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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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76 国連総会と来客

 76 国連総会と来客




 本会議場には、200を超える国々からの代表が集まっていた。

 もの凄い熱気は、期待が大きいからである。


 しかし、その殆どが男であり、スポットライトを浴びた俺の話など聞いちゃあいなかった。


 後ろに並んでいるトップレス美少女しか目に入らないのだろう。

 何故かエリスは、下着姿のまま残っていた。

 そして、何故か誰もとがめない。


 ミランダは、国連軍の司令官なので、とっくに姿を消していた。


「そんなわけで、尼川家の資産はすべて無くなりましたが、相続税として尼川資金は地球の借款の返済に回せそうです。今後、地球からエリダヌスに色々と援助していただきたいのですが、皆様のご助力に期待します。特に学術調査隊の派遣を、よろしくお願いします」


 パラパラと気のない拍手が続き、俺の話などとっくに語り尽くされたことを物語っていた。


 前座の俺は、一応頭を下げて後ろで待つキンと交代した。

 ホエール代表と地球代表が、同情して気を遣ってくれたのが少しだけ救いだった。


 演台が、低めの透明な四つ足のテーブルに取り替えられ、キンは少し戸惑っていた。

 水とマイクが乗せられる。

 マイクは手持ち型だった。


「総長のご指示でしょうか」

「多分、マスコミの指示でしょう」


 国連総長は、肩をすくめた。

 まあ、俺の使っていた演台では、キンは首から上ぐらいしか出せないか。


「地球の皆さん、初めまして。私はエリダヌスで財務を預かるキンと申します。我がエリダヌスの経済状況は正直に申し上げますと……」


 キンはマイクを持ち、見事な演説をしていたが、俺の時とは別の意味で、みんな聞いていなかった。


 見事なのは演説よりもおっぱいであり、脚とお尻だからである。


 国連大使たちは聞いているふりをするぐらいの配慮はしていたが、視線はひたすらおっぱいとミニスカートの辺りを上下移動していた。

 壇上がミニ丈に微妙な角度を与えていたから、余計に良かったのだろう。


 マスコミの、現場監督クラスは驚喜していた。

 凄い視聴率を出しているに違いない。

 異星人の外交特使だから、何が映っても、放送コードには引っかからないのだ。


 国営放送ばかりなのに、大丈夫なのか、地球は。


 キン、ギン、ドウは、それぞれ3分ほどでスピーチを終えて、最後に揃って頭を下げると、各国の代表は盛大な声援と拍手で応えた。

 スポットライトが当てられ、3人とも美しかった。

 明日の新聞は、これが一面になりそうだった。

 俺のコメントが、きっと隅の方に載せられていることだろう。


 地球では総会は形であり、ある種の儀式のようなものである。

 重要なことはもっと専門の委員会や、権力者たちが少人数で決めてしまうのだ。

 だが、総会で支持されるのには、それなりの意味もある。


 エリダヌスは正式に友好国として、地球に受け入れられたのだった。


 これで、俺の一世一代の晴れ舞台は終わりだった。

 前座でも、国連総会でスピーチできたのだから、孫に自慢して嫌われることができそうだ。


 その夜は、カナの父親が経営するホエール系列のホテルで、チェコフ下院議長と話し合いを持った。

 キン、ギン、ドウは各国の大使が主催するパーティーに呼ばれて、いくつも掛け持ちしている。

 総長が自慢げにエスコートしてくれているし、警備はアメリカ海兵隊が受け持ってくれている。


「CIAを嗾したのは、スコッティ大統領なんですか」

「ライカー副大統領が国連軍遠征の失敗の後、そう言い出して大統領非難を始めると、大統領はエアフォース1で逃げ出しましたから間違ってはいないと思います。その後、副大統領はNSAと一緒に大統領狩りを始めまして、現在は二人とも行方不明です。議会も国民も軍も双方に怒っておりますから、二度と出てこないかもしれません。アメリカ合衆国建国以来の不祥事になりました」

「何故、そんなことになったのですか?」

「CIAとNSAが軍を抱き込んで内戦を始めようとしたからです。流石に軍も馬鹿ではなかったようです。カーク、いや、ゴンザレスの情報がホエールから入ってきましたからね。内戦の一歩手前で阻止しました。今後は議会も国民も大統領を弾劾するでしょう」

「しかし、ライカー副大統領はどうしてなんです。大統領の陰謀を暴いたのでしょう」

「どうやら、副大統領がNSAを使嗾して、CIAをその気にさせたのが真相のようです。大統領は嵌められたと考える連中もいますが、ゴンザレスを承認していますから、同じ穴の狢かと思われます。国連と国民の両方を騙しては許されません。今後は水面下でNSAとCIAがターゲットとして大統領も副大統領も狙い続けるので、顔を見せれば命はないかもしれません。どちらも非合法の仕事を平気でしてましたから」


「しかし、動機は何なのでしょうか」


「国連情報部を作る動きがあって、予算を削られる一方だったNSAとCIAは、売り込み競争をしていました。どちらも生き残りに必死だったのでしょう。その頃の国連は、尼川祐一氏を捕まえようとしていたので、CIAがゴンザレスを送り込んで工作したのだと思います。尼川資金が国連に入れば、CIAは今後100年は安泰だったでしょう。その後は、スコッティ大統領が国連総長に昇格するつもりだったとしか思えません。副大統領は、その横取りを狙ったのでしょうね」

「それで、大統領はどうなるんです。チェコフ議長がそのまま引き継ぐのでしょうか」

「臨時政権ですね。ですが、来月には大統領選挙なのです。二人の候補がいなくなったので、ピカード上院議員とスールーカリフォルニア州知事の一騎打ちになりそうです」


 議長は出馬しなかったのかと尋ねると、ロシア系は人気が出ないのだそうだ。


 それからは下院議長とスター○レックと新スター○レックのどの話が良かったのかという、外交的にはどうでもいい話で盛り上がり、タルトワインを飲みながらミスター○ポックが大好きな議長は上機嫌だった。


 下院議長は誰が次の大統領になっても、国連支持でいくことになると確約してくれたので安心である。

 ロシア系なので、オフレコと言うことで、エリダヌス人の真相について話しておいた。

 エリダヌスの大使館は、ロシア系アメリカ人の組織で用意してくれることにもなった。


 未来のクラ大使とロマ大使を引き合わせると、下院議長はクラの方が気に入ったようだった。

 そのままで、白系ロシア人でもおかしくないロマよりも、褐色の肌のクラの中に、何処か白系ロシア人の血を思い起こさせる部分を見いだしたのだろう。


「お二人には、良い学校を選んでおきましょう」


 下院議長は、上機嫌で帰っていった。


 入れ替わるように、青鯨氏が現れたが、例の秘書たちではなく、キヌを連れてきたので驚いた。

 キヌは白いワンピース姿だった。


「申し訳ない。キヌさんをどうしても我妻としたいのだが、スス君に、祐貴君の許可が必要だと言われたのでね」

「大丈夫なのですか」


 俺はホエール社会がという意味で尋ねたのだが、豊作氏は夫人たちがという意味で答えているようだった。


 いやいや、キヌはせいぜい12か13歳なのですが、と言ってはいけないよな。

 イリスやレンだってそれぐらいだったのだから。


「キヌはそれで良いのかい?」

「はい、ホーサクみたいに美しい男の人がいるなんてビックリでしたから」


 と、まあ、豊作氏の二枚目ぶりに惚れたようである。

 まあ、チカコの父親だからなあ。

 セリーヌさんも、性格はともかく、外見は美しい。


 だが、金や権力に惹かれたわけじゃないところが、エリダヌス人らしかった。


 それに、リータを注文したのは、青鯨氏ではなく、引退した青鯨氏の父親であることが判明していたので、変なことにはならないだろう。


 翌日、青鯨豊作、青鯨キヌ夫妻は、バイカル湖へ新婚旅行に出かけて行った。


 エリスに頼んで、キン、ギン、ドウ、クラ、ロマの5人は、ショッピングモールに当面の衣装を買いに行かせた。

 警備は相変わらずアメリカ海兵隊が担当してくれたが、完全にアイドル扱いだった。


 その間、ロシア大統領とダライラマ氏と日本の外務大臣が会いに来た。


 イリエンコワ大統領は、見た目30前の美しい女性で、ラーマの親戚の様だった。

 背は高いのだが。


 青鯨氏と打ち合わせは済んでいるらしく、会談は問題なく進み、ロシア大陸の調査を認可した。


「移民には、おっぱい検査があると聞きましたが」

「それは誤解ですよ。大統領閣下」

「カピトリーナと呼んでくださる?」

「いいえ、大統領閣下」

「いけずね。でも、おっぱいは私が代表して……」

「だから、誤解です。大統領閣下!」

「あら、残念ね」


 ロシア大統領は、危険人物のカテゴリーに入れた。 


 ダライラマ氏は驚いたことに少女で、まだ13歳だった。

 同行したガンデン・ティパ氏も16歳の少女だった。

 時代というのは変わるものである。


「我々チベット人には独立し、定住する国家が必要なのだ」

「地球にはこだわらないのでしょうか、猊下」

「我々には、地球は少々薄汚れて感じるのですよ、祐貴さん」


 ダライラマ氏は涙目で緊張していたが、ガンデン・ティパ氏は知的で落ち着いていた。

 チベットは未だに中国、インド、モンゴルに利用されているだけだった。


「ですが、我がエリダヌスに移民するには10石の農地開発が義務づけられますが、猊下には少し重荷ではないかと思われます」

「あら、猊下は祐貴さんの妻で良いのでは?」

「つ、つ、妻?」

「つ、つ、妻?」

「あらまあ、仲のよろしいことで。前世の因縁を感じますねえ」

「じょ、冗談はともかく、エリダヌスでは王制も宗教国家も難しいと思います」

「新たな惑星調査の基地が必要なのですよ」

「では、エリダヌスで別の惑星を探すと?」

「はい、チベット人の惑星を見つける好機だと思いますので」


 確かに、新惑星は地球にいては見つけられないし、見つけられても、他国の資本ではどうにもならない。

 だが、エリダヌス住民として新惑星を見つけるのは、ホエールのゲート母艦があれば可能である。

 頭の良い人物とは、この世には沢山いるのだった。


 俺はホエールに何の権利も持っていないが、ホエール人の元妻たちが130星系で俺の権利を守ってくれている。

 残りの130星系の代表も、俺に感謝しているのだった。

 ホエール星系連合というのは、既に発足しているのだ。

 だから、ゲート母艦などいつでも借りられる。

 その資金は地球側の負担になるのだが、間にホエールが入っているので、俺の自由にできてしまう。


「ずいぶんと遠大な計画を立てましたね」

「祐貴さんが協力してくれれば、チベット星系成立までに、100年はかからないと思いますよ」


 確かに惑星を見つけることは、そんなに大変じゃないだろう。

 大変なのは、開発して定住することである。


 そのために、一度俺の星に移民してくるのだ。


 そうすれば、地球でのしがらみは完全に絶つことができる。

 エリダヌス連合として、1自治星系になってしまうからだ。

 猊下はまだ、『妻、妻』とか言いながら混乱している。


「しかし、猊下が地球を離れるのは拙いのではないですか」

「ダライラマは5人いるのです。中国に一人、モンゴルに一人、インドに一人、亡命政権に一人」

「すると猊下は」

「そうです。エリダヌスのダライラマとなり、新たな星系の生みの親となるのです」

「後で、何処が正統だともめたりしませんか」

「全部、正統ですからもめたりしません」


 まるで、生き残りをかけた真田家の話のようだった。

 兄弟を徳川と豊臣側に分けて、勝った方が生き残るのである。


「惑星チベットを見つけても、争わないというルールは守りましょう」

「中国大陸の調査は日本とイギリスが合同ですることになりそうですが、参加しますか」

「いいえ、我々はとりあえず祐貴さんの領地で、身分をエリダヌス人にします」

「ガンデン寺は作れませんよ」

「それは中国大陸の開発をしてからになりますね。ずっと我慢してきたのですから、まだ、我慢できますよ。猊下、そろそろ祐貴さんにおっぱいを見せてあげてください」

「ど、どうしてもしなければならんのか」

「お仕事ですからね」


 それで、来た時から緊張してたのか。


「そ、そうか。これも仕事か」

「ち、違います! 見せなくていいのです」

「し、しかしのう。移民許可が欲しいのじゃ」

「では、私が代わりに」

「いいえ、結構です」

「まさか、私では気に入らないと?」


 涙目の演技までする、ガンデン・ティパ氏はとても可愛かった。


「気に入らないおっぱいなど、この世にありません」

「流石は専門家ですねえ。言葉が重いです。名言至言とでも言うべきでしょうか。男のおっぱいも好きですか」

「違います! 男にはおっぱいなどありません」

「ふえっ」

「へえ」


 俺は二人を追い立てるようにして、帰した。

 おっぱいを見たなどと言うよりは、国際問題にならないだろう。


 日本の外務大臣は男なのでほっとした。


「俺だよ、祐貴。今井当麻だ。覚えてるだろ」

「中学で、野球部だった? ラノベ好きの変なオヤジさんがいたな」

「そうだよ。例の文化人類学の映像を貸したろう。オヤジの10万のコレクションだった無修正版」

「しかし、お前がトウマなら、もう80のはずだろ。50過ぎにしか見えんぞ」

「医療技術の向上で、若い姿でいられるんだよ。女たちなんか30過ぎはおらんぞ」

「そうか、じゃあ、ほかの連中もみんな健在なんだな」

「ああ、みんな元気だし、俺みたいに政治家にならなければもっと若い外見でいられるから、みんな若いままだ。政治家は若作りすると信用できないらしいから、俺だけオヤジの外見だが」

「そういえば、ミランダもロシアの大統領もみんな若いなあ」

「イリエンコワ大統領は、95歳のはずだ。外交機密だがな」

「凄い世界になったなあ」

「なあに、お前の見つけた世界ほどじゃないさ。何でもロリ処女しかいないんだろう」

「そんなわけ無いだろ。既婚も子持ちもいる」

「だが、ロリが合法なんだろう。男には夢のような世界じゃないか」

「日本だって、女子中学生の経験率が高くなってるのだろう。合法でなくても同じじゃないか」

「公式には、高校卒業まで処女なんだが、誰も信用してないがな。だが、建前上そうなっているよ」

「政治が如何にくだらないか、物語っているよな」

「政治家の俺が認めるわけにはいかんのだ」


 トウマは日本を代表して会いに来たのではなく、友人代表として会いに来たようだった。

 タルトワインを飲ませると喜んでいた。


「医療処置で、18歳以下にもなれるのか?」

「一応、30までしか処置できない。部分的な遺伝子異常は対象外だが、大人がいなくなると困るんだよ。法で制限しないと17歳以下の女しかいなくなるんだ。永遠の17歳だとか。女はそれが望みらしいよ。大人の魅力って信じてないのかな」

「男は違うのか?」

「まあ、男は30過ぎないと頼りないとか言われているなあ。男子高校生は相変わらず童貞の山だな。実は、アンドロイドも18禁なんだよ」

「建前の国は変わってないな。そのうち男女不平等で反乱が起きるんじゃないか」

「選挙権がないんだから仕方が無いよ」

「自分を縛る法律に反対できないって、基本的人権を脅かしてる気がするぞ」

「児童福祉法で守られているのさ。青少年健全育成条例かな」

「おまけに一夫一婦制だろ。俺も精神的な洗礼を受けたよ」

「やりたい放題だったんだろ」

「いいや、自己管理で18まで童貞の未婚で過ごしたよ」


「ロリの裸の星でか!」


「ああ、そうだ。日本の法令に引きずられてたな」

「相変わらず、馬鹿なやつだな。宇宙で日本の法律なんか関係無いだろうに。だが、俺も24まではアンドロイドしか経験が無かったがな。高校時代は、宇宙とは言わないが外国に行きたかったよ。バイトして金を貯めて、出会いを求めて東南アジアに行こうと計画したが、お袋にバレて泣かれた」

「あはは、お前も青春してたんじゃないか」

「まあ、過ぎれば良い思い出だな。だが、そのお袋が未だに30歳ぐらいなのは少々複雑だな。ところで、日本の若者が移民を希望しそうだ」


 トウマが政治家の顔に変わった。

 今でも、なかなか男らしい奴である。


「まじめな農民を目指してくれるなら受け入れるが、今の日本に農家を目指す奴なんかいるのか」

「今の日本に農業はない。会社になり、業界団体か経済団体が管理している。カルテルになっていて、小売りは価格競争にもならないしな。トマトやキュウリは自販機で買える。全国共通価格だな。結局、大企業でサラリーマン農業をしている方が収入は良かったりする」

「うちは貧しいぞ。主食を食えるのはまだ半数だ。肉が食えれば裕福なんだ。だが、人間関係や金で悩むことはない」


 トウマは少し悩む様子だった。


「日本は貧しくはない。経済成長は芳しくないが、裕福さでは世界でも十指に入るだろう。だが、幸せではない」

「上を見ればきりが無いからな。成功や豊かさは結局、金儲けだ。だが、幸せからは遠ざかる。人生の目的が金になってしまうからだ。妻や子たちと、自分たちが食べる分を畑で栽培して収穫する。隣近所の連中と収穫を祝い、宴会する。貧しいが幸せを感じるのがエリダヌスの生活だ。金で買える達成感などないような気がするな」


「美しく従順な妻、父を尊敬する子供たち、助け合い一緒に喜ぶ近所の農家、日本では既に失われてしまったよ」


「ビジネスなどと割り切ることの無い、自給自足生活の良いところかな。この充実感は金を積んでも手に入らないだろうな。誰にも媚びへつらう必要も無い。今後も農業を惑星の基本として、工業は輸入でまかなうつもりだ」

「貧しい世界の豊かな生活か。だが、黒船は押し寄せてくるぞ。貧しいことが不幸だと考える様になるかもしれないぞ」


「不幸とは、再選択できないから起こるんだよ。人生にはセーブポイントからのやり直しがないのだから、せめて選択肢ぐらいは沢山あった方が良いんだ。農民が嫌ならホエールでも地球でも出かけて、いくらでもやり直しすれば良いんだ」


「若者がみんな都会に行ってしまうぞ」

「それが真理なら、エリダヌスに移民したがる地球人なんて出てきやしないだろ」

「そうなんだ。移民希望者が農業の厳しさを理解してるとは思えない」

「若いのなら、失敗しても良いじゃないか。駄目ならホエールにでも行き先を見つけられるさ」

「若い奴はお気楽で良いな」

「お前が年寄りみたいに心配しすぎなんだよ」

「まあ、本当に年寄りなんだがな」

「老後の面倒を見てやろうか」

「いいや、お前の若い姿を見ていたら、逆にやる気になったよ。若造に負けていられないってな」

「その意気だ。東北や関西地方の調査団、頼んだぞ」

「ああ、ロシアやイギリスに取られるわけにはいかないからな」


 その後、キンたちが帰ってきたので紹介すると、トウマは自分が移民になりたがった。

 日本は一夫一婦制なので、仕方が無いのだが。


 翌日も夜にはキン、ギン、ドウは各国大使に呼ばれ、クラとロマはアメリカのニュースに出演した。

 アメリカで最も人気のあるキャスターとのニュースでのトーク番組だったが、逃げ続けるわけにもいかないので、エリスに選んでもらったのである。


 世界中継で、10億アクセスのライブになった。


 クラとロマは、巻きスカートだけの姿で現れた。

 それだけで、すぐに20億アクセスに跳ね上がった。


 序盤は無難にエリダヌス人の生活全般の話で進んでいたが、途中からやはり話題は裸になった。


「スカートは領主様に買っていただきました」

「それ以前はどうしていたのです?」

「もちろん、裸です」

「ロマさんもですか」

「はい、私は最近までずっと裸でした」

「恥ずかしいと思ったことは?」

「地球の人は、自分の身体が恥ずかしいものなんですか?」

「いえ、そう言われると困りますが、羞恥心というものが地球にはありますね」

「では、顔が恥ずかしい人は、どうしているのでしょう?」


 クラは真剣に尋ねている。

 少し、天然なところがあるから仕方が無いだろう。


「顔までは隠せませんね。しかし、異性に裸を見られるのは少し次元が違うのではないですか。地球の女性は、異性に裸を見られるのを恥ずかしいことだと思っています」

「品定めされるのが嫌なのでしょうか?」

「予め、学者の方にお伺いしておいたのですが、元々は発情期を隠したいというのが、女性の防衛本能として進化して、羞恥心として働くらしいのですが」

「ロマには少しわかります。嫌な人には見て欲しくない。いい人には見て欲しい。けれども、それを知られたくない」

「ロマは、難しいことがわかるのですね。でも、嫌な人には裸でなくとも見られるのは嫌でしょう。スカートを穿いても同じではないですか」

「裸の頃は、裸だと考えませんでした。領主様にスカートをいただいて、裸だと意識するようになったのです。ただ、エリダヌスではみんな裸ですから、別に恥ずかしくはないです。注目されると、裸でなくても恥ずかしいです」


「地球では、女性の裸を見ることが犯罪になることもあります。例えば、男の人にそのスカートを脱がされたらどうなりますか?」

「エリダヌスには、そんな人はいません。スカートは領主様が女に与えたもの。それを脱がすなど領主様に対する冒涜です」

「裸を見たいだけで、そんな反逆行為を行う人はいませんよ」


「領主様が与えた地位の象徴なんですね。しかし、クラさんやロマさんのような美人の裸を見たいと思う男は多いと思いますよ。脱いで見せてくださいと言われたらどうしますか?」

「クラは平気ですが、できれば領主様の許可をもらってきていただきたいです」

「ロマは、見せても構いません。触られるのは嫌ですが」


「あなた方が、我々地球人と同じかどうか知りたいのですが、ご協力いただけませんか」

「ああ、そういうことでしたら構いません。ロマ」

「はい、クラ」


 二人は見事な全裸を見せた。

 瞬間、30億アクセスを突破した。

 俺は頭を抱えた。

 移民希望者がふくれあがった。


 それから1週間は、ずっと誰かに会うのが仕事だった。

 キンたちも、相変わらず各国の大使館に呼ばれていた。

 やがて、エリダヌス大使館が準備できたので、全員で見に行った。


 場所は駐米ロシア大使館の隣で、警備と移動はロシア大使館から専門家が指導に派遣され、警備担当職員はロシア系アメリカ人から選ばれていた。

 運営資金はすべてアメリカ合衆国が借款として出してくれていて、クラとロマには近くの名門の学校が用意されていた。

 一応、中学1年に編入するが、飛び級があるので、頑張れば高卒までに6年かかることはないらしい。


 クラとロマは、学校に通いながらエリダヌス大使としての仕事を始めていく。

 ロシア大使館の職員も協力してくれるし、ロシア系アメリカ人の家族が裏方の仕事もしてくれて、生活の面倒も見てくれることになった。

 エリスは、移民局準備室の室長として、ここで働いてくれるらしい。

 将来は、移民局長になるだろう。


 侍女と見習いも何人か派遣することを決めた。


 その日はささやかな、大使館設立パーティーが開かれたが、各国大使がお祝いに押し寄せてきて、大変な規模になってしまった。


 リンの母親である紅鯨錫子氏がホエール大使としてお祝いに現れ、リンの妹二人を紹介してきた。

 真鈴と美鈴の双子は、中学1年でクラとロマの同級生になるという。

 既に同じ学校に編入しているので、二人のことをお願いした。


 お礼は夏休みにエリダヌスで過ごしたいというので、クラとロマと一緒に帰れるように手配すると約束した。


 その夜、大使館のゴージャスな風呂を堪能していると、錫子氏とエリスが競うように突入してきて、世話をしに来たクラとロマがあきれていると、真鈴と美鈴の双子まで入ってきて何だかわからなくなりそうだったが、キンが鬼の形相で入ってきて、ホテルに来客が来てるから戻るように命令してきた。

 職員に早速車を出してもらうと、キンが付き添いできて、ホテルに着くまでずっとキスをしなければならなかった。


 来客は3人だった。


 一人は白鯨達也ホエール軍少佐。

 ヨリのお兄さんである。

 もう一人は、白鯨従子准尉だった。


 ヨリは早くに帰還した組だったので、ずいぶんと久しぶりに会うのだが、軍務なのか敬礼しただけで、ソファにも座らずに、ドア付近の警護位置で立っていた。

 少し寂しくなった。


 三人目は、なんとアメリカ統合作戦本部のライカー少将だった。

 副大統領の弟だと言う。


 白鯨達也少佐は、簡単にヨリたち少女の救出のお礼を述べると、すぐに本題に入った。

 ヨリとの関係を責めるつもりはないみたいだった。


「代表閣下、オペレッタ号の樹脂・金ナノプログラムですが、レーザー攻撃に対して非常に有効だと聞き及んでおります」

「1回だけ実戦を経験しましたが、予想以上に効果がありましたよ」

「しかも、宇宙空間でアメリカとブラジルの戦闘艦を完全に拿捕してしまったと」

「私は確認する前に地球に飛んでしまいました。後のことは、ホワイト中将に頼んでおいたのですがどうなりましたか?」

「残りの戦闘艦を降伏させるまでの二四時間、完全に無力化したままだったそうです」

「その後、どう処置しましたか」

「情けない話ですが、地上のバイオレッタ号に指示を仰いで救出したそうです。どうしても自力脱出は不可能だったのではないかというのがホエール軍の見解です」

「私の方はゲート母艦を拿捕しましたが、一ヶ月過ぎても誰一人外に出てきませんでしたね」

「メインウェポンであるレーザーは効果が無く、下手すれば完全拿捕。我々ホエール軍にとっては、これほど恐ろしい兵器はありません。閣下、我がホエール軍に技術の供与をお願いしたいのですが、ご了承願えますか」


 ちょうど、キンが紅茶を出しに来た。

 何故かミニスカート姿に戻っている。

 男性客二人は、赤くなって俯いてしまった。

 ヨリは少しだけ悔しそうな顔をした様な気がする。

 俺の下半身はヨリによって調教済みなので、ヨリのことしか考えていないようだった。


「キン財務長官、どうだろう。同盟国からの依頼なんだが」


 俺がわざとらしく官職で呼ぶと、二人の軍人は立ち上がってキンに敬礼した。

 キンはお辞儀して応え、ソファを勧める。

 外交官としての経験が活きているようだ。

 キンはゆっくりと俺の隣に座り、俺の世話をしながら自分の見解を述べていた。


「ホエール軍は我が国を守ってくれております。そのホエール軍に協力できるのなら、我がエリダヌスにとっても良いことだと思われます」

「だが、メインの樹脂は領民に頼んで集めなくてはならないし、豊作氏との取引もあるぞ」

「豊作氏も5年間は研究開発の方に時間をかけたいと仰っていましたから、研究だけなら原料はそれほどいらないのではないですか」

「うーん、では白鯨少佐、樹脂は青鯨氏のルートから分けてもらってください。ナノプログラムは、拿捕船から取れますよね」

「はい、既に、軍の倉庫に運び込んであります。閣下の許可をいただければ研究に入れますが、しかし、地球軌道にはかなりの量がありますね」


 ははあ、研究じゃなくて実装実験がしたいのか。


「ちょっと失礼。おい、オペレッタ」

「なに」

「今持っている金樹脂ナノプログラムはどれくらいなんだ」

「60万トン」

「制御プログラムは、人間にも使えるのか」

「無理」


 少佐が身じろぎした。


「おい、どうするんだ」

「AIをいくつか用意してくれれば、教育する」

「戦闘艦のAIでいいのか」

「負荷がかかるから、予備のAIでリンクさせるべき」

「わかった。オペレッタはしばらく白鯨少佐に協力してくれるか」

「ユーキは使わないの」

「ベテルギウスに行く予定はないな。帰りはホエールの客船で帰るから、オペレッタは暫く白鯨少佐のところで働いてくれ」

「見返りは」

「無いよ、そんなの」

「じゃ、いや」

「おい、困るよ」

「閣下、オペレッタさん」


 たまりかねたのか、白鯨少佐が割り込む。


「オペレッタでいい」

「では、オペレッタ。ホエール軍の機密に関わるもの以外でしたら、ご協力しますのでよろしくお願いします」

「最新のAI部品を調達できる?」

「はい、それくらいは大丈夫です」

「なら、あなたに協力する」

「ありがとう、オペレッタ」

「よろしく」


 そっちはそれで解決したのだが、ライカー少将の用件は何なのだろう。


「ライカー少将、副大統領はどうなりましたか?」

「それが相変わらず行方不明でして」


 少将は吹き出る汗をハンカチで拭いながら、何か言い辛そうにしていた。

 白鯨少佐についてきたんじゃないのだろうか。

 少佐は独自の端末にオペレッタを設定中で、気にしていない。

 知らないふりをするという、協定でもあるかのようだった。


「何かお助けできることがあるのでしょうか」

「はあ、兄の件は忘れてください。そちらは閣下に頼るようなことではありません」

「そうですか、では別件と言うことで」

「はい、別件でお考えいただきたいのですが、実は、その、軌道上で拿捕されているゲート母艦の件でして」

「乗組員は全員帰してもらったはずですが」

「はい、ありがとうございました。それで、母艦なんですが」

「あれは、ホエールに任せてしまったのですよ。貸与だったので良いかと思いましたが、国連総長はあきらめていましたよ」

「実は、地球にはゲート母艦がありません」


 確かにゲートはホエール社が独占していて、どの国も所有できていない。

 運用も研究も、ままならない状況でホエールに頼ってきたのである。

 まあ、軍がゲート母艦を運用する様になるとは思っていなかったのだ。

 ゲートは以前まで設置型だったからだ。

 突然、設置型が廃止され、母艦型に変わって、地球は孤立した形である。


 だが、地球外に出るのに、軍は必要ない。

 ホエールは敵ではないし、宇宙の軍事利用は、地球の法で禁止されているのである。


 ホエールも、ずっと警備隊だった。


 ホエールは星系連合だから、領土内でもゲート母艦が必要なので、ホエールが独立した今でも、軍に昇格したとしても、ゲート母艦を運用して問題は無い。

 国内の軍組織運営には誰も文句は言えないのである。


 地球が、頼みの綱だった唯一貸与された母艦で行ったことと言えば、俺への攻撃だった。

 これでは、地球人ですら軍を信用しまい。


 しかも、ホエール軍に脅威を与えたのは、貸与艦隊をやっつけたエリダヌスというか、オペレッタである。

 そのオペレッタがホエール軍に顧問で迎えられたら、地球軍にすれば、頭の上でキャッチボールされているようなものだろう。


 軍というのは、周囲がすべて仮想敵なのだ。


 白鯨少佐がとぼけて知らんぷりをしているのは、ホエールが地球を敵として見ていないからだ。

 一方の、ライカー少将が汗をかいているのは、ホエールもエリダヌスも仮想敵だからである。

 その仮想敵双方の情けを受けなければ、母艦1隻も手に入らない。

 これは、非常に居心地が悪いだろう。


 さて、どうしようか。


「とりあえず、大統領が決まるまでは様子を見ることにしましょうか。ホエールに掛け合って、母艦は地球軌道上に待機させます。5隻の戦闘艦は、ホエールに曳航してもらいましょう」


 結局、国連軍ではなかったのだ。

 アメリカがどうしてもゲート母艦を手に入れたかったのだろう。

 反ホエール派の集まりと言ったところだろうか。

 国連は、おもちゃを与えて様子を見てたのだろう。

 総長はどう見てもホエール派だったし。


 ホエールは地球と戦争などしたくなかったわけである。

 簡単にひねってしまえるからだ。

 その後、疲弊した地球経済を支えていかねばならないなんて馬鹿げたことだ。


 俺の言ったことは、次の大統領が反ホエールや反エリダヌスだと母艦は戻ってこないという意味になるだろう。


 少将は感謝して帰って行き、白鯨少佐は俺の対応に満足したのか、朝まで白鯨准尉を非番にして帰って行った。


 白鯨准尉は、あっという間に消えてしまい、俺の大事なヨリが現れ、朝まで夢のような時間を過ごした。


 キンがもの凄く荒れていたが、気にするのはやめておいた。



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