐貴君。どっちが先生かわからないね」

「こんなことぐらい、某国の大統領に比べれば可愛いもんですよ。ポリーナ先生は酔って絡まないでくださいよ。孫なんだから素質があるかも」

「意地悪。私、お酒弱いの」

「ウオッカ以外は酒じゃないってやつでしょう」

「もう。ロシア人みんなが酒飲みじゃありません」

「はいはい」

「でも、アリエ先生凄く綺麗。祐貴君もきっとそうでしょ」

「アーとべーを比べることは無意味ですよ」

「でも、アーとハーやツェーぐらい違うと」

「ポリーナ先生がアーですよ」

「えっ!」

「そう、タルト村の連中が噂してます」

「それって…… ああ、ずるいわ、祐貴君」


 俺はアリエ先生をおぶったまま駆け出した。

 領地の入り口はすぐそこである。

 サードに預けてしまおう。


 翌日、本当にキンが倒れた。

 メディカルアンドロイド2体に見て貰ったが、過労で間違いなかった。

 特に胃腸が弱っているという。

 典型的な、ストレス症状である。

 ススに看病を手配して貰い、残りの3長官と緊急の打ち合わせを行う。

 ギンもドウも疲れが見える。

 ススは元気そうだが、相変わらず不機嫌である。

 外務部臨時顧問のセリーヌが、ビジネススーツ姿の美女を連れて現れた。


「なっ!」

「何よ」

「お前、本当にチカコなのか」

「毎日会ってるわよ」


 俺はため息をついた。

 女は化けるから怖い。

 流石は学園一のアイドルだろうというのは控えめである。

 上流の中でも飛び抜けて目立つだろう。

 男嫌いなのは国家的損失になるのではないだろうか。


 いや、こいつの恐ろしさは美しさどころではない。


 ホエールの支配者から簡単に2%もの株を奪い取っているのだ。

 豊作氏でも戻すのに2年かかったという、恐ろしいギャンブラーである。


「解決でしょ」


 セリーヌが面白そうに言う。


「大丈夫でしょうか。星間戦争はもうゴメンですよ」

「ホエールにはバレるでしょうね。でも、大きな損失が出なければあの人も許してくれるでしょう。それにいつ、これが本番になっても良いように、訓練にもなるわ」


 3長官は何とかなるのかと、不思議そうにチカコを眺めていた。

 その日、一日は無事に過ぎたが、翌日から運送業からアンドロイドまでがきりきり働き始めた。

 最初に惑星から消え去ったのは小麦酒で、次がウメモドキ酒だった。


 空港には見かけない貨物船が現れては消えるようになり、天変地異の前触れかのように噂された。


 冬小麦を刈り取っている間に、惑星の小麦の在庫がゼロになったり、小麦酒の穴埋めに地球の缶ビールが並んだりした。


 物流が、銀行ではなく空港で行われているようだった。

 星系内貨物便まで発着するようになり、ロシア移民団の団長がお礼を言いに来たりした。

 ロシア人はありったけの酒樽を置いていったが、中身は空だった。


 翌日にはナナ&サラサに貨物一杯の毛皮が届いたが、総出で、ロゴの焼き印を押し続けると、翌日にはすべて消え去った。


 10日が過ぎて、俺がキンのリハビリで一緒に散歩していると、青鯨豊作氏がアロハシャツとバミューダパンツで現れて銀行に怒鳴り込んでいったが、5分後にはチカコに睨まれたまま後ずさって出てきて、俺を見つけると泣いてすがりついた。


「祐貴君。軍が破産するから少しだけまけてくれたまえ」

「3万トンの2回分割払いで勘弁するわよ」


 チカコが情け容赦なしにそう言うと、そこで親子対決は決着がついたようだった。

 キンを帰してから、豊作氏を喫茶ギルポンに連れて行き事情を聞くと、オペレッタの樹脂・金ナノプログラム80万トンの支払いがまだなので催促されたのだという。


 そう言われると、金だけで5万トンぐらいは使っているから、大変な資産である。


 本当はあちこちの市場で儲けをかすめ取られたり、ユウキ米とかエリダヌス麦という等級ができたりして、市場が混乱し始めたので文句を言いに来たのだが、やぶ蛇だったようだ。


「そもそもチカコは無担保でも強敵なのだから、あんな弱みを持ってたら戦えないのよ」


 セリーヌが侍女見習いを二人連れてくると、豊作氏の左右に侍らせた。


「お兄様、お会いしたかったです」

「お兄様、姉は元気でいるでしょうか」


 どうやら、キヌの妹たちらしい。

 確かに豊作氏は義理の兄になる。

 いや、本人たちは第4夫人と第5夫人になる可能性すら高い。

 豊作氏の泣き顔はすぐに男前の顔に戻り、キヌの妹たちと話をするに連れてだらしのない顔になった。

 どうやらリータの発注者の遺伝子は、優性遺伝だったようだ。

 やがて、ギルポンのウエイトレスが来て、俺たちの前にワインと清酒を2つずつ置いていった。


「飲み比べてみて」


 豊作氏と俺は、仕方なく飲んでみる。


「ふむ、こっちはエリダヌス産だな。それで、こちらは地球の量産品だろう」

「両方同じもの、地球のお酒なのよ」

「何だって!」


 豊作氏が驚いたが、俺も驚いた。


「チカコの今の手は酒樽よ。エリダヌス製の酒樽に詰めると、お酒の味がひと味上がるのよ」

「すると、今までも」

「そうなのよ。ここの原始的な手作りが、最高品質の酒に劣らないのは酒樽が原因なの。地球は原因究明よりも先に、樽を仕入れることにしたわ。既にロシア大陸と契約しているの。エリダヌス産のお酒が樽買いに限って活発でしょう」


 豊作氏は端末で確認し始めた。


「しかしだな。ここの樽だけでは、市場にそれほどの影響は出ないだろう」

「3年よ。3年後にはホエール人の半数が地球産のお酒に切り替えるでしょう。居酒屋なんかは特にそうよ。値段が変わらずに美味しくなれば、これほど良いことないでしょう。いいこと、ホエールでは1日350億杯のお酒を消費するのよ。それが3年後には175億杯、地球産に変わるの」


 豊作氏は暗算してから蒼くなった。


「そうよ。これは年の取引ではなく、毎日の売上げの競争なの。3割取られた時点で、巻き返しは不可能な打撃が出始めるわ」

「しかし、これはどうすれば良いんだ。酒樽なんか地球でもホエールでも、もう使われていないぞ。まったく、あの娘は悪魔か何かなのか」

「天使よ」

「えっ?」

「はい、チベット人の契約書。酒樽はチベット人が作ってくれるわ。あなたが契約すれば、今いる50人のチームが出発して、更に300人が移民してくるの。チカコはそのための資金と星系内貨物船を既に稼いでいるわ」


 既に3万トン級星系内貨物船3隻、荷物運搬用ソーラートラック10台、カート30台、フォークリフト20台がユウキ・エア・サービスというロゴマーク入りになっている。

 資金はどうだかわからないが、空港に置いてある3万トンの金塊は日本の国家予算2年分ぐらいである。

 領地内にもニタ村の金塊が同じくらいは置いてあるのだ。

 チカコはそれが使われていないことを良く知っているのだった。

 それを見せ金として使っても、何が起きても不思議ではないと思う。


「とりあえず酒樽は五分五分に持ち込めるのだから、後はチベット人との取引をホエールで引き受ければ儲けがついてくるでしょう。将来は中国大陸分の商取引になるのだから」


 豊作氏は妻と娘にやられっぱなしじゃないか。

 大丈夫なのか、ホエール。


「しかし、地球人の思惑が外れて怒らないか」

「大丈夫よ。あの人たちはとりあえず地球内での戦いで儲けるから。それに、地球でもホエールでも産業がひとつ駆逐されるなんて見たくないわ」


「お兄様、何か大変なことが起きているのですか」

「お兄様、私たちにできることはありますか」


 キヌの妹たちは良い子であった。


「いや、大丈夫だよ。それで、君はこれからどうするんだい、セリーヌ」

「私はチカコと二人で、この領主様を誑かすの。あなたなら80万トンの樹脂・金ナノプログラムをホエールにいくらで売りつけるの?」

「確かに金塊6万トンじゃ安すぎるか」

「特許料、技術提供料も含めたら80万トンでも安いでしょう。しかも軍は無敵艦隊とか言って調子に乗っているわ。オペレッタの技術なのに。金ぐらい払わせないと権力を拡大させるばかりよ。力を削いでおくのが賢明でしょう」

「そういえば星系の防衛として、自分たちだけで手に入れたような顔をしているな。本当は金には換算できない価値だろう。軍は祐貴君に金を払うべきだな。予算を増額させやがって、畜生めが」

「原料に金が5万トン以上使われているのよ。払わなかったら取り上げれば良いのよ」

「裸の無敵艦隊に成り下がるな」

「それでも、こちらは赤字なのよ。領主様が馬鹿で良かったわね」


 領主が馬鹿? 

 大丈夫なのか、エリダヌス。


「確かに、娘は天使だ。まけて貰った分はエリダヌス防衛費用として軍を納得させよう」

「ねえ、私がここにいないと今後のホエールを守れないのよ。地球に勝てても、チカコに滅ぼされるのは嫌でしょう」


 ホエール代表は暫く考えていた。

 俺にすり寄っているセリーヌと、自分にすり寄っているキヌの妹たちを眺めている。


「祐貴君、妻と娘をよろしく頼んだよ。今度は男の子が良いな」


 それって、孫って意味ですよね。

 セリーヌじゃないですよね。


 しかし、考えてみれば、チカコは男嫌いであった。


「じゃあ、この二人はホエールに留学と言うことでよろしく」


 お持ち帰りするのか、このロリコン!


 代表は、ただでは転ばない人物だった。




 学校やホテルを建設した建設用アンドロイドたちは、湘南に大きな施設を作っていた。

 塩田も整備してくれて、今は荒川大橋を建設中である。


 荒川大橋が完成すると、イタモシ村から橋を渡って30キロにニタ村長が指導したミト村があり、更にニタ村までの150キロの間には、トチ村と、ウマヤ村があり、全部が繋がる。

 これで、南北の北森街道だけでなく、東西街道がナルメ、ギルポン、サンヤ、カマウ、パルタ、イタモシと結んで、更に荒川を渡って、ミト、トチ、ウマヤ、ニタと結ばれることになる。


 俺は、東西街道を中央街道に改め、橋からニタ村までを国道3号線、ミト街道と名付けた。

 ミト村の知名度があまりにも低いからである。

 チカコは、ミト村に2万人いれば、ユウキ米を地球とホエールで一番人気の米にできると言っていたが、今のところ2万人もの農夫は調達できないし、移民もそう簡単には許可できない。

 ちなみに、ユウキ米とはアカニシキのことである。


 それより、今日から夏期施設だ。

 湘南で2週間臨海学校である。

 俺は半分はロシア語の補習授業なのだが、それでも真夏の海だし、施設はカナが監修したホテル形式だから、とても楽しみである。


「カナ。お前もうホテルを3つも建てたことになるよな」

「そうですね。良い勉強になります。でも、湘南はユウキ領で男子禁制だから、リゾートにはできないでしょう?」

「女性専用ビーチリゾートにするのよ」


 チカコが割り込んできた。

 もう、ぎりぎりのビキニ姿になっている。


「女たちのリラックス空間ね。専用のサービスもつければ、エリダヌス観光のオプションとして人気が出るかも」

「6段目におしゃれなお店をいくつか作ると間違いなく客はつくわよ。ナナ&サラサの特別デザインかなんか、そこでしか手に入らないものも欲しいわね。あと、イケメンの乗馬教室も開催できるわ」

「きゃ、流石チカコね。アイデアいただきよ」


「失敗しても俺は知らんからな」


「大丈夫よ。女だけのリゾート。裸で過ごせるような開放感。最高よ」

「でも、従業員が侍女みたいにかしづくだけじゃ不安ね。もう少し頼れる女みたいな人材がいると、活気づくわ」

「そう、そんな人材を少しずつ確保しましょうか。男嫌いは結構いることがわかってきたし」

「それ、嫌み?」

「違うわよ。でも、商売にはなるわよね。イケメン・カナホテルなんてどう」

「イケメンに聞かないと……」


 きわどいビキニとトップレスの二人は、お尻を振りながら歩いて行ってしまった。


 まあ、あれだけの施設を臨海学校にしか使わないのはもったいないか。

 女だけなら領地見学だけでも、客はつくかもしれない。

 イチゴ狩りとかもハウスでできるしなあ。


 いやいや、ここは観光地じゃないんだぞ。

 農業惑星なんだ。


 農業体験ツアーなんかもできるかな。

 男はマサイでハンティング、その間女はリゾートとかは、いやいや、農業だよな。


「祐貴君」

「ぎょわ」


 タチアナ、エミリヤ、ポリーナのロシア人トリオが現れた。

 タチアナは普通のビキニだがトップレスだ。

 エミリヤは、ひもビキニである。

 きわどいを通り過ぎている。

 ああ、ひもになりたい。

 いや、意味が違うか。


「いやあ、この年で海は初めてでなあ。男を意識しないでいられるなんて夢のようだよ」


 いや、俺は男ですから。

 タチアナは30前に見えるが実は50代である。

 あちこちの大学で講師をしていたが、論文はすべて教授か助教授の共著にされて、助教授に上がるにはスケベ教授の愛人になるしかなかったので、ズルズルと来てしまい、講師の職もなくなった。

 数学者としては年を取り過ぎてしまったのである。

 男嫌いと言うよりは男性不信なのだ。


「初めて水着を着ました。少し派手でしょうか」

「派手と言うには少なすぎると思いますよ」


 エミリヤは大学を卒業したが、女子校の先生は空きが無く、共学は怖くて行けないのでこちらに来たという。

 小学校の先生が似合うタイプである。

 大学の実技で一応共学だが男子校に近い技術学校に行かされ、3日間生徒のおかずになるという体験をして、男性恐怖症をこじらせたらしい。

 タチアナより細身だが、出るところは出て大きいという、確かにおかずタイプである。

 少しピントがずれているような気がするところが、魅力なのかもしれない。


「……」


 ポリーナは、チェックのスカートに赤銅色のブレザー、黒のストッキングという女子高生みたいな格好で、いつもよりガードが高くなっている。


「ああ、ポリーナは水着が決まらなくてな」

「いいのよ、ポリーナは裸で泳ぐから」

「祐貴君のせいで、甘いものを食べすぎて…… うわーん」


 走って逃げてしまった。

 どうやら、水着のサイズが変わってしまったらしい。

 ポリーナは年齢不詳である。

 16で大学を卒業した才媛という噂から、何年も引きこもりをしていたと言う噂まである。

 感じとしては20から22ぐらいだろうか。


 それからも次々と先生が現れるのは、どうやら唯一の男が、どう水着を評価するかを確かめにきているのだとわかった。


 NGはインド人のパドマだった。


 マハトマ・ガンジーのような格好で現れたからである。

 インドのフンドシとでも表現すべきだろうか。

 さらさらの黒髪の美女が、インドのフンドシなど、もっての外である。


 先生にカナとチカコをつけて先に出発させた。

 カナは施設をよく知っているので、一緒に行った方が良いのだ。

 珍しくイケメンが馬車を引くので、チカコも一緒である。


 その後、生徒たちにはカートで自主的に行かせる。

 懐かしいハインナは、トレインの事故調査委員会が連れて行ってしまった。

 今はまた、アキの会社でシップの乗組員をしているという。

 『130の恋物語』という書籍の、原作者でもあるという。

 ホエールでは非常に人気が高いそうだ。


 俺はススやキンたちに後を任せるため挨拶に行くと、バイオレッタが、来客だという。


「重要なのか?」

「金とプラチナが3万トンだってさ。重要なんだろ」

「そりゃ、ホエール軍だよ」

「あたしゃ、軍人は嫌いだよ。弱いくせに威張り散らして。また、オペレッタにぶっ飛ばされりゃあいいのさ」


 マサイで追い回された恨みを忘れてないのだろう。

 しかし、ホエール軍は敵ではないしな。


 俺はすぐに空港に行った。


「お久しぶりです、閣下」


 見事な敬礼をするのは、白鯨達也少佐だった。


 いや、中佐か。

 この人、オフでは会ってないな。

 恨まれているだろうか。

 怖いから、しらばっくれよう。


 幸いにも防疫が面倒だから、透明な隔壁越しでの面会である。


「ホエール軍指令本部より、樹脂の代価を持って参りました。受領確認願います」

「あの、信用しますから、置いといてください」

「3万トンの金塊ですが」

「ああ、できたらあの貨物船に詰め込んどいてくれると助かりますね。フォークリフトは使えますよ」


 きっと呆れているだろうが、3万トンの金塊なんか使い道がないのだ。

 チカコに預けたら何するかわからないし。


「白鯨少尉」


 後ろに並ぶ士官の中からヨリが現れた。


「はい」

「貴官は休暇が貯まっている。閣下の受領書を転送後に上陸休暇を許可する。端末を持って防疫処置を受けるように」

「命令、拝領しました」

「帰りは僻地なので、帰還可能になるまで同盟国駐在武官として任務を続行せよ」

「了解しました」

「よし、全員で荷物をあのぼろぶ、いや、貨物船に積み替えろ。急げ」


 ボロ船って言いかけましたよね。


「では、閣下。これで失礼します」


 緊張して金塊を守備していた兵たちは、中佐の命令に驚愕していたが、早速フォークリフトを使って詰め替え作業を行っていた。

 だんだん、自分たちの守っていたものの価値が下がっていくようだった。

 扱いがぞんざいになっていく。


 ダライラマ氏が言ってたっけ、金は約束手形だと。

 食い物に替えられなければ、農業惑星においては価値はない。

 金で電線でも作るか。

 伝導率は銀の方が上だったかな。


 ああ、猊下。あなたは本物ですね。

 今わかりましたよ。

 ならば偽物は……


「ユウキ!」


「ヨリ、いや? 母さん?」


 なんと言うことだ!

 ヨリの3年後を思わせる姿だった。

 しかし、驚くべきことは、隣にあった。


 隣にいるのはラーマか!


 なんと言うことだ。

 初めて会った頃より若いぞ!

 だが、あの奇跡のような鴇色の髪は、世界中に二人といないのだ。

 でも、何でだろう。

 ちっちゃくない。

 ヒールの分を差し引いても150はある。


「ラーマなのか。本当にラーマか」

「あの、その、何というか」

「ラーマなんだな」

「あの、ラーマは処女に戻ってしまいました」


 何だって!


 夏の青空がラーマの瞳に美しく光り輝いていた。



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