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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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72 続・落ち着かぬ人々

 72 続・落ち着かぬ人々




 探査艇にブースターを接続して、安全を確認してからカレンに引っ越しをしてもらった。

 カレンは俺の助手なのだが、新妻のような態度は崩さなかった。


「さて、約1日は1Gで飛ぶから、上下と可動物には注意してくれ。食事は携帯食になるが、我慢してくれよ」

「はい、お兄様」


 カレンは結婚してからも『お兄様』と呼び続けることを寝物語にしていた。

 今朝は、キスで起こされたが、カレンはまだ処女である。

 無事に地上に帰るまで、きちんと処女でいてくれるだろう。


 いつかは、カレンを妻にしたいと思う。

 カレンが承知してくれればだが、俺はたった一日で、今まで何年も一緒に過ごしてきたカレンの魅力に参っていた。

 女の子は二人きりだと違う側面を見せるからだろうか? それとも、俺は宇宙空間だと惚れっぽくなるのだろうか?

 とにかく、カレンとは相性も凄く良い感じがする。

 控え目に、的確な意見をしてくれる妹キャラというのは、こんなにも魅力的なのだ。

 いや、これは一種の「のろけ」かもしれない。


 とりあえず、今の俺の望みはゲートの調査である。

 カレンなら手伝ってくれるだろう。

 偶然か、カオルコの陰謀かはわからないが、良い人選だった。


「オペレッタ、ゲート方向に1G加速」

「了解、1G」


 暫くは新型探査艇の様子を見たが、問題なさそうだ。

 3畳弱の間で、今後の予定をカレンに話しておく。


「通信プロープは5本用意できた。これでゲートの向こう側を探るんだ」

「向こう側はベテルギウスでしたね」

「いや、絶対に反対方向があるはずなんだよ。俺はそれを通ってここに来たんだ」

「別のゲートがあるのではありませんか」

「うん、何度も調査して調べてみたんだが、ゲートはひとつなんだ。分岐点があるのかもしれないけど」

「下りが、もう消滅してるなんてことはありませんか」

「あんまり考えたくないが、可能性はゼロではない。でも、下りはあると思うんだよ。校長や親父の経験から、このゲートは何年も存在しているんだと思う」

「私たちも途中下車したのでしたね」

「多分、トレインのコクピットがなくなったのと関係があると思うんだ」

「角度か速度でしょうか」


 流石に鋭い。俺も角度か時間か、そんなものが上りと下りをわけているのだと考えている。


「速度だとすれば、現地人は地球から飛んでこないと思うんだ」

「地球の表面にゲートがぶつかって飛ばされたんですよね。でも、ベテルギウスは通っていないのでしょうか」

「時間的には通ったと考えた方が良さそうだ。石器時代に戻ったのではなく、石器時代から飛ばされたと考えた方が説明しやすいんだよ」

「ウラシマ効果で未来に飛ばされたんですね。何千年もなんて、ちょっと信じられないのですが」


「だが、そう考えないと辻褄が合わないんだ」


「XとかY遺伝子で、ある程度の年代を測定できると聞いたことがあります」

「比較対象が少なすぎて、調べられないんだ。地球ならサンプルがあるから1万年ぐらい離れていれば、十分に比較できるらしいんだけど。ないものは埋められない。地球の学者がいれば大喜びして調べると思うよ」

「私たちホエール人は日本人的と言われていますが、結構外国の血が混ざってますよ。ロシア人の家系もいるのではないですか」

「白系ロシア人だよね。後は日本人、チベット人かポリネシア人。南米の先住民かもしれないけど」

「地球のことは詳しくないのですが、琉球やアイヌというのは日本人ではないのじゃないですか」

「日本人だよ。日本の一地方と考えてくれていい。日本は島国で、海峡で隔たっている地方も多いんだ。ただ、本土に住む日本人の方が外国と混ざり合って、特徴がわからなくなっているんだ。朝鮮からの渡来人や中国から逃れてきた人が日本にかなり定住している。しかし、琉球人やアイヌ人は混じり合わずに、かなり長い間遺伝子的に固定されていた期間があったから、遺伝子が詳しく調べれらる頃まで、日本人の特徴である遺伝子が強く残っていたんだ。日本人の中でも更に日本人らしさを持っていると言ってもいいかもしれない」


「より、先祖の血が濃く残っていたと言うことですか」


「正確には血が混ざり合わない期間が長いから特徴的な遺伝子が見つけられたんだけど、日本人の定義の仕方で先祖は別れるんだ。一般的な日本人は縄文人や弥生人をベースに、朝鮮半島やフィリピン、ポリネシアの血が混ざっているらしいんだけど、古い世代は中国やロシアから渡ってきたと思われている。アイヌ人や琉球人の血にはチベット北部の人とよく似た傾向が現れるらしい。先祖の種類が少ないからか、長い期間があったからか良くわからない。でも、日本人的な特徴を何処に置くかなんだけど、実は純粋な日本人というのは遺伝子的には定義できないんだ」


「確かに遺伝的に民族を決めることは意味がありません。私も日本人的ではありますが、ホエール人です。文化とか住んでいる土地が民族を作るのであり、血が作るのではありません。日本に生まれて日本文化で育ったのが日本人であるのなら、ゲルマン人でもアングロサクソンでも日本文化で育てば日本人です」


 カレンの言いたいことはわかる。

 アメリカ人は白人と黒人とが多くを占めるが、どちらも文化的にはアメリカ人だが、遺伝子的にはアフリカ人やヨーロッパ人であり、アメリカ人であると言うことは、アメリカで生まれて育ち、市民権を持っているというような意味だ。


 そうした意味でなら、人種差別は意味がないし、アメリカは先祖のイギリスと戦争をして独立したし、中枢を占めるドイツ移民が沢山いるのにドイツとも戦争をした。

 日本も昔は、朝鮮半島や中国と戦争したり支配をしたりした。

 恥知らずでなければ、先祖を敬えなんて教育はできないはずである。


 だが、今問題としているのは、愛国心ではなく文化でもない。

 先祖はどこから来たのかという、文化とかのソフトウェアではなく、身体を形成しているハードウェアのルーツの問題である。


「とは言え、タルトとラーマは同じスルト族だったが、同じ先祖とは思えないだろ。タルトはポリネシア人の遺伝的特徴が強く、ラーマは白系ロシア人の遺伝的特徴が多く見られる。コラノは白系ロシア人とチベット人の特徴があり、更にポリネシア人的な遺伝子的特徴まであるそうだ」


「祐馬ちゃんは何人なのです?」

「うーん、遺伝的には日本人と白系ロシア人のハーフだろうか。文化的にはエリダヌス人か、ホエール人か、日本人か」


「古代人と現代人のハーフかもしれません」

「これからのエリダヌス人の特徴になるかも」

「エリダヌス人は、妻を沢山持てますよね」

「カレン!」

「失礼、お兄様は日本人でしたね。亡命しましょう。カレンを妻にするために」

「まあ、一夫一婦制の国には戻れないよなあ。独立するしかないかな?」


 複数の妻を持つために独立というのは、ちょっと都合が良すぎるような気がする。


 随分と話が脱線してしまったが、実際に現地人はどこから飛ばされてきたのだろう。

 白系ロシア人とチベット人とポリネシア人が一堂に会する歴史的な、地理的な場所は考えられないのだから、何度かにわけて、地球の色々な場所から飛ばされてきたのかも知れない。


「なにか、先祖の記憶みたいのは受け継いでいないのですか。神話とか、文化的な記憶とか、昔の物語とか」

「農耕も文字も受け継いでいないからなあ」

「言葉もさっぱりなんですよね」

「多分、言語が発達する以前に飛ばされたんだと思う」

「それにしては、各部族は共通語がありましたよ」

「ここに来てからできあがったと言うのが、リーナさんの見解だね」

「それでも神話みたいなのは普通ありますよね。祈祷師などは何か知っているのでは」

「望み薄だけど、聞いてみようか?」

「はい、お兄様」


 オペレッタに頼んで、現地人の事務所、つまり代官の執務室に繋いで貰った。

 ユウキ邸に限っては通信装置がある。

 便利だからだ。


「はい、領主様」

「カズネ、一人か」

「ススとクラがいますよ」


 映像の隅にススとクラがいた。

 クラは泣いていたようだが、俺の顔を見るとびっくりしていた。


「いや、カズネで良い。何か部族的な神話とか昔話を知らないかな。自分たちの先祖がどこから来たとか残ってないか」

「神話ですか。神から便利な家畜を授かった話なんかがあった気がします」

「クラも聞いています。温かい毛皮が取れて、肉が取れて、草を食べて良く増える家畜を神から授けられていました。それは北の民と南の民との友好の証として授けられていたものですが、北と南で争いが起こると神は怒り、我々を楽園から追放して、家畜も取り上げたと言い伝えられています。以来、我々は野山で猪や鹿を狩るしかなくなったのです」

「追放した神の名とかなかったか」

「ヴィァカゥゥとか言われています」

「ビカウかな。ビカルか?」

「命名じゃありませんよ」

「楽園の名前はないのか」

「土地の神の名なので、同じくビカルの地ですね」


「多分、バイカルよ」


 リーナさんが割り込んできた。


「バイカル? バイカル湖の?」

「そうよ。馬鹿だったわ、一堂に会するのではなく先祖だったのよ」

「どういうこと?」

「バイカル人は紀元前8千年から5千年頃の新石器時代人で多分、遊牧民。南下してチベット方面に定住し、一方は東へ行き、更に南下して日本列島にたどり着いたと思われるのよ。つまりは、日本人とチベット人両方の先祖なのよ」

「モンゴロイドの遊牧民でしょうか」

「きっと白系ロシア人の先祖も、バイカル湖近くに住んでいたんだわ」

「北の民か。すると家畜は?」

「間違いなく羊だわ。何故一緒に移動しなかったのかはわからないけれど」

「米や麦があるから、半分は農耕に移行しようとしていたんじゃないのかな。原始的な農耕なら新石器時代にも現れているはずだよな。羊を放牧している時に留守の村が飛ばされれば、こんな事になるかも知れない」

「女が多いのもその時の名残かしら。男たちは放牧や戦争で忙しかったんでしょうね。しかし、ベテルギウスを良く生き延びたわね」

「奇跡かな。それにしても、農耕を忘れるほどの苦難だったんだろう」

「多分、ここは草原だけしかなかったと思うわ。一緒に飛んできた木々や穀物の種が成長し繁殖して、猪や鹿が増えるまでの何十年かを、多分鹿モドキと戦いながら生き延びたのよ。文明はリセットされても仕方がないわ」


「我々の先祖は、領主様と同じ場所から来たのですか?」


 カズネが恐ろしそうに尋ねた。

 クラも何となく俺たちの話に不穏なものを感じているのだろう。


「多分だが、カズネの先祖は8千年から1万年前に、俺が生まれた地球という星から飛ばされてきたんだ。俺たちのご先祖様に近いんだよ」

「それが、ビカルというところですか?」

「バイカルは大きな湖の名前なんだ。そのほとりには、今でも遊牧民族がいると思う」

「何故1万年も過ぎているのに、我々はこんなに……」

「違うんだ。1万年近く飛ばされてきたんだよ。木々の繁殖からすると、この星にたどり着いたのは500年から精々1000年前だと思う。その間、何もない世界で、ご先祖様たちはひたすら生き延びるために狩猟をしていたんだと思う」

「では、では、領主様も女神様方も同じ人間なのですか」

「正確には、カズネの先祖の親戚の子孫だろう。カズネの先祖はカズネには1000年でも、俺たちには1万年ぐらい前の先祖なんだよ」

「なんてことでしょう」

「なんてことでしょう」

「なんてことでしょう」


 カズネとススとクラは抱き合って泣いていた。


 カレンも泣きながら、自分たちの先祖に当たるかもしれないカズネたちを見つめていた。


 きちんとした学術調査でもしなければ、確証は得られないので、とりあえずは内緒にして貰った。


 1G加速は減速になり、再び夜を迎えた。

 リサイクラーが小さく、シャワーはないので、蒸しタオルで身体を拭くぐらいしかできなかったが、カレンは文句も言わずに俺の世話をして、自分もできるだけ清潔にしていた。

 その後、1Gがなくなるまで、ずっと抱き合って眠った。

 カレンとの時間は、とても居心地が良く、俺にはとても大事な女になっていた。

 彼女がホエールに帰り、その後に俺を選んでくれる確率はとても低いだろう。

 今、この時だけという考え方もできるが、何故だろうか、土壇場に来て駆け込みで選んでしまうのが卑怯な気がするし、きちんと選んでもらいたい気がするのだ。

 馬鹿げているのだが、再選択を望むカオルコの新ルールと被っている。


 ただ、俺が望む再選択は、ホエールに帰還できてからという不利なハンデを背負ってのものだった。

 俺は一時の恋愛感情ではなく、きちんとカレンの愛情を勝ち取りたいのだった。

 それぐらい、この可愛いお嬢様に参ってしまったと気付くには、もう少し時間がかかったのだが。


 翌日は、ゲートに通信プロープを打ち込む実験を開始した。

 制御は俺が担当し、通信関係はカレンが受け持った。

 コード名、T01は4キロのケーブルの先頭にカメラを最後尾に送信機を持った単純な構造だったが、先頭に加速装置、最後尾に減速装置を取り付けた。

 T01は、予定通り加速し、ゲート付近で減速しながらゲートに侵入した。

 相対速度は時速120キロぐらいまで減速できた。

 先頭が侵入したとき更に減速をかけた。

 ゲートが何も存在しない空間なら、ちぎれたりしないはずだが、トレインの例があるので何も保証はない。


「ベテルギウスです」

「膨張か収縮かわかるか」

「時間が安定しません。コマ送りになりますがどうやら収縮のように感じます」


 3秒半で、T01は飲み込まれた。

 ウラシマ効果による時間伸長が疑われる。

 飲み込まれ方が、時間的に影響を受けている不自然な感覚があるのだ。

 これだけは、デジタルで動いているリーナさんやオペレッタには感じられない感覚だった。


 T02を準備しながら、インターバルを利用して地上のミヤビと話し合った。

 ミヤビは俺の部屋にいて、ミサコやクラも心配そうにしていた。


「ブラックホールに墜落すると、外からは永遠に落ちていくように見えるというのはうそだな。あっという間に未来に飛んでいくのが正しい気がする」

「時間伸長により、外の世界が未来になっていくように見えるはずなんだけど。1秒が1日とか1ヶ月とかになるとどう見えるかなんて本当は関係ないかもね」

「ベテルギウス表面でも同じ事が起こっているんだよな」

「内側と外側の観察結果なんて意味がないのよ。観察者が外側にいられないのだから、すべては固有の時間に縛られるのでしょうね」

「しかし、実際に45年も飛ばされると意味はあるぞ」

「それは脱出してからの話でしょう。体感時間は10分弱だったと言うし、現実にユウキは年を取ってないわ」

「計算すると、1分が5年ぐらいになるのか」

「そうでなければ、光の速度を超える収縮など観測できるわけないわよ」


「特殊変光星のサイクルが一定しないのは、ウラシマ効果によるものなのではないでしょうか。実際にはきちんと膨張、収縮サイクルがあるのに、観測では一定しないように見えるのです」

「カレンの言う通りよ。ゲートドライブの上限を2パーセクにしてあるのは、時間のズレがそれ以上では無視できなくなるからなの」


「ひょっとすると、ゲートというのはウラシマ効果をチャラにするものじゃないのか」


「わかっていないのよ。ただ利用しているだけで、実際には良くわからないのよ。それでも人類は利用している」

「それはベテルギウスから得ているんだな」

「多分、そうだと思うわ。地球付近のゲートを輪切りにして使っているらしいの。十一次元のうちの1次元を減らして取り出すとゲートになるのよ。誰も理解出来ないものを誰も理解出来ないまま利用している」


「それはミヤビの父親が発見したのか」

「いいえ、お祖父様よ。3人いた十一次元学者の最後の生き残りだったけど、亡くなったわ。もう誰も理解出来ないのよ。父は懸命に理解しようとしているけれど、まだ十一次元は理解出来ないそうよ。ある種の天才以外は二桁には到達できないの」


「お姉様、お父様が理解出来ていないなんて、初めて聞きました。お父様がゲートを作り出しているのですよね。ホエールでは総責任者じゃないですか」


 カレンは驚いたように言う。

 しがみついた手が震えている。


「お父様は一生懸命頑張っているわよ。でも、理解出来ないものは理解出来ない。ただ、お祖父様の遺産を使っているだけに過ぎないのかも知れないわね」

「そんな」


 カレンは残念そうだった。父親を尊敬しているのだろう。

 二人の父親なら相当優秀なのだろうが、それでも十一次元には到達できないのか。

 まあ、俺には4次元ですら良くわからないのだが。

 今は気休めにもならないか。


 カレンの頭を撫でてやるとカレンはしがみついて俯いていた。

 ミヤビが少しだけ残念そうにするが、それどころではない。


「ゲートには、上りと下りが存在する。それが俺の予想であり、基本だ。みんな、そう仮定して考えてくれ」

「もし、そうだとすると、膨張と収縮が一番怪しいわね。押し出して、引っ張るを繰り返していることになるわ」

「横Gは感じたが、そんな何光年も飛ばされるほどの圧力はなかったぞ」

「ゲートは何もない空間なのよ。ただ、時間だけが何かの作用をするの。600光年飛ばされても、何も感じなかったでしょう?」

「そうだ、ベテルギウスに突然飛ばされた」


「ゲートはどうやって見つけたの」

「収縮するときに黒い輪っかが取り残されるように現れたんだ。賭けだったがそこに飛び込んだ」

「その時、ベテルギウスは収縮中だったの?」

「いや、多分膨張に切り替わっていた。焼かれる前に必死で飛び込んだから間違いない」

「ならば、膨張中に下りの押し波、収縮中に上りの引き波なんだと思うわ」

「45年サイクルなんて言わないよな」

「いいえ、体感時間の8分で1サイクルだと思う。時間伸長は外側での出来事なのだから」

「待てよ、8分というのもオペレッタのタイムスタンプに過ぎないぞ」

「再生不能時間ね。現実にはどれだけかわからないという現象でしょうね」

「だが、俺には30分ぐらいに感じられた。オペレッタの被害も10分程度の被害とは思えない」

「では、30分間隔で通信プロープを打ち込んでみるしかないでしょう。それで駄目なら8分よ」


 通信プロープの残りは4つ。ぎりぎりか。


「T02を打ち出して、30分後にT03か、しんどい作業になりそうだ。4時間後にまた連絡して良いか」

「夕食後ね。大丈夫よ。それよりミサコとクラに声をかけてあげて。二人とも昨夜から寝てないのよ」


 ミサコが前に出てきた。


「ごめんなさい。私がはっきりと支持できなくて」

「ミサコのせいじゃないさ。俺の我が儘なんだ」

「危ないことしないで下さいね」

「ああ、待っていてくれ」


 クラに替わった。


「領主様、帰って来ますよね」

「クラを置いていったりしないさ。それよりも俺の侍女筆頭としてしっかりと部下たちの面倒みてくれ。頼むぞ」

「はい、頑張ります」


 クラは涙を流した。

 クラは俺以外に価値を持ってないかのようだ。

 一途で可愛い女である。

 現地人の中では、ラーマやレンに匹敵する美人になるだろう。

 つぼみは開き始めている。

 身長は150を越えて、人類と遜色ない体型であるから、違和感もない。


 俺は地球人類に対して、クラとロマを宣伝に使うつもりだ。

 きっと彼女たちは、人類に受け入れられる。

 そんな気がするのだ。

 特にモンゴロイドや白系ロシア人は熱狂するだろう。

 エリダヌスの安泰のために、必要な人材なのである。


 予定は1時間ほどオーバーしてしまったが、T02とT03は時間差をつけてゲートを越えた。

 T02はベテルギウスを映しだしたが、T03は見知らぬ星系を映しだした。

 どこだかはわからないが、下りに違いない。

 カレンにキスの雨を降らして、カレンの落ち込みを払拭した。

 ミヤビたちに成功を告げると、データを送り、何処の星系であるかの解析を頼んだ。

(天体図を使うと、特徴のある星から推測できる)


 それから、次の作戦に挑んだ。

 探査艇に5キロの通信プロープを接続して、ゲートと綱引きをし、更に情報を得ることである。

 勿論、危険ならすぐに切り離せるようにした。

 その最終ミッションは、夜中近くになった。


 通信プロープT04は、ちぎれることなくゲートの向こう側を映しだした。

 2分間もゲートと綱引きをやって、探査艇が引きずり込まれる前に救難信号を出して、切り離した。

 救難信号には、ゲートの上り下りが30分で切り替わることを入れておいた。


 それが功を奏してか、1時間を過ぎた頃に驚くべき事が起きた。

 オペレッタが叫んだ。


「ゲートに異変!」

「何だって!」


 いつもは目に見えない、ただの空間であるゲート全体が光り輝いていた。

 正確には、火花をまき散らしていた。

 真円に近いゲートの輪郭が浮かび上がり、その輪郭が所々で綻んでいた。


「突き破ろうとしているのか! あれじゃあ、まるでゲートは……」


 処女膜のようだ、と言おうとして自重した。

 見たことがなかったからである。


「処女膜?」

「処女膜?」


 オペレッタとカレンによる同時突っ込みが入ったが、スルーすることにした。


「得意技でしょうか?」

「変態?」


「今はそれどころじゃないだろう? どうなってんだよ、オペレッタ」

「バイオレッタが現れた」

「何だって!」

「バイオレッタ。姉妹船。祐一の3G船」


 俺は仰天した。


「親父がゲートを通って現れたのか!」

「そう。多分」


 ディスプレイに、初めてみるが、良く知った顔が現れた。


「おお、ユウキか? 俺が親父だ。初めましての方がいいか」

「ユウキ。お母さんよ。大きくなったのね」


 両親と言い張る二人は、どう見ても30前後だった。

 親父は山賊のようだったが、お袋はホログラフィーでみたままの清楚な日本美人だった。

 豹柄の毛皮の、ビキニ姿でなければだが。


 更に驚くべき人物がいた。

 校長の中田中正志と、幼なじみと呼んでいいのか、アメリカ娘のエリスである。


「祐貴君、久しぶり」

「ユウキ、わざわざ来てあげたわ。感謝しなさい」


 校長もどう見ても50前で、出発の許可で会った時よりも若い。

 エリスも大人っぽかったが、25にはなっていない。

 だが、あれから65年以上経っている。

 一体何がどうなっているのだろうか。


「どうして……」


 俺は絶句するしかなかった。

 カレンが俺を励まし、地上に戻ることを提案した。

 バイオレッタは6機ある推進装置の内、5機まで失ってボロボロだったが、何とかエリダヌスの衛星軌道には来られるということだった。

 誘導はオペレッタに任せることにした。


「それより可愛い子ね。ユウキのお嫁さんかしら」

「はい、カレンとお呼び下さい、お母様」

「きゃあ、お母様だってあなた!」


 どうにもまだ娘っぽい母親だったが、何処か殺伐とした雰囲気があった。

 誰に似ているかは一目瞭然で、あのヨリと同じタイプである。

 俺は潜在的なマザコンだったのかも知れないと思い、少し恥ずかしかったが、カレンが段取りをつけていき、地上に迎えることにした。


 聞きたいことは沢山あったが、とりあえず忙しいのでオペレッタとバイオレッタにデータ交換は任せて、俺は地上での出迎え準備を指示した。

 親父たちも色々準備があるらしく、衛星軌道までの約1日の航行を忙しく過ごしているようだった。


 カレンは最終日なので、少し愚図ったが、俺はカレンを愛しているし、落ち着いたら妻にしたいというと、長いキスで許してくれた。

 大きなおっぱいは、まだ我慢した。


 俺たちは無事に地上に戻ったが、誰もが落ち着かぬ感じだった。

 勿論、俺も落ち着かなかった。


 これから、ろくでもないことが起きるに決まっているからである。



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