77 エリダヌスの魔女
77 エリダヌスの魔女
地球では政治ばかりで、俺には退屈な日々だった。
アメリカ合衆国の新大統領にはピカード氏が当選し、すぐに親国連派、ホエール派により軍部や情報部をまとめると、挨拶に来た。
国の代表より星系の代表の方が格上であり、星系の代表よりも星系連合の代表の方が格上だとすれば、俺と同格なのは青鯨氏しかいないのだそうだ。
ピカード大統領は上機嫌でゲート母艦を受け取って帰って行った。
アメリカでは、牡牛座辺りの開発計画があるようだ。
うまくいけば良いのだが、宇宙には外れもある。
当たりを引いても、ホエールの輸送力を頼らなければならないし、独立星系になってしまえば、結局は地球の支配力は及ばない。
それでも、フロンティアがあると無いとでは、国民の希望とか将来に影響が出るのだろう。
現在はライトスタッフが再びブームになっている。
ブームと言えば、エリダヌスファッションとして、一時期巻きスカートだけの女性がアメリカを中心に先進国で見られた。
強者はノーパンまでまねをした。
日本では渋谷を中心にトップレス女子が現れ、男たちは週末になると渋谷、原宿、青山に集まった。
秋葉原にはトップレスの喫茶店である『エリダヌス喫茶』が登場したらしい。
ノーパン派とパンチラ派で激しく争っているらしい。
何故かアメリカの性犯罪が激減して、トップレスファッションを非難した学者たちを困惑させた。
ベビーブームが到来するが、その原因がフロンティアにあるのか、ファッションにあるのか、誰も特定できないようだった。
ただ、たった500枚しか出荷できなかったナナ&サラサには、それを見本に商品化した各国のブランドやメーカーから凄い金額のロゴ使用料が入ってきた。
ホエールでも、例の母親十人委員会のお陰で、上流階級の夫人たちはトップレス・ノーパン・ミニスカートととなり、流行になっているという。
アパレル産業はルミコの両親の得意分野で、ナナ&サラサのすべての交渉を仕切ってくれたらしい。
ホエール銀行は、ナナ&サラサのメインバンクとして財産管理をしてくれている。
ロシアは、完全にホエール・エリダヌス連合に合流している。
エリダヌス人の半分が白系ロシア人の先祖であることが証明され、ロシア大陸には細々とだが、小部族が生活しているのを調査隊が発見したからである。
原始的な生活をしている少女たちの姿が配信されると、ロシア移民団が結成されそうだった。
イリエンコワ大統領は2度も俺の寝込みを襲いに来て、その度に強烈なメープル酒を浴びるほど飲まさねばならなかった。
危険人物の筆頭に上げておいても、エリダヌス大使館の協力者がみんなロシア系なので、防いでくれないのだ。
青鯨氏は、ペガスス、へびつかいの両星系連合を独立させる方向で検討していて、ホエール株による支配地域を減らそうと努力している。
一番不気味だった中国は、親父が住むはずだった双子座の星の調査権を譲り渡すと、全く何もしてこなくなった。
多分、移民計画で外に向ける目がなくなったからだろう。
移住が成功するまで、一切の秘密主義でいくのだと思う。
民族の独立運動の火種を抱えているので、指導部は逃げ出す準備をしているのかもしれない。
ゲートのことも教えたのだが、15年かけて移民船を飛ばすつもりらしい。
お陰で、中国の警戒が低下して、ダライラマ氏を筆頭とするチベット人は、ひたすら俺に感謝しに来るので、対応する職員が大変だった。
大使館には侍女5人、見習いが6人配属されて、昼間は学校に行っている。
イギリスの調査隊は、中国大陸にはチベット人とポリネシア人の家族的な小集団が2000程度はいるだろうと予想していた。
血が濃くなり、男女比は1対12だという。
1家族に妻が3人、娘が9人である。
調査隊には少女たちが群がり、先に進めないらしい。
農耕と定住を指導する者と、成人男性が大至急必要だという。
中国のチベット人たちが少しずつインド経由で、アメリカというか、エリダヌスの移民局を目指し始めている。
太平洋の島国からの打診も入り始めているが、大陸に住むのは少し抵抗があるようだった。
オーストラリア南米大陸には、大小の島もあるから、いつかは紹介できるだろう。
俺はカナホテルに逃げ込んで、色々とやり過ごす日が多くなった。
カナホテルは、俺が勝手にそう呼んだだけなのだが、カナの両親が気に入ってしまったらしく、名称をカナホテルで統一してしまったのだ。
DCホエールとかニューヨークホエールとか、今まで紛らわしい名前だったからでもある。
エリダヌスの迎賓館近くにもホテルを建設してしまい、エリダヌス・カナホテルになるのかと思ったら、ユウキ・カナホテルという名前で、カナはご機嫌らしい。
サンヤの許可により、七湖にもホテルを作っている。
カナは修学旅行の時には、七湖にホテルを建てる決心をしていたのだ。
この半年で、2万人もの観光客がホエールから訪れたらしいから、カナの感覚は外れていなかったのだろう。
モータリゼーションは、ススが許可を出さず、観光客は鹿モドキ馬車しか利用できないらしい。
お陰で、カリモシ村で一泊しなければならないので、カリモシは仰天していることだろう。
世界に3000人ぐらいしか人口はいないと思って生きてきたのに、急に2万人もの観光客が現れたら大変な騒ぎだ。
出発前に、クラとロマが地球人の友達から性知識を引き出し満載して現れたが、高校を無事に卒業したら結婚すると断り、大泣きされた。
俺の決心が鈍らないと察した二人は風呂に入り、湯上がりの裸を見せに来た。
今までに何度かそんなことをしたのを覚えていたのだろう。
軽く上気した二人の裸は、とても美しく夢のようだった。
一人では絶対に現れない美がそこにある。
一夫一婦制の国では死刑にされそうなことを考えながら、この地球で俺は再び感動していた。
エリスはニューヨークで結婚したいのが見え見えだったのでお断りした。
一夫一婦制の国の神の前で結婚できるほど、俺の面の皮は厚くはない。
勿論、感謝しているが、既に妻が『故郷』で待っているのだ。
手を出してもいない相手に刺されるかもしれないという、理不尽な恐怖心を押さえてのことで、内心はバクバクだった。
エリスは、完全犯罪を決心したような瞳で睨んできたが、俺は自分の心臓を飲み込むかのように踏ん張って、乗り切った。
乗り切ったと思う。
最後の瞬間にイリエンコワ大統領が抱きついてきて、すべてがぶっ飛んだからだ。
ホエールの定期客船は、ホエール人でいっぱいだった。
俺はホエール人の好意で、最高級の個室に案内された。
パーサーが言うには、これ以上の部屋は個人所有以外にはないとのことだった。
ゲート客船が個人所有できないから当然最高級という意味である。
政府専用船があったと思ったが、あれは確か軍用船だったから、居心地が良いとは思えない。
こちらは、居間も寝室も4人は入れるだろう。
バストイレ付きであり、パーサーは基本的にこの部屋の専従らしい。
実際にくつろげたが、すぐにダライラマ氏とガンデン・ティパ氏に見つかり、押しかけられた。
どうやら、狙われていたらしい。
「二人用個室というクラスを選んだのじゃが、あれは一人用には収まり切らん大男用という意味じゃな。とてもじゃないが耐え切れん」
「一番下の値段は避けたのですがひどいものでしたよ。あれより下があるのが信じられません」
「実は二人用個室が一番下なのですよ」
と、笑いながらパーサーが説明した。
女性のところに男が押しかけた場合は排除するが、男のところに女性が押しかけてきた場合は見ないふりをすると、若い頃のセバスを思わせるようなハンサムな笑みで言っていた。
「値段が上に見えるのは、二人分だからです。一人用個室を二つにすると、二人用個室より値段が上になります」
「ああ、そうなのですね」
「お前は阿呆じゃな。うわべの値段で騙されおって。国一番の知恵者の名が泣くぞ」
「まあ、失敗は誰にでもあるものですよ」
「しかし、ここは高い部屋だけあって、世話係も良い男じゃな」
「お褒めにあずかり恐縮です」
「あっちは、量産型のアンドロイドが食事と風呂の時間を告げに来るだけじゃ。しかも、風呂は一人10分じゃと。何処を洗えと言うんじゃまったく」
「3日分を貯めておいて、一回30分にするのが普通だそうです。しかし、女性は最低でもエグゼクティブクラスですね」
「そうじゃろ、こやつが値切るからなんじゃ」
「どうせ祐貴さんと一緒なんですから、一番安いのでいいと仰ったのは猊下でしょう」
「お前こそ、祐貴と同じ部屋などと夢見るような顔をしておったじゃろうが、罰あたりめ」
「まあまあ、お二人とも無事に見つけられたのですから、良いではありませんか。祐貴様はホエール人にとっては恩人のようなお方です。その祐貴様のお連れでしたら、我々も精一杯おもてなししましょう」
本当は連れじゃないのだが、そんなことを言ってももめるだけなので黙っていた。
一緒に帰るはずだったキン、ギン、ドウは、ススが手一杯になっていたので、先に帰したのだ。
そのせいで、俺の仕事が増えて、帰りが遅くなってしまった。
「ホエール人は金持ちばかりじゃろう。何であんな部屋があるのじゃ」
「ホエール人でも破産して帰るものはおります」
「あれは破産した者用か」
「いいえ、普通は地球人用です」
「なんじゃとー」
連中が漫才を続けている間、手元に科学雑誌を呼び出して眺める。
例の科学雑誌だが、今度は表紙にイケメンとヒミコが写っている。
見出しは、知的生命体発見である。
だが、気になったのはそこではなく、イケメンの後ろの方に写っている人物である。
乗馬服を着ていて、帽子も被っていて斜め後ろからの姿だが、チカコに見えるのだ。
あいつが最後の日にもまだ残っていたのは知っている。
前日、母親のセリーヌに金融雑誌とブラジャーを注文していたからだ。
『誓子は帰る気無いの?』
『お母さんこそ、帰らないの?』
『私はせっかく婚約者に会えたのだから、もう少し』
『もう。婚約者じゃないでしょ』
『誓子の婚約者だったら良かったのに』
『お母さんに取られるから嫌よ』
『ケチねえ』
『サイズ間違えないでよ』
『ずいぶんと大きくなったのね』
母と娘の良くわからない会話をしていたから、良く覚えている。
いや、カップのデカいブラジャーの映像の方が記憶に残っている。
エリダヌスでは、あんまり見かけない映像だったからだ。
何だか、チカコすら懐かしい。
ホエール星系では、船が止まるたびに人が減っていった。
最後の駅では、ミサコが厳重なパッケージを持ってきてくれた。
リーナさんへのお土産である。
「中身を見られたら、変態だと思われます。とっても恥ずかしかった。今でもドキドキです」
ミサコが可愛い笑顔を見せてくれたのも、そこまでだった。
ガンデン・ティパ氏が寝室から寝起きで現れたからだ。
「へえ、地球にクラさんとロマさんを置いてきたと思って感心してたら、こういうことだったんですね」
「誤解だぞ」
「お持ち帰りするほど気に入ったんですか」
「だから、誤解だ!」
しかし、そこで追い打ちをかけるようにダライラマ氏が裸で現れた。
「ど」
「ど?」
「同時に二人なんて! しかも、ロリコン!」
「なんじゃ、ロリコンって」
「幼女を食べる男のことです!」
「祐貴、そなたは幼女を食べるのか。鬼子母神かヤクシャか」
ガンデン・ティパ氏が、ミサコの言葉で目覚めて顔を赤くする。
誤解を解けよ、恩知らずめ。
俺は、毎日ベッドを譲ってソファで寝てたろう。
風呂だって覗かれたけど、覗いたりはしなかったろう。
「猊下、まずはお召し物を」
「何じゃと、おお、すまん」
とりあえず、夜叉だなんだは部屋に戻った。
13歳は子供なのだ。
いや、クラは13歳か。
「ミサコも誤解はよせ」
「離婚したから、文句を言う権利がないのですか?」
「何言ってんだよ。妻はいつまでたっても妻だよ」
「ふえっ」
「いきなり怒ったり泣いたり忙しい奴だな」
「だって、少しだけでも、二人っきりになれると思ってたんだもん」
「俺もそう思っていたんだが、色々あってだな。お荷物を抱えてしまった」
「我々はお荷物ですか!」
「誤解を解かずに文句だけ言うな。ミサコ、こちらはガンデン・ティパ氏。チベット仏教の高僧であらせられる方だよ。ガンデン寺の責任者だ」
「きれいな方。高僧なんて嘘つかなくても」
「本当なんだ。聖職者だからいかがわしいことはしないぞ」
「仏教の根本は慈悲です。飢えた男の欲望を鎮めることも、慈悲の心かもしれません」
「こら、心にもない嘘を言うな!」
再会したミサコとキスすると、何となく妻という気がした。
恋人と感じたヨリとは異なり、ほんわかとした安心感があって嬉しかった。
ミサコは派手ではないが、お嬢様らしいファッションで、落ち着いた感じを見せていた。
すぐにガンデン・ティパ氏と打ち解けて、親友になった。
チベット人に対する、ホエール人の助力も約束したようだ。
出航前に、チベットの第一期移民団50人が船に乗り込んできた。
何でも、中国から逃げ出し、ホエールできつい重労働をしながらここまで来たらしい。
公にすると中国政府からどんな嫌がらせを受けるかわからないので、難民のようなふりをして働いて集結したのだが、ここからエリダヌスに渡るために、俺の帰国を待ち続けていたと言う。
みんなチベットでは名門の家系であり、タルト村で1年間の農業指導を受けて、上海に移住することになっている。
移住の資金はかなりあったのだが、それはすべて上海上陸後の物資と後に続く移民たちに当てられていて、ホエールの旅行会社であるカナとアキの両親に預けられているという。
まあ、ホテル業と運輸業である。
自分たちは後続の移民のために、資金を減らさないよう努力してきたらしい。
皆、ダライラマ氏の前で泣き崩れていた。
それから、3日後にエリダヌスに到着した。
俺はパーサーにお礼を言って別れ、着陸艇でユウキ領国際空港に降り立った。
東京湾と隅田川のそばに作られていて、閑散としていたが、防疫体制だけは厳重に念入りに作られていた。
俺たちは全裸で洗浄され消毒され、念入りに殺菌されると、防疫アンドロイドの上陸許可が出るまでに一時間以上も待たされた。
やがて許可が出ると、出口のところでアロハシャツとバミューダパンツを選んで、南国リゾートの遊び人のような格好になった。
ダライラマ氏とガンデン・ティパ氏は、白いワンピースに白い帽子の可愛らしい姿になった。
お陰で、出迎えに来ていたススはご機嫌斜めだった。
迎賓館はそのままだったが、手前というか空港側に、20階建てのカナホテルができていた。
更に、15階建ての行政庁舎ビルがあり、銀行も7階建てになっていた。
ナナ&サラサ本店も10階のビルになっていて驚いた。
俺はとりあえず迎賓館にダライラマ氏とガンデン・ティパ氏を連れて行き、キン、ギン、ドウに会わせたが、地球でよく話していたらしく、ただの再会だった。
やがてタルト村の幹部たちが来て、チベット人50人が揃うと大宴会になった。
「俺たちも人間になれたんだってなあ」(タルト)
「最初から人間だったろう」
「ユウキ様は今でも神様ですよ」(父ジャケ)
「恩人だな」(コラノ)
「しかし、我々の先祖がユウキ様と同じ星から来ていたとは、いやはや長生きはするもんじゃ」(スルト)
「それで、久しぶりの故郷はどんな様子だったんだ。まだ、ユウキ様を殺そうと思ってるのか」(タルト)
「いいや、俺が金を持ってないとわかると、どうでも良くなったらしい」
ここの人たちにとっては、金なんかよりも人間として認められたことの方が、遙かに価値があるだろう。
「金? あんなものいらんだろう。小麦の方が大切だ」(コラノ)
「芋や肉の取引には便利ですが、食べられないものを沢山持っていてどうなるんですか」(父ジャケ)
「地球人はあまり畑を持っていないんだよ」
「みんな小作か」(タルト)
「手伝いばかりなんだろう。だから金が必要なんだと思う」(コラノ)
「確かに畑を持ってなければ、食い物は金で手に入れるしかないか」(タルト)
「大工仕事をして、小麦で払ってもらえないと心配ですね」(父ジャケ)
「金は約束手形じゃが、共有する幻想でもある」
「猊下、どういう意味でしょうか」
ダライラマ氏が隣に来て、話し始めた。
「カエサルのものはカエサルにじゃ」
「異教徒ですよ」
「真理は誰が述べても真理じゃ」
「で、金が何ですか」
「祐貴は金などいらぬだろう」
「はい、猊下」
「じゃが、太陽の光はどうじゃ、空気は、きれいな水は」
「それは必要ですよ。生き物は全部、それで生きているのですから」
「つまり、仏の慈悲無くしては生き物は生きられぬ。逆に言えば、仏の慈悲があれば、金など無くても生きていけるということじゃな」
「金は生きる必須条件ではありませんね。天と地、空気、水、そしてここでは農耕です」
「依正不二じゃな。忘れるなよ、祐貴。増税でもしたくなったら、その茄子でも徴収せよ」
「それでどうするんです?」
「漬け物にして、朝飯にせよ」
「何か解決するのでしょうか」
「お前の頭が解決するじゃろう」
まるで、禅問答の様だったが、チベット人たちは感激しているので、何か意味があったのかもしれない。
今度、ガンデン・ティパ氏にでも聞いてみよう。
その後は侍女たちが100人も挨拶に来たので、それどころではなくなってしまった。
ダライラマ氏は、チベット人たちに、上海に行くまでは女は厳禁と申し渡した。
ユウキ領で女を作ったら、渡航させないと言うのだ。
中国大陸には男が少ないとイギリスの調査隊から報告があったからだろう。
選りすぐりのエリート集団らしいから、大丈夫だと思うのだが、裸に禁忌のないこの場所では、苦行であることは俺が保証する。
半年以内にロシア移民団が、ロシアの支援を受けてロシア大陸に入ってくるが、チベットは国家の後押しがない分、慎重である。
ただ、農耕に関して言えば、中国大陸の方が楽そうである。
だが、この侍女100人を前にして、若い男どもはもう挫折しそうである。気の毒に。
「そういえば、祐一様がボルネオ島に探検に行かれまして」
やっと、一息ついたススが隣に来て、いきなり爆弾発言をした。
「なんでも、ボルネオ島には女ばかりの部族がいて、全部妻にしてきたそうです」
まったく、あの親父はなんと言うことをしてるんだ。
まだ、新婚だろう。
「女ばかりの部族って、どうしてできたんだろう」
「多分、海に逃げ出した女たちが身を寄せ合って生きてきたんだろうと思います」
「しかし、男がいないのに……」
「時々、祐一様のような酔狂な方が現れるのではないでしょうか。ただ、弱い男は殺されてしまうのでしょうね」
「まるっきり、アマゾネスだな」
「祐一様もそう仰ってました。やはり親子ですね」
「しかし、妻って、引き取るのか」
「いいえ、何でもバナナ、パインアップル、ココア、胡椒、オリーブとコーヒーの栽培を教えてきたので、できたらこちらに運んでくるだろうと言うことです。ユウキ様に小麦や米と交換するように指示されました」
「へえ、オリーブとコーヒーはいいな」
「娘は残しておいたから、きちんと接待するようにとも」
「いや、アマゾネスを接待なんかできないだろ」
「若いから大丈夫だろうと」
ススは手酌でワインを飲み始めている。
やけ酒にしか見えない。
「明日はラーマ様で、明後日はタキ様でしょ、次はレン様で……」
タルトたちはいち早く、チベット人たちの中に入って危機回避をしていた。
その後は酔って絡むススと、何故か同じく酔って絡むカンデン・ティパ氏に責められる時間が、酔いつぶれるまで続いた。
二人は、時間が隔てた同族であると確信した。
翌朝、迎賓館のVIPルームで目覚めると、何故か部屋にはススだけでなく、ダライラマ氏、ガンデン・ティパ氏、キン、ドウ、ナミ、サラサまでがいた。
全員が全裸であるばかりでなく、俺までが全裸でみんなと絡まって寝ていた。
俺の胸の上には、ダライラマ氏の右足が乗っかっていた。
もう、表現ができないような状況である。
俺はたった2杯のメープル酒で酔いつぶれてしまったのだろうか。
部屋は、とても女臭かったが、淫靡な匂いはしないから多分セーフだろう。
皆を起こさないようにそっと廊下に抜け出すと、赤い顔したマナイがいて、バミューダパンツとアロハシャツを差し出してくれた。
目線が伏せられているが、下半身に注がれている。
朝だから仕方が無いだろうと文句を言いたかったが、我慢した。
昨夜、何があったのかも、恐ろしくて聞き出せなかった。
ただ、ナナとギンだけは朝の仕事があるとかで、先に出ていったことだけ教えてもらった。
再会したことを、全然、覚えていない。
『昨夜も領主様のおっぱい比べがあったんですって』
『出かける前もあったんですよ』
『あのときは、豪華様が優勝したとか』
『いいえ、結局はセン様に負けたとか聞きました』
『今回は、ナナ様でしょう』
『当然ですよ』
『領主様が吸われたとか』
『ああ、私も早く参加したいです』
『私も少し大きくなって来たから……』
侍女たちが変な噂話をしていたが、マナイが咳をすると散っていった。
俺は何も覚えていないので、そのままマナイを連れてカナホテルに挨拶に行き、支配人と話した。
「経営状況はどうなのですか」
「開業以来、2万人を超えまして嬉しい誤算ですね」
支配人は40ぐらいの感じの良いビジネスマンだった。
何となく雰囲気にあっちの気があるのだけれど。
ロビーにはホエール人の観光客と現地人の従業員がいた。
従業員はみんな少女だった。
年間5000リナで雇われているそうだ。
「ホエールとの換金はどうしているのですか」
「1ゴールド5000円、50ドル、100リナの固定相場ですが、今のところ問題ありません。為替で儲けるには離れすぎていますので、問題を起こす人も皆無です。勿論、ホエールの恩人である祐貴様に対しておかしなことをする人間が現れる訳ありませんが」
「しかし、1万Gとか持ってこられると」
「大丈夫ですよ。リナは海外に持ち出せないことになっていますから、大金を両替する人はいません。移住は許可制ですから両替はできませんし」
基本的には物々交換なので、貨幣は持ち出せない。
あと、女性も持ち出せない。
キヌを持って行かれたときに法改正した。
女たちがそう決めたのだった。
国籍はエリダヌスでいたいという希望からだ。
金持ちのビジネスマンよりも、真面目な農民が良いそうだ。
「それでは、ホテルの経営が困るのではありませんか」
「いいえ、Gでもリナでも売上げという意味では変わりません。食料はリナで仕入れ、物資はGで仕入れています。それよりタルトワインが人気でして、ホエールでは1本100ドルを超えていますが、こちらでは1本20リナと格安で飲めますもので、お客様の要望が多くて困っております」
「現地ではそれでも高級品なのですよ。最も地球では1000ドルでも落札できなくなりつつあるようですが」
宣伝はしてないのだが、チェコフ下院議長とトウマが自慢したからだ。
政治家たちが俺のところに押しかけてきた理由の一つは、タルトワインなのだ。
もう一つは、裸の女性だろうが。
「タルト村長は、量産なんかできないと言うのです」
「勿論、手作りですからね」
「そうですよね。量産なんかしたら味が落ちてしまいますでしょうね」
「今年は250人総出で500樽仕込むと言ってましたから、15000本ですか。出回るのは1万本が限度ですね」
「最低、2万は欲しいのです。それでも需要の半分なんです。何しろそれが目的の方が増えてきまして」
「頑張っても、もう200樽が限度ですね。機械化したらあの味は消えてしまいます」
そういえば、パルタ村ではワインを主力にするのだった。
庶民が気軽に買えて、量も多くと言っていた。
既に2000樽を寝かせているらしい。
「今年はパルタワインの2年ものが初めてできてきますよ。紹介しましょうか」
「本当ですか。味はいかがでしょう?」
「1年ものの試飲では風味が違うだけで、グレードとしては決して劣っていないと思いましたが」
「助かります。流石に祐貴様は違いますね。叶子お嬢様が決してあきらめない気持ちがわかりますよ」
「近日中にパルタを呼びますよ」
シナを作り始めた支配人から遠ざかりながら、俺は逃げるように領地へ戻った。
「ちょっと変わった方ですよね」
「ホテル業は売春が怖いから、あの人で正解なんだろう」
「売春ですか!」
マナイは少し驚いたようだ。
まあ、こちらでは商売になるような行為ではないし、基本的には求婚になってしまう。
「美人が多いと大変なんだよ」
「美人なのですか」
「ああ、マナイだって地球に行けば相当な美人だってわかるぞ」
「私はがさつで不器用なんです」
「美人と関係無いだろ」
「そうでしょうか。侍女としては、あまり評価されないのです」
「侍女試験に合格したんだから凄いことだろ。もう少し自信を持って良いぞ」
「でも、姉のサナイに比べると」
「サナイはお姉さんだったのか」
「ええ、サナイは第1夫人の子供です。別々に育ったのであまり仲良くはないのですが」
「仲良くしろよな。それがこの星の掟だろ」
「そういえば、そうですね」
「今度、メナイと一緒にニタ村へ行ってこいよ。サナイは子供ができたんだろ。甥か姪になるんだぞ」
「そうですね」
サナイも冷静で落ち着いた奴だったが、マナイとメナイもどちらかと言えば無口なタイプである。
がたいが良いから繊細には見えなかったが、意外と劣等感を抱えているようだ。
ススやクラやロマが特別すぎるから、側にいると少し自信がなくなるのかもしれない。
ナミとナリも温和しいよな。
領地は専門の警備アンドロイドが守っていた。
赤鯨真吾氏が寄贈してくれたものだろう。
いつも、こんな奴の陰に隠れていたから覚えている。
「お帰りなさい、ボス」
「おお、ご苦労さん」
「おはよう、マナイ」
「おはようございます。サード」
「サード?」
「俺の仮の名前ですよ、ボス」
「仮の名前?」
「領主様がつけることになっているらしいです。5人いますから」
「マナイは、俺たちの区別が良くつくな」
「何となくわかるんです」
「そうか、俺たちはポイントされないためにも区別はつかないようにしているのだが」
確かに、何体いるのかわからない方が警備には向いている。
性能も同じふりをしていると更に良い。
これは面白いかもしれない。
「全員集められるか」
「すぐにでも、ボス」
あっという間に5体集まってきた。
流石に警備専用である。
しかし、全く見分けはつかない。
「ファーストです、ボス」
「セカンドです、ボス」
「サードです、ボス」
「フォースです、ボス」
「フィフスです、ボス」
「おお、よろしく頼むぞ」
しかし、俺にはさっぱり区別がつかない。
「よし、名前をつけるぞ。まずお前はファースト」
「変わってませんよ」
マナイがあきれて突っ込んだ。
「お前はセカンド、お前はサード、お前はショートで、お前がホームだ。それで、俺は見分けがつかないから全員サードと呼ぶ。呼ばれたら一番近くのものか、目が合っているものが、そのままサードとして振る舞ってくれ」
「意外と修羅場をくぐってるねえ、ボス」
「異論は無いです、ボス」
「どういうことなんです?」
「ボスがサードと呼べば、俺たちは複数いるのがわかるからなめられないんですよ」
「しかも、サードで終わりかどうかわからない」
「ショートとか言われると、更にわからなくなる」
「9人制かもしれないしな」
「じゃあ、ホームよりホケツの方が良いんじゃないか」
「それじゃあ、なめられるだろう」
「それじゃあ、ボス。味方識別の合い言葉を決めましょう」
「必要なのか」
「普段は必要ありませんが、何かあったときは困るんですよ」
「改造されるとか」
「中身をいじくられるとか」
「外見だけまねされるとか」
「爆発物を仕掛けられるとか」
「よし、じゃあこうしようか」
俺はマナイを見ながら言った。
「マナイのおっぱいは美しいな」
「マナイのおっぱいは美しいな」
5体がまねして復唱する。
「左が少し大きい」
「左が少し大きい」
「尻はどうだ」
「尻はどうだ」
「見たことねえ」
「見たことねえ」
アンドロイドたちは暫く台詞を繰り返し、マナイは赤くなり身をよじって聞いていた。
「あはは、これなら聞かれても合い言葉とは思えねえ」
「変態アンドロイドと言われるぞ」
「良いじゃねえか、ボスがこれなんだから」
「おっぱい好きで有名か」
「そうだな」
言いたい放題だが、事実だから仕方が無い。
「よし、マナイは少し後ろを向け」
「お、お尻を見るのでしょうか」
「違うから、安心しろ」
「はい」
「サード、順番を入れ替えろ」
アンドロイドたちはすぐに入れ替わった。
こうした反応がアンドロイドらしい。
「さて、マナイ。どれが誰だか当ててみろ」
「えーと。ショート、サード、ホーム、セカンド、ファースト」
「すげえな。全部当てやがった」
「ビックリだ」
「何が違うんだ」
「識別信号がなければ、俺たちだってわからねえのに」
「印でもついてんのか」
このマナイの能力はチカコと同じだと俺は気づいた。
チカコは数字とか金が絡むものは直感的に違いを見つけられるのだ。
マナイは、人の雰囲気とか感じを見分けられるようだ。
マナイとは、ギャンブルはしない方が良さそうだ。
ポーカーみたいなのは、全敗しそうである。
だが、俺は恐ろしいことに思い当たった。
アンドロイドたちを勤務に戻してから、俺は近くの森にマナイを連れ込んだ。
「領主様は、森ではなさらないと聞きましたが」
「今朝、俺が起きたとき見ていたよな」
「領主様、怖いです」
「正直に言え、見えたんだろ」
「何がですか」
「俺の気持ちとかだよ」
「あの、感じだけです」
「その感じを言ってみろ。領主命令だぞ」
「はい、その、一番は、その」
「一番は?」
「サラサ様ですよね」
「うぐぅ」
「あ、あの領主様」
「次は?」
「次と言って良いのか、ティパ様でした」
「うぅむ」
「次がキン様までです。それ以上はわかりません」
俺は脱力した。
自分の気持ちを、自分以上に理解しているなんて恐ろしいことである。
何で、聖職者のガンデン・ティパ氏に俺は欲情しているんだ。
外交的には、サラサと密会でもしてる方がましなのではないだろうか。
しかし、そのサラサも人妻である。
いや、サラサが嫁に行く頃は、俺が子供過ぎたのだ。
そのまま、未練がましく引きずっているだけなのである。
ラーマをあきらめてサラサを選ぶなんてことが、非道で、非常識すぎただけだ。
勿論、両方といって、タルトとコラノを説得できたとは思えない。
大体、ラーマが手に入ったから、サラサに未練が残るのだ。
ラーマが手に入らなかったら、それどころじゃないだろう。
「今まで、感じた中ではどうだ。いつも見ていたろう」
「は、はい」
そりゃあ、専従侍女なのだ。
全部見ていたと言えるだろう。
「クラとロマ、それにヨリ様です」
「女の気持ちもわかるのか?」
「領主様に選ばれた人は、皆領主様を深く慕っています」
「いやがったり、困ったりしているものはいないのだな」
「はい」
「気持ちを偽ったり、誤魔化したりしているものもいないな」
「はい」
「お前はどうなんだ」
「自分を見ることはできませんので」
「お前がいつも温和しく無口なのはそれがあったからなのか?」
「皆、嫌うようです。言わないようにしてました」
「馬鹿のふりをしてたのか」
「あんまり利口ではありません。メナイと同じです」
「メナイも特殊な能力があるのか」
「普通の女です」
これは二択である。
一つは、遠ざけること。
一つは、自分専用にすること。
あんまり理不尽なことをするのは好きではないし、領主の特権を振りかざすのもしたくはなかったが、相手は普通人からすれば超能力者に近い。
魔女である。
まあ、写真のような記憶力を持つ人と同じような能力なのだろう。
マナイはスカートを脱いだ。
「マナイ、すまないがお前は俺の女になってもらう」
「侍女は領主様のものです」
「そういう意味ではないが、お前は手放せなくなった」
「領主様はマナイを嫌ったり蔑んだりしませんでした。好きになって貰えるとは思いませんでしたが、マナイは領主様が好きです」
「俺は、努力するよ」
「領主様が好きなのは、2種類の人間です」
「何だ。それは?」
「役に立つ人間と、おっぱいがある人間です」
「確かにそうだ」
俺は魔女にキスして、初めてエリダヌスの森で女と結ばれた。
マナイは見た目よりも柔らかく、悲しいくらいにいい女だった。
1週間後、新人事を発表した。
内務長官、スス。侍従、筆頭侍女兼務。
財務長官、キン。エリダヌス銀行頭取兼務。
行政長官、ギン。移民問題担当兼務。
司法長官、ドウ。外国人保護担当兼務。
外務担当補佐官、ナミ。ロシア大陸担当。
外務担当補佐官、ナリ。中国大陸担当。
駐地球国連大使、クラ。
駐地球国連副大使、ロマ。
領主特別秘書官、マナイ。
領主専従筆頭侍女、メナイ。
ほかにも、国際空港管理官や貿易担当官、外国人保護官、防疫担当官、調査隊渉外担当官などをキンたちの部下から選んで部局を作らせた。
ススとマナイの部下以外の部局には、侍女ではなく女官として配置した。
女官は結婚退職しない。
今のところは、結婚もしないことが実態である。
女官55名、侍女60名、侍女見習い67名が、官僚機構の職員となった。
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