68 試験飛行
68 試験飛行
夏フェス前に、ニタが挨拶に来た。
「毎年、お付きの侍女が変わるのでしょうか。それとも私が知らないだけで、間に何人かいるのでしょうか?」
「嫌みを言いに、態々《わざわざ》時間をかけて挨拶に来たのか」
「いいえ。嫌みではなく、ひがみですねえ」
「良いから、用件を言え」
「その前にお茶を一杯。階段で疲れました。年ですよねえ」
最初に会った時よりも、ずっと若く見える顔で言い放つ髭のない髭親父。
「メナイ、お茶を頼む」
「はい」
すっと、メナイが立ち上がり、お茶を淹れに行く。
そのお尻を、ニタが目で追う。
ひょっとすると、サナイの妹か何かなのだろうか。
「別に、お前に恨まれるような事はしてないぞ」
「羨ましがられるような事の間違いでは?」
「それもないぞ」
「それは勿体ない」
「ふん!」
ニタが、残っているクラ、ロマ、キヌ、マナイを見回す。
女好きのイヤらしいオヤジだが、女に惨いまねはしない。
その証拠に、侍女には手を出さないし、村長推薦もあまりしてこない。
まわしてくるのは生活に困っている難民ばかりであるし、侍女見習い枠以外の女性や子供は、村で養っている。
キン、ギン、ドウの3人も、このオヤジを嫌ってはいないし、結構仲が良い。
ドウが出来の良いサナイを手放したぐらいには、信用がある。
「サナイは連れて来なかったのか?」
お茶を飲みながら尋ねた。
「子ができまして」
「本当か。おめでとう」
「孫より後というのはちょっとですねえ」
「良いじゃないか、サナイの子供ならきっと優秀だぞ」
「まあ、そうですよねえ」
「自慢か、のろけか」
「両方ですねえ」
それから暫く世間話に興じた。
サンヤにやっと男の子ができたとか(今まで6人生まれて全部女だったのだ)、水田が2倍になったとか、大根の栽培に成功したが、半分は鹿モドキに食われてカマウに請求してたまげさせたとか。
やがて本題に入り、ニタ村の女が二人、鍬とシャベルを持って来た。
クラとロマが慌てて立ち塞がる。
キヌが棒を持ってくる。
そう言えば、最近は荒っぽい場面がないから、侍女たちは、俺が強いことを知らないのだ。
ニタが苦笑する。
「私もあれ以来、棍棒を持ったことがありませんねえ」
あれ、と言うのは、この髭オヤジに初めて出逢ったときのことだ。
ニタは、何度も俺に棍棒をたたき落とされた。
一緒だったのはレンで、その後大事件が起きたのだ。
「クラ、ロマ、落ち着け。キヌもな。この世界で俺より強いのは女神様しかいないぞ」
「しかし、はい、済みません」
「いいんだ、ありがとう」
俺は3人の頭を撫でて落ち着かせた。
どの村でも、猪を見つければ狩りはするが、それは今では畑を荒らされたくないからだ。
普段は、武器を持ち歩く者もいなくなった。
サンヤは牧場経営の関係で棒を持って訓練しているが、農民たちは武装している方がおかしい。
お陰で、女たちも平和に旅をしている。
俺を襲撃するメリットは、今の所誰にもない。
俺は織田信長ではないが、村長クラスにも明智光秀は見つからない。
リーナさんと何度もシミュレートしてみたが、誰も謀反を起こしそうもない。
起こせても損しかしないので、起こす意味がない。
強いて言うなら、恨みを持つカカとズルイぐらいだが、彼らも今はお茶作りをしているらしい。
カカには世話をする少女が現れたと聞いた。
ズルイには味方が一人も残っていないのだから、農民になるしかないだろう。
カカの息子は、パルタの元でワイン作りをしているし、娘はイタモシ村長の妻である。
どうしても暴れたい奴も、相撲に打ち込んでいるから、人を襲ったりしない。
相撲で強くなれば、名誉までついてくるからだ。
東にひとつだけ部族が残っているが、去年イタモシに大負けしてから縮小しているらしい。
獲物は増えているのだが、狩猟民族の貧しさに気付いた者から逃げ出し始めている。
北のズルイの元部下は、3つの村作りで消えてしまっている。
後は、昔のニタみたいに家族で山とかに逃げ込んで暮らしている者が、どれくらいいるかだろう。
それでも、クラやロマは俺の力量は知らないし、狩猟民時代の荒っぽさを覚えているのだろう。
それとも俺を守るのは、侍女の役割なのだろうか。
それはいやだな、今度教えておこう。
鍬とシャベルを受け取って出来を確かめる。
やはり、鍛造には気付いていない。
だが、鍋を直せるなら、そのうちに気付くだろう。
「良い出来だよ。これなら買い手もつくだろう」
「ありがとうございます。売れれば3つの村も一息つけるでしょう」
農機具作りの時間が取れないことだし、ニタに任せるしかない。
むしろ、頑張って貰いたい。
やがて、山のモモが食べ頃になると、参拝客がやって来て、夏フェスが始まった。
クラたちは毎日モモを取りに行くが、畑の少女たちに手伝って貰っても間に合わないので、カリモシ村からも調達した。
参拝客は100段上って女神様を拝み、モモを貰えれば満足なので、別に何処のモモでも構わないようだった。
アキは、サクラコの妹神という事になっているようだ。
時々、参拝客に直接モモを渡して、えらい人気である。
ただ、朝しか見られない事は去年通りである。
遊びに来ているわけではないからだ。
しかし、大接近の間は実験を見合わせることになったので、ミヤビとミサコ以外はテンションが下がりっぱなしである。
俺も、ナナ&サラサブランドの夏コレクションのチェックがあるので、様子を見に行かなくてはならない。
村長たちが一堂に会することは滅多にないので、3日間お休みにした。
グループ行動と警備班の付き添い、暗くなる前に戻ることを義務づけて遊びに行かせた。
侍女もお休みにして、5人に小遣いを渡して遊びに行かせた。
クラは残りたがったが、ロマとキヌの面倒をみなければならないから一緒に行かせた。
午前中はトレインに行き、カオルコやリーナさんと打ち合わせをした。
5キロの通信ケーブルにはセンサーを動かす以上のバッテリーが必要だし、樹脂コーティングも若干弱いという。
八さんが補強材として軽量樹脂瓦材料で、ケーブル専用パイプを焼いてくれることになった。
途中途中をパイプで補強しておけば樹脂だけよりは頑丈になるだろう。
バッテリーにはソーラーを使い、センサーも監視用を使うことにした。
貴重品だが3つぐらいなら仕方がないだろう。
領地の監視に沢山使っているから、少しまわせばいい。
神域(事故現場だが)には、ハインナを警備に残した。
ハインナはトレインの記憶がなく可哀想だったが、警備には自信を持っているのが救いだった。
まあ、進入者はいないだろうが。
宿舎には、カリモシの畑の手伝いの少女が3人残っていた。
アキに言われて俺の昼飯を用意してくれたらしい。
冷えた豆乳と温かいスープが出され、山盛りの唐揚げとポテトサラダにパンが運ばれて来る。
少し緊張しているようだ。
だが、俺はもっと緊張している。
裸で給仕されるのは慣れているはずだが、久しぶりであるからだ。
エプロンぐらいと思うのだが、今の所スカートより高級品で、スカートすら買えない難民の少女たちが持っているわけがない。
お陰で、全身ぴかぴかのツヤツヤである。
領主に調理して給仕するのだから、身体の何処もかしこも清潔にしているに決まっている。
尻をなめてみろと言われても、絶対に大丈夫なぐらいに綺麗にしているのは想像できる。
いや、積極的に嘗めたいわけじゃないぞ。
それにしても、裸の女3人が、そばに立って待っているのは落ち着かない。
料理の量が多いから、きっとまだ食べていないのだろう。
「一緒に食べようか」
「は、はい」
3人はすぐに自分たちのスープを用意すると、テーブルにつき、恐る恐る食べ始めた。
料理と言葉を習いに来ているのだから、多少はしゃべれるようだ。
「今度、侍女見習いを受けます」
「カリモシ村長が連れて行くと言ってくれました」
「わたし、母と行きます」
命名は拙いから、名前は聞かない。
話しづらいが仕方がない。
「領主様、試験しますか」
「忙しいから、今度は無理かも知れないな」
正確には、立ち会うだけなのだ。
3人は残念そうだった。
領主にコネがあれば、確かに試験は有利だ。
挨拶の時に『久しぶり』とか『良く来てくれた』と声をかけるだけで、合格は近くなるだろう。
「あの」
赤毛の子が立ち上がり近くに立つ。
「おっぱいはどうですか。受かりますか」
真っ赤になっているが真剣に質問している。
ふざけているわけではない。
ははあ、アキかミヤビのいたずらだなこれは。
3人組にしたのも、そう言う噂が最もらしく流れているからだ。
おっぱいを気にするのも、何か吹き込まれた証拠である。
今日はナナ&サラサに行くから、3人を連れて行くか。
一人で行くのは怖いからな。
食事を片付けたら、勉強を見てやることにした。
「あなたは侍女になって何がしたいですか」
俺は口頭試問形式での勉強を始めた。
俺の部屋には見習いたちの教材も置いてある。
「領主様の女になりたいです」(赤毛)
「領主様のおっぱいになりたいです」(黒髪)
「領主様と子作りです」(茶髪)
まったく、ふくらみ始めのくせに生意気な。
「違うぞ、どんな仕事がしたいかだ」
俺は必殺のツンツン刑を繰り出した。
いやんいやんが3連発である。
これは、結構可愛い。
以前のキン、ギン、ドウを思い出させる。
「畑の仕事、教育、食糧管理のどれを専門にしますか」
「畑で領主様に膝枕したいです」(赤毛)
「領主様にキスを教わりたいです」(黒髪)
「料理を作って領主様にアーン」(茶髪)
まったく、ここの連中は何を教えてるんだ。
「それは侍女の仕事じゃないぞ」
俺は必殺のツンツン刑をおっぱいに繰り出した。
更に可愛らしい、いやんいやんが3連発起きた。
仕方がない、もう少し言葉を覚えるまで口頭試問はやめて、簡単な計算問題にしよう。
碁石を持ち出して、黒を1、白を10として計算させた。
「多分、35です」(赤毛)
間違えたので、おっぱいツンツン。
「33じゃないですか」(黒髪)
やはり、おっぱいツンツン。
「間で34」(茶髪)
おっぱいツンツン。
「多分とか、間で、とかではなくきちんと計算しろ」
その後も間違い続けたので、ツンツンからモミモミの刑に繰り上げ、最後にはおっぱいチュウの刑にまでしたが、少女たちは間違い続けた。
途中からは、わざと間違えているようだった。
1時間もすると、3人のおっぱいが赤くなり始めたので、中断し、風呂で身体を流しに行かせた。
とてもそのままじゃ、外には出せないからだ。
上気した3人が戻ってくると、夏フェスに連れて行く。
風呂上がりの裸のまま外に連れて行くって、やっぱり慣れるものでは無いな。
俺もかなり恥ずかしい。
3人は何だか内股でモジョモジョしていたが、暫くすると俺にしがみついてきた。
何だか、とってもいやらしいことをしてきた後みたいに見えるだろうが、実際にとってもいやらしいことをした後なので、気にしないでナナ&サラサ臨時店舗に逃げ込んだ。
不審者の行動だった。
ナナとサラサは、ちゃんと店にいた。
「まっ!」
「なっ!」
二人が驚くと同時に悔しそうな顔をしたので、俺の作戦は成功だった。
「可愛い子を3人も連れて」
「待っていたのにひどい人」
去年と逆で、ナナが妊娠していて、サラサは男の子を産んでいた。
二人とも更に女らしく軟らかい体つきになり、押しに弱い俺では対抗できそうにない。
「まあまあ、折角お客さんを連れて来たんだから、見繕ってくれ。多分、初めてのスカートなんだよ」
「ふん」
「ふんだ」
ナナとサラサは不機嫌だが、きちんと3人にスカートを選んでくれた。
今年の新作のお披露目である。
この3人なら、宣伝になるだろう。
スカートは革の余った部分を使って、細く紐状にして編んだものである。
夏用には感じが良いし、実際に少し風が通るようだ。
3人の少女は、編んだスカートとがま口式ポシェット、ベルトを着けた。
更に、編みに隙間がはいっている短めのケープで肩を隠すと、なかなかのモデルになった。
サンダルも編み込みの新作である。
ベルトとポシェットは一枚革にして、ナナ&サラサブランドロゴが入っている。
更にパッチワークのエプロンを3枚揃えて持たせた。
パッチワークも革の端布で作ったもので、今年の新作である。
勿論、スカートも用意してある。
「流石だな。今年は革の余った部分を使うのをコンセプトにしたが、成功だよ」
アイデアは俺が出したが、実際に試行錯誤して良いものに仕上げたのは、ナナとサラサである。
材料費は下げられたが、工賃というか人件費は上がっただろう。
だが、こうしたアイデアを商品化すれば、他の村でも作り始めるし、できはじめた古着屋も喜ぶのだ。
3人の少女はとても美しく、侍女でも十分通用するだろう。
しかし、ナナとサラサは素直に喜ばず、俺を隣のフィッティングルームに引きずり込んで、強烈なキスをしてきた。
2連発である。
女としての意地なのだろうか?
「いや、拙いって」
「拙くなんてありませんよ」
「いやなら、あの子たちのおっぱいのこと、ススに言いつけますよ」
いや、それは本当に拙い。
俺が怒られるだけじゃなく、3人が見習い試験に通らなくなる。
俺は、二人を抱きしめて、軽くキスして許して貰った。
俺たちはお互いが結婚して子供までいるのだが、確かに黎明期の苦労を共にした戦友である。
そうした想いが、懐かしさが、心にわき上がるのだった。
「キスは、ユウキ様としかできないのですから」
「私たちをどうか忘れないでくださいね」
二人も、俺が宇宙に帰る事を不安に感じているのだろう。
忘れるもんか。
俺たちの青春は確かに存在した。
これからも、村や店を運営して豊かになっていくのだから。
それから3人を連れて、夏フェスを満喫させた。
3人は美味しいものに仰天していたが、どの店の女たちも、彼女たちの最新ファッションに仰天していた。
多分、ナナ&サラサに駆け込む者が増えていくだろう。
そうして、最新の技術が村々に伝えられていくのである。
タルト村は小麦づくしだった。
うどん、天ぷら、パスタ、クレープ。
お好み焼きは猪だからブタ玉だな。
他の村も趣向を凝らしているが、基本的には収穫物の豊かさを売りにしている。
去年と異なるのは、屋台での個人販売が目立つことだ。
木工、竹細工、ザル、桶、小間物まで出ているし、ドライフルーツや豆の菓子、リヤカーで生鮮野菜を売っている者もいる。
しかし、目玉はニタ村だった。
鍬、備中鍬、シャベル、ツルハシまである。
釘や金槌もあり、なまくらだがのこぎりも作ってみたようだ。
鍋や包丁のコーナーもあり、修理の実演もしている。
包丁は出刃ではなく四角い野菜包丁だ。
気を遣ったのだろうか。
鉈や斧も武器っぽいから遠慮したのだろう。
まあ、買えるかどうかはともかく、人は群がっている。
ユウキ領の出店は、串カツだった。
今年は大根をニタ村に、ネギをイタモシ村に委託した。
それを使って、ネギ串カツとタマネギ串カツを作り、甘めのトマトソース味と、辛めのおろし醤油の二つで食べられる。
味噌ソースは、責任者で来ているギンに却下されたようだ。
この時期に時間が取れるのはギンだけだった。
そのギンが迎えに出てくる。
「まあ、領主様。それは何です?」
「それはないだろう。今度の見習い候補者たちだよ」
「随分と可愛いですね」
「そうだろう」
「ふん」
「おい、ギン。4人前頼むよ」
プイ!
「後で、ギンのスカートも見繕って貰うからさあ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「仕方がない、特別ですよ」
「すまないな」
苦労性のキンに比べて、ギンは素直である。
ドウは意地悪だが。
ギンは用意してあった貴賓席に俺たちを案内してくれた。
一番目立つ席だった。
お陰で、涙目のクラに真っ先に見付かり、俺は串カツを味見をする前にナナ&サラサに引き返して5人分の最新ファッションを購入して戻り、クラに串カツをアーンしている最中にヨリが現れ引き返し、ミヤビとミサコが来て引き返し、アキが来て引き返すと、もう俺の分の串カツは売り切れになっていた。
モモが熟して木から落ち始めて、夏フェスが終わりを迎えた頃、アキが自作の最新ファッションを見せに来た。
編みのスカートが、網スカートになっていた。
「おい、何も隠せていないぞ」
「えへへ、良いでしょう」
「良くない」
アキは目の前でクルリと回った。
大人っぽくなったお尻が網スカートで色っぽく見える。
「これくらいしないと、第4夫人になれませんから」
俺は、ため息しか出なかった。
隣でミヤビは冷や汗を流していた。
2度の無人実験後、二人だけでトレインの有人飛行を行っているのだ。
「高度3万キロ、1G」
「了解、1G」
AIが応える。
画面一杯に各エンジンの状況が出され、ミヤビが確認している。
俺の方は、画面の一部に外を映しだし、速度やバランスを確認している。
今の所、何の問題もない。
「惑星周回軌道へ変更する」
「了解、周回軌道に向かいます」
「ミヤビ、どうだ」
「問題ないわ。でも、凄く緊張する」
「少し、後を見てくるから任せて良いか」
「はい」
操縦室を出て、1両目の乗客席を見回す。
温度や湿度、気圧も確認する。
表示は全部グリーンだった。
後部のエアロックを抜け、2両目のエアロックに入り、内部のデータを読み取るが問題はない。
2両目に入り、データをもう一度確認し、誤差もないことを確認し終えた。
最後尾に食料庫と簡易調理室がある。
そこでタンクの水量を確認する。
エンジンの燃料も水だからだ。
側面の隔壁内にある発電機が電気分解し、酸素は冷却されて液体で溜められる。
水素は燃焼室に行きプラズマ化して、噴射される。
エネルギー量からすれば、プラズマの温度は100万度になる。
太陽のコロナと同じである。
ナノプログラム結晶鋼は素晴らしい発明だ。
ホバー並のエンジンで、トレインを飛ばせるのだから。
やがて、無重力に変わる。
周回軌道に乗ったのだ。
水のタンクはあまり減っていない。
ホバーの30倍の出力は、逆にプラズマ1個当たりのエネルギーも30倍だということだ。
リーナさんが何年も夢中になるだけのことはある。
元々はリキッドが入っていた水タンクは、何の問題もなかった。
「ユウキ、そっち行っていい?」
調理室のディスプレイにミヤビが映った。
「どうしたんだ。何かあったか」
「無重力でしたいの。新婚旅行みたいに」
「まったく、遊びに来てるんじゃないぞ」
「いやなの?」
「いやじゃないが、拙いんじゃないか」
「1回ぐらいは平気よ。AIもちゃんと機能してるし、勝手に地上に戻るぐらいに出来が良いわ」
「やっぱり駄目だ」
「どうしてよ」
「避妊薬を忘れた」
「すぐに行くわ」
ミヤビは文字どおり飛んできた。
トレイン1両分を、何処にも触らずにダイレクトで飛び込んでくる。
「危ないじゃないか。激突するぞ」
しかし、ミヤビは既に全裸で抱きついている。
すぐに始めなければならなかった。
2回目の途中でカオルコから連絡が入った。
調理室のカメラは正面以外は映らないので、見られないですんだ。
しかし、ミヤビは俺と繋がったまま顔だけカメラに映した。
「全部異常なしよ」
「問題点はないの?」
「うん」
「ミヤビ?」
「なに?」
「何であなたはおっぱいまで出してるの。ユウキさんは何してるのよ」
「ユウキもこれから出すところよ」
「うっ」
「きゃー」
カオルコは慌てて通信を切った。
「おい、ミヤビ」
「ごめん。でも妻だから良いのよ。見せつけてやりたいぐらいだわ」
「そう言えば以前ミサコもサクラコに……」
「へえ、そうなの」
「いいえ、私の勘違いでございました」
「遅いわ! もっと真剣にしてちょうだい」
「はい、頑張ります」
その後、大気圏突入もスムースにいき、試験飛行は成功に終わった。
当然のことながら、報告会もあった。
大型ディスプレイに映ったカオルコは、ミヤビとミサコの説明を聞きながら俺を睨んでいた。
「……だから、食糧や水を満載しても、1000人乗り込んでも問題ないわ」
「では、領地に戻ってくるのね」
「引き払ったら、全員で飛んでいくわ」
「ユウキさん」
「何だ」
「今度、試験飛行するときは、私が乗るから」
カオルコはそれだけ言うと、プイと横を向いて通信を切ってしまった。
「へえ、今度はカオルコと行くの?」
今回は俺のせいじゃないだろ、ミヤビ。
前途多難である。
こんな時は男友達に相談したかったが、いないから仕方ないか。
69へ




