78 新学期
78 新学期
お嬢様たちの暮らしていた宿舎は、10階建ての巨大な建物に作り直された。
エリダヌス総合女学院という学校施設になる。
中等部、高等部、侍女部、侍女師範コース、農業研究コースなどが新年から開始されるという。
俺はあまり口出ししないで、各長官たちに任せている。
他にも、領地内の建物が変わりつつあった。
まず、妻たち専用の屋敷が用意され、何故か10棟も造られた。
渡り廊下でつながり、食堂や厨房、風呂にも行ける。
子供たちは当然、母親と同じところに住んでいる。
ラーマとタキとレンは1つに一緒に住んでいるが、子供たちを合わせても、前の部屋より広いと言っていた。
サラスとイリスも一緒に住んでいるので、8棟も空き屋敷状態だ。
いや、一つにはチカコが住んでいた。
あいつは帰らなかったのだ。
「男がいるから、いや」
それだけで、豊作氏もセリーヌも説得はあきらめたようだ。
領地内は再び男子禁制になり、男は俺の息子たちと父親以外は入れなくなった。
親父は顔を見せなかったが。
外国のお偉いさんが来ても、国際空港から迎賓館かカナホテルに行くので問題は無いようだった。
風呂は大小5つも造られ、俺の専用、妻クラス、客用、侍女用、農作業用と便宜上分けられていた。
ユウキ邸も建て替えられ、1階は領主の様々な部屋ができていた。
2階は何故か侍女たちの宿舎になり、中央のエントランスには伝統の90度に曲がる階段が設けられていた。
再び、裸で上り下りする侍女の姿が見られるようになった。
サブルームにはマナイが住むようになり、妻たちに歓迎されていた。
マナイは四六時中俺と行動を共にして、夜も時々共にするようになると、自信がついたからか輝くように美しくなり、大物の風格までまとう様になった。
ただし、マナイが何かを決定したり、命じたりすることはない。
俺が決定するときに視線を送ると頷くか、頷かないかだけである。
頷かないときは、何か懸念事項を発案者本人が抱えているときなので、再検討するようにしている。
事情を知らない4長官も下の局長クラスも、マナイの判断力に一目置くようになり、デメリットもきちんと検討するようになった。
専従はメナイと見習いの赤城山3人組であるササ(赤毛)、ミヤ(黒髪)、レナ(茶髪)である。
メナイはいつの間にかそろばんの腕を上げていて、数字に弱い3人を可愛がっている。
まあ、俺も難しい計算はオペレッタ任せだったから、メナイの進歩は大助かりだった。
それに、メナイはマナイの特殊能力をよく知っているので、専従として一緒にいても気後れしないから、良いのである。
母さんは相変わらずワイルドカードで、好き勝手にしている。
朝早くに起こしに来て、サードたちと棒術訓練をさせる。
5人抜きができるようにと、ひどくハードルが高い要求をしてくるが、今のところ二人抜きまでしかできず、いつも2勝3敗である。
母さんは、祖父さんの形見である日本刀を振っているが、サードたちでも怯えて相手できない。
「腕の1本は覚悟しないとねえ、ボス」
「下手すれば、首が飛びますよ、ボス」
「修理とリハビリで、大変なことになりますよ、ボス」
「大体、毎日虎を3匹相手にしてたようなお人と戦うのが無謀ですね、ボス」
「逃げるのが賢明ですよ、ボス」
「ああ、ヨリさんがいないと腕がなまるわねえ」
ヨリはどれだけ強かったんだろう。
今のところ、母さんのお相手がつとまるのは、祐馬だけである。
孫には甘々である。
その後、母さんと祐馬と一緒にシャワーを浴びる。
俺はマナイとメナイと時々母さんの世話になるが、最近では祐馬がササ、ミヤ、レナの世話になることを好むようになった。
「まったく、尼川家の男は」
母さんの感想だが、俺も同意見だった。
食事は侍女の鍛錬の場で、サラスが時々指導しているが、ぬか漬けと味噌汁だけは母さんにかなわなかった。
「ああ、クラさんがいないと腕がなまるわね」
母さんが言うには料理の腕はクラ、ラーマ、サラスの順だという。
何でも味噌をつけて食べてしまう俺の腕前など、評価に値しないらしい。
朝食が終わると、母さんは妻と子供たちを連れて畑に出かける。
多少天気が悪くても休んだりしない。
天気の良い日は弁当を持って出かけて、子供たちを目一杯遊ばせて、昼寝をさせてから帰ってくる。
夕食後は、早く寝る。
美容と健康のためなのだそうである。
寝床は特定せず、ラーマたちと寝て、サラスたちと寝て、時々チカコと寝て、俺のところにも寝に来る。
「祐貴はマザコンで困るわ」
そう言いながら、一晩中抱きつかれるのだった。
「新年から祐貴は高校生ね」
母さんが突然変なことを言い出した。
俺はビックリして、鮭ビン用にさばいていた鮭をばらまいてしまった。
伝統的な鮭漁の日で、今ではスタンガンではなく、手網で1匹ずつ捕まえる。
タルト村も総出であり、侍女たちも全員でさばいている。
ホエールのマスコミも取材できているし、観光客も大勢参加している。
ロシア移民団の団長も訪れていた。
ちょうど良い具合に茹で上がった鮭ビンを、ダライラマ氏が横取りしていった。
「こら、さばくのも手伝わないで、食うな」
「殺生は苦手じゃ」
「そうそう、殺生は野蛮な祐貴さんに任せました」
ダライラマ氏とガンデン・ティパ氏は、そう言うと美味そうに鮭ビンを食べている。
普段からあまり肉食はしないらしい。
だが、成長期にタンパク質は必要だろう。
「それで、今更高校生もないと思うんだけど」
「高校ぐらいは出ていないと、将来困るでしょう」
将来? 俺は将来何になるのだろうか?
領主は職業ではないのだろうか。
日本でギルポン茶の営業マンとか?
タルトワインの行商とか?
「それで、高校に行く前に宿題をひとつ片付けてくれるかしら」
「宿題?」
「ええ、実は祐一と見つけた星のことなんだけど」
「猛獣の星だって聞いたけど」
「そこを、今度マサイ族に譲ることになって、引き渡しをしてきて欲しいのよ」
「母さんが行った方が良いのでは」
「それがねえ、母さんとラーマさんは、ちょっとホエールに行かなきゃならないのよ」
母さんは珍しく恥ずかしそうだった。
ははあ、若返りというか長寿化処置だな。
母さんは30だし、ラーマは多分30を超えている。
ここいらで、処置を受けておいた方が良いだろう。
「けど、俺は猛獣に食われるのは嫌なんだけど」
「大丈夫よ。地球よりちょっと強いだけだから。シロクマ以外は簡単にやっつけられるでしょう」
どんだけ強いんだよ、シロクマ。
「ナナ、サラサ」
「はい、お母様」
「はい、お母様」
母さんは、ナナとサラサにはお母様じゃないよな。
「あなたたちは祐貴と一緒に行って貰います」
「やった」
「良かった」
ススとドウが睨んできて、ちょっと引いてしまった。
「理由は? 危ない星なんだろう」
「実は、マサイの人たちが、お礼に毛皮の取引をナナ&サラサに一任してくれることになったのよ、その調印も現地でするのよ」
ナナ&サラサは、ラビットのミニスカートとブーツの組み合わせで、今年も記録的なヒットを続けている。
地球やホエールの少女たちの間では、がま口のポシェットが流行しているという。
ルミコの両親は、儲かりすぎて困るとぼやいていたが、しばらくは迷惑かけるしかない。
翌日、俺はライオンの毛皮の腰巻きと、伝統的なマサイの槍と盾を持ち、国際空港に来ていた。
ナナとサラサは、虎皮のビキニスタイルである。
とても子持ちの人妻には見えない。
それにしても、今時これはないんじゃないかと思うが、母さんが『マサイの人たちに失礼でしょ』といい、こんな格好にさせられたのだ。
レーザーもスタンガンも取り上げられてしまった。
本当にこれで二人を守れるのだろうか。
俺はターザンじゃないのだ。
まあ、専門家のマサイの人々が一緒だから、多分大丈夫だろう。
後ろで、見ているだけで済むことを願った。
「やあ、ユウキ様。その格好は何だ?」
タルトが現れた。
何でも、乳牛の防疫処置が終わるので引き取りに来たらしい。
子ジャケやトリノもいる。
「今度は男の子が良いな」
何故か、変なことを言い、妻たちを励ましている。
「惑星を、ひとつ引き渡しに行くんだよ。多分、エリダヌス星系では2番目の惑星になると思う」
「どんな星なんだ」
「猛獣が沢山いるらしい。虎やライオン、熊とワニ、ヒョウやカバだろうな」
「ああ、それなら今朝のニュースでちょうど見てきた」
コラノが面白そうに説明してくれた。
「何でも、マサイという星に動物愛護団体とかが押しかけて保護しようとしたのだが、30人以上が手足を食われて重傷らしい」
「ああ、国連総長が記者会見で、貧しい国の産業を奪うべきではないと言っていたな。ナナとサラサの事業を守ってくれそうだ」
「まあ、毛皮も取れないような小作以下の連中では、毛皮を着ることはできないだろう」
「しかし、木綿のTシャツは楽だぞ」
「タルトも年には勝てないか」
「俺はまだまだ若いぞ。ライオンの毛皮ぐらい取ってみせる」
「よし、春の作付けが終わったらライオン狩りに行くか」
「望むところだ。ユウキ様、俺たちの分は残しておいてくれよ」
タルトたちは、ご機嫌で乳牛を受け取りに行った。
あの、多分俺が行くのは、そのマサイなんだけど。
30人以上手足を食われたって?
代わりに行ってくれない?
「お久しぶりですね、祐貴様」
「また、お世話になるよ、パーサー」
「しかし、私がお世話する出番はなさそうですね」
ハンサムなパーサーが、俺の左右に座るナナとサラサを見ながら面白そうに言った。
俺もそんな気がする。
「ところで、マサイですね。その槍と盾」
「よく知っているなあ」
「ええ、ロシアの移民団とマサイの移民団のどちらかを担当することになりましたので、少しだけ勉強しました。残念ながらロシア移民団が先だったので、見ることはできませんでしたが。何でもマサイの人々は成人するときに5人がかりでライオン狩りをするそうです。それでも一人ぐらいは食われてしまうこともあったそうですよ。まったく、勇敢な人々です」
5人がかりで、一人は食われるって?
大丈夫なのか、マサイ?
いや、俺か。
ナナとサラサは、一日中俺にべったりで世話を焼き続け、パーサーは空気を読んでか現れなかった。
ナナとサラサは、あの頃してみたかったこと、とか言うゲームを始めて、いろいろなことをしてきた。
口移しで酒を飲まされ始めた辺りから、俺は酔っ払ってブレーキがきかなくなってきた。
ナナは、『ツイスターゲーム』をしましょうと言ってきて、円盤に矢印が止まる簡単な機械を持ち出してきた。
その矢印が止まるところには色とか右とかが書いてあるはずだったが、何故か太股とかおっぱいとか先っぽとか書かれていた。
男用と女用に別れていて、二人はキャーキャー言いながらルールを決めていた。
「変なツイスターゲームだな」
「エリダヌス仕様なんですよ」
ナナはとっても嬉しそうだった。
その後一時間以上ゲームをしていたが、お互いにキスしてない場所はないほど進んでいた。
だが、奇跡的に男盤のあそこ、女盤の先っぽだけは出なかった。
最後にサラサが先っぽを引き当てて『いただきまーす』と迫ってきたが、俺にはその先の記憶が無かった。
パーサーがお楽しみでしたかなどと言いながら起こしに来たときは、ナナもサラサもバスルームに逃げ込んでいた。
何か恥ずかしいことでもあったのだろうが、永遠の謎になってしまった。
マサイの人々は、みんな2mはあろうかという長身で、移民団の団長夫妻以外は、みんな15歳以下の男女だと言うことだった。
しかし、マサイの人々が、防弾防刃の戦闘服にレーザーとスタンガンで武装していたのに、俺はライオンの腰巻きにマサイの槍と盾だけだったのは、母さんに騙されたとしか思えなかった。
しかも、親父が造った砦に行く途中でライオンが現れると、マサイの人々は散開して隠れてしまい、俺は動けないナナとサラサを助けるために30分も死闘を繰り広げ、何とかライオンをねじ伏せて、先導役をやらせた。
近隣で一番強いライオンだったのか、ほかの猛獣は現れなかった。
砦に到着するとライオンは逃げだし、マサイの団長は俺を成人と認めてくれ、何かの骨でできた首飾りをかけてくれた。
マサイの若者たちは全員が祝福してくれた。
悪い人たちではないのだが、この先が少し心配だった。
「しかし、思っていたより猛獣が少ないな」
「それはあれです」
ナナが解説してくれる。
「砦の周りはお母様の匂いが染みこんでいるので、付近の猛獣は学習した結果現れないのです」
「母さんの匂いだって?」
「はい、毎日おしっこを周辺に撒いておくと、縄張りみたいに結界ができるそうです」
母さんは熊か!
マーキングで追い払うってどんだけ強いんだよ。
「お父様のニオイでは追い払えなかったそうです」
「結界の外側では、かなりの確率で遭遇するそうです」
マサイの人々は暮らしていけるのだろうか。
「我々は、ここをハンティングで売り込もうと思っています。我々が倒さなくても、世界中のハンターが狩りに来てくれますよ。何しろハンターはお金持ちですからね。イギリスの侯爵様が一番最初に来てくれるそうです。お友達を4人連れてくるそうですから、宣伝効果も抜群かと思います。取れた毛皮は簡易処理して、ホエールの貨物船に送って貰いますよ」
エリダヌス連合の協定を結び、ナナ&サラサの契約書を取り交わすと、次々に物資が運び込まれてきた。
アンドロイドたちが砦の周りに辺境ぽい宿舎の建設を始め、若者たちはハンティング用のジープで、周辺の調査に出かけていった。
ヘリや装甲車まで陸揚げされていた。
俺とナナとサラサは、一緒に砦を見学し、両親がどんな生活をしていたのか見て回った。
一室は、高級和布団が残されていて、柱に正の字が刻まれていた。
日付を記録したのだと思いたかった。
外には2反の畑があり、小麦とジャガイモを植えていたのがわかった。
マサイの少女たちが、夕食を用意してくれた。
驚いたことに、飯ごうにカレーだった。
調査に行った連中の報告を聞きながら、夕食になった。
「50キロ以内にライオンのファミリーが200はありました」
「森には虎が50個体いました」
「川沿いにはバッファローが2万、エランドらしきものが1万、ジャコウジカも数十発見しました」
「川にはアリゲーターとカバが多数います。水牛も見つけました」
「ガゼルとインパラは、数えきれません」
「山沿いに鹿と山羊、オオカミらしき群れがいます」
「モンキー、エイプは確認できません。ウサギやネズミはいくつか発見しました」
「明日から、肉の味を調べよう。家畜も必要になるしな」
どうも、この星もゲートが絡んでいるように思えた。
しかし、マサイの人々は、皆幸せそうだった。
俺はメープル酒を5樽出して、宴会に添えた。
夜は布団のある部屋で寝かして貰ったが、3組敷いてあった布団は、ナナとサラサによって1組にされて、3人で一緒に寝ることになった。
左右でしつこくせがんでくるので、俺は必殺のおっぱい責めを繰り出し、経験の無い二人はすぐに沈没した。
翌朝、マサイの男たちはげっそりしていて、女たちはツヤツヤしているので、何があったか一目瞭然だったが、俺は気づかぬふりをした。
パンと目玉焼きとコーヒーの朝食を済ませ、マサイの人々に見送られて空港へ向かった。
元気なマサイの少女たちがみんな、かがんで頬にキスしてくれた。
途中、例のライオンが現れ、俺たちを空港まで送ってくれた。
律儀な奴だった。
パーサーは俺の左右ででろんとしているナナとサラサを祝福していたが、全くの誤解だった。
帰ると、ナナとサラサは本店の最上階を東京湾が見渡せるジゴロ部屋に作り替え、年中誘いに来たが、俺は忙しくて一度も行くことがなかった。
新年から学校が始まるので、教師の面接が始まったからである。
学校は、いわゆるクラスの部屋はなく、上層階の寄宿舎から各時限に講義がある教室に移動する形式になっている。
教師は専門の教室に準備室があり、そこにいることになる。
どのコースでも能力があれば上の学年の授業を受けられる。
数学、化学、物理、地球史、日本語、チベット語、ロシア語、そろばん、農業、機械技術、球技、法律、侍女学があり、中等と高等を、また学年を区別する授業と、全く区別がない授業があった。
領地内で女学院だから、当然教師も女ばかりだった。
数学は、ホエールのイリナとロシアのタチアナ。
化学は、アメリカのベッキーと日本のジュンコ。
物理は、インドのパドマと妻のミヤビである。
地球史は、イギリスのマリーで、伯爵令嬢だという。
地球史には学年はない。
卒業資格ではあるが。
日本語は、カオルコと、何故かセリーヌである。
4長官が選んで、俺が決定しているので、不正はない。
俺が選ぶとおっぱいの順になると4長官が言うのだ。
せめて、美人の順と言ってくれれば良いのだが。
チベット語は、ダライラマ氏とガンデン・ティパ氏の二人がかりである。
農業は、女性には厳しいから逃げ出してきたのだろう。
ロシア語は、エミリヤとポリーナで、ポリーナはイリエンコワ大統領の孫だという。
ポッチャリ系は珍しいとだけコメントしておく。
そろばんは、侍女たちが交代で当たることになった。
農業は半分が実技なので、アンドロイドが2体選ばれた。
サラスが監修してくれる。
機械技術は、南アフリカのアリエ(エリエと聞こえるが)で、エリダヌスでは初めての黒人である。
漆黒と言って良いが、瞳がとても大きく美しい。
何故か、八さんみたいな日本語を使う。
球技は、体育だと気が入らないので、遊びとスポーツの要素を兼ね備えて、バレーボール、バスケット、バトミントン、テニスなどにした。
教師は日本の女子体育大学を卒業したばかりのアカリである。
法律は、ミヤビの母豪華さんとミサコの母彩子さんである。頭が痛い。
侍女学はドウの部下の女官が当たる。
落選した女性たちには、七湖カナホテル観光をプレゼントして、次の機会に気持ちよく来てもらえるよう配慮した。
七湖観光は、地球からでは2千万ぐらいの費用がかかるのだ。
お金持ちしか来れないから、喜んでもらえた。
一応、全員が推薦状を持ってきていて、全員が男嫌いと書かれてあった。
建前だろうが、豪華さんなど『祐貴以外は嫌いよ』などと笑いながら言っていた。
だが、大半は男嫌いというか、少し苦手らしい。
アリエは、日本の機械工場で働いていたのだが、女で黒人だから、相当差別されてセクハラの毎日だったらしい。
新学期の打ち合わせをして(随時入学できるので、入学式はない)、理事長のドウが、豪華さんを校長に選んで、校舎と宿舎を見学に行った。
食事は侍女と見習いが作り、3食食堂で食べられる。
教師は、夕食だけは部屋に届けてもらえるが、酒は食堂だけにした。
昼食や夕食を商店街に食べにいけるのも教師だけだ。
勿論、街にはタルトの居酒屋もある。
給料は2万リナで、食事代4000リナを引く。
ほかに、1000G(500万円)の外国人手当が付く。
夜は歓迎会になった。
スーツ、ドレス、民族衣装、トップレスと色々と華やかだった。
みんなが打ち解けてきた頃、マリーが伯爵令嬢らしく着飾ったドレスで挨拶に来た。
「名実共にエリダヌス連合代表、おめでとうございます」
「ありがとうございます。マリー先生」
「まあ、私、ユウキ閣下の先生になるのですね。これは伯爵どころの名誉ではありませんわね」
「代表なんて、疲れるだけで良いことないわよ」
セリーヌがそう言う。
彼女はホエールのファーストレディである。
アメリカ合衆国大統領夫人でも星系首相夫人の次に回されてしまうから、実はもの凄く偉い。
だが、ここに来てトップレスで教師をしている。
「セリーヌ様だけは、閣下と同格ですね」
「様はやめて、同僚なのよ」
「俺も閣下はやめてくださいよ、マリー先生」
「地球では非常識扱いされてしまいますが、郷に入ればというやつでしょうか」
「地球を引きずるのは、授業だけで良いのですよ」
「まあ、祐貴。もうセリーヌと浮気なの?」
豪華さんが飛び込んできた。
受け止めないと被害が出そうだ。
だが、受け止めると大きなおっぱいがドンとくる。
「浮気はあなたでしょう、豪華」
「私は正式に夫から祐貴に委任されたのよ」
「私だって、キヌに夫を渡してきました」
マリーが目を白黒させている。
男の取り合いみたいなのは、流石に経験が無いのだろう。
「叔母様方、恥ずかしいからやめて」
「まあ、カオルコ。叔母様はやめてよね」
「ええ、そこはセリーヌに賛成だわ」
「でも、本当に叔母様じゃないですか」
「祐貴の婚約者に戻ったの!」
「ずるいですよ」
うるさくなってきたので、ポリーナの側に逃げる。
ポリーナは、少しだけビクリとした。
「大統領はお元気ですか」
「ゆ、祐貴様」
赤くなって俯いてしまう。
あの大統領のご乱行を聞き及んでいるのだろう。
「様はやめてください。ポリーナ先生」
「そんな、無理です」
体型を隠すような少しフリフリのドレスだが、ウエストは結構締まっている。
きっと若いのだ。
処置は受けていないだろう。
「こら、祐貴。生徒のくせに若い先生を誑かすんじゃありません」
このノリはガンデン・ティパ氏である。
さっきまでは『祐貴さん』だったからだ。
「ええと、更に若い先生は、何とお呼びすればよろしいのでしょうか。老師ですか。ガンデン・ティパ先生じゃ呼びづらいですよねえ」
「老師が良いな、年寄りだし」
「猊下、ひどいですよ。3つしか違わないじゃないですか」
「3つでも、年寄りに違いあるまい」
「確か、ティパというのは尊称じゃありませんか?」
ポリーナが少し復活した。
女は大丈夫なのだろう。
「うむ、官職じゃな。日本語なら管長、座主、法主辺りか。本来ならば30年以上は研鑽しないと与えられない職務じゃな」
「猊下」
「まあ、さりとて偽物という訳ではないのじゃ。祐貴が男子禁制にしてたから選ばれただけじゃがの。チベットができれば用済みじゃろうな」
「猊下、飲み過ぎですよ」
「ティパで良いじゃろう。現地人はそう呼んでおる。本名は還俗して、祐貴の嫁になればわかるじゃろ。それまで我慢してくれ」
「猊下、俺は騙されるのは好きじゃありません」
「ほう、ならばどうする」
「猊下を本物にしますよ」
ダライラマ氏と睨み合いが続く。
「……祐貴」
「はい、猊下」
「お前は、馬鹿じゃな」
「よく言われます」
「本当に馬鹿者じゃ」
そのまま、ダライラマ氏とガンデン・ティパ氏は去って行った。
ちらりと涙が見えてしまった。
ポリーナが責任を感じているのか、涙目で見送っている。
無意識に俺の腕をつかんでいた。
「ポリーナ先生、1曲お付き合いください」
俺はそのまま手を取って、ポリーナとワルツを踊った。
ちょうどBGMがワルツだったのが良かった。
ポリーナは俺より上手だった。
次にマリーと交代すると、次はトップレス3人組が決心してワルツを踊った。
「もう、確実にひとり落としたわね」
と豪華さん。
「私が先なら許してあげる」
と、セリーヌさん。
「スケコマシはパーティー禁止よ」
と、カオルコ。
その辺りで、何故かミヤビが遅れて来た。
「カレンを迎えに行ってたのよ」
「お兄様、次は私です」
ミヤビと踊り、カレンに替わる頃、何故かBGMがロックンロールに替わって、アカリが俺の腕を引いてジルバを踊った。
「ダンスも授業に入れましょう」
「良い考えですね」
最後はアリエとランバダを踊って拍手を浴びた。
俺は、息切れを起こしていた。
「ダンスは男女比が悪いと大変だな」
「どうするのよ。この領地で」
「タルト村に盆踊りを教えようか」
「きゃははは、似合いすぎ」
カオルコもミヤビもカレンも、大笑いしていた。
新学期初日は試験だった。
数学、日本語、物理学、化学、地球史全般、農業理論と六時間も試験を受け、学年が決定される。
2日間試験休みだが、教師たちは全員で採点と割り振りをしていた。
130人のホエール人元妻は、半数の近くの60人が戻ってきて、更に妹を50人ほど連れてきていた。
2日間は宿舎の整理と商店街などの見学に当てられた。
ホエールからの輸入品は学校では月に一度である。
カオルコとミヤビはホエールの大学を卒業していた。
ミサコは司法試験があるので、まだ、戻ってこれない。
ヨリは軍務なので不明である。
2日後、俺は何とか高一として、出発できた。
物理、数学、日本語、法律は高校一年から、化学と農業は2年生、機械技術は中3、ロシア語は中1である。
体育と地球史は全学年共通であるが、高校と中学で日にちがずらされている。
そろばんはパスして侍女たちにホッとされ、チベット語をパスしてダライラマ氏に叱られた。
だが、全教科取れるわけではないのである。
水曜日の午後は体育、土曜日は一日農業が当てられる。
侍女たちは全員中1から始める。
飛び級もある。
高校は侍女師範コースであり、卒業すると教師の資格がもらえる。
村で侍女教育を行う資格である。
女官の道も開かれる。
大学は今のところ、10人までがホエール農業大学に推薦される。
ホエールも開発途上惑星が多いので、お嬢様方にも人気がある。
カナとサクラコとチカコは高2で、カレンとリンとルミコとアキは高1だった。
高3は受験のための自習がメインであり、教師の個人授業が空いている時間に受けられる。
今年は高3はいない。
マナイだけは特別に俺と同じ授業にしてもらった。
勿論、できるだけ勉強して同格を維持していた。
食堂や喫茶ギルポンでも一生懸命勉強するマナイを見て、文句を言うものはいないだろう。
本来なら中1からなのだ。
とはいえ、教室にトップレスの女子ばかりという夢が実現した。
女子たちも楽で良いと言うのだ。
勿論、Tシャツ一枚だけとかもいるが、エリダヌスではトップレス巻きスカートが標準なので、その格好が一番多い。
侍女たちは、屋内では他の格好をしない。
毎日が、非日常の様だった。
一番は、最後まで抵抗していたポリーナ先生がトップレスになったことだろう。
俺は何も言ってないが、教師たちも徐々にトップレスが平気になっていったのだ。
暖かい初夏の日、突然現れたポリーナ先生のトップレスは強烈だった。
いつもは成績が悪い俺を良く指導に来るのだが、その日だけは目が合わないようにしていて可愛かった。
ポッチャリ系だが、おっぱいの先はツンとしていた。
マナイに呆れられたが、その日だけは目が離せなかった。
何しろスレンダー系が殆どで、40代の夫人でないとポッチャリ系は現れないのだから、もの凄く貴重である。
だが、40代のポッチャリはウエストもポッチャリなのだ。
ところが、ポリーナ先生はウエストと足首が凄く細く見える。
西洋絵画の美人の様なのだ。
その日は、マナイすらサブルームから現れなかった。
そして、ついに夏休みが来る。
79へ