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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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73 敵と味方

 73 敵と味方




「良いところだ。のんびりしてて、なりはちいせえが、別嬪べっぴんさんばかりじゃねえか。大当たりだな。羨ましいぜ」


 親父はアンとカズネを両隣に侍らして、食堂で冷酒を飲んでいた。


「表高2000石か、1反当たり400キロはいくのか?」

「まさか、自然に任せているから、精々250キロってところだよ。耕耘機も化学肥料も無しなんだ」

「それでも俺なら300キロは間違いねえところだな。何処かに隠れて農家をやりてえから、紹介しろよ」

「何で、隠れるんだよ」

「そりゃあ、地球人が俺を殺そうとしてるからだ。彼奴きゃつらとち狂いやがって、形振なりふり構っていられねえらしい。中田中のオヤジが駆けつけてこなかったら、俺はとっくにあの世いきだったぜ」


 その恩人である中田中校長は、リリとタバサにアーンして貰いながら最高のサンヤ肉のステーキを食っている。

 校長はまだ50なんだそうだ。

 色々と拙いので、今まで年齢を誤魔化していたらしい。

 本来なら125歳を過ぎている頃なのだが、4度もG船に乗ったウラシマ効果で、75年もチャラになっている猛者である。


 ゲートの発見者であり、祖父さんがスポンサーであったそうであり、そして親父の協力者であるという。

 裏の大物の振りをしていたのだが、祖父さんが死んでからは矢面に立たされて、結構大変だったそうである。

 俺がもっとも尊敬する人物だった。


 しかし、今は単なるロリコンスケベじじいにしか見えない。

 これが最も尊敬されるアストロノーツの姿だろうか。


「祐一!」

「おう、ええと、あれっ、おめえまさかリーナか。随分と若作りにしやがって、一瞬わからなかったぞ」

「お尻に触らないでちょうだい。何よ。ユウキを育てたお礼を言うのが先でしょ。まったく昔からスケベで礼儀知らずなんだから」

「まったく、良い息子に育ててくれたぜ。お陰で、俺はこれから楽できそうだ。一夫多妻も息子に教えられたぜ。別嬪は多いし、酒は美味いし、平和に農業ができるんだ。ここはあれだ、天国だな」

「祐貴君。僕も独身主義を卒業することにしたよ。ここのルールに従って畑を耕し、妻たちを愛しんで余生を送ることにした。まったく僕は良い生徒を持ったよ」


 校長はそう言いながら、リリとタバサの尻を触っていた。

 何が独身主義だ。

 単にロリコンだっただけだろ。


 しかし、ここではロリの方から結婚したがるのだから天国かも知れない。

 リーナさんは、呆れてものが言えないようだった。

 それは、俺も同じだ。


 何処をどうしたのか、アンもカズネも親父に簡単に誑かされ、第2夫人と第3夫人になるという。

 アンはコラノの第3夫人のはずだが、親父の奴はお構いなしで、二人の幼い娘たちまで貰い受けてしまった。


 校長の方は見ての通り、リリとタバサという犯罪としか思えない年頃の二人を誑かしていた。


 実はキン、ギン、ドウも口説かれていたし、ススもナミもナリも口説かれていた。

 クラとロマとキヌは校長に口説かれている。


 まったく、呆れたオヤジどもである。


 まあ、女官と侍女はきちんと断ったらしいのだが、カズネだけは取られてしまった。

 寂しそうにしていたし、アンの世話を続けていたから、これは仕方がないだろう。


 ただ、正式に妻にすると言うのだから、俺としては文句も言えない。

 何しろ、俺にも現地の妻が5人もいて、全員が子持ちだからだ。

 ラーマは二人目が女の子で喜んでいるし、祐馬の望む弟もタキとサラスが産んでくれた。

 母さんはエリスと共に、今はラーマたちと歓談中である。

 祐馬が実の息子みたいで、俺より可愛いそうだ。


「それより祐一、私はユウキの妻になることにしたから、認めなさいよ」

「へえ、お前、俺の息子を満足させられるのかい」

「今はまだでも、そのうち立派な下半身を作り上げるわ」

「祖父さんがいるときは、鉄板のような尻を変えなかったくせに。色気づきやがって息子に惚れたのか」

「だから、スカートをめくらないでちょうだい」

「はいはい。しかしリーナ、息子は随分ともてまくっているぞ。いいのかい」

「知性体は私だけだから、私が第1夫人になるのは確実よ」

「まあ、仲良くするんなら文句はねえよ。幸せにな」

「祐一、ありがとう」


 何だか、良くわからないが、リーナさんと親父にも何かしらの歴史があるのだろう。

 リーナさんは俺にキスすると、鼻歌を歌いながらバイオレッタとのお話しに戻っていった。


「赤城山なら住むところもあるんだけど、関東平野の真ん中だし、トレインの残骸もあるから目立ちすぎるな。北にニタ村というところがあって、隠れ里もあるから、そこならすぐには見つからないかも知れない。山も近いし、三国峠は越えた者がいないくらいに険しいところだから、いざというときには逃げ込めると思う」

「おう、そこで良い。後は俺たちだけで何とかなるだろ」

「僕は平和を愛する一農民になるよ」


 と、上機嫌の校長が続けた。


「しかし、親父が逃げたら俺が狙われないか?」

「大丈夫だ。お前が死んでも地球は何も得しねえよ。祖父さんが死んだとなれば、俺がすべての資産を持っていることになるからな」

「何だか釈然としないけど」

「まあ、これからは俺たちもここの一農民だ。領主様に守って貰う権利ぐらいはあるだろうよ」

「よろしく頼むよ、領主様」


 それから親父たちはバイオレッタから資材を降ろし、すぐに出発の準備を始めた。

 米、麦、塩、醤油、味噌、ギルポン茶に大量の酒樽などを兵員輸送車に積み込み、六輪のレーザー砲戦車に乗って、慌ただしく出かけてしまった。


「シーユー、アリゲーター」


 本当に逃げているらしい。

 本当は犯罪者じゃないのか?


 シーユーアゲインだろ。

 ありがとうをかけたのか。


 勿論、1年間の食料は、後でニタ村に届けるし、生鮮食料品もいつでも送れる。

 ニタは良い奴だし、頭も良いから、親父たちの良い仲間になってくれるだろう。

 隠れ場所や逃げ道などは、教えてくれるはずである。


 親父たちは、アンとカズネ、リリとタバサ、八さんと熊さんを連れて行った。


 母さんは見付かっても安全だというので残った。

 愛人の面倒を見るより、息子や孫と暮らしたいそうだ。


 バイオレッタは軌道上のオペレッタと連結してしまい、親父が現れた痕跡を消してしまった。

 オペレッタとバイオレッタはお互いの経験を話すのが楽しいようだった。

 特に俺の映像記録はバイオレッタにも好評だった。

 時々感想を聞いてくるのが鬱陶しかったが。


 儀式なんて全部覚えているわけないだろう。

 でも、ラーマの回を一度再生して貰ったのは内緒である。


 親父はお礼に、木綿を大量に置いていった。

 カレー粉とバターにチーズも分けてくれた。

 植物の種も大量に交換し(何故かスパイスが多かった)、早速農業用アンドロイドに栽培を始めさせた。

 5段目で、レモンを始めとする柑橘類、香辛料、コーヒー、サトウキビなどを試験栽培するのだ。


 そのほかに、大量の毛皮も置いていった。

 親父のいた惑星は、どう猛な野生の肉食獣ばかりが目立つ星だったらしく、農業どころではなかったそうだ。

 高価なトラやヒョウ、鹿の仲間、貂やミンクなどもあった。

 クロコダイルもあったが、加工が難しいので倉庫に入ってしまった。(アリゲーターではなかった)


 生徒たちは早速木綿のシャツやスカートを作ったが、ブラやショーツは勿体ないと作らなかった。

 母さんは下着のない生活に文句を言っていたが、すぐにタルト村の夫人たちと仲良くなり、トップレスになるようになった。

 地球人が探しに来ても、タルト村の夫人で誤魔化せるかも知れないと得意になっていた。

 お陰で生徒の大半もまねして、トップレス状態である。


 母さんの印象は、誰もが俺ではなくヨリの母親ではないかと思うほどだったが、誰も口に出してまでは言わなかった。

 母さんはまだ29で、母と言うよりは姉に近かったが、時々俺の風呂に乱入してきて、俺を子供扱いした。


「まったく、勝手にこんなに大きくなって」

「母さん、俺はもう大人だから、風呂に一緒に入るのは恥ずかしいんだけど」

「たまには良いでしょ、子供の頃に一緒にいられなかったんだから、取り返さないと」


 俺は母さんに丸洗いされた。


「さて、この下半身はヨリさんに任せるわ。マザコンは嫁に嫌われますからね」

「はい、お母様」


 母さんに似ているヨリに洗われるのも、何だか恥ずかしくなった。

 ミサコもミヤビもカレンも一緒にいるのだ。


「ところで、ユウキ」

「はい」


 母さんは見事なボディを洗いながら尋ねてきた。

 ヨリに負けていない。


「あなた、エリスはどうするの?」

「どうすると言われても、困るというか、なんと言うか」

「あなたを60年も捜していたのだから、ないがしろにはできないでしょう。アメリカ娘だから、結婚離婚を繰り返すにしても、一度は嫁にしてあげないと可哀想だわ」


 実時間は6年ぐらいじゃないかな。


 ヨリのスポンジに力が入ったような気がする。


 しかし、アメリカ娘が結婚と離婚を繰り返すと言うのは偏見ではなかったのか。


 エリスも俺も成人しているから、結婚となれば正式である。

 つまり、地球ではエリスだけが妻であるし、ホエールでも第1夫人と言うことになる。


 順番など関係ないのだが、何となく釈然としないし、そもそもエリスと付き合ったこともないのだ。


 地球にいた頃の俺は子供過ぎたから、エリスは親戚のお姉ちゃんみたいなものである。

 それをいきなり結婚、第1夫人とか言われても何だか困ってしまう。


「第1夫人に据えときなさい」

「ええっ!」


 驚いたのは4人の許婚だった。


「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 そう尋ねたのは、ミヤビだった。

 無理してお嬢様の振りをしなくても良いのに。


「アメリカ娘は離婚すると、裁判で財産をごっそり持っていくのよ。子供でもいれば養育費とか色々とふっかけてくるわ」

「それって、不利なんではないでしょうか」

「問題が起こるばかりだと思いますが」

「カオルコさん、そこで様子を窺っていないで、入ってきて説明して下さいね」


 母さんは頭をシャンプーしながら、見もしないでそんなことを言った。


 これにはヨリが感心したようだ。


 どうやら猛獣のうようよいる星にいると、自然と身につくワザらしい。

 昨日も俺の部屋が、ジゴロの仕事部屋みたいだと、入りもしないでコメントしていた。

 何故、母さんがジゴロの仕事部屋を知っているのか聞こうと思ったが、やめて良かったような気がする。


 カオルコはマッパで真っ赤で、照れくさそうに風呂に入ってきた。

 勿論、全裸が恥ずかしいわけではない。

 最近では、価値観が現地人と入れ替わりつつあるのだ。

 キヌがおっぱいを隠すのを見て、悲しくなったのは内緒である。


「地球人に尼川家の財産が流れるのは、地球やアメリカにとって願ってもないことですし、それが合法的な離婚調停であれば、ホエールに文句を言われることなく尼川家の財産が減り、結果的に尼川家の人々の命の危険が減るからです」

「そうです。こんな問題はユウキの代で片付けて、祐馬には安心して暮らして欲しいものです」

「俺の人生はどうでも良いのかあ」

「ユウキも、お祖父様やお父様みたいに息子に先送りするつもりですか」

「いいえ」


 俺は基本的に女性には逆らえないのだ。

 ましてや、会ったばかりの母親に逆らえるわけがない。


「けれども、財産は俺のものではありませんが」

「お父様が卑怯にも隠遁生活に入ったのですから、財産はユウキが処分するのですよ。ああ、中田中さんの3%の株式もついでに片付けておいて欲しいと言われてますね」


 親父も校長も、俺から逃げ出したんじゃないだろうな。


「と言うことは、現在の尼川家の株式は48%ですか」


 カオルコが呆れたように言うと、俺を含めて全員がため息をついた。


「正確には違います。今後はあなた方ホエールの女子130名、全員、ユウキの嫁になって貰いますから」

「ええっ!」


 今度は5人の許婚、いやカオルコは違うから、ええと、いや面倒だ。

 とにかく、5人と俺の6人だ。

 6人が一斉に驚いたのだ。


「何故でしょうか」

「考えられません」

「お兄様が死んでしまいます」

「……」

「……」


「カオルコさん、説明をお願い」

「ええっ! ええぇ、はい、そうか、ホエール人は株式を持つことで市民権を持っています。ホエール株は組織では所有できず、勿論政府も所有していません。逆にホエールの正式な市民ならば、全員が生まれたときから所有しています。我々はたった130人ですが、名のある家柄の娘であるからには、既にある程度の株式を持っていますよね」

「0・02%です」(ヨリ)

「0・01%」(ミヤビ)

「0・005%ですね」(カレン)

「0・01%をお祖父様に頂きました」(ミサコ)

「私が0・015%。こうして130人分を集めると1%ぐらいになるでしょう。お母様の狙いは株主総会ですね」


 母さんはシャワーで泡を洗い流すと、俺の泡だらけの下半身にもお湯をかけて、呆然としていたヨリを正気に戻らせ、湯船で俺を抱っこして良い子良い子し始めた。


「株主総会を開く条件は、ミヤビさん?」

「は、はい、総株数の30%で緊急株主総会を代表に開催させることができますし、40%あれば開催地まで株主や役員を呼び寄せる事ができます。今までそんな事例はありませんが…… 明文化されています」

「実際に何人の株主が集まるでしょう、ミサコさんの予想は?」

「はは、はい、えーと、実質我々10人委員会の両親が集まれば、総株数の30%ですから、尼川家の48%と我々130人と両親が揃えば80%以上になります。決議には十分すぎる数字です」

「まあ、ユウキが48%持っている段階で決着がつくとは思いますが、念のためにあなた方ホエールの娘たちにはユウキの嫁になって貰います。50%あれば、あなた方のご両親たちが反対しようが、どんな手を使おうが、間違いなく議決はこちらのものです」

「しかし、ホエールの法律では、我々の一部は結婚できません。それに3人目以上の妻は法的に権利を有しません」

「エリダヌスの法律ではどうでしょう。ええと、ギンさんでしたか」

「ドウです。お母様」

「失礼、まだ日が浅くて覚えられないのよ」


 いつの間にか、キン、ギン、ドウと、ススにクラまで様子を見に来ていた。

 まあ、専従侍女は近くにいるものだが。


「ここの法律では、女になったものは結婚できます。村長の許可が必要ですが、領主様が望めば誰も拒んだりできません」

「では、ススさん、明日付で130人の女子生徒は、全員がユウキの嫁になったことを公式記録にして下さいね」

「はい、お母様」

「ユウキは良い嫁ばかり選びましたね。流石に私の息子です」


 母さんは俺の頭を撫でていて、俺には一切発言を許さないようだった。

 女子、いや、この場に居合わせる女たちは全員が湯船に腰をかけて足湯状態である。

 ぐるりと俺を取り囲んでいるが、正確には母さんの話に対応するためである。

 親父が逃げ出したから、最上位は俺なのだが、既に母親の傀儡に成り下がっていた。


「それで、まだ女になっていない女子はいないですよね、ミサコさん」

「は、はい、全員がお赤飯で御祝いしました」


 ミサコはセルターを通して健康管理をしているから良く知っているのである。

 何故、母さんがそれを知っているのかは聞かない方が良いだろう。


「では、近いうちに株主総会を開きますが、動議はカオルコさんに一任して構いませんね」

「はい、お母様」

「会場の警備と誘導などはヨリさんに」

「はい、お母様」

「議長はミサコさんに」

「は、はい、お母様」

「出迎えはミヤビさんとカレンさんで良いかしら」

「はい、お母様」

「はい、お母様」

「料理は、えーと」

「サクラコとアキコですね。言っておきます」

「それから、おもてなしはキンさんとススさんできれいどころを集めてくれるかしら。背の高い子を順番に集めてくださいね」

「はい、お母様」

「はい、お母様」

「スカート丈をもう少し短めにしてもらえるかしら?」

「はい、お母様」


 何故なんだろう?


 しかし、疑問など差し挟める雰囲気ではない。


「さて、これで先に来るのはホエール艦隊かしら、地球艦隊かしら。ホエールが無能でないことはヨリさんを見ればわかるわね。株主総会が先になりそう」


 何故だか、母さんは嬉しそうだった。


「じゃあ、ユウキ。母さんを抱っこして寝室に連れて行ってちょうだい」

「ええ、何で?」

「親子で眠るのなんて初めてでしょう?」

「でも、それはちょっと」

「明日から130人も妻が増えるのですから、今夜ぐらいは親子水入らずで寝ましょう」


「はい、母さん」


「それから、その下半身は誰を狙ってかわかりませんが、マザコンと誤解されると嫁に嫌われますから、きちんとしなさい」


 風呂場で、マッパの女子が沢山いるのだから、自然現象なんだけど。


「はい、母さん」


 俺は素直に母さんを抱っこして湯船から上がると、クラたちに身体を拭いて貰って、母さんを寝室に連れて行き、俺のベッドに寝かせた。

 キヌが冷たい飲み物などを用意すると、


「ジゴロ部屋も悪くはないかも」


 と、少女のように微笑んで、俺を絶句させた。


 母さんは俺を抱いて寝ながら、


『味方が沢山いるから、敵はみんなやっつけておきましょうね』 


 などと言っていたが、生まれて初めて抱かれる母さんの柔肌に興奮した俺は、一晩中誰が敵で、誰が味方なのか考え続けていたが、結局わからなかった。



 翌日から、母さんは第1夫人の大安売りを始めた。

 朝に、俺の自然現象を発見すると、ヨリを呼びつけて処理するように言い、ヨリが喜んで処理すると、


「流石は第1夫人候補は違うわね」


 と、サブルームから顔を出して褒めた。

 覗いてたのかよ。


 俺に妻が9人もいるとわかって寝込んでいるエリスには、


「地球に帰れば、あなたが第1夫人になるのだからしっかりしなさい」


 などと、いい加減な慰め方をして、エリスを驚喜させた。


 カオルコが動議の詳細を詰めに来れば、


「流石は第1夫人候補、仕事が早いわ」


 ミヤビのこれまでの研究成果を聞いて、


「第1夫人になるものは違うわね」


 カレンがお兄様となついているのを見て、


「第1夫人に立候補すべきだわ」


 サクラコがうまい食事を作ると、


「料理が上手な人が第1夫人よね」


 サクラコは立ったまま気絶していた。


 キンの銀行業の話を聞いて、


「第1夫人はしっかりしていますね」


 ナナとサラサがミニスカートを届けに来ると、


「何故、あなた方が第1夫人にならなかったのかしら」


 チカコが親から2%も株をせしめていると知ると、


「第1夫人に決まりかしらね」


 ススやクラやロマどころか、ナミやナリやキヌまで、第1夫人と呼ばれて、領地内は夢見る少女の集団のような現象が起こり始めた。


 噂を聞きつけた現地人が商店街に集まり始め、期待が高まると、俺とキン、ギン、ドウの3人を連れて鰻丼を食べに出かけ、ギルポン茶を飲んでから、現地人たちに手を振って喜ばせたりした。


 トップレスで、ミニスカートの母さんが凄く恥ずかしかったが、現地人たちは誰もがひれ伏して拝んでいた。



 やがて、虚空の一点に艦隊が現れた。


 最新鋭のヨリ級ゲート母艦を引き連れた『ヨリは命艦隊』であり、指揮官は「白鯨達実」中将待遇であり、ヨリの父親だった。

 ホエールの通称ではホワイト中将で良いらしい。


「ヨリは命って?」

「お父様がつけられたので」


 ヨリは身をよじって恥ずかしがった。


「ホワイト中将、こちらはホエール市民代理の尼川祐貴です。貴官の目的を教えて下さい」

「市民代理? 尼川祐貴? 失礼だが、尼川祐一殿ではありませんか」

「わけあって、今は私が尼川祐一の代理を務めています」

「我がヨリは命艦隊の目的は、尼川祐一氏の保護です」

「こちらは、株主の権利として、緊急株主総会の開催を依頼します」

「あなたは株式を所有していないのでは? 株主の代理には、株主以外はなれませんぞ」

「実は株主なのです」

「ほう、あなたは祐一氏の息子ですな。父親が死んでもいないのに株式を相続できるのですかな」


 流石に軍だ。

 検索が早い。


 だが、ホエール領内ではないところで、株主をとやかくできる法律はないのだ。

 逆に領内ではないところに住む株主の権利を保護することは、優先的な軍務になる。


 法律が地球以外を想定していないのだ。

 普通は、地球で働いているホエール人の事になる。


 救助を要請すれば、軍はすぐに我々を保護してくれるだろう。

 今の所、ホエール軍は味方のカテゴリーに入っている。

 だが、俺はここで暮らしているのだ。

 宇宙船も持っているから、救助を要請しない限り遭難には当たらない。


 これは国際法上も当てはまる。


 軍というのは軍務を行うので、適用範囲はひどく狭い。

 宣戦布告がない場合や、戦争状態を宣言しない場合には、市民を相手にできるのは殆どが警察であり、軍ではない。

 こちらは別星系ではあるが、軍事力はないから戦争状態はあり得ない。

 何しろ、戦争になるほどの交流すらないのだ。


 後は、株主からの要請を軍が断れないことである。

 何しろホエール星系は大きすぎるから、ゲートドライブを運用している軍を頼るのは仕方がない。

 株主総会となれば、軍に送り迎えしてもらう事は日常茶飯事である。

 後は、俺が株主である事を証明できれば良いだけだった。


「父親の株は勿論代理として預かっています」

「あなたが株主か弁護士資格を持つ管財人でなければ、無効ですな」

「実は、先日結婚しまして、妻が株主なのです」

「なんと、このような辺境にホエール人の女性がおりますか。これはビックリですな。それで、1株株主ではあなたまで共同所有とはいきませんぞ」

「それが妻は結構な株主でして」

「ほう、このような辺境の場所で出会えるホエール人女性を、是非とも後学のために拝見したいものですな。はっはっは」


 艦橋は笑いの渦に包まれたようだった。

 後学が後悔に変わってもしらねえぞ。


「では、妻を紹介しましょう」


 俺が手を広げると、死角にいたヨリが飛び込んできた。

 しっかりと抱き合ってからカメラに向かう。


 面白そうに手品の仕掛けでも見抜こうとしていた中将は、座席の前にすっ転がった。


「ヨリ、ヨリなのか!」

「はい、お父様」

「何で、いや、生きていたのかああ神様しかし何故結婚などわしゃ認めんぞそれより何故裸なんじゃー見るな見るな誰も見てはならん。ヨリはわしだけのものじゃー」


 どうやら中将は必死になってディスプレイのヨリを隠しているようだった。

 部下たちの口笛が聞こえたりした。


 惑星最大のおっぱいの威力である。


 とはいえ、トップレスなんかじゃ、この星では誰も驚かないのだ。


 ちなみにホエールの結婚許可年齢は、一夫多妻のせいか15歳であり、親の同意は株主なら必要ない。


 ヨリは、今年は多分17歳になり、株主である。

 残念な中将の父親である、ホエール軍参謀長である祖父から譲り受けているので、父親もヨリの株には口出しできない。

 当然、夫である俺にも幾何かの株の権利が発生する。

 一株でも権利が発生すれば、48%の株の代理になれる。


 これで大株主がすべて敵に回っても、敵は30%だから実際は無敵である。

 祖父さんの遺産分を相続がまだだからと主張すれば、相続税として半分は地球に取られるから、ホエール側からは言い出さないだろう。


 ホエール法、国際法、国連憲章、アメリカ合衆国修正憲法、日本の法律などは、すべてミサコとドウとススが調べて解釈を行っていた。

 領地法大全は、村民法解釈と合わせて、既にエリダヌス法全集として編纂し直している。


 この星は、立憲君主制国家になっているが、憲法には「みんな仲良くすること」としか書いていない。


 キンは財務長官、ギンは行政長官、ドウは司法長官になり、ススは内務長官および侍従長に昇格した。

 官僚機構である。


 その後、5分くらいカメラは中断し、音声通信のみになっていた。

 その間、認めん、とか、見るな、とかの声が聞こえるだけだった。

 ヨリはブラチョッキを既に着けていた。

 巨大な盛り上がりは隠しきれないが、大事な部分だけは隠せているから大丈夫だろう。

 最初に隠していなかったのはヨリの演出である。

 俺を夫として見てもらおうとしたのだと思う。


 やがて落ち着いたのか、カメラも回復し、ブラチョッキを見た中将は少し安心したようだ。

 他のクルーの心理まではわからない。


「ヨリ、こんな辺境で苦労したことだろう。一時の気の迷いはホエールに帰れば忘れられるよ」

「お父様、気の迷いなんかありません。こんなに楽しい時間は生まれて初めてでした」

「ヨリ、その困ってることとかないのか、そんな格好をさせられているとか、無理に妻と言わされているとか」

「お父様、ヨリの言うことが信じられないのですか」

「いや、決してヨリを疑っているわけではないのじゃが」

「では、夫を疑ってるのですか」

「いや、その、何じゃ、いきなり夫とか言われてもな」

「ユウキは命の恩人です。事故を起こして遭難した私を助けてくれたのです。ヨリはこの命に代えても恩返ししなくてはなりません。今、お父様を説得できないようなら」


「なら?」


「ヨリは、スカートも脱ぎます!」

「よよよ、ヨリ、早まるな、早まってはいけない」


 にわかに艦橋が期待で盛り上がる感じがした。

 あちらは、こっちのような貧弱なディスプレイではなく、高質感が再現できる立体ディスプレイだろう。


 ヨリのすべてが手に取るように見えるはずだ。


 今年17歳になる美少女の全裸を見たくない男なんか、この世に存在しないだろう。


「言っておきますが、この星系には衣類がありません」

「それはどういう事じゃ」

「つまり、誰も下着を着けていないと言うことです」

「なんじゃと、つまりスカートを脱ぐと」

「すっぽんぽんです」

「ヨリー」


 中将は涙を流した。

 見たいのに見てはいけないという葛藤かも知れなかった。


「尼川祐貴君、要求を申してみよ」

「お父様ぁ」

「あ、あくまでも要求を聞いてみるだけじゃ。ヨリはそれ以上動いてはならん」

「お父様、ありがとうございます」

「ヨリー、わしの可愛いヨリー」


 流石にヨリ命の中将である。

 ヨリが感謝するだけでボロボロだった。


 俺も、ヨリの可愛いモードに弱いから気持ちは良くわかる。


「こちらの要求は、緊急株主総会を、ここエリダヌス星系の首都で開催したいと言うことです。45%以上の株がありますから可能と言うよりは、当然の要求なのです。無事に株主総会が終わったら、ヨリさんはお返ししましょう」

「あなた。ヨリは子供を産んでから帰りたいです。17で産んでしまえば、18から防衛大学で少尉として任務があっても非番の日にはあなたと子供と過ごせると思いますよ」

「ヨリ、焦ることはないよ。無理しないでゆっくり愛を育んでいこうよ」

「あなたがそう仰るならそうします。少し残念ですが」



「盛り上がっているところ、申し訳ありませんが、ホエール代表として白鯨従子さんの身柄は預からせて頂きますよ。他にも遭難者はいるはずですね」


 貴公子のような男が艦橋に現れて、そう言ってきた。


「ホエールの総支配人で総代表でホエール銀行頭取の、青鯨豊作様です」


 ヨリがそっと教えてくれた。

 俺は、イケメンは嫌いだ。


 だから、きっと敵なのだろう。



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